JINKI 301-19 リミットを超えろ

 無論、金枝はうろたえる。

 作戦行動は未明だと判断され、トーキョーアンヘルの面々と自衛隊の戦力がブリーフィングルームで声を聞いている。

「聞いた通りだよ。《モリビト燦号》は《モリビト2号》や《モリビト天号》のように、前に出て戦い抜くタイプの機体じゃない。RPGのパーティ編成って分かる? あれって大概、戦士、僧侶、魔法使いって具合に居るじゃん? 今回の作戦で言えば、《空神モリビト2号》と《シスクードトウジャ》は戦士の前衛ポジション。ガンガン行こうぜ、って感じで《キリビト・レキ》を縫い留めて欲しい。可能なら、その時間は十五分間。赤緒が戦えるのが三十分の見通しだから、その半分だね」

「た、立花さん……っ! 私、できますっ!」

「はいはい、急患はもうちょっと大人しくしておいてよね。これでも譲歩してるんだからさ。……冷静に、努めて客観的に判断しての限界時間だよ」

 赤緒はしゅんとするが、それでもエルニィなりに彼女を慮っているのが窺える。

「で、魔法使いってのはどういうこった? 《モリビト燦号》は前に出るのに向いてねぇってことかよ」

「……言葉を選ばないのならば、そう。《モリビト燦号》の運用には多大なエネルギーを使用することになるのがメカニックの試算で分かった。いわゆるチャージ、って奴。ほら、魔法使いの一撃は強いけれど、それは前衛ありきで、溜め時間が必要でしょ? 《モリビト燦号》が《キリビト・レキ》の出現と同時に血塊炉にチャージし始めて、ようやく稼働するのが十五分後。……つまり、誰一人として無駄な動きはできないってわけ」

 思ったよりも《モリビト燦号》は厄介な人機らしい。

 同席していたメカニックのシールが挙手する。

「オレが見るに……《モリビトZ-1》の時点でこの運用法は想定されていたみてぇだ。通常運用ではなく、な。この特殊性をどう見るかだが、今回は充分に扱うために、最初はわざと出撃を遅らせる必要があると見た」

「そうだね……。どれだけ解析しても不明な点が多いし、イレギュラーを排して戦ってもらうのにはこれが最適なの。ごめんね、三宮さんに小河原君。負担をかけちゃって……」

 月子の言葉にエルニィが言葉の穂を継ぐ。

「つまるところ、いきなり参戦して最大戦力ってわけじゃないんだ。ルイとメルJには《シスクードトウジャ》で出てもらうよ。戦況に応じて適時、武器を変更してもらうけれど、基本の立ち回りとしてはキリビトの一番厄介なRフィールド装甲を撃ち破ってもらう役割になる」

「待て、立花……。キリビトのRフィールド装甲は物理ダメージを減殺する。通用する術はあるのか?」

「……一応、《シスクードトウジャ》にはプレスナイフ……刀身にリバウンドの熱を帯びさせるナイフを装備してある。ただし、これは全部で四本。しかも、ナイフの射程なんて知れたものだからね」

「要は敵の攻撃を掻い潜ってナイフで一撃、でしょう? 分かりやすく言いなさいよ」

「……難しいから端的には言えないところなんだけれど……これはルイとメルJの操縦技能を信じるしかない。ボクは《空神モリビト2号》の下操主として、前衛の維持に努める。ただし、これも結構大変なんだ。中継地点として《ブロッケントウジャ》の防御ができない。だからこそ、第二隊、第三隊の防衛には」

「……私、ですよね。私の《キュワン》で……」

 さつきが不安げな面持ちのまま、それでいて決意を固める。

「……ごめん。本当はもっと確実性の高い作戦を立案するのがボクの役割なんだけれど、今回ばっかりは《モリビト燦号》の最終調整と、《空神モリビト2号》につきっきりになる。自衛隊のみんなの指揮は」

「私が担当するわよ。上操主は勝世君でいいわね?」

 南が挙手し、勝世と呼ばれた青年は肩を竦める。

「……しょーがねぇっすよ。まぁ、姉さんなら安心できますし」

「オレは三宮の《モリビト燦号》の下操主をやらせてもらうぜ。こいつが切り札ってのは変わらない意見なんだろ?」

「……もちろん、本来は《空神モリビト2号》と《シスクードトウジャ》で打倒できればいいんだけれど、恐らくは京都支部は《バーゴイル》も運用してくる。数の勝負になれば不利だ。それに、今の赤緒の状態と対キリビト戦はほとんど初めてってのも大きい。ここは奥の手を二つ三つ、用意しておいたほうがいいだろうね」

「そのうち一つが……金枝の乗る《モリビト燦号》……」

「おい、大丈夫なのか?」

 両兵が肩に手を置いたので金枝は思わず強張ってしまう。

「だ、だだだ……大丈夫……です」

「……大丈夫な奴の返答に聞こえんがな。まぁ、今の話を聞いた限り、ギリギリまで出せねぇンだ。覚悟決めるのはギリギリでも許されるってこったろ?」

「……《モリビト燦号》の標準装備を確認させてもらうよ。格納型のリバウンドシールドに、三宮のビートチューニング用に、本当の切り札を搭載してある。これは可能なら使わないに越したことはないんだけれど……」

 濁すエルニィに両兵が促す。

「……今は一手でも惜しいってわけか。三宮、聞いておけ。もしもの、ってのが一番役に立つこともある」

「じゃあ、話すけれど――」

 その内容に金枝は震撼する。

「……そんなの、上手くいくんですか……?」

「不安になるのは分かる。でも、理論上、これは可能なんだ。本当に切り札だから、推奨はできないけれど……」

「三宮。少し休んでおいたほうがいい。もしその時が来れば、嫌でも自分の力と向かい合わなくっちゃいけねぇ」

 両兵はそう言い残してテントから立ち去っていく。

「両兵! まだ作戦は途中だってば!」

「っても、オレは《モリビト燦号》に乗る以上、他の連中の編成を詳しく聞いたってしょうがねぇよ。それよりも乗る人機との時間を大事にしてぇ」

「……まったく。けれど、両。一個だけ。さっきは引っぱたいてごめん。やっぱりあんた、そういう風にしてるのが一番、らしいわ」

 南の言葉に両兵はケッと毒づく。

「……久しぶりにてめぇのマジのビンタ、あれは効いたぜ、黄坂」

 片手を振って両兵の背中が離れていく途中、金枝は声にしていた。

「あの……! 金枝も……《モリビト燦号》の下に……行ってもいいでしょうか」

 無理を言っているのは重々承知だったが、エルニィは理解して頷く。

「……まぁ、後は赤緒が無茶しないように言うのと、自衛隊のみんなの協力もあるからね。三宮は《モリビト燦号》に慣れたほうがいい。行って来なよ」

 金枝は首肯して両兵の背中を追う。

 アイドリング状態の《モリビト燦号》は血塊炉にブルブラッドを充填され、そしてエルニィの言う「切り札」の搬入作業も実行されている。

 白く煙る整備状況でタラップを駆け上がり、金枝は両兵に追いつく。

「……小河原両兵!」

「……何だ、てめぇも来たのかよ」

「……自分の乗る人機は、ちゃんと知っておきたいですから」

「言うようになったじゃねぇの。とは言っても、立花の話じゃこいつは魔法使いなんだったか? 前線を保つのは柊たちの役割だ。なら、オレらは任せるしかねぇよ」

「……すいません」

「……何で謝るンだよ」

 両兵はタラップに腰を下ろし、《モリビト燦号》のコックピットを覗き込む。

 金枝は三段下がった場所に腰掛け、両兵には顔を見せないようにして今一度謝っていた。

「……すいませんでした、小河原両兵。金枝は……大バカ者です。柊さんが、あんなに思い詰めて戦ってくれるなんて思っていなかったんです」

「……まぁなぁ。あいつは自分のことを軽んじる節はあったが。だが、最初のほうとは違ぇよ。自分が死んじまったらいいなんて今は欠片も思っちゃいねぇ。心底、勝ってみんなで笑顔で帰りたいって思ってンだ。……操主としちゃ立派な志になってきやがった。まだ半人前だがな」

「……金枝は、少しでもこの力を誰かのために活かせるのなら、なんて思いも寄らなかったんです。だって、力なんてないほうが、よかったのかもしれないんですから」

「……黄坂はだが、お前のそういうところも込みで京都支部に推薦したんだと思うんだがな。お前、どうしようもない物事に対して、立ち向かってやるって言う、気概がある。そういう眼をした奴にゃ、オレも黄坂も弱ぇんだよ」

 まるでそのような人物がどこかに居たかのような言葉振りに、金枝は三角座りで足を抱え込む。

「……金枝は、まだ弱さを飼い慣らせていないんです。この力も、一度東京に逃げ出してしまったことも……。どれもこれも、本当ならもっときつい言葉で、罵ってくれてもいいのに……。何で皆さんは、こんな金枝に優しいんですか……」

「何でだろうな。あいつらも弱さを飼い慣らしたわけでもねぇってことなのかもしれん。実際、色々あったもんだ。柊は自分のことなんて二の次、さつきは思い切れれば強ぇが、それも諸々あってのことだしな。ヴァネットの奴も自分に優しくすんなだとか言いやがったこともあったな」

「……トーキョーアンヘルの皆さんも……?」

 今は誰もが自分の役割と覚悟を抱いている彼女らにもわだかまりがあったと言うのか。

 意外そうな声を出したせいか、両兵は頬を掻く。

「……まぁな。あいつらはまだまだその問題の途中なのかもしれん。オレがしてやれることなんて一個だけさ。操主の辛さ、弱さを全部、背中で吸い込んでやることくらいだ。下操主はそういう役割なんだよ。普通なら血続だけの上操主で済むんだからよ。恐れは全部、そう……全部だ。怖がるななんて言わねぇ。誰だって実戦は怖ぇよ」

「……小河原両兵も、なんですか……?」

「そんなこともあったな。人機の力の強さに、ビビったのも一回や二回じゃねぇ。だがな、その度に自分を踏み越えて立ち上がってきた。誉れだとか誇りなんてねぇよ。そんな高尚なもんは一つもねぇ。ただただ、闇雲でも、どんだけ無茶苦茶でも前に進んできた……自分を信じることだけさ」

「……自分を信じる……」

 金枝は掌に視線を落とす。

 何も掴めないと思い込んでいた、それどころか壊すだけの手でしかないのだと。

 だが、今は誰かのために戦える。

 いや、それ以上に――。

「……自分のために、戦える……」

「三宮。後悔も、嫌になっちまうこともこれから先、たくさんあらぁ。その度に、自分に落胆することもな。だが、オレが言えるのはそんな自分でも纏めて認めてやれ。人機はその先にあるお前の本当の強さを汲み取ってくれる」

「……金枝自身を、認める……」

 そんなこと、一生ないのだと思っていた。

 自分を認めること、自分の弱さも込みでそれを強さだと言い切れることなど。

 しかし、皆が押し上げてくれている。

 勝て、否――勝つのだと。

 それは敵にだけではない。

 昨日まで泣きじゃくっていた、自分自身の過去にも、だ。

「……金枝は……前に進みます。進み……たい……!」

 手を拳に変え、金枝は確信する。

 この強さは、自分からだけ出てくるものではない。

 きっと――誰かを信じることができるようになった、そんな人間からしか出ない真の力なのだろう。

 ――呼吸は深く。それでいて、脈動は早鐘を打っているのが分かる。

 金枝はトレースシステムが順応してくれるのを感じつつ、眼前の巨大人機と向かい合う。

 厄災の導き手――《キリビト・レキ》。

 その白亜の凶悪さに、恐れを宿したのも一瞬。

 奥歯を噛み締め、右腕の収納部位から拡張した盾を意識する。

「……《モリビト燦号》、血塊炉オールグリーン。識別反応、認証。……三宮金枝、行きます……ッ!」

 下操主席の両兵は《モリビト燦号》の追従性能を十全に発揮させる。

《キリビト・レキ》の支持アームが伸長し、今に機体を捉えようとしたのを超加速度に至って掻い潜る。

「……これが……ファントム……!」

 金枝一人では成し遂げなかった人機操縦の高み。

「呆けている暇ァ、ねぇぞ! 三宮! 三時方向からだ!」

 両兵の声が弾け、加速域で襲ってくるRブレードの照準を装備したナイフを逆手にして弾く。

 火花が生じ、モニターが目まぐるしく切り替わっていく。

『三宮! それに両兵も! 《空神モリビト2号》で援護するような余裕はない! だから……頼んだよ!』

「言ってくれるじゃねぇか。にしても、キリビトタイプの装甲を一個ダウンさせたのはデカいはずだ! 三宮! 行けるな?」

「は……はい!」

《モリビト燦号》でRフィールド形成機能が奪われた《キリビト・レキ》の装甲板に着地する。

『こいつ……! 新しいモリビトタイプなんざ、しゃらくさい……!』

「三宮! 行け!」

「……ファントム……ッ!」

《キリビト・レキ》の雷撃がかかる前に、自力でファントムの加速を帯びて一気に舞い上がる。

《モリビト燦号》は直後に照準警告に包囲される。

 当然だ。

 キリビトの懐に潜り込むと言うことは、重火力のリバウンド兵装で焼かれる覚悟をしていなければならない。

 ――こわい。

 金枝は頭を振る。

 ――にげだしてしまいたい。

 だから、と金枝は奥歯を噛み締めて耐えようとする。

 ――こんなところはいやだ。いますぐに……。

 ああ、だから。

「……金枝は昨日までの自分から……もうさよならしたい……! 弱気な金枝自身を――置いていくんだァ――ッ!」

 吼えると同時に、《モリビト燦号》が呼応して左腕の武装を顕現させる。

 両腕に収納型のリバウンドシールドを構え、放出される雷撃を表層で耐え凌ぐ。

 今に焼き尽くされ、消し炭になってもおかしくはない。

 それでも――己の内奥から強さを引き出し、弱さの尻尾を蹴っ飛ばせ。

 弱くて他人を拒絶してきた自分自身を、かつての泣き虫な己と決別するのではない。

 そんな自分も含めて、明日の糧として認める。

 狂気の稲光が視界を埋め尽くす。

 生身ならば、この瞬間に死してもいい。

 だが、自分は鋼鉄の巨神である人機に身を包んでいる。

 何よりも、《モリビト燦号》を信じている。

 伝導した力が、モリビトの鼓動が伝わってくる。

 両腕を交差させ、金枝は雄叫びを上げていた。

「金枝を……! もう一歩前に……モリビト……!」

 赤い眼窩に灯火が宿り、脈打つ鼓動が光り輝く。

「怒りと悲しみを受け止めて……ッ! 正しき心で返すッ!」

「その身に宿した力を!」

《モリビト燦号》の盾が力場を形成する。

『何やと……! 何でリバウンドの雷撃を返せるんじゃぁ……ッ!』

「何だ、ンなことも分からねぇ操主なのかよ。お前には分からねぇだろうぜ。こいつの身体に流れる力を。弱ぇ自分を肯定した先に待つ、本当の強さって奴をな!」

『御託をぉ……ッ!』

 雷撃が流転し、《モリビト燦号》の力となって拡散する。

 その際に龍の咆哮にも似た声が弾け飛ぶ。

「貫けぇ――ッ! 彼方まで……ッ! ――リバウンド、フォール――ッ!」

《モリビト燦号》が機体を開いた直後、反射されたリバウンドの磁場が放出される。

『まずい……! キリビト……急速旋回で直撃を避けぇ――ッ!』

「逃がすもんかぁ……ッ!」

《キリビト・レキ》の最奥で脈打つ心臓と、金枝は瞬間的に自身の鼓動を同期させる。

 心臓が収縮し、人間の肉体を動かすことしか知らない臓器が破裂寸前になる。

「三宮ァッ!」

「……ビートチューニング……! 金枝の力、その真の意味を……!」

 自身の心臓だけならばこの時、肉体が爆ぜても不思議はなかった。だが、この時のためにエルニィが用意してくれていた「切り札」がある。

 ――同期対象を、金枝の心臓と、そしてもう一つ。ウェポンラックに収納しておいた、もう一つの血塊炉に……!

 背部ウェポンラック内部で必要最低限の供給で稼働する旧式血塊炉。

 それこそが「切り札」――自身のビートチューニングの対象として選択する代物だ。

『《キリビト・レキ》の雷霆で砕け散ってまえ!』

 回避を諦め、応戦に打って出た《キリビト・レキ》の迫力。

 その気迫を前に、掻き消されかけた必殺の息吹を両兵が支えるように声にする。

「ビビんな! やれ! 金枝!」

 腹腔から吼え立て、金枝は旧式血塊炉と《キリビト・レキ》の三基の大型血塊炉を同調させる。

「これで……! 止まれぇ――ッ!」

 直後、京都の街並みが静謐に包まれる。

 雷撃と垂れ込めた暗雲が消失し、《キリビト・レキ》の白亜の装甲が硬直していた。

『……な、何や、これは……。《キリビト・レキ》! 何で動かん……!』

《モリビト燦号》が着地し、完全に停止した《キリビト・レキ》を仰ぐ。

 旧式血塊炉をパージすると、無理やりな同調のせいで爆散していた。

「……やったな……!」

 荒い息を整えつつ、金枝は首肯する。

「ええ……。って言うか、名前……」

「あぁ? ……そういや、下の名前で呼んじまったか」

「……三宮です」

 不承気に返すと両兵はへっと笑う。

「戦闘の高揚で呼んじまったんだ、それくらいはチャラにしろよ。三宮」

「……小河原両兵。あなたのそういうところが、金枝は嫌いです」

 にべもないと判断されたのだろうが、両兵は気を悪くした様子はない。

『何で……何でこれで……! キリビトなんやぞ!』

『……成功したみたいだね。こちらトーキョーアンヘルのメカニック、エルニィ立花。《バーゴイル》部隊も蹴散らした。《キリビト・レキ》の操主、ここで降伏するのなら命までは奪わないよ』

 エルニィの勧告が響き渡る中で、憤怒に燃える敵操主の声が焼き付く。

『……ふざけんなや! このダテン=スーが! お前らみたいな雑魚相手に……無抵抗やと思うなよ……!』

 その瞬間、《キリビト・レキ》の増設装甲がパージされ、分離して中空に躍り上がったのはコアブロックであった。

『……しまった! キリビトにはまだその最終手段があったか……!』

『三基の血塊炉はあくまでも副次的な装備! 奥の奥にあるキリビトの血塊炉までは停止させられんかったようやな! ここで……その緩み切った線を断ち切る! 《キリビト・コア》! 眼前のモリビトタイプに攻撃――!』

「まずい! 三宮、今の《モリビト燦号》はパワーダウン中だ! 急速後退するぞ!」

「と、突然に言われましても……! もうファントムに必要な推進剤は使い切っちゃって……」

《キリビト・コア》がその手の中に雷撃を溜め込む。

 先刻に比べれば十分の一程度の威力だが、リバウンドフォールにエネルギーを使い切った《モリビト燦号》に防ぐ術はない。

 万事休すか――そう睨んだのは何も自分たちだけではない。

『三宮さん!』

《空神モリビト2号》が急行するが、それよりも《キリビト・コア》のほうが素早い。

『墜ちろぉ……ッ!』

 今に降り注ぐ稲光が《モリビト燦号》を貫くかに思われたが――死の気配を掻き消したのは一発の銃撃であった。

『……なん、やと……』

《キリビト・コア》の血塊炉を一発の炸裂弾頭が撃ち抜く。

 その硝煙の主は、いつの間にか《キリビト・コア》の背後に回り込んでいた《モリビト天号》であった。

「……天号……? マネージャーが……?」

『これでキリビトは無力化されましたね』

『……伏兵のつもりか……! こいつ……!』

『ダテン=スー。あなたは私を、ダテンシリーズのロストナンバーを軽んじていた。同族と言える存在、弱点は手に取るように分かる』

 再び《モリビト天号》が弾頭を装填し、二射目の徹甲弾が《キリビト・コア》のコックピットを射抜く。

 まるで呆気なく。

 そして劇的なものは一つもないまま、《キリビト・コア》とダテン=スーは絶命していた。

「……助かったが……《モリビト天号》は編成に組み込まれていなかったはずだ。立花、そうだよな?」

『そのはずだけれど……。えっと、月代アンナ。君は――』

『もうその名を名乗ることもない』

 断ずる論調で放たれた言葉に、金枝が何も言えないでいると《モリビト天号》はダテン=スーが捨て去った《キリビト・レキ》の追加装甲へと接続する。

『キリビトの鎧を纏い、今私は……最強の存在として屹立する……。《モリビト天号》と《キリビト・レキ》には互換性がありますからね。京都支部の作っておいた補完措置がここに結実する』

 その言葉通り、血塊炉を停止させた《キリビト・レキ》に再び息吹が蘇る。

《モリビト天号》は追加増設装甲をその漆黒の身に宿していた。

 白と黒が入り混じり、相反する色調が今、新たな存在として顕現を果たす。

「……白い鎧を纏った……新たな人機……」

 茫然自失の金枝の言葉に両兵は舌打ちする。

「……なんてぇこった……。《モリビト天号》と《キリビト・レキ》が……融合しただと……?」

『融合なんて生ぬるい言葉では済まされない。これは喰らい合い。私が喰らい、そして支配する』

 機体識別信号が切り替わる。

《モリビト天号》と《キリビト・レキ》の照合が変容し、編み出された真の名前に仰天する。

「……モリビト……。天より堕落し、その姿を変えた姿。その名を――《モリビト礫号》」

 装甲版を拡張させ、《モリビト天号》――否、《モリビト礫号》が雷撃を纏う。

『リバウンドエネルギーを収斂。ここに居る全ての人機に告げます。今すぐに撤退しなければ、京都を焼き尽くす、と』

「何で……何でなんですか! マネージャー! だって、私にとってマネージャーは……!」

『何で、どうして……。そんなことでさえも分からないのなら、金枝。あなたには死が相応しい』

 今に雷霆の鉄槌が下されかけて、両兵が下操主席で操作することで《モリビト燦号》は一撃を逃れる。

「危ねぇ! よそ見すんな!」

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