JINKI 315 ご褒美のあとで、あなたと

「ぼやいていないで手を動かす! ……まぁ、ボクもね。もうちょっと上手くやるべきだったかなぁって思ってはいるけれど」

 エルニィはと言えば《ブロッケントウジャ》のフェイスカメラを雑巾で拭き掃除している。《ブロッケントウジャ》はセンサー類が機体正面に集中している分、その辺りはメカニック専門になっているようでエルニィ自ら掃除を請け負っていた。

「あと三十分だかんなー! 水中運動訓練はやっておかねぇと、せっかくの晴れ間なんだ。これから梅雨になるってんなら、やれることは全部済ませておくぞー!」

《テッチャン》に乗り込んだシールへとさつきは視線を向ける。合わせて稼働しているのはもう一機、月子と秋の乗り合わせた《ナナツーウェイ》が巨大なホースを手にしている。

『秋ちゃん! もうちょっと下操主のモーメント合わせられる?』

『こ、こうですか……?』

 メガホンを持つシールが《ナナツーウェイ》へと声を振り向けていた。

「気ぃつけろよなー! それだって保障が利かないんだからよ。それにしたって、何だって集まりが悪いんだ、トーキョーアンヘルの面子ってのはよ……」

 文句を漏らすシールにエルニィはふぅーむと思案する。

「それは多分……今日が普通に平日で、そんでもって学校が普通にあるからじゃないかな? ほら、赤緒とかは一応、学業優先だし」

「ってなると、何だってさつきは来られたんだ? 優等生だろ? お前はよ」

「そ、それは……立花さんが無理やり引っ張って来て……“今日はお休みだよ!”って言って……それでここまで連行されたんですもん……!」

 不服そうに応じるとエルニィは何でもないように応じる。

「さつきは出席日数も足りてるし、他の先生方の評判もいいから、連れ出したって何とかなるんだってば。問題なのはルイだとかだよ。あんまし他の先生とかからもいい評価聞かないから、今日は学校に出席しなよって言っておいたし」

「……だとしても、どうなんです? これ……」

「えっ? だって海開きしたじゃん。そろそろ学校でもプールとかあるでしょ?」

 さつきは身に纏ったスクール水着のずれを直しながら、その上から着込んだ撥水性のある上着の裾を摘まむ。

「……水辺の仕事だから、まぁ水着って言うのはまだ分かりますけれど……上に白いシャツ着込むの意味なくないですか? 透けちゃうし……」

「透けちゃうからいいんでしょー? まぁ、それはボクらの開発した特殊素材! その見た目でRスーツ製造の時に出る余剰材質で作ったんだー。何ならRスーツ並みの耐久力もあるんだよ?」

「……何だか不健全ですよ、これ……」

「文句言ってんなよ、さつき。オレらも着込んでんだ。恥はかき捨てだぜ?」

「恥だとは思ってるんじゃないですか……。もうっ」

 とは言え、《テッチャン》を操るシールだけではない。エルニィは黄色い水着の上から特殊素材の上着を着込み、《ナナツーウェイ》を操る月子と秋も同様である。

 それもこれも、この一週間で用意されたと言う巨大な水槽掃除を兼ねての準備であった。自衛隊駐屯地にて、計画されていたと言う人機用の大型プール――それが完成したのだ。

 しかし、いきなり人機を運用しようにも、細かい砂埃や泥の汚れは取ってからのほうが実寸データを取れるだろうとまずは愛機の清掃から入っているのである。

 プールサイドも広く取られ、《ブロッケントウジャ》が腰掛ける形で陣取り、《ナナツーライト》が仰向けに寝そべってもまだ余裕がある。

「それにしても、よくこんなの作れましたね……。トーキョーアンヘルの財政には余裕がないんだって南さんが仰っていましたけれど……」

「まぁねぇー。これから先、水中特化型人機が出てこないとも限らないし、それにブロッケンの換装システムの実寸値を取るのに、いちいち海を使うのも大変なんだってば。さつきも聞いたでしょ? 海外に行けない理由」

「あっ、はい……」

 自分たち人機操主は、公式記録に残る場所では海外に出られない。と言うよりも、出てはいけないのだと対外的に義務づけられている。その理由は日本とトーキョーアンヘルの保有している人機の数があまりにも多く、大国の脅威となっているからだそうだ。

 風の噂では各国人機の保有数を厳密に制限する法案が通ろうとしているともエルニィから聞かされていたが、それも真実味を帯びている。

 無論、渡航して秘密作戦に臨むことは何度かあったし、これからもあるのであろうが、それはあくまで公式記録上に残らない戦い。

 必要な時に戦力を絞られないために、海の外に出ることでさえも制限を受けているのだ。南曰く「高度に政治的な駆け引き」なのだと言う。自分は詳しくはなかったが、エルニィやメカニック班も同じように扱われているようで、彼女らの師匠である水無瀬たちは無期限で《ビッグナナツー》から陸に上がることを禁止されている。それはあまりにも水無瀬たちの持っている技術が卓越しているからだ。

 その技術如何だけで国が傾くと言われても、なかなか想像の範囲外であったが、南とエルニィも納得しているところを見るに嘘や誇張ではなさそうである。

 しかし、誰かが厳格に罰しているわけでもないので、その二人も時折は街に出て映画でも観て日本での生活をエンジョイしているとのことであったが。

「まぁ、オレらがどんだけ厳密に守ったところで、脅威ってのは大概は外から来るもんだ。真面目腐っているのもアホくさいもんだぜ」

「でも、人機開発は転がり出した石なんだ。今さら取り下げることもできないし、その保有戦力にケチを付けられたんじゃ堪ったもんじゃないよ。ボクらはこうして、狭苦しい日本でどうこうしてやりくりするしかないんだから」

 そうぼやきながらエルニィは《ブロッケントウジャ》の精密センサー部を拭いていく。実際のところで言えば、水中戦闘特化型の武装を施された《ブロッケントウジャ》は可能なら実戦に近いデータを取りたいのが本音であったのだろうが、理由は様々である。そもそも、《ブロッケントウジャ》の運用方針にさえも、ここ数週間で幾度か介入があったとさつきは伝え聞いていた。

「あの、南さんが言っていましたけれど、《ブロッケントウジャ》、あんまり前線に出せないとか言う話って……」

「ああ、あれ? 本当に困ったもんだよねぇ。今言った保有数の話に抵触するんだけれど、ブロッケンの陸海空の運用方針が実質的に人機三機分に相当するって、まぁクレームって言うか、要らない口論を生んでいるって言うか」

「実際、どこにでも潜めるブロッケンを危険視している奴らってのは居るんだよなー、厄介なことに。空戦機としてみればメルJの《バーゴイルミラージュ》や《空神モリビト2号》にまでは行かないにせよ、特殊戦闘人機ってのは何かと見咎められれば面倒なんだよ。それがさほどコストもかからないってのは、相手にしてみれば対応を迫られていて大変なのは頷けるがよ」

「えっと、つまり……?」

 シールの言葉を咀嚼し切れないでいると、エルニィが補足する。

「ボクらだって《バーゴイル》が陸でも海でも使えるってなると対応策をたくさん考えないといけないから困るでしょ? そういう上役の考えを下々に押し付けられてるんだから、堪ったもんじゃないって話」

 そう言われると少しだけ分かりやすい。エルニィはセンサー類を確かめてから水着のままコックピットブロックへと収まる。

「よぉーし! ブロッケンの準備完了ー! さつきは? 《ナナツーライト》の掃除は終わった?」

「あっ、まだです……。普段は陸戦想定だから、思ったよりも泥とか色々大変で……」

「《ナナツーライト》はリバウンド兵装搭載型の実験機だかんなー。普通の人機じゃ付かないような汚れや、どうしたって取りようのないもんもある。あとは《テッチャン》に任せろよ。元々は《ブロッケントウジャ》の水中用特化型装備を試したいってんだ。時間ばっかりかけてる場合じゃねぇだろ」

 シールの《テッチャン》がごわごわのブラシを携えて《ナナツーライト》の躯体を清掃していく。さつきはと言うと、スクール水着のままで《ナナツーライト》のコックピットに収まってからエルニィの通信を聞いていた。

『さつきー、聞こえてるよね? 今回やりたいのはブロッケンの水中用装備もそうだけれど、海中戦におけるリバウンド兵装の実験もあるんだ』

「そ、それは資料でいただいた分は、一応は目を通しておきましたけれど……」

 しかし、ルイの《ナナツーマイルド》とのツーマンセル前提の機体なのにいいのだろうか、と言う思いが先行する。それを悟ったのか、エルニィは声を潜める。

『まぁ、大きな声じゃ言えないけれど、ルイは《シスクードトウジャ》のほうに合わせようとしているってのは分かるよね? 《ナナツーマイルド》がルイ以外の……それこそ専用機になる可能性もあるんだ』

「そ、それは……一応は資料の七ページ目に書かれていますけれど……」

 極秘資料を捲りながらさつきはルイの操主適性に関しての概要欄を見渡す。ルイの操主としてのランクは最大級のSクラス――他に替えが利かないレベルだと測定されている。

『……まぁ、さつきとしても納得がいかないのは分かるよ? これまでツーマンセルでやって来いって言われたのに、じゃあ今度からは一人で頑張ってくれってのは、ちょっと理不尽って言うか、話が合わないところに思えるかもしれない。けれど、こうして試していかないと、キョムも他の組織も黙っちゃいないんだ』

「それも……分かっているつもりですけれど……」

 どうしても割り切れない部分はある。

 敵はキョムだけではない。米国で編成中のグレンデル隊に、脅威であったグリムの眷属。さらに言えば各国諜報機関が睨みを利かせているのが今の日本。それは自分の担任である瑠璃垣なずなの存在からしても明らかだ。相手はただ手をこまねいているわけじゃない。きっと布陣さえ固まれば、いつ攻めて来ても不思議ではない。加えて、時間もリミットが迫っていると言っていいだろう。

 前回の京都決戦時、《キュワン》で奮闘できたのは大きかったが、その反面、課題も多く見えたのが実情であった。

『さつきの《キュワン》の操主適性は高いけれど、《ナナツーライト》を他の操主に任せられないのは痛いからねー。まぁ、三宮が来てくれたとは言え、あの子もモリビト以外じゃほとんど乗りこなせないし。だったら、使えるほうを優先的に、かつ効率的に使えたほうがいいって言うのは南も苦渋の選択だったんでしょ』

《キュワン》で訓練を重ねてきたとは言え、あれは高出力リバウンド兵装のテスト機。《ナナツーライト》の発展機である《キュワン》には数々の問題点が浮かび上がっており、それらは技術特異点と思しき部分の解消でしか突破できないのだと言う。解消するためには時間と技術、それに予算も足りない。

 現状では《キュワン》単騎での作戦は推奨されておらず、京都決戦のように複数の作戦を同時展開するのが理想的だが、そうそう敵が上手くこちらの術中に嵌ってくれるとは限らない。ならば、《ナナツーライト》の力をさらに引き出す方向にシフトしたのが、つい一週間前の出来事。

 ちょうど修学旅行から帰って来た時分に、唐突に《キュワン》の訓練を打ち切られたのだから、もちろん困惑が勝った。

 だが、シールや月子が根気強く説得してくれたお陰で今の自分は少しだけだが納得できている。問題なのは――理屈の上での納得でもなければ、操主としての技量でもなく。

「……立花さん。私、結構わがままですかね……?」

『何でそんなこと聞くのさ。さつきはちゃんとボクらの意見を聞いた上で、それで《キュワン》の訓練を一時的に中止して《ナナツーライト》の改修案に目を通して了承してくれたんでしょ? いい操主だと思うけれど』

「いえ、でも、何だか……」

 差し込んでくる強い日差し。天蓋は自由自在に開閉可能であり、直射日光を完全に遮ることも可能だったが、訓練の都合上、わざと隙間を空けてある。

 その光へとさつきはそっと手を伸ばす。

 掛け替えのないものがあるとすれば、それは操主として積み上げてきた経験だけではない。これまでの愛着、と呼ぶべきものも当然存在する。

《ナナツーライト》は当初の愛機であったところをルイとのツーマンセルを打ち切られ、考え直そうと《キュワン》の訓練に打ち込んできたと思えばもう一度《ナナツーライト》に戻れと言われれば、如何に物分りがいいように振る舞っても困惑がないと言えば嘘になる。

 思えば、自分はずっと、物分りのいい優等生を演じてきたのだなと脳裏を自己嫌悪が掠める。兄が居なくなった時も、操主として柊神社に所属し続けるのだと決めた時も。

『よぉーし! 清掃完了! いつでも出せるぜ!』

 シールの《テッチャン》の作業が終わり、さつきは《ナナツーライト》を起き上がらせる。それと同期するようにしてエルニィの《ブロッケントウジャ》が対面していた。

 プールの深さは約三十メートル。広さは人機五機分に相当する。当然、海に比べれば手狭だが、《ブロッケントウジャ》の特殊兵装を使うのには充分な距離だ。

『よし! 行くよ、さつき!』

「……はい! いつでも……どうぞ!」

『水がなくなった時点で訓練終了だからね。《ナナツーウェイ》での注水は五分だけ。その間で着弾した数の多いほうが勝ち。シンプルな勝負だよ、二人とも!』

 月子と秋が操る《ナナツーウェイ》がプールに水をホースで注ぎ込む。その水は着色されており、《ブロッケントウジャ》と《ナナツーライト》が同時にプールへと飛び込んでいた。

 リバウンドの電磁力が舞い上がり、《ブロッケントウジャ》が背部に積載した特殊兵装を解き放つ。

『これで……どうだぁ――っ! リバウンドビット!』

 爪弾かれたようにしてリバウンドの自律武装が一斉に稼働する。全方位から《ナナツーライト》を捉えんとした円錐型のその武装の名前はリバウンドビットシステム――《ブロッケントウジャ》の新たなる矛であり盾でもあった。

「……そこっ!」

 さつきは《ナナツーライト》を遊泳させながらハンドガンの引き金を絞る。リバウンドビットの総数は六基。しかも水陸両用であり、水中に潜んでこちらへと突き進む。まずは水中から攻めてくるリバウンドビットへと注意を振り向け、さつきは弾丸を放っていた。

 だが、水中での物理エネルギーは減殺される。それを見越して《ナナツーライト》の自在式のリバウンドのエネルギーを纏わせていた。

 ハンドガンから放たれた弾丸はリバウンドの色相を帯び、緑色に輝く弾丸はRフィールドプレッシャー時の反射弾頭の速力に相当する。水中戦の不利をものともせずにさつきの引き絞った弾丸はリバウンドビットへと命中していた。

『やるね……! けれど、まだまだビットはある!』

 今度は水上より襲ってくるビット兵装への対応を急がれるかに思われたが、さつきは操主としての感覚を研ぎ澄ます。

 通常ならば、水中と水上、同時に襲ってくる自律兵装は脅威だが、今回の勝利条件においては重要ではない。

 問題なのは、血続の特性を活かしアルファーを加工して巨大化したビットの目に見える脅威よりも、水中戦闘用に特化した兵装を持つ《ブロッケントウジャ》のほうだ。

 エルニィは訓練とは言えこの勝負を獲りに来るはず。それを確信しているのならば、ビットで勝負がつく小手先の戦法にこだわるとは思えない。ならば、脅威判定として高いのは推進力を活かして肉薄してくる《ブロッケントウジャ》本体。

「……本当に気を付けるべきなのは……視界をちらつくほうじゃなく……」

 幾何学的なビットの動きはこれまでの経験則が活きない、全くの新機軸の戦法だがエルニィが如何に天才とは言え同時運用には手間がかかるはず。水中で迫って来た《ブロッケントウジャ》へと《ナナツーライト》は接近戦を挑んでいた。

『勇猛果敢だけれど……! それだけじゃ勝てないよ! さつき!』

「そうかもしれません……けれど……!」

 先ほど弾丸で叩き落としたビットも復活を果たしている。アルファーを核として利用しているため、内蔵された小型のコアを破壊しない限りは何度でも襲ってくるのがリバウンドビットの恐ろしいところだ。

 水中と水上、挟み撃ちの構図となった状態でさつきは戦いの必勝パターンが構築されたのを感じる。現段階での対人機戦闘において、前と後ろを塞がれてしまえば上操主だけで対応することはほとんど不可能に近い。

 血続の関知野に近い超反射能力があったとしても、この構図を覆すのは困難を極める。その上で接近戦を挑んだのは、何も蛮勇なだけではない。

 訓練であっても――負けられないと言う意地。それがさつきと《ナナツーライト》の躯体を衝き動かし、ハンドガンの照準を定めて《ブロッケントウジャ》の肩口を射抜く。

『馬鹿にしないで! ハンドガンの威力じゃ、水中用ブロッケンの装甲は貫けない!』

 さすがはエルニィ、トーキョーアンヘルの保有する人機の基本性能は全てその頭脳に入っているのだろう。だからこそ、《ブロッケントウジャ》に回避をさせなかった。水中戦用特化の重装甲ならば、回避よりも前進を選んだほうが最適解だからだ。

「それは分かっています……! だからこそ……!」

 激震する。視界がぶれる。さらに加速した《ブロッケントウジャ》に真正面から激突され、《ナナツーライト》の痩躯が軋む。

『悪いけれど、機体追従性ならブロッケンのほうが上だよ!』

《ブロッケントウジャ》は折り畳み式の短い手槍を持っている。想定されているのは海中戦闘。有視界では時に長物の武器は不利となる可能性が高い。それを見越しての手槍はトリガーを引くことで一時的にリーチを伸ばすことができる。

 プールが着色されているのはその再現でもあった。

 海の中ではレーダー探知も、ましてや視界もまともに利かないと思っていい。信じられるのは感覚だけだ。操主として鍛え上げた、戦場の第六感。

 曇った視界の中で《ブロッケントウジャ》が振り上げた手槍の一撃を《ナナツーライト》は押し込まれながらもハンドガンで対処する。しかし、当てずっぽうが命中するほどエルニィの熟練度は低くはない。

 軽く機体を横滑りさせて回避した後、エルニィは格闘戦に打って出ていた。肘や膝に備え付けられたハードポイントが高速回転し、渦巻く膂力を巻き上がらせて単純な打撃でも《ナナツーライト》へと有効な一撃となる。

『あと……三分……!』

 月子のアナウンスが耳朶を打つ中でさつきは今一度、《ナナツーライト》にハンドガンを構えさせる。

『それは効かないよ!』

 ほぼゼロ距離に達した《ブロッケントウジャ》が手槍を掲げる。

「かもしれません……けれど私は……《ナナツーライト》の操主……! この機体のことは! 立花さん以上に知っているつもりです!」

 引き金を絞り、放った弾丸が宙へと抜けていく。

『どこを狙って……!』

「そこです!」

 途端、《ブロッケントウジャ》の動きが唐突に制限される。今しがたまでの高機動が不意に翳り、関節が軋みを上げ水中で封殺される。

『……ブロッケン? ……急に動きがおかしくなったなんて……?』

「急じゃありませんよ。ずっと狙っていましたから」

《ブロッケントウジャ》を捕らえたのは薄い皮膜を持つリバウンドで構成された網であった。その網の頂点はそれぞれ、リバウンドビット六基と、そして肩口に繋がれている。

『……まさか! 全方位攻撃のリバウンドビットを、逆利用したって……!』

「リバウンドビットは確かに有効ですし、脅威ですけれど……。私は誰よりも長く、後方支援を任されてきました! 何がどう動いて、どう展開するのかは頭の中で描けます。その軌道上に何があるのかも……! 捉えて……! Rフィールド……っ!」

 さつきは声高く天を指差し、リバウンドビットに着弾した弾丸を利用して自由自在に操る。直後、全方位を制していたはずのリバウンドビットこそが《ブロッケントウジャ》を封殺する最大の策として通用していた。

『……投網にしたのか……。最初にリバウンドビットを狙ったのも、有効打じゃない肩への命中も、最後の弾丸でさえもこのための布石……!』

 シールが通信先で息を呑んだのが伝わる。

《ブロッケントウジャ》は自らの特殊兵装によって浮上し、そのまま日差しの差し込む屋内プールの中空で拘束されていた。

『勝負あり! さつきちゃんと《ナナツーライト》の判定勝ち!』

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