「……ちょっとね。けれど勝世君が頑張ってくれているんだもの。疲れたなんて絶対に言えないわよ」
「それはその通り……っと、立花博士から入電です、繋ぎますね」
続けざまにエルニィとの通信が接続され、南は前髪をかき上げる。
『南、聞こえてるー? こっちでもらった資料の読み込みと名簿の洗い出しはボクとシールとツッキーで何とかなりそうだけれど、問題なのはその先かな』
「その先って言うのは?」
『うぅーん……戦場の情報って言うのは一過性のものが多いんだよね。兵士の名前なんて、その時々で変わっていることもあるし、それに参戦したかどうかって言うのはその後に生きていたら、分かる話。死んでしまったら、誰にも解き明かせない命題みたいなものだよ』
思えばその通りではある。誰かが生き証人に成ったから、誰が生きて誰が死んだのかを語り継ぐことができる。その最低条件は勝利することであったが、カラカス陥落から先、レジスタンスが真っ当に勝利したことなど恐らく片手で数え切れてしまうだろう。
「……じゃあ解析は不可能だって言うの?」
『いや、ダミーデータって言うのかな。戦場で名前がなくっても施設入居に際して名前を付けることは慣例としてあったみたい。ただ、これも法律スレスレって言うか、死人の名前を付けることも多いって出てる』
「……既に死んだはずの名前を、名乗らざるを得ない血続の……エクステンドの子たちか」
死者の名前を引き継ぐことは、実際に戦場で血を見た彼らにとっては残酷そのものだろう。
『加えて、顔写真と名前が一致しないこともあると思う。できるなら、顔写真を送付して欲しいけれど、そう簡単にはいかなさそうだよね』
勝世にこれ以上の負荷を強いるのも心苦しい。南は短く、そして的確に返答していた。
「エルニィ、あんたは洗い出せる限りの名簿情報を洗ってちょうだい。裏付けは私たちが取るわ」
『そう言ってくれると助かる。正直、エクステンドの子たちがどういう経緯でだとか、どういった過去があってとかは一週間じゃ時間がいくらあっても足りないよ。ただ、ハッキングして面白い金の流れが見えてきたから、そっちの報告をしておこうかな』
「お金の流れ? ……施設職員が着服しているとか?」
『それならまだ大人しいよ。この施設……まぁ、当たり前なんだけれど血続が確認されてから設立されたもんだから、まだ三年も経っていないんだけれど……一時期かなり潤っていたみたいでさ。それも周期的に、何者かと取引している様子なんだ』
「……何者か……? 軍部だとかウリマンだとかじゃないの?」
『その可能性は高めに見積もっているけれど、ウリマンアンヘルに資金流入しているにしてはその額が結構馬鹿にならないんだ。ケチ臭い軍部がいくら優秀とは言え、操主一人にそんなに出すかなって言う』
どうやらまだ調べを尽くす必要性はありそうであった。
「……気にかかるわね。エルニィ、あんたたちにはそっちを任せるわ。私たちはもしもの時の備えを行うから」
『まぁ、ドンパチに関しては現場判断を頼むよ。ボクらは所詮、バックアップだからね』
通信が切られ、南は大きく伸びをしてから勝世から送られてきた詳細情報を精査する。
顔写真はさすがに送れなかったようだが、二人分の名前に目を留めていた。
「サイラス・クライヴに、氷野顕、か。この二人が重要なファクターの可能性もあるって言うことよね」
「あるいは勝世君を惑わすためだけにあてがわれた可能性もありますが……いずれにせよ、今は彼の仕事を信じましょう。大丈夫、彼にも諜報員のイロハは叩き込んでありますので」
南はキャノピー型のコックピット越しに施設へと拡大モニターに映し出す。
不気味なほどに滅菌された白の城塞は静謐のまま、時を刻んでいるようであった。