JINKI 305 シールと月子の大喧嘩

「え、っと……お二人が協力すれば早いんじゃ……」

「知んねぇよ。そんなもん、当てになるもんじゃねぇだろ」

「電源を回してくるのなら、赤緒さんの手から受け取りたいの」

 シールと月子は自衛隊の駐屯地にてほぼ背中合わせになって双方ともに電源ケーブルを所望してくる。

 どちらに先に渡すべきか、と赤緒が決めあぐねているとシールはわざとらしく大声で言ってのけた。

「マジに! 作業が進まねーんだが! ……誰かさんのせいでよ」

「あれー? 何か変な言葉が聞こえた気がするねぇ、赤緒さん。電源ケーブルがないと仕事にならないんだから。……誰かさんと違って」

「その……。け、喧嘩はよくないですよ……」

「喧嘩じゃねぇ! これはポリシーの問題だ。それと、そんなしょうもないことじゃねぇんだよ」

「赤緒さん、どこかの誰かさんが言っていることなんて気にしなくっていいから。私のほうに電源をちょうだい?」

 シールは明らかに不機嫌だが、月子はあくまでも余裕を装う微笑みなのが赤緒にしてみれば余計に怖い。

「あぅ……何もこんなところで仲違いなんてしなくったって……」

「うっせぇなぁ! もういいっ! 電源ケーブルがねぇと仕事になんねぇ!」

 自分の手からケーブルを引っ手繰ったシールに対し、月子はこちらの手を気遣う。

「大丈夫? 赤緒さん。……本当、乱暴な人が居ると困るよね?」

「いや、えっと……」

 どっちつかずで居る赤緒へとシールは不機嫌さを隠しもせずにキーを打つ。

「……赤緒。《モリビト2号》の挙動モーメント数値、実質二倍で計算してあるが……それでいいな?」

「あ、いや……」

「分かってないよね? 赤緒さんの操縦は繊細なんだから、挙動数値はもっと細かく刻まないといけないのに」

「……何だと!」

「私は何も言ってないよーだ。誰かさんが勝手に受け止めてるだけじゃないの」

 真正面から言葉を受け止めるシールに、月子は少しだけ陰湿だ。

 あわあわとするのは自分だけではないようで、二人の後輩である秋も困り果てている様子であった。

「あ、あのー、先輩方……。今、いさかいを起こしてもよくないのでは……」

「あん? 秋はどっちの味方なんだよ!」

「秋ちゃん、困るよねー? 恫喝されたら。でもハッキリ言っていいんだよ? “そんな風な喧嘩腰の人とは組めませーん”、って」

「何だと、月子! てめぇ……!」

「顔を見て言わないと、分かんないのかなぁ?」

 今にも噛み付きかねない剣幕のシールを風と受け流す月子の態度はまるで爆発寸前のダイナマイトでも見ているような気分であった。

「……ケッ! 何がだよ、ったく……」

「口が悪い人が居ると困るよねぇ? 二人とも」

 月子は表層上こそ微笑みを絶やさないが、それが今は逆に恐ろしい。

「は、はひ……。その、行きましょうか……まだ訓練の最中ですし」

「……先輩方。いいんですか? 赤緒さん、行ってしまわれますよ……?」

「いーんだよ! そもそも! てめぇはどうなんだ、秋! オレの味方になるのか、どうか!」

「嫌だねー、物騒な言い回ししかできない人は。秋ちゃんはこっちで仕事するんだもんね?」

 有無を言わせぬ気迫を二人とも放っており、完全に困惑し切った秋の肩を赤緒は叩く。

「ちょ、ちょっとこっちに! メカニックの意見も重要ですからっ」

 この場に居れば自分も秋も完全に巻き込まれた側だと言うのに要らぬ緩衝を生みそうだ、と遁走する。

《モリビト2号》の足元まで逃げ切った赤緒はぜいぜいと息をつきつつ、小さくぼやく。

「……本当に、何でいきなり喧嘩なんて……あっ、無理やり連れてきてごめんなさい。えっと……日向さん、でしたっけ?」

「あっ、その……すいません、柊赤緒さん……」

「い、いえ……っ! 謝られても……」

「ですよね……けれど私ってば根暗ですから……」

 どんよりとした秋の言動にこちらまで引っ張られてしまいそうで、赤緒はわざとらしく咳払いして話題を変える。

「こ、こほん……。その、日向さんはシールさんと月子さんの……その、直属の後輩なんですよね?」

「あっ、はい……。けれど、お二人と仕事するのは東京に来てからが本格的で……元々、ルエパのメカニックの中じゃ、私なんてその他大勢だったんですけれど……」

「あれ? でも日向さんも……お二人と一緒に海を渡って来たって立花さんから聞きましたけれど……」

「その、来日するに当たって、サポート役のメカニックが欲しいとのことでしたので……。先輩方の師匠である、柿沼先生と水無瀬先生から……一応、推薦をいただきまして……」

「えっ……それってすごいことなんじゃないですか? だって、柿沼さんと水無瀬さんって言えば……」

 赤緒はおぼろげにシールと月子の師匠である柿沼と水無瀬の姿を思い描く。

 今も日本海に停泊する《ビッグナナツー》での海上支援に限られてはいるが、それでもルエパアンヘル指折りの実力なのだとはエルニィから何度か聞いている。

 だからこそ、軽々に陸を踏めないのだとも。

 柿沼と水無瀬レベルのメカニックが本格的にトーキョーアンヘルに合流したとなれば、他の陣営が黙っていないと聞かされていた。

 そのパワーバランス自体は赤緒も上手く理解できないでいたが、それほどまでに重要視される人物の推薦となれば秋自身もひとかどの人物なのだろう。

「え、ええ……すごい先生方です……」

「じゃあ、日向さんもすごい人……?」

「で、でへへぇ……それほどでもないですよぉ……」

 帽子を目深に被っての状態ではあるが、でれでれと笑うので嫌な気分ではないらしい。

「けれど、信じられませんよね……。あれだけ毎日顔を突き合わせて仲がいいと思っていたのに、不意打ち気味に喧嘩だなんて……」

「あっ……でも先輩方、結構危ういと言うか、均衡を保っている節はありますので……」

 その点で言えば最も長く二人を見ているはずの秋とエルニィが詳しいはずではあるのだが、エルニィは生憎と本日は出張のために不在である。

 ならば南にでも相談するかと思ったが、南も一応はトーキョーアンヘルの要。ここ一番で不安を抱かせたくはない。

 そもそも、メカニックの二人が不仲になるなど前代未聞なのだ。

「……東京に来てからしか知らないけれど、二人が喧嘩したことってこれまであったんですか? 私は見たことないような……」

「あ、ありますよ……? 柊赤緒さんがあまりお詳しくないだけで……」

「……たとえば?」

「たとえば……ですが、この間も格納庫の空調が壊れてしまいまして……」

「――あっ、この野郎、まぁーた空調システムがダウンしやがった……! おい、秋ー! 昨日最後まで見ていたのお前だよなー? どうすんだよ、これ……今日は蒸し暑くなるって今朝の天気予報で言ってたぞー!」

 シールは完全に参ったようで首に巻いたタオルで汗を拭う。

「暑いねぇ……。けれどこんな時に《ブロッケントウジャ》のシークレットアームの中に保冷剤を仕込んでおいたのでした!」

「おおっ! ナイスだぜ、月子! じゃあとっととそれを出して……っと」

「ちょっと待ってねぇー……。えーっと、遠隔操作プログラムを走らせて、これで!」

 途端、格納庫に立脚していた《ブロッケントウジャ》のシークレットアームが出現し、その勢いのまま屋根を突き破る。

「あー……やっちゃったねぇ……」

 さんさんと降り注ぐ太陽光を前に月子が困惑するも、シールはそのミスを見逃してでもシークレットアーム内に収納されている保冷剤を確保していた。

「それよか、これ……! あー、冷たく……ねぇ?」

 シールが保冷剤を首に巻いてから、それを絞る。滴っていた水が即座に蒸発し、保冷材はただの柔らかいだけのプラスチックと化していた。

「あっ……これ、全部溶けちゃってますよ……」

「月子ォっ! これ、どーなってんだよ!」

「どれどれ……。あー、これはあれだね。人機のジェネレーターの出力が高過ぎて出す瞬間に解凍されちゃったかぁ」

 さらに言えば格納庫の屋根も突き破ってしまったので直射日光が直にメカニックの三人を炙る。

「だぁー……っ! どうすんだ、これ! エルニィにどやされるし、南とかも……! 第一、全然涼しくねーじゃんか!」

「わ、私のせいだって言うの……? そもそも空調が止まるほどシールちゃんが電気を使い過ぎたからじゃないの?」

「オレは悪くねー! 空調設定は適切なはずだぜ! シークレットアームに隠すなんてせこい真似をした月子のせいだろ!」

「な、何よ!」

「何だよ!」

「せ、先輩方ぁ……どうか気を鎮めて……」

 仲裁に入ろうとした秋を前にシールと月子はお互いに背を向ける。

「ケッ! 結局月子ってそういうところあるよな! 考えてるようで浅いっつーか!」

「ふんっ! シールちゃんこそ! ちょっと考えれば分かるようなことを全然頭使わないよね! そんなだから先生から怒られるんだよ!」

「何をぅ……!」

「言い返せるの? シールちゃんってそうじゃないの!」

 暫し睨み合った後に、シールと月子は別々の場所へとずんずんと歩いていく。

「もう頭に来た! 月子なんざ知らねぇ!」

「私だって! シールちゃんなんて知らないもん!」

「あぅ……喧嘩はやめましょうよ……」

「「こんなの喧嘩じゃない!」」

 二人同時に一喝されてしまって秋は立場をなくしていた。

 仕方なくとぼとぼと作業に戻ろうとして、そう言えばシールの担当する人機の整備の補助だったのであった、と思い返してより憂鬱になる。

「……あの、先輩……。私はどうすれば……」

「月子の肩持つなよな、秋。お前は分かってる奴だからオレはあえて言わねぇが」

「そ、それは……はい……。とにかく空調機を直しますね……」

 しかし、その途中でハッとする。

 空調機のメイン部品は月子の担当だ。

「……あ、あのぉ……先輩……」

「秋ちゃんは分かってくれるよね? ……シールちゃんってばガサツだし、考えなしで何でも言うんだもん。どうすればいいのかは分かるよね?」

「……は、はいぃ……」

 戸惑いながらも月子の担当部品を手に入れ、シールの近くにある空調機を直そうとして、秋は手を止める。

「……あの、空調機の設定温度って……」

「現在温度からマイナス十℃設定だろ? そうしねぇとオレら蒸し焼きになっちまうよ。……ま、誰かさんのせいでこうして格納庫にでっかい穴が開いたんじゃ、どうしよーもねねぇがな……」

「秋ちゃん? 設定温度はマイナス十℃で大丈夫だよ。そもそも、電気を使い過ぎなんだもんね。そんなことさえも守れないんなら、メカニックの基本なんて守れないんだから」

「何だと……!」

「何なの!」

 板挟みになり、秋は肩を縮こまらせる。

「お、お二人ともぉ……いがみ合いはやめましょうよぉ……。暑いのは事実なんですから、今は……あっ、そうだ。私、ちょっと柊神社にアイス! そう、アイス持ってきますから……!」

「――で、その時はアイスを差し入れして場を収めたと言いますか……」

 そう言えば柊神社の買い置きのアイスが丸ごとなくなっていた時があったなと赤緒は思い出す。

「……そんなことがあったんだ。……あっ、日向さん。一応、アイスはみんなのものなので、そういう時でも声をかけてもらえれば……」

「はぅ……っ! す、すいません……!」

 ぺこぺこと頭を下げる秋に赤緒は思わず頷いて無理やり納得する。

「あっ、でも緊急だったんですよね……! な、なら大丈夫ですから……っ!」

「い、いえ……この度は腹を切って責任を……」

 レンチ片手にお腹を出す秋を赤緒は慌てて制止する。

「ま、待ってくださいってば……! 切腹ほどじゃないですからっ!」

「あっ……そう、なんですかね……。でも、柊赤緒さんはお優しいので……」

「とりあえず……! レンチは置きましょうか」

 しかし、こうして聞いてみるとシールと月子がいつでも仲がいいと言うのは自分の勝手な幻想だったのだろうか。

「それ以外にも……お二方は危ない時が数多くありまして……。この間、雨が降ったじゃないですか」

「あっ、びっくりしましたよね……大雨で……。えっ、その時も?」

 こくりと頷き、秋は喋り始めていた。

「――あー、雨なんて憂鬱だぜ。日本ってのはこう、じめじめしとしととしやがって性に合わねぇよなぁ」

「けれど、シールちゃん。この気候に慣れないとどうしようもないよ。私たちだって日系なんだし」

「こちとら、ほとんど南米育ちだっつーの。って、月子もそうじゃねぇか」

「まぁ、南米だとスコールだとかだし。一気に降るのが多かった分、こうして連日降るのは珍しいかも」

 シールが陰鬱なため息を漏らしつつ、人機のボルトを締める。

「うぇ……っ。錆が出てやがる。これってどうしよーもねぇのな……。なぁ、月子ー。そういや、この間日本で売ってた錆取りのスプレーあったよな? あれってどうなったんだ?」

「錆取りスプレーなら《ブロッケントウジャ》のウェポンラックに仕舞っておいたよ? エルニィもコックピットでたまに使ってるし」

「マジかよ。……コックピットの管理までメカニックに任せられたんじゃ堪ったもんじゃねぇっての。赤緒たちも自力でやれるように少しは協力させなくっちゃいけねぇな……」

「まぁまぁ。メカニックを頼られているって言う証みたいなものじゃない」

「そうなのかぁ? ……って、ウェポンラックにロックかかってんぞ? おい、月子ー。解除キーって何だった?」

「解除キーは……確か先生の誕生日に設定しておいたはずだけれど……」

「……すまん、どっちのだ?」

「どっちって……あれ? どっちだっけ?」

 呆れ返りつつ、シールはパスコード画面と向き合う。

「まぁ、どっちかは当たるだろ。……えーっと……」

「どうしたの、シールちゃん。頭を掻いて難しそうにして」

「……なぁ、月子。幻滅するとすりゃー、この場合どっちだ? 師匠の誕生日を忘れているオレと、そもそも誕生日なんざいちいち覚えてらんねーっていうあれこれと……」

「えーっ! 先生の誕生日忘れちゃったの?」

「わ、悪いかよ……。ほら、うっかりってもんがあるだろ? うっかりってもんが!」

「シールちゃん……ちょっとそれは疑っちゃうなぁ……」

「うっせぇっ。そんなに言うんなら月子が開けろよ」

「もう、しょうがないんだから。……えーっと……」

 パスコード画面の前で硬直する月子にシールはまさか、と絶句する。

「……お前まで分からないとか言い出すんじゃ……」

「そ、そんなわけないじゃない! けれど、ほら! 人間っていざとなると、記憶力が! ど忘れって言うものもあるし!」

「自分で設定しておいてど忘れで済ますのかよ……正直引くぜ……」

「な、何言ってるの! そもそもシールちゃんが覚えていればいいだけの話でしょ!」

「な――っ! 自分のミスを棚上げすんなよな! 月子が覚えてると思ってオレは恥を忍んで言ったわけなんだが!」

「ふーん、どうなんだか。最初から師匠の誕生日なんて記憶の彼方だったんじゃないの? そんなんじゃ、いつまで経っても半人前だよ」

 肩を竦める月子にシールは拳を固めて反論する。

「何をぉ……! お前が一番性質が悪いだろうが! 何だってそんなことも覚えておけねーんだよ! メカニック失格だぞ、それ!」

「シールちゃんに言われたくないもーん」

 つーんと澄ました月子相手にシールは怒りの限界のようでプルプルと肩を震わせる。

「つ、月子ぉ……!」

「先輩方! 抑えて……抑えてくださいよぉ……!」

「でもよ! 月子のせいで錆び一つ落とせねぇ! これは甚大な被害だろ!」

「そもそもシールちゃんが覚えていないのが悪いんでしょー?」

「何をぅ!」

「何なの!」

「お二人とも……! ボルテージ上げ過ぎですってば……ここは喧嘩なんてしている場合では――!」

「「こんなの喧嘩じゃない!」」

 一喝されて秋はしゅんとしてしまう。

「月子! 最近たるんでんじゃねぇのか? メカニック仕事もそんななら、自分の健康管理だとかよぉ……。この間、赤緒たちの目を盗んで菓子を頬張っているのを見たぜ。ド深夜にな!」

「な――ッ! それはついつい小腹が……って、それならシールちゃんだって! 赤緒さんの留守の間に巫女服を鏡の前で試そうとしていたじゃない。本当は柊神社のお巫女さんになりたいの? それってちょっと笑えて来ちゃうけれど」

 ぷっ、と小ばかにした月子の発言ととんだ失態を晒されてしまったシールは顔を真っ赤にしてレンチを握り締めて追いかける。

「わ、忘れろ! 馬鹿!」

「忘れないもーん。シールちゃんって意外と乙女なんだし」

「忘れろぉーっ!」

「そんなレンチさばきで!」

 シールのレンチを月子は同じくレンチで打ち合い、《ブロッケントウジャ》の機体の上で向かい合う。

 互いに距離を詰め、薙ぎ払う一撃を叩き込もうとするのは明らかに暴力行為であり、なおかつメカニックとしてはかなりまずい。

「先輩方……っ! 《ブロッケントウジャ》の上で戦ったらまずいですよ!」

「知るかぁ……っ! おのれ月子、オレの恥ずかしい秘密を言い出しやがって……!」

「シールちゃんこそ! 私が太っているなんて、とんだ言いがかり!」

「何だと!」

「何なの!」

 激しくぶつかり合うレンチの銀色の打撃。

 秋は堪え切れずに叫んでいた。

「わ、分かりましたから……! 錆取りスプレー買ってきますので! 今は、抑えてください!」

「――……と言うわけで、錆取りスプレーを買って来たことで、何とかその場は……」

 赤緒は頭を抱えていた。

「……お菓子泥棒に、巫女服をシールさんが試そうとしていたなんて……。はっ! これ、私まで共犯……?」

 今さらの事実に口を噤んだ赤緒に対し、秋はあっ、と声を漏らす。

「まずいですかね、これ……」

「まずいですよね……」

「このミスは……切腹でもって清算を――っ!」

「待ってくださいっ! さすがにハラキリをされたら寝覚めが悪いですよ……」

 お互いにぜいぜいと息を切らしつつ、どうやらまだまだ余罪はありそうだ、と赤緒は感じながらも現在の状況の打開を模索する。

「……でも、どうしましょう……。このままお二人が一生仲たがいをされたままでは……」

 秋もその点に関しては心配しているらしい。確かに、メカニック三人娘とあだ名されているほどなのだ。

 ここで足並みが崩れればそれだけでトーキョーアンヘル全体の士気に関わるだろう。

「けれど、これまでは何だかんだで上手くいって来たんですよね? 自然解消……だとかは?」

「今回ばっかりは難しいかもしれませんね……。今までと違って今回は原因がよく分からないんです。分かれば……手の打ちようはあるんですけれど……」

 秋も困窮しているようで何度もうんうんと呻りながら答えを探しあぐねている。

「……そもそも。これまでもそうだったですけれど、二人ってしょっちゅう喧嘩してるんですか? 仲良しで喧嘩なんて絶対にしないってイメージでしたけれど」

「私は言って後輩として配属されてからしか知り得ませんが、お二人とも仲はよろしいです。喧嘩をなさると言っても一般の範囲なだけで……基本的には気の合うご友人……いえ、相棒のような存在かもしれませんね」

「相棒……かぁ」

 平時のシールと月子のやり取りを見ていればその言葉が自ずとしっくりと来る。だが相棒だと言うのならば、喧嘩も一つの日常のうちなのかもしれない。

「あの、柊赤緒さん……。やっぱり、私なんかじゃ先輩方を宥められないんですかね……。でも、今回を見過ごすわけには……」

「うーん……どうすればいいんでしょう。できれば南さんには手を煩わせたくないですし、かと言って他の方に頼むのも何だか悪いですし」

 なかなか打開策が浮かばないでいると、秋がどんよりとした面持ちで嘆息をつく。

「……やっぱり私なんかでは……」

「そ、そんなことはないですよ……! 日向さんはお二人のことを分かっていらっしゃるじゃないですか! それに、こんなに想われて……シールさんも月子さんも幸福って言うか……」

「……あの、柊赤緒さんっ……!」

「は、はひ……っ」

 一世一代のように秋に名前を呼ばれて思わず硬直して赤緒は返答する。

「その……私と一緒に、先輩方を仲直りさせてもらえませんか……? こんなの、操主の方に苦労をかけるものでもないんですけれど……でも、嫌なんです。仲が悪い時の先輩方を見るのは……」

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