JINKI 319 イチゴ風味の悪ふざけ

「怒ってない……とは言い切れないかもしれませんが、情状酌量の余地くらいはあると思っています」

「……怒ってるよね……うん」

 しかし改めて見返すと、奇妙な取り合わせである。ルイとエルニィ、あるいはルイとさつきならばまだ分かるのだが、月子との組み合わせは初ではないのだろうか。

 物珍しそうに注視していたせいか、ルイが悪びれもせずに声にする。

「……赤緒。無節操な視線よ。反省なさい」

「あっ、すいません……珍しかったもので……って、私が今回は被害者なので、これも変じゃないですか?」

「そうかしら? 案外、赤緒の自業自得かも」

 そう言って腕を組むルイは泥棒のトレードマークとも言える緑色のほっかむりを被っており、よくその有り様で偉そうなことを言えたものだと感心さえする。

「……その、私何かしたんですか? 月子さんなら少しは客観的なことを言ってくれるかなと思うんですが……」

「あ、そのね? 赤緒さんを狙ったのは、ちょっとした出来心って言うか……」

 どうにも月子自身、釈明の余地はないと思っているようだ。となると、完全に悪者にしていいのだろうか、と探っているとルイは自信満々に言い放つ。

「黙秘権を行使するわ」

「……意味分かって言ってます? それ……」

 だが、あまりこの件に関して腹の探り合いをしても埒は明かない。そもそも、今は深夜二時を回っている。こんな時間に部屋の中にまで盗みに入ったルイと月子の動機を多少なりとも知っておきたい赤緒ではあったのだ。

「……その、今ならまだ無罪放免にもできます。私だけ迷惑なだけなら……」

「何よ。赤緒のクセに、私たち相手に交渉でも持ちかけようって言うの?」

「それは普通、交渉条件に立っている相手の言い草ですよね……?」

 月子はあわあわと困惑しながら、言い訳を発しようとしているようであった。

「そ、そのー……はじまりは今日のお昼……あ、もう昨日か。ちょっとしたお話の延長線上だったんだけれど、盛り上がっちゃって……」

「メカニック二号、それを話すとこっちが不利よ。やめておきなさい」

「に、二号……?」

「あ、私、ルイちゃんからメカニック二号って呼ばれていて……。一号はもちろんシールちゃん。三号は秋ちゃんかな……。そういうのは赤緒さんも覚えはあるでしょう?」

 ルイは他人を時折、とても失礼なあだ名で呼ぶのは周知の事実であったが、それにしてもあんまりである。

「……ルイさん? 月子さんには中原月子って言う、立派なお名前があるんですから。メカニック二号はあまりにも失礼ですよ」

「知んないわよ。いちいち覚えるのも面倒だし、どうせ二号って呼ばれても嫌がったりはしないんだから」

 月子のほうに視線を振ると、気にしないでとでも言うように微笑みかけてくる。

「……けれど、余計に分からなくなってきましたね……。何でルイさんと月子さんが、私の部屋に忍び込んだんです?」

 そもそもの問題はそれなのだ。

 夜半に台所で食べ物を物色するのはまだ看過できる。夜中にラーメン屋に行くこともコンビニに行くことも、正直奨励してはいないが、それも個人の自由だ。

 しかし、盗みを行うために他人の部屋に入るのは明らかな犯罪行為。

 それは咎められるべきはずだろう。赤緒はずいっと顔を近づけると、ルイはぷいっと視線を逸らす。

「黙秘権を行使するわ」

「……さっきも言いましたけれど、絶対意味分かってないですよね? もうっ。直接の原因を話してくれないと、解決もしないじゃないですか!」

「赤緒、声が大きいわよ。他の連中が起きて来ちゃう」

 その言葉で赤緒は思わず口を噤んだが、諸悪の根源はルイのはずなのでここで及び腰になっても仕方あるまい。

「……これはこちらにある立派な権利ですっ!」

「何よ。赤緒のクセに一端の口を利くじゃないの」

 険悪なムードが漂ったのを察知してか、月子が大慌てで割って入る。

「ま、待って! 待ってってば! ……ルイちゃんもちょっと態度悪いよ? 赤緒さんの部屋に盗みに入ったのは間違いないんだから」

「言ってなさい。赤緒の側に非があるわ」

「……非って。何を盗もうとしたんです? それを聞かせてくださいよ」

「馬鹿ね。泥棒がターゲットの口を割ると思う?」

 しっかり泥棒と言っているのでこれも確信犯か、と赤緒は頭が痛くなるのを感じていた。

「……あの、私明日、普通に学校……」

「そんなこと言い出したら私もそうよ。手短に済ませて欲しいものだわ」

 悪びれる様子もないルイに詰問を続けても仕方ないと、今度は月子へと尋ねていた。

「月子さんも……同じ目的で入って来たんですよね? ……聞かせてもらえないんですか?」

 すると月子は腕を組んでうーんと難しそうに呻る。

「こればっかりは……その、私たちが面白がっちゃったってバレちゃうし……。そういういい加減なことをやるような人間だって思われたくないって言うか……」

 既に事態はのっぴきならない状況まで入っているような気がするが、月子の中ではまだ後戻りができるようである。ある意味ではそれも豪胆だなと思いながら、今度はルイへと詰め寄る。

「ルイさん? ……私の部屋に金目の物なんてありませんよ?」

「あら、失礼ね、赤緒。私がお金目当てに赤緒の部屋に忍び込むなんてあると思う?」

 充分にあり得る範囲なので沈黙を答えにしていると、最低ね、と吐き捨てられる。

「トーキョーアンヘルの仲間をそんな風に見るなんて」

「あ、いや……信じてないとかそういうことじゃなくって……! って言うか、ルイさんはお釣りをちょろまかしたりとか、前科があるじゃないですか!」

 よく買い物を頼むと、お釣りの計算が合わないことがある。その時にはさつきが気づいて徴収するのだが、今回はそれよりも性質が悪いかもしれない。何せ、直接他人の金銭を奪おうとした疑惑があるのだ。そうなれば、赤緒も少しは強い論調となるのも致し方ない。

「あ、赤緒さん? お金に関しては本当に誤解かな……。だってそれなら私は手を貸さないし……」

 月子の弁明に、それもそうかと頷けてしまう自分が居た。ルイの単独犯か、あるいはエルニィとの結託ならばいざ知らず、平時は真面目な月子と組むメリットがあまりにもない。

「……じゃあ、えっと……。お金じゃないとすれば何を?」

「赤緒ってば浅ましいわね。お金以外思いつかないの?」

 挑発の論調に赤緒は思わずむっとしてしまう。これぞまさしく盗っ人猛々しいと呼ぶのだろう。

「……分かりました。お金に関しては警戒を解きましょう。けれど、盗みに入ったのは間違いないんですよね?」

「それはまぁ……。けれど、勘違いして欲しくないのは、そこまで悪いことなのかなーって」

 盗みの時点で重罪だと思っていたが、頬を掻く月子にはちょっとした悪戯レベルだと言う弁明が窺えた。

「と言うか、赤緒が盗まれて困るものなんて大したものじゃないでしょう? きっとなくなっていても気付かないはずよ」

 ここに来てルイのほうに罪の比重が重くなっていくのを感じながら、赤緒は落ち着きを取り戻すべく深呼吸する。感情に任せて怒鳴り散らしてしまえば、そこまでだ。あくまでも公正に、なおかつこの事態を解明させば。

「……分かりました。お話を聞きましょう。昨日のお昼にあった話なんですよね? それってそれこそメカニックの?」

「あ、うん……。えーっとね、順序を追って喋ると、《モリビト燦号》、あるじゃない? あれの整備テストを行っていたの。もちろん、三宮さんを操主にして。で、できれば下操主のデータも取りたいものだから、ルイちゃんはマニュアル操作もできる操主だから、適任かなって」

「私にしてみれば、タダ働き同然よ。それを強制されただけでも不服だわ」

 赤緒はルイの舌鋒の鋭さに辟易しながらも、《モリビト燦号》関連ということは、少なくとも人機に関しての重大な何かだと察知する。

「じゃあ、その……これから先のトーキョーアンヘルの戦力を占うような?」

「まぁ、拡大解釈すればそうと言えなくもないような……?」

「話を聞いてもらえれば早いかもしれないわ。私も被害者と言えば被害者なんだから」

 そうとなれば、ここは大人しく話を聞いたほうがよさそうだと赤緒は座り込む。

「……じゃあ、その、話してみてくださいよ。事の始まりは、《モリビト燦号》の整備テストからだって言うのなら……」

 ――やはり適合値には厳しいか、とエルニィが嘆息をついたので月子は照合された数値を印刷して目を通す。

「《モリビト燦号》の数値、安定しないねー」

「うん……。やっぱりその実態はブラックボックスの代物って言うのが痛いのかな。アメリカもこれの機動実験のデータを寄越してくれる気配はないし。一歩一歩でも着実に行くしかないかなって思っていたけれど、先は長いなぁ……」

 エルニィは他の人機の実数値を参照しながら、通信を繋いだ《モリビト燦号》のコックピットへと呼びかける。

「三宮ー、ちょっと一旦休憩しようか」

 その言葉で《モリビト燦号》のコックピットが開かれ、金枝がひょっこりと顔を出す。月子はペットボトルのお茶を差し出し、彼女を労っていた。

「はい、これ。お疲れ様」

「……あの、やっぱり厳しいんですかね……」

 金枝の表情は暗く翳っている。それもそのはず、《モリビト燦号》をトーキョーアンヘルの戦力として組み込むのには何もかも足りていないのだ。

「操主適性があまり高くないって言うのは聞いていたけれど、やっぱり《モリビト燦号》は特殊機なんだ。スロースターターなのも手伝っていきなり実戦投入には向いていないね」

 エルニィはキータイピングの手を休めずに《モリビト2号》と《ブロッケントウジャ》の数値を参考にしながら金枝に言い聞かせる。

「……前は行けたじゃないですか」

「あれは奇襲作戦だからってのもあるし、拠点に行くまでに充分に《モリビト燦号》の血塊炉があったまっていたのも大きいかな。そうじゃなくって、例えばスクランブルとかで出撃した場合、《モリビト燦号》はフルスペックを発揮できない……ううん。それはほぼ不可能と言ってもいいかもしれない」

 エルニィは用意しておいた茶菓子を頬張りながら《モリビト2号》と《ブロッケントウジャ》の性能差を金枝に見せつける。

「モリビトタイプでも……《モリビト燦号》は違うとでも?」

「まぁ、これを見てよ。《モリビト2号》が設定上、その性能を十全に発揮できるまでにかかる時間の概算。それとブロッケンの比較かな。《モリビト2号》が大体、出撃してから十分以内。《ブロッケントウジャ》はボクが改造しているから、大体三分前後。だけれど、三宮の《モリビト燦号》は三十分以上かかるとある。……こうなると、戦闘が終わっているまであるんだよね……」

「……それはその……金枝の特性ですか」

 エルニィは言い辛そうにその問いかけに頷く。

「……三宮から変えたからって、他の操主でもなかなか《モリビト燦号》のスペックを引き出すのは難しい。それに、トーキョーアンヘルの面々はみんな専用機が存在しているから、《モリビト燦号》に回す人手がなぁー……。三宮の操主としての適性値にダイレクトに反映されるのが《モリビト燦号》の特徴なんだ。超能力モドキの運用方法もある。三宮と《モリビト燦号》にしかできない戦い方があるはずなんだけれど……」

「それが思い浮かばない、と……」

 エルニィは立ち上がってホワイトボードにいくつか数式と課題点を書き上げていく。《モリビト燦号》の特徴的な魅力はあるものの、それをどう実戦に反映していくのか悩んでいるようであった。

「ビートチューニング……リスクとメリットが見合わないんだよね……。もちろん京都決戦時には重宝したけれど……これを戦闘時に見舞おうとすれば、それなりの隙が生じるし……。やっぱり現実的な線を言うと、下操主が必須になって来るね」

「下操主……」

「シールはどう? テストだけだし、入ってもらうことには……」

 その提案に月子はエルニィの耳元で声を潜める。

「……エルニィ。最近、シールちゃんは忙しいみたいで……」

「忙しい? 何でさ」

「……先生から課題だってさ。もうすぐ新型人機の設計計画があって、それの対抗策を一週間以内に完璧な状態でレポートを提出しろって。矢の催促」

 実際、月子が目線を振り向けると、シールはパソコンと向かい合いつつ無数の書類の束を参照してからその数値と睨めっこだ。

 そんな日々が三日も続いているせいで気が立っているのはよく分かる。

「ふぅーん……。あれ? でもツッキーは? 課題とか言ってないじゃん」

「今回はシールちゃんだけだから。私と秋ちゃんはいつも通り、整備作業」

「……じゃあツッキーに下操主は……」

「……いいけれど、《モリビト燦号》は乗ったことないから、あまり自信ないかも。分かっているかもだけれど、私、ナナツー以外はてんでだし……」

 操主としての力量はシールのほうが遥かに高い。攻撃メインの上操主席についてもらっているのは何も適性だけの話でもない。

「……だよねぇ。となるとどうしよっか……。うーん、下操主席の経験もあって、なおかつ三宮をサポートできる……その上で《モリビト燦号》の特殊性に追従できるなんて、そんなうまい人材が居るわけが……」

「自称天才、あんたの分のアイス貰っておいたわよ」

 明らかに事後承諾でルイがアイスを頬張りながら格納庫にやってくる。その瞬間、エルニィが閃いたようであった。

「そうだ! ルイが居るじゃん!」

「……何よ。もう食べたから返せないわよ」

「そうじゃなくってさ! 三宮のサポートに入ってくんない? お願いー!」

 縋りついてきたエルニィを胡乱そうにルイは見下ろしてから、自分へと目線を振り向ける。

「あ、あのね……三宮さんの《モリビト燦号》の性能を発揮するのにはそれなりに強い下操主が必要で……」

 かくかくしかじかと説明するとルイはふんと鼻を鳴らしてエルニィを振り払う。

「馬鹿じゃないの。コネ宮のための下操主なんて」

「ルイくらいしか居ないんだってばぁ……」

「小河原さんは? あの人もできるでしょ」

「……両兵はどこに居るのか分かんないし、今すぐに数値を取りたいんだからさぁ……。そうだ! 下操主席に入ってくれたら、特別ボーナス! あげちゃう!」

「……二言はないわね?」

 エルニィが何度も頷くとルイは仕方ないと承諾したようであったが、金枝は少しうろたえた様子であった。

「る、ルイ先輩に……?」

「何よ。光栄に思いなさい、コネ宮。あんたの下操主席に入ってあげるのは私みたいな心の広い人間だけよ」

《モリビト燦号》の再起動が行われる中で月子はせめて、とエルニィの補助に入っていた。

「エルニィ、コックピットの適性値を見ておくから」

「ああ、ごめんね、ツッキー。任せちゃうかも」

「いいんだってば。シールちゃんが動けない間は私に頼って!」

 腕まくりをしてコックピットに通信を繋いだところで、月子はヘッドセット越しに金枝とルイの会話を聞いていた。

『あの……それでそんな調子で……赤緒さんは買ったみたいなんですけれど』

『ふぅん。コネ宮、あんたそれで羨ましいってわけ』

「……何の話なんだろ……」

 エルニィは再起動に際して《モリビト燦号》の数値を取るのに集中しているせいか、コックピット内の会話に気づいてないようである。

 盗み聞きのようで気が引けるのもあったが、金枝がルイ相手にどのような雑談をしているのかは気にかかっていた。

『……赤緒さん、けれどどこに隠したんでしょうか? 金枝が行った時にはもうどこかに隠した後の様子で……』

『いいことを聞いたわ。じゃあ、今夜あたりそれを盗みに入りましょうか』

『ぬ、ぬす……っ? 駄目ですよ! 赤緒さんに金枝が信用されないじゃないですか……』

『あら? けれどそんなに面白い……失礼、興味を引かれることを話したのはあんたのほうよ?』

 少女らの会話に混じるのもあまりない経験だ。自分やシール、それに秋は整備班と言う特性上、操主とは別と考えている節はある。

「……通信、大丈夫?」

 今しがた通信を繋いだように装って月子は尋ねる。すると、かしこまった様子で金枝とルイが応じていた。

『は、はい……。大丈夫です……!』

『こっちは問題なし。けれど、少し鈍い感じって言うか……これが《モリビト燦号》の特性ってわけね。操主の体力を必要以上に奪う代わりに、特殊性を手に入れたってわけ』

「そんな調子なもんだから、半端な操主を乗せるとそれだけで過労で倒れちゃう。……正直、兵器としての実用性は……かなり怪しい感じかも」

 しかし、さすがはカナイマ時代から数多くの人機を乗り継いできた実力者と言うべきか、ルイは問題なく《モリビト燦号》を補助し、金枝の足りない部分を補って余りある。

『……リバウンドシールドをメインに使うにしてはパワーが足りなさ過ぎよ。パワーローダーを肩に装備しないと、こんなんじゃまるで反応速度が鈍いわ』

「……だよねぇ。しょうがない。ブロッケンの予備パーツを申請しようか。元々、新型ブロッケンのためのものだったんだけれど、それを流用して《モリビト燦号》に取り付けよう。そうしないと、このままじゃライフル一つ持てやしないよ」

 結論が出たのを悟ってか、ルイが力を抜くと《モリビト燦号》は瞬く間に姿勢を崩す。

『ちょっ……! ルイ先輩、力を抜くと……わわっ……!』

『そんなすぐにバランサーが狂ってしまうの? ……本当に世話が焼けるわね。操主と同じで』

 ルイがマニュアル制御に回ると今にも倒れそうだった《モリビト燦号》が姿勢を正す。

「……やっぱり、ルイくらいレベルの高い操主が下には必要かぁ……。となると、そう簡単に出撃するのもできないね。編成を考えないと……」

 ああでもないこうでもないと頭を悩ませるエルニィに対し、月子は先刻の金枝とルイの会話が気にかかっていた。

 元々、整備班と操主は別種の仕事――そう割り切っていたが、今日ばかりは好奇心が抑えられない。金枝はRスーツを脱いでシャワーに向かうようであったので、取り残されたルイへとそれとなくペットボトルのお茶を差し出す。

「その……お疲れ様。ルイちゃん」

「ああ、メカニックの。……何でもないわよ。埋め合わせは自称天才にしてもらうから」

 月子は切り出そうとして、これは領分を超えた範囲だろうかと思案する。これまで操主は操主、メカニックはメカニックと線を引いて考えていた身であったが、どうしても赤緒の秘密とやらに興味を引かれて仕方がない。

 公私はきちんと分けているつもりだったが、それとなく尋ねてみる。

「……その、ね? ルイちゃん、さっきまで三宮さんと会話していたと思うんだけれど……」

「コネ宮も愚図で困ったわ。赤緒と同じね」

「……その赤緒さんの、秘密って何?」

 その質問でルイの手が止まる。菓子盆に伸ばそうとしていた指を止め、じとっとこちらを睨む。

「……意外ね。あんたはそういうの気にしないタイプだと思っていたけれど。って言うか、通信を盗み聞きしていたのね。それはどうなのかしら」

「……うーん、返す言葉もないけれど、でもね? ……私も柊神社でお世話になっているから、それなりに気になっちゃうって言うか……」

「メカニックにはメカニックの仕事の分別があるかと思っていたのだけれどね」

 言われてしまえば立つ瀬もないのだが、思えばこんなことを考えてしまうのは日本に来てからなのかもしれない。それまでは操主のプライベートには口を出さないし、逆も然りであったのに随分と俗っぽく成り下がってしまったものだ。

「お願いっ! ……私も何でだか気になっちゃって……。今まではこんなこと、ほとんどなかったのになぁ……」

 手を合わせて頼み込むと、ルイは即座に損得勘定した様子で三本指を立てる。

「……これで手を打ちましょう」

「……三百円?」

「馬鹿ね、三千円に決まっているでしょう。操主の秘密なんだから、それくらいの大枚をはたいてよね」

 普段なら操主の秘密の売り買いなんてとんでもなかったが、どうしてなのだか気になって仕方がない。今日はシールや秋と仕事を分けていないせいかもしれないが、それにしてもよくない好奇心だ。

「……分かった。私、三千円で他の人には言わないから」

「本当よね? ……まぁ、何でもないことなのよ。赤緒がね、最近始めたって」

「……赤緒さんが? 何を?」

「……日記、みたい」

「日記……」

 おうむ返しに口にしてから、ルイは周囲の目を気に掛けながら声を潜める。月子は自ずと耳をそばだてていた。

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