「……レイカルに写真のセンスがあったってことですか?」
「と言うよりも、被写体がいいのよ。適度に力が抜けていて、それでいて自然に笑えているでしょ? 私が欲しかったのはこういうのなのよねー」
白ワンピ姿にミニチュアの向日葵を抱えたウリカルはどことなく望郷の念を覚える姿だ。まるでここにはない、しかしかつて存在はしていた美しい情景そのもののように。
「……作木君。ウリカルに会ったら言ってあげて欲しいのよ。ナナ子もレイカルが撮った分を今回は売るって決めたみたいだし、ありのままが一番いいんだって」
「……ウリカルに、ですか。そう言えば削里さんのお店に窺わないと、今日は……」
「恥ずかしいんだってさ。乙女心よ、分かってあげて」
何だかその一言だけで了承が取れてしまったかのようであった。
だが、写真を見れば見るほどにウリカルにちゃんと、言ってあげなくてはと作木は確信する。
だってこんなにも――よく似合っているのだから。
「今回の頒布はこんなもんかしらねー。あっ、一応レイカルが撮ったものだから、もちろん作木君にも三割くらいは売り上げを山分けしてもいいわよ?」
「そんな……! レイカルが撮影したものですし……」
「いいんだってば。元々、趣味人としてやっていたものではあるし。それに、ね。これだけの笑顔を引き出せたのは、レイカルの何て言うのかな……邪念がないから、かもしれないし」
「だから! ミンミンゼミにお前は勝てないだろ!」
カリクムにずびしと意見を突きつけるレイカルには自分の撮影した写真が売り物になるなんて考えは一ミリもないようであったが、逆にそれだからウリカルの笑顔を引き出せたのかもしれない。
「……レイカル。ちょっといいかな」
「はい? ……創主様もミンミンゼミが強いと思っていらっしゃいますよね?」
「まぁ、それはいいとして。……レイカルのお陰でウリカルが笑えたんだ。ありがとう」
「……よく分かりませんが、ウリカルは私の子供ですからね! 当然のことです! ふんすっ!」
「……本当、意味分かって言ってないよな、お前」
呆れ返ったカリクムとまたしても言い合いが始まる中で、ナナ子がふふっと微笑む。
「ありがと、作木君にレイカルも。何だか初心を思い出せたわ。そうよね、被写体の魅力を引き出すのが……撮影者の、ひいてはオタクの心得!」
拳を固めて立ち上がり、声高に叫ぶナナ子には少しだけ辟易しつつも作木は愛想笑いを返す。
「……まぁ、それは……。でも、いい写真ですよね。ウリカルも、楽しんでくれていると、いいなぁ」
「きっと楽しいに決まっているわよ。だって、写真は被写体とカメラマンの信頼関係ありきなんだからね」
特撮や芸能界に秀でている小夜が言うと説得力も違う。
「それなら……僕もよかったです。ウリカルが自然体なら……僕もそれが一番嬉しいですし」
「さぁーて! 今日のナナ子キッチンは、もう調理済み! 冷え切った特製プリンをみんなで食べましょう!」
冷蔵庫からプリンを出すとレイカルとカリクムも諍いをやめて注目を向ける。
「やった! プリンですよ、創主様っ!」
「レイカルも子供だよなー。プリン程度で」
「……そう言いながらあんたも目線を逸らせていないじゃないの、カリクム。もっと素直になりなさい。ウリカルだって素直になったのよ」
「し、しょーがないなぁ、小夜は! そう言うなら私もプリンを食べるわよ」
作木は改めて、白ワンピ姿に向日葵を抱えて微笑むウリカルの写真を眺める。
澄み渡ったその眩いばかりの微笑みと、そしてこの夏空のどこかに繋がっていそうな、懐かしささえ感じさせる衣装。
「……夏って悪いばっかりじゃないんだなぁ。この暑さでちょっと忘れていたのかも」
きっと今年の夏も、いい思い出として過ぎていく――そう思うことは、決して間違いではないはずなのだから。