「……赤緒さん。あとは五郎さんと私に任せてください」
「……うん。ごめんね? さつきちゃん」
「いいんです。赤緒さんにしかできないこと、きっといっぱいあるはずですから」
夕飯はさつきと五郎に任せ、金枝に先導されて向かったのは赤緒の自室であった。
「ここならば皆さんに聞かれることもありませんので」
「あ、うん……。えっと……」
金枝は赤緒の部屋で座布団に座る。
京都の名家の出身なだけはあって、真っ直ぐできりっとした座り姿勢だ。
「赤緒さんは何で……金枝にそこまでしてくれるんですか」
やはり本題はそこかと赤緒は戸惑う。
「それは……友達だから……」
「ですが、それならマキさんと泉さんと赤緒さんだけでいいはずです。創作ダンスなんかで仲良くなれると思ってるんですか。……別に金枝は、皆さんと平等に仲良くなる気はないんですよ」
それは嬉しい反面、今のままではきっと金枝にとってよくないのだろうと赤緒は口火を切る。
「……あのね、金枝ちゃん。私も昔は……そうだったんだ」
「赤緒さんも? けれど、今は……」
「今は、ね。何て言うのかな。マキちゃんと泉ちゃんに手を引かれなかったら、きっと誰とも本心では笑顔になれていなかっただろうし。きっかけって大事だと思うの。それが二人だとしても、金枝ちゃんは他の人と仲良くするのは嫌?」
「……赤緒さんは、確か記憶喪失で……」
「……うん。でもね、色んなことがあって、色んな人とこうして言葉を交わして……それで時々、すれ違っちゃうこともあるけれど、よかったと思ってるんだ。私、器用じゃないし、みんなと仲良くしてなんて理想論だってことも……分かっているつもり。だけれど、語るのなら理想論のほうがいいじゃない。ぶきっちょのまま、理想だけを追い求めたって」
「……それが赤緒さんなりの、処世術ですか」
「そんな大層なものじゃないよ。そうだなぁ……これって結局、単純なこと。――友達の作り方、なんだと思う」
自分の中で探り当てた言葉に金枝は茫然とする。
「……友達の作り方……」
「金枝ちゃんは、私たちと一緒に、東京まで来てくれたじゃない? 私もちゃんと、金枝ちゃんに返せるものは返したいんだ。創作ダンス、金枝ちゃんは楽しくなかった?」
「……それは。そんなことなかったですが……」
「じゃあ、ちょっとした、ね? 歩み寄りなんだと思う。金枝ちゃんはもっと……もーっと! 世界を知ってもいいんだと思う。私が与えられるものはせいぜいこんなものだけれど……」
「こんなものだなんて、言わないでくださいよ。……金枝、これでもちょっとだけ、感心はしているんですから。友達の作り方……ですか」
頬を紅潮させた金枝がぷいっとそっぽを向きながら呟く。
窓辺から差し込んできた黄金の斜陽の中で、赤緒は微笑んでいた。
「……ご飯を食べたら、立花さんに手伝ってもらってレッスン、頑張ろっか。だってアンヘルで踊れないの、私たちだけなのってちょっと間抜けだから」
「金枝は赤緒さんと一緒なだけでちょうどいいですけれどね。……いいえ、今のナシで。何だか赤緒さんと一緒に居ると……恥ずかしい言葉が口をついて出やすいみたいですから」
「そうかなぁ? ……そういう金枝ちゃんも可愛いのにー」
「……からかわないでください。行きますよ。カレー食べたら練習しましょう。……金枝も、友達の作り方、知りたいですし」
立ち上がった金枝へと、赤緒は追従しようとして扉を開けたところで聞き耳を立てていたエルニィたちと遭遇する。
「あっ、赤緒に三宮、……えーっと。すっごい奇遇!」
「そんなわけないでしょう。……何ですか、盗み聞きなんて」
金枝に言われてエルニィは少し参っているように後頭部を掻く。
「……だってさ。出来の悪い生徒ほど気になるもんじゃん。一応、教えを乞われたんだから最後まで責任はあるかなって」
「……立花さん。カレーを食べたら、引き続きお願いできますか?」
「……まぁ、まっかせてよ! 二人が完璧に踊れるまで、ボクはどんだけだって手伝ってあげるからさ!」
サムズアップを寄越したエルニィに、赤緒は振り向いた金枝の視線を受け止める。
「ね? 一緒に頑張ろっ。私、金枝ちゃんと一緒に踊りたいから!」
「……本当に。赤緒さんもお人好しと言いますか。……分かりましたよ! 金枝も最後まで……お付き合いしますから!」
「――はい、ワンツーさんしー」
一人がまず拍子を取り、クラスメイトの女子たちが音楽に合わせてステップを踏む。
全体像として描くのは放射線。
動きの一体感と、音楽の高揚感。
肉体の躍動と、そして何よりも――笑顔を忘れずに。
リズムを刻む、激しいビート。
音階は一定から、徐々に盛り上がるサビへと。
鼓動が脈打ち、汗がきらりと輝く。
赤緒はちらりと金枝を垣間見る。
金枝も赤緒へと目線を振り向けて一つ頷き、それからテンポアップに身を任せて集団が交差しながら群衆へとチャーミングなウインク。
盛り上がりは最高潮に達し、熱気は渦巻く。
ダンスの最後の最後、手に持ったポンポンを投げてフィニッシュとする。
拍手喝采が湧き、赤緒たちはハイタッチを交わしていた。
「やったね! 赤緒! それに金枝も! ちゃんと踊れていたね!」
「ふふーん♪ 当然です! 金枝はぱーふぇくとな美少女なんですからね!」
赤緒は胸を反らして自慢げにする金枝が、どれだけ努力したのかを誰よりも知っている。
「すごいじゃない! 三宮さんってダンスセンスあったんだ!」
他のクラスの女子からの羨望に、金枝は戸惑いがちにこちらへと視線を送る。
「そ、その……。金枝は……その……」
「金枝ちゃんっ! 友達の作り方、第一歩目は、笑顔だよっ!」
「うぅ~……っ。赤緒さんは金枝の扱い方を心得ているんですからぁ~……」
それでも拒絶するような言葉を使わず、金枝は必死に対応する。
「よかったですわね、赤緒さん」
「……うん。それにしたって、ダンス発表の場が他クラスに向けて、とは思わなかったけれど」
「いいんじゃない? 金枝もああして色んな人と出会って、それで分かって来るんだと思うよ。よぉーし! アイデア湧いてきたーッ! 今度のマンガのヒロインは友達の作り方が分かんない、不器用な美少女!」
ダンス衣装に身を包んだマキが創作意欲を発露させる。
金枝はきっとこれから先も、何度も躓くかもしれない。
けれど、その都度でもいい。
思い出して欲しいのは、一つだけ。
「笑顔は最高で……友達作りの最初のコツなのは、絶対に間違いないんだから」