JINKI 301-10 紡いだ絆の証を

 ダテン=スーにナイフを突きつけられたまま、加藤は京都支部の格納デッキに向かう。

 網膜認証と静脈認証を超えた先には、京都支部の誇る巨大な格納庫が広がっている。

 天井部分がアーチ状になっており、もしもの時にはスクランブル発進も可能な布陣となっている。

「な……っ! 支部長……その者は……!」

 当然、研究者が声を上げるが、ダテン=スーは一声で黙らせていた。

「やかましい。代表者が死んでもええんか」

 押し黙った現場の研究者の向こう側で、今も整備作業が行われている巨大な鋼鉄の巨神へと加藤は顎をしゃくる。

「御覧なさい。あれがあなたの搭乗機です」

「あれ……?」

 視線に誘導されてダテン=スーは最奥に位置する人機を見据えた瞬間、その瞳を戦慄かせたのが伝わってきていた。

「……あれ、は……!」

「コンコルザ代表も人が悪い。専属操主に伝えていないとは」

「……あれが何で……何でここにあるんじゃ! だって、あれは――」

「南米で乗り捨てたはず、ですか。金剛グループの資金力と、そして京都支部の今日までの研究成果。それは結実し、この地上に最上の人機の権限を可能とさせた」

「……分かっとるんか! あれは、だって……!」

「重々、承知の上。ここに居る全員が、ね。どうです? これでも覚悟が足りないと仰るつもりか」

 加藤が眼差しを振り向けると、ダテン=スーは奥歯を噛み締めてナイフを払う。

 首筋には一ミリたりとも傷はついていない。

「……ひとまずは協定は結ばれたまま、言うことじゃ。旦那もわしに隠し立てしとるとはな。あの人機は失われた、言うとったのに……!」

 どうやらコンコルザもギリギリまで伏せたかったらしい。

 それも無理からぬこと。

 広大な格納庫を満たす、その威容。

 天を衝く、白い巨大兵器――。

「コンコルザ代表はあなたのことを思って隠されていたのでしょう。これを動かすのには骨が折れる。南米から回収した時点でキョムによる破壊工作でほとんど使い物にならなかったと聞きます。これだけの学者、人機の研究者を揃えてようやく、キョムにて運用されていた性能の五十パーセント。まったく、おぞましいことですよ。天上より我々を見下ろす、神のような視座を持つ存在と言うのは」

 加藤は天高くより世界を見据える存在を全身で感覚する。

 ダテン=スーは魅せられたかのように硬直していた。

「……わしがこれに乗る言うんか……」

「捨ててきた因縁があなたにも降り注ぐ。《モリビト天号》と対を成す、鋼鉄の巨神に」

 ダテン=スーはナイフを仕舞い、それからこちらへと言葉を振る。

「……なぁ、わしは……ほんまに戦う以外の価値なんかないんやろな。旦那もあんたも、こんなもんを用意しとるなんて」

「おや、センチメンタルとはらしくもない。それが金剛グループの擁する戦闘兵器の感傷ですか?」

 ダテン=スーは鋭い一瞥を投げてから、身を翻す。

「……勝負は預けた。わしはこれに乗って結果を出しゃええんやろ。旦那もあんたも……心底人でなしやな」

 人でなし。

 その言葉に加藤は学帽を被り直してふふんと口にする。

「……なるほど、それは褒め言葉だと思っていいのでしょうかね」

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