「……うっせぇな。普段赤緒さんたちに入れ込み過ぎなほど入れ込んでいるお前に言われる筋合いはねぇよ。……ただな、やっぱり自分に似たような眼をしている奴らを放ってはおけねぇんだ。これも気紛れみたいなもんなんだろうがな」
「……そうか? お前は一端に潜入任務やって、それで名誉の負傷だろ? ならいいんじゃねぇか」
「……名誉ねぇ。何一つ守れなかったんだ。それはどうなんだろうな」
両兵が駒を進める。ちょうど王手であったので、勝世は頃合いだと横に置いた紙幣を手に取って立ち上がっていた。
「あっ! てめぇ、金……!」
「今回は賭けてねぇだろ。話のついでに寄っただけだ。それに……オレにはまだ、やることがありそうだからな」
サイラスと顕がどうなったのかは、南やエルニィたちに任せるほかない。自分にできることは、その時への備えだ。
「……何だかてめぇも、面倒ごとに首を突っ込む性質になったって思っていいのかねぇ」
「……知ってんだろ? 元々オレは貧乏くじを引きがちなんだよ。どっかの誰かさんの尻ぬぐいだってな。両兵、オレはオレの信じるもののために戦うぜ。お前はどうなんだ?」
「今さら聞くまでもねぇだろ」
短く返答した両兵に、それもそうか、と勝世はスーツの上着を担いで笑う。
「……せっかく操主やめて諜報員に転職したってのに……まったく、馬鹿なほうを選んでいるとは思うぜ。だが……オレはやってやる。悲劇を起こさせやしねぇ」
「勝世、肩肘張るのは結構だとは思うがな。見失うなよ。てめぇにしかできねぇこともある」
本当に分かった風なことを言うのだな、と勝世は呆れ返ってしまう。だが、こうした部分に赤緒たちも救われてきたのだろう。
「……だな。野郎なんかに慰められるなんざ、オレも焼きが回ったよ。……両兵」
パチンと指先でコインを弾くと、両兵がそれを受け取る。
「要らんことまで話しちまったな。愚痴代だ。持ってけよ」
「……五百円じゃ安酒程度しか買えねぇだろうが」
その言葉を背中に受けながら勝世は堤防を上がっていく。夕映えが差し込んできて、水面を照らし出している。
「……サイラス、顕君も。二人を最悪の形で再会させやしねぇ。そんな悲しい物語のために、オレは戦う力を持っているわけじゃねぇんだ」
拳をぎゅっと固め、勝世は歩み出していた。
何が待っているのかは分からない、茫漠とした闇だけなのかもしれない。想いだけでも力だけでも、取りこぼしかねない。カードの裏表に過ぎないからだ。
それでも――前を進む勇気だけは、自分の中から生じるものだと信じながら、勝世は踏み出していた。