JINKI 318 三宮金枝はアイドルになりたいっ!

「……そうかよ。けれどまぁ、時には素直に泣けるのが案外、一番だったりするもんだぜ? 泣くってのはよ、弱さの表れじゃないんだ。必死になって、滅茶苦茶アツくなったからこそ、泣けるってのはあるからよ」

「……また分かった風に言う……。けれど、ハッキリ分かりました。金枝はあなたが嫌いです!」

「……そーかよ。ま、どうせ好かれようなんざ思っちゃいねぇからな。憎まれるのなら白黒はっきりしておいたほうがマシさ」

 両兵が河川敷の石を手に取り、川面に向かって投げる。石は滑らかに宙を切り、何度か跳ねて向こう岸にまで渡っていった。

「……嫌われていいなんて……もしやマゾなんですか?」

「……酷い言われようだな、ったくよ。まぁ、時の運もあるとは思うんだよな。水切りだってそうさ。上手いこと向こう岸まで運べることもあれば、そうはならずに沈んじまうことだって往々にしてある。実力を全部出し切れるかどうかは、その時次第……ってのが、ある意味じゃ残酷な話ってもんだ」

「……もしかして、慰めてくれているんですか?」

「……そう聞こえるか? だとすりゃ、お前の中に燻ぶってる芸能界への憧れも、まだまだ捨てたもんじゃねぇってこったな」

 何だか上手い具合に転がされたようで癪ではあったが、金枝は立ち上がって水切り石を手に取る。そのまま、不格好に投げると石は一回も跳ねずに水底に沈んでいった。

「……うぅ~……何でですか! 結構いい線行っていたと思ったのに!」

「よくあることだよ。自分じゃ百パー出し切ったと思った戦いが三十パー前後で終わっちまうことなんて。ま、要は次こそはもう五パーセントでも上を目指せりゃ上々って分かればこっちのもんさ」

 両兵が石を投げる。強い肩から生み出される鮮やかな投擲姿勢。それは無駄な力を生じさせずに石を向こう岸まで運んでみせる。百発百中だと言うかのように。

「……小河原両兵に五パーセントの価値だとか違いだとかを語られるとは思いませんでした。……屈辱です」

「……なーんで、てめぇはそういう風な言い草しかできねぇんだっつー……。けれどま、口が減らないってことはガッツならあるってことだろ? 見せてみろよ、お前の腹の底にある、本物の闘志って奴を」

 分かっていて、両兵は自分を鼓舞しているのだと伝わる。石の投げ方だけではない、この先どうありたいのかを。この先、どうやって生きていきたいのかを。

「……何か気が抜けちゃいました。一回や二回でどうこうなるものでもないですし、これも、ですね」

 不合格通知をビリビリに破り、金枝は金色の夕映えへと目線を移す。鋭く差し込んでくる斜陽の景色は、今は少しだけ目に沁み込んでくる。

「……思い切れる奴は強いもんだ。どんな時でもな」

 石を投げようとした両兵に対し、金枝はその腰へと飛び蹴りを見舞う。姿勢を崩した両兵がつんのめり、そのまま川面へと頭から突っ込んでいた。

 その様子があまりにも無様なので爆笑していると両兵の恨めしい声が返ってくる。

「……てめぇ……やりやがったな……」

 直後、金枝の顔面に向けて両兵の水鉄砲が飛んできていた。

「わぷ……っ! な、何をするんですか! 未来のなんばーわんアイドルの顔に向けて……!」

「うっせぇ! やってきたのはそっちからだろうが!」

「なんのぉ!」

 両兵と金枝は水を掛け合い、お互いにずぶ濡れになってから、息をつく。

 夕刻にこんな場所で、何だか馬鹿みたいだ。それでも――助けられた心地で金枝は口にする。

「……小河原両兵、見ていてください。次は絶対、金枝は負けませんから」

「……そーかよ。ま、期待せずに見守っておくとしますかねぇ。未来のナンバーワンアイドルとやらをな」

「ふふーん♪ その時になったら小河原両兵みたいなミジンコ以下の存在は泣いて喜びますよ?」

 いつものように大胆不敵、いつものように底知れぬ自信満々に。微笑みを浮かべて金枝は挑発してみせる。

「……そろそろ腹ぁ減ったな。帰るぞ、三宮」

「……ですね。今日の晩御飯は何でしょうか♪」

 堤防を両兵と肩を並べて歩きながら金枝は空を仰ぐ。夏の近づいてきた湿っぽい風、少しだけ汗ばむ季節。

 自分が輝けるスターダムはきっと、今日の夕映えよりもなお色濃い、色彩の向こう側にあるのは間違いないのだ。

「そりゃあ、お前。……今日頑張った奴への、ささやかなご褒美だろうさ」

「じゃあ、金枝が主役ってことですね!」

「……お前は結局……マジにおめでたい奴だよな」

「何ですか! 小河原両兵はやっぱり、大嫌いです!」

 両兵の発言に噛み付いている間にも、時は過ぎていく。

 いつか絶対に、誰もが羨むアイドルになるために――今は一刻一刻をしっかりと大事にしていこう。そう結んで、金枝は黄金の時に染まった夕陽の向こうを進んでいくのだった。

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