《バーゴイルミラージュ》が《モリビト燦号》に追従して飛行する。その翼に救われたものとしては、今はただ言いたいことは――。
「――うん? 今日は豪勢だなぁ。でもあったかいおそばなんだ?」
天ぷらそばを調理している最中にエルニィが声をかけてきたので、赤緒は振り返って応じる。
「あ、はい……。金枝ちゃんもヴァネットさんも、寒いところからの帰還ですから」
「日本じゃこう暑いとやってらんないけれどねー。まぁ、今日ばっかりはいっかぁ」
エルニィはTシャツを突っかけて首にタオルを巻いている。参ったように団扇で扇ぎつつ、椅子に座り込んでいた。
「むっ。……何だ、麺類なのか」
「あっ、ヴァネットさん。今回も無事に帰還できてよかったですね」
「まぁ、連携がうまく行ったのが助かった……と。赤緒。そいつに関しては誰もツッコまんのか?」
メルJが指差した先では自分と隣り合って長ネギを切るが、その動作がおっかなびっくりなせいでさつきから指導を受ける金枝が居た。
「三宮さん。切る時は猫の手、ですよ」
「ね、猫……にゃん、にゃんと……。う、うぅーん……難しいですね……」
「功労者自ら台所に立つなんて殊勝だねぇ」
エルニィの感想に金枝はハッと気づいたようにメルJに向き直る。
「そ、その……メルJ・ヴァネットさん……」
「な、何だ……?」
金枝は何度か言い辛そうにしてから、ようやくと言うように頭を下げていた。
「す、すいませんでした……。金枝がその、足を引っ張っちゃって……」
「……別に気にするな。誰だって最初から一端の操主として出来上がっているわけではない」
「そのことなんですけれど……。今度、自衛隊で訓練する時、見てもらっていいですか? 金枝、その……銃火器の扱いは苦手なので……」
目を丸くするメルJに赤緒はそっと微笑みかける。
「……ま、まぁ。それくらいは教えてやらんでもない……が。何だか妙だな。懐くのは赤緒だけじゃなかったのか?」
「そ、その……金枝の時間はありますので。話題が尽きない限りはできるだけ……聞かせてください。ヴァネットさんとの……物語を」
「物語、か……確かに。トーキョーアンヘルの者たちとつるんでからの話だけなら、三日は喋っていられるな」
「ではその……話してもらえますか? 金枝もできれば……その中に加わりたいんです」
メルJがこちらへと目線を配る。赤緒は首肯していた。
「……まぁ、構わん。いくらでも話してやろう」
金枝が振り返って、赤緒へとハイタッチする。
「赤緒さん……っ! 金枝は……やれましたかね……?」
「うんっ! 金枝ちゃんも一歩ずつでいい、私たちと同じトーキョーアンヘルの一員なんだからっ!」
それなら分かり合えるはずだ。
何せ、いくら語っても彼女たちの物語はまだ、尽きないはずなのだから――。