JINKI 301-8 暗躍する影と、彼らの日々

「元々、この企業は京都支部と結託している様子だった。ちょうど一か月ほど前から謎のカネの流れが見られる。京都支部はそれまで、資金源で困窮している様子だったのだが、こちらの企業がバックアップに入ってからは一転。新型人機、《モリビト天号》を完成させ、そしてテスト操主を擁立した」

「……それが、三宮金枝……」

「だがその実験内容には秘匿事項が設けられており、ほとんどが黒塗りだ。外に出せない実験だった、と見るべきだろうね」

 再び資料をプリントアウトし、セリは自分へと差し出す。

 仔細に見ると、実験内容は極秘とされ、京都支部の内々でも知っている人間は一握りのようであった。

「……京都支部、支部長の署名……。名を――」

「加藤、か。しかし、この支部長の名前が挙がってきたのもこの一か月ほど。……なるほど、金剛グループとの蜜月は思ったよりも深いらしい。その上、気になる情報を仕入れたんだが」

 セリが気になるとして列挙したのは操主の名簿であった。

「……よくこんなのが手に入りますね」

「こっちだって一世代前のパソコンでやっとだ。もっと処理能力の高い筐体を貰えれば簡単だったんだが、これが限界だった」

 そう結んだものの、明らかに内部資料をハッキングで手に入れている辺り手腕は衰えていないのだと実感する。

「……ダテンシリーズ……? これは?」

「わたしの技術がいつの間にか流入していたらしい。その操主は人形だ」

 さらりと告げられてしまったので、なずなは最初何のことなのだか理解できなかったほどだ。

「……今、なんて……」

「聞こえなかったのか? 稀代の人形師と謳われたわたしの技術を用いて、造られた人造操主。それがそこに記されているダテンシリーズだ」

「それって……グリムの眷属の生き残りが……!」

「どうなんだろうな。誰がわたしの技術を手土産にしたのかまでは不明だが、ダテンシリーズと呼ばれた娘たちは、京都支部にて運用された。ちょうど三宮金枝と組めるように設計されている様子だ」

 下操主としての訓練記録がいくつか明言されている。

「……名前は、月代アンナ」

「そいつはプロトタイプだろうな。実戦型の人形の運用には既に成功しているらしい」

 落ち着き払ったセリになずなは声を放つ。

「……私に何をしろと……!」

「あまり他人に期待するものでもないんだがね。わたしはここからはあまり軽々に出られない以上、姉さんに頼みたい。ちょうど修学旅行に付いていくのだろう? 三宮金枝と、そしてダテンシリーズの動きを見て欲しい」

「……それは命令ですか」

「命令、か。そう言えればいくらか楽なのだが……これは命令ではない。お願い、と言うものだよ」

 そう言い添えるのもどこかズルい論法でもある。

 どうせ、自分のような諜報員には断るような余裕もない。

「……分かりました。けれど、行き先は京都なんです。簡単に人機を持ち込めるわけじゃ……」

「おや? それは意見の相違だな。ここまで身元を隠して来たんだ、それくらいはやってみせろよ、姉さん」

 挑発でも何でもない。

 セリは自分ならばできるのだと確信している。

「……儘ならぬものですね。三宮金枝も、この月代アンナも。誰かの思惑で、命の手綱を握られているなんて」

 コーヒーを口に運び、なずなは並んだ操主としての適性レベルを読み取る。

 ――三宮金枝の操主適性はC。

 つまり、単純に戦えば自分でも制することができる可能性がある。

「……言っておくが荒事に打って出ることは考えないほうがいい。三宮金枝にはまだ、秘匿されている何かがある」

「何か……とは」

「分からない。この端末ではこれが限界だ。だが……明らかにそれを想定した実験運用が行われている。《モリビト天号》は確かに強力な人機だが、この一手だけで戦局を覆せるものではない。しかし、京都支部の訓練では《モリビト天号》単騎での運用を前提とされている。この人機にも……操主にも何かがあるはずだ。ああ、そうそう。そういえば回線が切れる間際、この文字列をギリギリ読み込めた。ほとんど意味はないが、一応はな」

 なずなは掠れたその文字列を覗き込む。

「EXTEND」と、いくつかの文字が崩された最後尾に刻まれていた。

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