南は金枝へと向き直っていた。
金枝も自ずとこちらの眼差しと交錯する。
――逃げない。ここで逃げてしまえば、それだけは絶対に後悔する。
「三宮さん。改めて、トーキョーアンヘルの責任者としてだけじゃない。黄坂南と言う一個人としても言わせて。――私たちと一緒に、戦ってちょうだい」
金枝だけを特別にしない。
操主になることを決意した少女たちは、誰もが等しく特別だ。
きっと自分はこの瞬間をずっと怖がっていた。
金枝を特別な場所に置いて、それで自己満足していた。
彼女の問題を棚上げして、それで決着の機会を逸し続けて。
ならば、今しかないではないか。
もう彼女の問題は、他のメンバーと殊更違った問題はない。
赤緒も両兵も、踏み込んだはず。
責任者である自分が一番怖がってはいけないはずなのだ。
金枝の肩は震えている。
本当に信じていいのか、という躊躇いだろう。
実際、アンナに見捨てられたと思っているはずだ。
大人びたような、確実なことなんて一個も言えやしない。
立派な人間ぶった、格式で固めた言葉なんてお呼びじゃない。
今はただ、一人の人間として金枝と向き合うべき時であった。
「……南さん。金枝は……もう一度誰かを、信じてもいいんでしょうか」
分かっている。怖いはずなのだ。
きっと今まで散々裏切られてきた。散々、酷い目に遭ってきた。
だからと言って、金枝を遠ざけていていいはずがない。
「……もちろん。だって私たちはもう、家族じゃないの」
これが適切な言葉だったのかは分からない。
もっといい言葉があったのかもしれない。
それでも、剥き出しの自分はこの言葉を選んだ。
「……南さん。金枝は……まだハッキリとは言えません。けれど一個だけ、約束してもらえませんか? この決着がついたら、金枝は――」
その決意に南は呆けたように茫然とする。
しかし、それがどれほど無謀でも、自分は叶えてあげなくてはいけない。
それが人機操主になって欲しいと願ったことへの代価だ。
「……分かったわ。約束する。だから、三宮さんは憂いなく、戦い抜いてちょうだい。後ろは私たちがサポートする。前は……きっと両が同じような言葉を発してくれるでしょうし。隣には、もちろん――」
「赤緒さんたちが居る、ですよね」
先回りしたように口にされて、南は破顔一笑していた。
「……やっぱり、敵わないなぁ、赤緒さんには。……うん。あなたを一人にはさせない。充分に戦っていらっしゃい」
「……はい。金枝と、《モリビト燦号》が……終わらせます……ッ!」
決意した少女の瞳の眩しさに、南は暮れかけた京都の街並みへと視線を振る。
吹き抜ける夏の気配をはらんだ風。
そうだ、もうすぐ夏が来る。
山間を染め上げる金色の落陽に、南は一言だけを添える。
「……夜が来るわね。昏い、夜が……」