JINKI 301-18 さんざめく輝きを纏いて

「……ねぇ、よかったの? 親友たちと喋ってから来ないで」

 Rスーツの気密を確かめつつ、エルニィは専用のキーボードと追加筐体を運び込んでいた。

《空神モリビト2号》のスペックを最大まで活用するのにはエルニィのサポートが必須、そして彼女の戦いはただ単に下操主席につくことだけではない。

 無数のシステムを起こして、《空神モリビト2号》に生命の息吹が灯る。

「……大丈夫です。だって、まだ修学旅行は二日目。まだまだ取り戻せるはずなんですからっ」

「……前向きだなぁ、赤緒は。言っておくけれど、《キリビト・レキ》の性能なら京都を高出力リバウンド兵装で押し潰すことだって造作もないんだ。それをしてこないのは相手の気紛れかもしれない」

「そうだとしても……私は戦います。だって、三宮さんや小河原さんだって傍に居てくれるんですから。私は戦わないといけないんです」

「……愚直なまでの前向きさの上に強情。もう、ちょっとは心配してるの分かってよね。操主の無事がメカニックにしてみれば一番なんだから」

 少し不貞腐れたようにエルニィは言ってのけるがそれも愛情の裏返しなのだと今ならば気づける。

「……立花さん。私の我儘に付き合ってくれてありがとうございます」

「ドクターストップって言ったって聞かないんだもんなぁ。……言っておくけれど、東京に帰ったらちゃんと診断を受けること! それが第一条件だよ!」

 それでも京都の旅行中は見ないふりをしてくれるのはエルニィなりの思いやりなのだろう。

 赤緒は上操主席でアームレイカーに腕を通し、それから前を向く。

 暁の向こう側から、暗雲を引き連れて巨大な白亜の巨神がやって来る。

 その名は《キリビト・レキ》――人々を恐怖に陥れる厄災の怪物。

「……《空神モリビト2号》。柊赤緒!」

「同じくエルニィ立花! 出るよ!」

《空神モリビト2号》が翼を展開させて飛翔する。

 フライトユニットの整備は滞りなく行われたようで飛翔高度には全く問題はない。

 赤緒は照準器を覗き込み、長距離滑空砲の引き金を引く。

「これで……っ! 当たって!」

 長距離滑空砲の砲弾は徹甲弾であり、着弾と同時に粉砕される特別製であったが《キリビト・レキ》のRフィールド装甲はまるで意に介した様子もない。

 稲光を纏い、無数のミサイルポッドを浮遊させて電磁の星座を形作っていく。

 それは堅牢なる防御結界だ。

『なんじゃぁ……? 豆鉄砲にちょっとは工夫したようじゃが、そんなもん対策するまでもないわ!』

 敵操主の余裕ぶった声に赤緒は次弾を叩き込む。

「なら……まだまだぁ……っ!」

 矢継ぎ早に砲撃し、装甲へのダメージを期待するが相手も棒立ちなわけではない。

 特殊装甲を拡張させ、傾斜させてダメージを減殺する。

 だがそれを読んでいない自分たちではない。

「装甲が開いた……! 第二隊! 攻撃開始!」

『承った! 行くぞ!』

『本当、せっかくの初陣だって言うのに、こんなデカブツが相手? 可能ならマシな戦いにして欲しいわね』

 減らず口を叩きつつ、《シスクードトウジャ》を操るルイとメルJが大地を駆け抜け、直下の推進剤へと攻撃を仕掛けていた。

 リバウンドシールドを展開し、斥力磁場で重力に囚われない動きを実現する。

 まるで人がそうするかのような曲芸機動で回転し、浴びせ蹴りを装甲に打ち込んでいた。

『格闘戦……? 小さいだけのトウジャタイプが格闘戦なんぞ……!』

 敵操主が些事だと弾き返そうとしたのを、無数の光弾が妨害する。

『私も相手です! 私と……《キュワン》なら!』

 最奥に位置するさつきの《キュワン》が機体周辺に緑色のRフィールドを拡散させる。

 それぞれ光球と化し、《キリビト・レキ》の装甲へと間断のない打撃となって打ち据える。

『ちょこまかとぉ……ッ! 数が多いくらいでこのキリビトをやれると思うとるんか!』

《キリビト・レキ》から雷撃が全方位に放出される。

 直下の電気系統が奪い取られ、未明の薄暗がりの中で京都が漆黒に沈んでいた。

 京都市街を駆け回り、《シスクードトウジャ》は建築物を避けて背後を取る。

『遅いのよ』

『《シスクードトウジャ》の機動性を舐めるな!』

『ハッ! そんなもん、いちいち見とるのもアホらしい! やってまえ! 《キリビト・レキ》!』

 自動迎撃システムが作動し、ミサイルポッドの点と点が結んだ雷撃の防御結界より高熱が拡散する。

 京都を焼きかねない高出力リバウンド兵装に赤緒は奥歯を噛み締める。

《シスクードトウジャ》は両腕のリバウンドシールドを発動させ、荷重電圧を耐え凌ごうとするが物理兵装のみを反射できる盾では如何に最新鋭機でも限界がある。

『……仕方ない! 黄坂ルイ! 私に操縦系統を渡せ!』

『……いいけれど、数分間だけよ』

『押し潰されぇ……ッ!』

 電流がのたうち、《シスクードトウジャ》を圧殺しかけるも、直後にはその姿が掻き消える。

『《シスクードトウジャ》は飛翔することもできる。ほんの僅かな時間ではあるが……空戦人機ならば私が後れを取るわけもない』

 両腕の盾を翼のように拡張させ、《シスクードトウジャ》は斥力磁場で浮遊する。

 そして――空が戦場であるのならば、メルJに比肩する者は居ない。

『こいつ……!』

 支持アームを伸ばし払い除けようとした《キリビト・レキ》から掻い潜り、至近距離まで肉薄する。

『――遅いな』

《シスクードトウジャ》は袖口に仕込んだナイフを振り翳し、刀身に炎熱を帯びる。

 そのまま雄叫びと共にRフィールド装甲に突き立て、《キリビト・レキ》の装甲に亀裂を走らせる。

『今だ!』

「赤緒! メルJが作ってくれた好機だ!」

「はい……っ! そこ!」

 照準された砲弾が亀裂を的確に狙い澄ます。

 エルニィによる照準補正によって炸裂砲撃は《キリビト・レキ》の装甲部を爆砕する。

『ちぃ……ッ! じゃが、この新型機は貰った!』

 雷撃が集約し、今に《シスクードトウジャ》を焼き払おうとしたが、それを保護したのは緑色のリバウンドフィールドである。

『ルイさん! ヴァネットさんも、急速後退を!』

『……さつき、感謝する……!』

 メルJが機体を飛び退らせると同時にナイフを投擲し、《キリビト・レキ》のバイザー部に突き刺さらせる。

『抵抗なんて無駄や言うとるのに……! 分かっとらんのやなぁ……ッ!』

 その時、エルニィは暗雲の中から無数に出現する熱源を関知していた。

「……やっぱり出てきたか。舞鶴防衛戦で出てきたって言う、特殊な《バーゴイル》部隊……!」

 耐リバウンド兵装の装甲を持つ《バーゴイル》は、今この瞬間、十機以上は観測されていた。

「……京都支部の《バーゴイル》……!」

「赤緒、迷っている暇はないよ。リバウンドフィールド装甲なら重過ぎて飛べないはずだから、あれには真っ当な操主なんて乗っていない。電撃で焼かれてもいい、スペアの操主だと考えられる」

 赤緒は唾を飲み下す。

 エルニィの懸念事項は分かる。

 相手が有人タイプの人機ならば自分の砲撃に迷いが生じると思っているのだろう。

 恐らく、敵の考えも同じ。

 だからこそ、赤緒は迷いを振り切って長距離滑空砲を構え直す。

「……一機でも防衛線を突破させるわけにはいかない……! まだ、まだ私たちは修学旅行を――満喫していないんだからっ!」

 砲撃が《バーゴイル》を撃ち抜く。

《シスクードトウジャ》は一時的に自衛隊の維持する防衛線まで下がってから、両肩にバズーカを装備して出撃する。

『今度は私に努めさせてもらうわ。メルJ、あんた砲撃はてんでだものね』

『……バズーカと言うのは繊細ではないからな。照準補正はしておく。放射タイミングは一任するぞ』

『言ってなさい。さつき、Rフィールドで全方位のサポートをお願い』

『はい……! ルイさんとヴァネットさんは私が守り抜きます!』

『……恥ずかしい奴』

 バズーカを速射しつつ、《シスクードトウジャ》は《バーゴイル》を担当していくが、《キリビト・レキ》の脅威判定は依然として高い。

『《バーゴイル》に意識割かれて、わしの《キリビト・レキ》に潰されてまえ!』

《シスクードトウジャ》は市街地を踏み込んで加速し、立体的に《バーゴイル》を撃ち抜きながら放出される高圧電流をかわしていく。

『一歩間違えれば危ういぞ……! きちんと回避をして行け、黄坂ルイ』

『分かってるわよ。いちいち指図しないで』

《キリビト・レキ》は進軍し、エルニィは声を張り上げる。

「《キリビト・レキ》が第二種防衛ラインに入った! ……第三隊、順次攻撃を開始!」

『任せてください! 我々自衛隊の総力を叩き込むぞ!』

 近藤の指揮で《ナナツーウェイ》航空射撃部隊と、《ナナツーマジロ》が戦線に加わっていく。

 無数の火力が《キリビト・レキ》をこれ以上京都の市街へと進軍させないように努めるが、一部装甲を除いてまだRフィールド装甲は健在のまま。

 反射された重火力が京都の街並みを焼失させていく。

『ハ……ッ! 豆鉄砲が増えたところで、何ができる言うんや! 逝ってまえ!』

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