JINKI 322 アキラの手記#2

 1991年5月末。

 本日は快晴。ただし北北西に積乱雲が見える。数時間後には雨になりそう。

 それにしても、《マイマイ》での旅はゆっくりと安穏とした空気が流れていて時折眠たくなるほど。

 同行者は……

 そこで不意にペンを止める。ダイクンが下操主席で操縦桿を握って機動補正を行っているのを、退屈そうに声が飛ぶ。

「……つまんなーい。ねぇ、悪魔さん。こんな人機を使っているのなら、もっと素早く動けないの?」

「そ、それは仕方ないんだな……。《マイマイ》は風と太陽光を受けて進む、エネルギー消費を抑えた人機だから……」

 困惑し切った様子のダイクンに一昨日寄った村で手に入れた本を捲る黒髪の少女へとアキラは呼びかける。

「ルシフォンちゃん。私たちの旅はほとんどこんな調子だから……面白いことなんて起きないと思う……」

「あんたには聞いていないわよ。悪魔さんと喋っているの」

 つんと澄ました様子の同行者――ルシフォン・ツザキの態度にも困ったものだ。アキラはそこで口を噤んだが、ダイクンはきちんと注意する。

「アキラさんにそんなことを言っちゃ駄目なんだな。ごめんなさいって謝るんだな」

「むぅ……。悪魔さんがそう言うのなら……」

 ぺこり、とある意味では子供らしい柔軟さを持ってはいるが、ルシフォンは不服そうであった。

「……それと、オラは悪魔さんじゃなくってダイクンなんだな。期待しているような存在じゃないんだな」

「でも、でもよ! ……ほら! 一昨日寄った村にあった本! これ! 悪魔さんそっくりじゃない?」

 ルシフォンが指差したのは悪魔の挿絵で、頭身の高いすらっとした紳士の服飾を纏った悪魔が描かれている。

 確かに紳士服を纏っているのは同じだが、ダイクンの通常時とはまるで異なる。

「オラは……そんな痩せていないんだな……」

「悪魔さんはもう一つの姿があるでしょ? そっちのことを言っているのよ。あれ、見せてもらえないの?」

「か、軽々しく見せるような姿じゃないんだな……」

 ダイクンにしてみればあの姿は忌むべきものだ。グリム協会の技術の粋を詰め込まれた、まさしく悪魔の研究の産物である。しかし、当のルシフォンには関係がないようで、不貞腐れてうず高く積まれた本の垣根の中に埋もれる。

「つまんなーい! ……次の村には寄るんでしょう? 食糧も尽きかけているし」

 ダイクンはこちらへと確認の視線を振る。アキラは上操主席で手記を畳んで首肯していた。

「そうですね……。一昨日の村では食糧はほとんどなかったから、人が一人でも居ることを願うしかないけれど……」

「あれは……酷いもんだったんだな……」

 アキラは一昨日立ち寄った村のことを思い返す。黒に染まった村にはほとんど何も残っていなかった。冗談のように居住区画の残骸の骨格だけがロストライフから逃れており、人間はおろか生物の類は虫の一匹でさえも見られない地獄であった。

 その村で採取した土を、アキラは試験管に入れて振る。黒の土壌は全ての生きとし生けるものを拒んでいるかのように光でさえも吸収する。この世で最も黒い物質を問えば、これなのではないかと答えが返って来そうなほど、純度の高い漆黒だ。

「あんなの、よくあることじゃないの。ロストライフ化を今まで見て来なかったわけじゃないんでしょう? 人が居ないって言ったって、居住区が残っていたところを見るに、もう一日でも早ければ何とかなったのかもね」

 ルシフォンの言葉はどこか捨て鉢めいていてアキラは言葉を失う。彼女はこの世界の黒の側面を覗き込んだかのように、薄紫色の瞳孔には何の感情も浮かべていなかった。

「アキラさんを困らせちゃ駄目なんだな」

 ダイクンは《マイマイ》の操縦の傍ら、ルシフォンを諌める。

「はーい。悪魔さんに言われたら、私は何も言えないわ」

ルシフォン自身は書籍に埋没し、足を揺らして没頭している。彼女と遭遇してからこの数日間で人機のコックピットは一端の書棚を名乗ってもいいほどに本で満たしていた。どうやらルシフォンは読書している間だけは文句も出ないらしく、アキラにしてみれば心労も減るがそれは彼女と向き合うのを拒否しているようで少しだけ心苦しい。

「アキラさん、太陽光で進むのも限度があるんだな。そろそろ今日の野営を済ませておくほうがいいんだな」

 ダイクンの提言にアキラは頷いて今日の手記の〆に入る。

 本日はここまで。相変わらず同行者の舌鋒には参るが……それもともすれば、私の至らなさが原因なのかもしれない。私はもっと……感情を飼い馴らすことが必要となって来るだろう。

 不可思議なものだ。グリム協会であらゆる改造施術を受けたと言うのに、そのような身でも感じてしまうのは……

「……私が感じているのは……」

 そこから先を記し損ね、アキラは手記を止める。どうせ、まだ今日が終わったわけではない。手記を〆るのには、あと数時間の猶予はある。

 ここは我慢強くあろうと考えたところで、ダイクンが不意に声にする。

「……うん? あれは……」

《マイマイ》が急制動したことで本の垣根が少しだけ倒れる。

「ふげっ……! もう、何? どうしたのよ、悪魔さん……」

 無防備な頭頂部に落ちてきた本に素っ頓狂な声を上げたルシフォンを無視してダイクンは確認の声を放つ。

「……アキラさん。あれは……人に見えるんだな」

 アキラも双眼鏡を取り出し、目視で認識する。黒い大地を一人の少女が踏み締めていた。纏った服飾はほとんどぼろきれで、尋常ではないとダイクンとアキラは視線を交わす。

「ひとまず……私が降りて様子を見ますね」

「あんたじゃ不安にさせるだけよ」

 自分に続いてルシフォンも《マイマイ》から降りて少女の下へと駆けていく。ロストライフの土壌の上なのに、少女は裸足であった。

「あなた……!」

 少女の手を取る。その瞬間、怯えを宿したかのように少女の瞳孔が像を結び、叫んでその場で蹲る。

「来ないでェ……ッ! みんな……みんな……!」

 半狂乱で頭を振る少女に、ルシフォンは呆れ返ったように告げていた。

「ロストライフ化で精神をやられているみたいね。……あーあ、つまんなーい」

「落ち着いていないで……! 今は、ひとまず《マイマイ》まで……!」

「あれは……村のみんなを殺した……ロボットじゃないの……?」

「《マイマイ》は安全だから。……村から来たの?」

 ともすれば立ち寄ろうとしていた村の出身者かも知れない。アキラは腰に巻いた医療道具から簡単な治療を施そうとする。

「全身、切り傷だらけ……。《マイマイ》の中ならもう少しマシな治療ができるわ。どうか、こちらへ」

「……あなたたちは……」

「ただの……そうだね……。罪に追われた……旅人よ」

「私は違うけれどねー」

 ルシフォンの余計な言葉を責める前に、ぽつりぽつりと雨が地面を濡らす。すぐにそれは世界を満たす灰色の豪雨となり、水の恵みでさえも拒むロストライフの土を舞い上げる。

「とりあえずこっちへ……! こんな状態で雨に濡れたら風邪を引いてしまうでしょうし」

「本当に酷い雨……! 傘の一つもないなんてとんだ旅人ね」

 ルシフォンは皮肉を言いながら《マイマイ》の格納コンテナへと少女を追い立てる。結果論ではあるが、動揺している様子の少女を無事に保護できたのは僥倖であった。

「……あなたは? どこから来たの?」

「わたし……わたし、は……」

「言いたくなかったら言わなくってもいいから。それにしても……タオルだって有限の資源なんだからね」

 文句を垂れながらルシフォンは清潔なタオルを差し出す。それほどまでに今の少女の姿は痛々しい。全身に裂傷を作り、服は張り付いたワンピースの一枚だけだ。

 少女が身体を拭いている間、アキラは医療用具を取り揃えていた。《マイマイ》の格納コンテナの内側ならば少しは火を焚くこともできる。今日はここで野営だな、と思いながらアキラは収納しておいた乾いた薪へとマッチで火を点ける。

「こっちへ。寒かったでしょう」

「……さむ、い……?」

 どうやら相当に衝撃を受けたようだ。無理もない。ロストライフ現象の前では人間の感情も、ましてやその時々の痛みも全て無縁となる。

「治療をするね……。早速だけれど、話を聞かせてもらえると助かるの。私たちは旅人で……この先にある村を目指していたんだけれど……」

「……村……村は……ロストライフ、に……」

 たどたどしい言葉の少女へとルシフォンが叱責する。

「もっとちゃんと喋ってよ。こんなんじゃ夜になっちゃうわ」

「ルシフォンちゃん……! 今は、少しでも落ち着いてもらわないと……」

「ちゃんなんて付けないで! 馴れ馴れしいわよ!」

 ルシフォンとの言い合いを見ることで少しは落ち着いてきたのか、少女は震える唇で言葉を紡ぐ。

「……巨人……ロボットに、やられて……みんな、みんな……!」

「……ごめんなさい。辛いことを思い出させてしまうけれど、一つずつ。解きほぐしていかせてちょうだい。あなたの、名前は……?」

 少女がルシフォンに視線を向ける。何だ、と思う間にルシフォンは《マイマイ》の格納する荷物の上に飛び乗って余裕のある微笑みを返す。

「名前を聞いているのよ、あんたのね」

「わたし、は……シホ。――シホ……ツザキ」

 ――操縦席でコーヒーを注ぐと芳しい香りがコックピットに充満する。保護した少女――シホとルシフォンが眠りについてから、アキラはコックピットの天井を仰ぐ。

「……ダイさん。どう思いますか?」

「どうって……。こんな偶然はあり得ないんだな。ルシフォンの居た村から、もう何十キロも離れているって言うのに……そこでたまたま生き残った女の子が……同じ名前を言うなんて……」

「私も、同じ結論ですけれど……けれど、どこかで……。どこかで似通っているような気はするんです。あのシホと名乗った少女……それとルシフォンちゃんが……」

 金属製のカップに口を付ける。現地で手に入れたブラックコーヒーは苦み走っており、日本や他の豊かな国で手に入るものとは違って粒が粗い。

「……偶然の線を捨てるのなら、ツザキ、と言う名前が一種の符丁の可能性があるんだな」

「……それこそキョムの、ですか」

 うぅーん、とダイクンは腕を組んで難しそうに呻る。

「だとすると、オラたちはまんまと嵌められている可能性が高くなるんだな。これから向かう村は既にキョムの拠点で……ツザキ、と言う名前に特別な意味がある、と言う風に」

「私たちがJの刻印に意味を見出しているように、ツザキと言う名称が何かを指している可能性が、ですか。だとすれば、余計に村の状態を見なければ話になりません。ルシフォンちゃんには悪いけれど、やっぱり村を……場合によっては助けないと」

「それも変な話なんだな。オラたちは贖罪の旅路を進んでいるはずなのに……その道筋がまるで破滅に染まっているみたいで……」

 グリムの眷属から逃れ、日本を経ち、全てから赦されるための道筋のはずだった。だが、それもルシフォンと遭遇したことで歪んでしまったとでも言うのか。その答えは誰にも分からないまま、雨だけがしとしとと降り続く。

「……ダイさん。今のうちに血塊炉のエネルギーを使ってでも進みましょう。太陽光を得られなければどうせ、《マイマイ》は循環路を使っては進めませんし」

「……でも、それでいいんだな? アキラさんは……何となく嫌な感じがするのを……分かっていないわけがないんだな」

 承知しているつもりであった。ここから先には、自分たちの身勝手な浄罪の旅ではない――不条理で、不確定な未来だけが茫漠と広がっていることを。

 だが、それを噛み締めなければ、ルシフォンもシホも救えないはずだ。アキラは決断して頷いていた。

「……進みましょう。何が待っていようとも……私たちはこれ以上、逃れ続けるのだけは……決して……」

 赦されないのだから、と続けようとしてコックピットへと寝ぼけまなこを擦ってルシフォンが入ってくる。

「……何だかいい匂いがすると思ったら……。悪魔さんとティータイム? 私たちが眠っている間に」

 むくれてみせるルシフォンにダイクンは問いかける。

「……あの子と何か喋ったんだな?」

「……まぁね。年の頃が近いほうが話しやすいのもあったみたい」

「話の内容は……」

 アキラが尋ねようとすると、ルシフォンはすぐに不機嫌になる。

「何であんたに言わなくっちゃいけないのよ。悪魔さんなら別だけれど」

 どうやら相変わらず警戒心はマックスらしい。アキラが嘆息をつくと、ダイクンが言葉を差し挟む。

「話してくれるのなら、今喋って欲しいんだな。それがオラも望んでいることなんだな」

「……むぅ。言い方って奴よねぇ。……けれど、駄目。悪魔さんとなら喋ってもいいけれど、これはあの子と……シホとの約束。他の人間には言わないっていう、ね」

「仲良くなったの?」

「なに、その上から目線。これだから大人って言うのは嫌いなのよ」

 ぷいっと視線を逸らされてしまう。とことん嫌われていることを実感しつつ、アキラは頬を掻く。

「……じゃあその……私はシホちゃんの様子を見て来るわ。ダイさん、《マイマイ》を稼働させておいて」

「待って。私の分のコーヒーは? 大人だけの相談なんてズルいわよ」

 ダイクンと顔を見合わせ、アキラは残っていた抽出中のコーヒーを予備のコップに注ぐ。ルシフォンは満足げにそれを受け取り、それから呷ろうとして舌を出して涙目になる。

「……なにこれ。本当にまずいコーヒー。こんなのドブ水じゃないの。こんなの飲んで秘密の相談なんて、どうかしているわ」

「欲しいと言ったのはそっちなんだな……まったく……」

 呆れ返ったダイクンと自分を残して、ルシフォンは身を翻す。

「戻って寝るわ。……ふわぁ……。余計な詮索はしないことね。それともう一つ」

「もう一つ……何?」

 アキラが質問すると、ルシフォンは幼い少女とは思えない、妖艶な微笑みで唇の前で指を立てる。

「他人の秘密に干渉し過ぎると……痛い目を見るわよ。ただ、それだけ」

 手を振ってルシフォンはコックピットから立ち去っていた。

 ――相も変わらず雨模様であったのでアキラは今日も洗濯物は干せないなと思っていると、シホが物干し竿を立てているのが視界に入る。何をしているのだろうか、と息を殺していると彼女は《マイマイ》の循環路から生じる余剰熱を利用して洗濯物を乾かしていた。そのような使い道はこれまで思いついて来なかったので、思わずアキラは身を乗り出す。

「……そういう使い方もあるんだ……」

「……あぅ、すいません……っ! この雨じゃ洗濯物も干せないでしょうから、と思いまて……ご迷惑ですよね?」

 平謝りするシホにアキラは少しだけ狼狽えつつも応じる。

「いや、そんなことはないんだけれど……。えっと、シホちゃん、でいいんだよね?」

「あぅ……は、はいっ! わたしはシホ・ツザキですっ!」

 ふんす、と鼻息を漏らして自信満々に口にするシホに、昨日の悲壮感はまるで浮かんでいない。それどころか、何か少しでも役立とうとする向上心が窺えた。

「……その、無理はしなくっていいから……。やっぱりその、難しいことはあるだろうし。それなのに酷使しているみたいで……何だか……」

「……優しいんですね、えっと……」

「アキラ。アキラ・イ・ハーンって言うのが名前……」

 これもまた呪縛じみた名前だと胸中で自嘲する。シホはその言葉を受けて自身の胸元を叩いていた。

「アキラ……さんっ! ご心配には及びませんっ! わたしは皆さんのお手伝いがしたいだけですので……っ!」

 何だか空元気にも見えてしまうが、洗濯物を畳む手際は悲しみに糊塗されたものとは思えない。ふふんと鼻歌でさえも口ずさみながら、シホは雑用をこなしていく。動きも洗練されており、無駄を一切省いてシホは黙々とこなす。

「……あの、シホちゃん? あんまり無理はしないほうが……怪我もしていたし」

「こんなのなんてことないですよ。それよりも……昨日は何も言えないですいませんでした。本当なら、もうちょっと説明するべきだったのですが……」

 シホ自身、まだ打ち明けられないものがあるに違いない。しかし、昨日の憔悴した様子に比べれば快方に向かっているように映る。

「あのね、無茶はしないで欲しいって言うか……。洗濯物も、私たちができることなんて……あれ? 服は……」

「ああ。これを着ればいいって、ルシフォンさんが言ってくださりまして」

 シホが纏っているワンピースはルシフォンの普段着ている服の一枚であった。それだけではなく、髪も梳いた様子で、栗色の長髪を二つに結っている。髪紐も譲ったのだろうか。あの子が他人にここまで干渉するか? と言う疑問はあったものの不和がないようで何よりではある。

「そっか……。ルシフォンちゃんも、一応は思いやりがあるんだ」

 何だかこの感想も本人の前でまかり間違っても口走ってしまえば、苦虫を噛み潰したような表情をされてしまいそうではあるが。

「結構、気にかけてくださいまして……。その、アキラさん、でいいですかね……」

「あ、うん……。どうしたの?」

「この先の村ですけれど……わたしの一意見ですけれど、立ち寄らないほうがいいと思います」

 それはやはりロストライフ化してしまったからであろうか。アキラはしかし、そう簡単には諦め切れないとシホに視線を合わせる。

「……ねぇ、それは……やっぱり何かあって……」

「……わたしの口から言うよりも、目にしたほうが早いってルシフォンさんは仰っていましたけれど、わたしは可能なら、あんな……地獄のような光景は見ないほうがいいと思うんです……」

 ルシフォンが自分たちを気にかけているかどうかは不明だが、シホのためにも村に向かっていることは話題として避けようと思っていたところだ。しかしシホ自身がそう言うのならば、と真正面からアキラは語りかける。

「……シホちゃん。私たちはね、そう言う場所を辿る旅をしているんだ。……よく分かんないかもしれないけれど」

「……ロストライフ現象……。知ってはいましたけれど、目にすると全然違って……。大人たちは、そんなの地球の裏側の出来事だって笑っていたんです。笑って……いたはずなんです……」

 シホは首から下げた十字架を握り締める。そう言えば、昨日はそのようなものは持っていなかったはずだとアキラは思い至る。

「……後ろ指を指されても、私たちはロストライフの地を巡らないといけないの。それがどんなに……自己欺瞞に満ちていたとしても」

 これだけは自分たちの決意の証だ、とアキラは言い聞かせる。シホはそれも一つの道だとでも言うように説得を諦めた様子であった。

「……分かりました。けれどでも……! 少しでも迷う心があるのなら、わたしは……そこまで自分を追い込むものじゃないと、そうも思うんです……これも余計な一言かもしれませんけれど」

「そんなことない。……シホちゃんは優しいのね」

「あぅ……。いえ、これはただ……傷つくのが怖いだけの、ただのエゴめいた、自己犠牲なんです」

 シホの悔恨はそのまま、自分たちのこれまでの行いに返ってくるようで、アキラはそれ以上の言葉を持たなかった。

 ――閉鎖的な村だな、と言うのが第一印象であった。

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