JINKI 301-15 巡る思いの果てで

『一体、何やったんや! こいつ……不気味な術を使いよる……! なに? 旦那、それは本気で言っとるんか? 撤退やと? ……歯がゆいが、今はしゃーなさそうやな……』

《キリビト・レキ》が燃え盛る古都を背に、空高く舞い上がる。

 金枝は心臓が早鐘を打つのを感じていた。

「いま……金枝の力、を……」

「金枝! 金枝……!」

 アンナの声が響き渡る中で、金枝はその意識の手綱を闇の中へと手離していた。

「――はい……はい、こちら黄坂。……最悪の事態になったようね」

 ようやく京都入りした南はメルJの《バーゴイルミラージュ》の下操主席で業火に包まれた京都中央を見据える。

「……これがキリビトタイプの力……か。せめて私が止められていれば……」

 上操主席でメルJが悔恨の声を発する。

「いいえ、メルJ。あんたのせいじゃないわ。私たち全員が、相手のやり方を見くびっていたようね。まさか京都を焼くことに躊躇がないなんて」

 いや、それもそのはず。

 入手した情報を精査していくうちに、京都支部も金剛グループも探求しているのは金枝の力だけではないことが露見していた。

『南さん。今はヴァネットさんと一緒ですね?』

「友次さん。……悔しいけれど既に敵は撤退済み。舞鶴防衛戦はどうなっているの?」

『まず結論から。自衛隊戦力に死傷者は一名も出ず。《ビッグナナツー》も入港完了しました。既に艦載されていた皆さんの人機は鉄道で輸送する予定です。……最善を尽くしたつもりでしたが、京都市内は酷い有様のようですね』

「……キリビト相手に後れを取るなんて……いえ、今は後悔しているような暇も惜しいくらいね。ルイとエルニィは? あの子たちが健在なら……」

『立花さんとは既に連絡を取り付けてあります。……ただ、赤緒さんが……』

「《空神モリビト2号》が、か? 損傷は……!」

 逸ったメルJの声に友次は言葉を渋る。

「……報告してちょうだい。今は一秒のロスもあっちゃいけない」

『では。赤緒さんは《空神モリビト2号》で迎撃に出ましたが、《キリビト・レキ》の炸裂装甲をもろに受けて……正直言えば重態です。命に別状はないとのことですが、次の戦場は……』

 友次が濁すと言うことはよっぽどなのだろう。

 南は顔を拭ってから、何とか声を絞り出す。

「……分かったわ。赤緒さんのクラスメイトは?」

『既に無事は確認済みです。……不幸中の幸いでしたが、赤緒さんのクラスメイトにも、立花さんの担当するクラスも負傷者はゼロ人。しかし……』

「要たる赤緒が……!」

 正直なところで言えば、赤緒の超能力モドキである「ビートブレイク」ならば《キリビト・レキ》ほどの巨大人機でも勝てる算段として組み込んでいた。

 だが、その赤緒が重傷の上、《空神モリビト2号》がすぐに出せないとなれば戦略を整え直す必要があるだろう。

「……友次さん。赤緒さんに会いに行かせて。私はトーキョーアンヘルの責任者として……話さなければいけなさそうね」

『南さん。ですが、誰のせいでも……』

「そう言ってくれるのは助かるけれどね。情報の共有をしてこなかった私の落ち度でもある。……三宮さんと《モリビト天号》は?」

『三宮さんは《モリビト天号》内で昏倒。外傷はありませんが、人機との過度な繋がりによって……ちょ、ちょっと! 今はこちらの――!』

『うっせぇぞ! オッサン! ……黄坂か』

「両? あんた、無事で……」

『無事なもんかよ。《トウジャCX》は駄目になっちまった。しばらくは出せん。オレと勝世は何とか命からがらって感じだが、柊がヤベェ上に、三宮ってのも意識を失ったってンじゃ、穏やかじゃねぇよ』

「……あんた、怪我はないの?」

『あン? こんなもん、掠り傷だ。何てこたぁねぇ。だが、柊がやられたのは痛いはずだろ』

 両兵も強がっている風ではあるが、今回の事態を重く受け止めているようであった。

「……私の責任よ。あんたにも言っておくべきだった」

『あの三宮が嫌がってたんだろ。なら、無理やりに聞き出すもんでもねぇ。……《モリビト天号》はほぼ無傷だから次も出せる。問題なのは操主だな』

 最悪の想定ではあった。

《空神モリビト2号》が損壊し、操主も意識不明となれば出せる手段は限られてくる。

「……京都支部は、でも何で追わなかったんだ? 三宮とやらが意識を失い、赤緒もやられたのならば追撃のチャンスだっただろうに」

 メルJの疑問に通信先の両兵が応じる。

『……何つーのか。相手の動きから見て、目的は完遂したって感じだったぜ。元々、京都をどうこうするってよりかは、それを誘発する状況を待っていたって様子みてぇな……。なぁ、黄坂。三宮が起きたら、聞かせてもらおうか。さすがにここまで来て本人の意志がとは言っていられねぇよ』

「そうね、それは……」

 嫌な話になる、と直前まで出かけた言葉を南は飲み込んでいた。

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