エルニィのノリノリのマイクパフォーマンスを聞き留めつつ、さつきは五番ゼッケンの番号を振られているほうへと視線を向ける。
「ああ、もう! 貸せってば! 《テッチャン》はこう使うんだよ!」
「何言ってるの、シールちゃん! 私たち、チームなんだよ! ここは一番操縦の上手い人間が乗るべきじゃないかな?」
「あ、あのぉー、先輩方……。早くゲートに行かないと出場停止になっちゃいますよ……」
「ケッ! 秋はいーよなぁー! メカニック担当なんだからよ!」
「シールちゃん! 秋ちゃんだって出場したかったのに辞退したんだから! ここは私が……!」
「いーや! オレだ!」
『ふぅーむ……あと五分以内に出場選手を決めないと、メカニックチームは不戦敗ねー。そんでもって……六番ゼッケンも奪い合いだぁーッ!』
「沖田! お前はまだ下操主だろう! ここは先輩にだな……」
「近藤さん、ですけれど《テッチャン》の操縦は未経験じゃないですか。自分のほうが上手く扱えますよ……」
「とは言ってもだ! 優勝賞品がある以上、手は抜けないんだぞ……!」
「それは自分だって同じで……」
『自衛隊チームもすったもんだの大乱闘! さてさてー、他のメンバーの様子も見てみようかぁーッ!』
エルニィがマイクを振る。すると、それを引っ手繰り、自信満々にモニター席へと言い放ったのはルイであった。
『貸しなさい。……絶対に負けない、みんな、私に賭けることね』
『おーっと! ルイ、いきなりの宣戦布告ぅー! これは頼もしいぞぉー!』
エルニィも盛り上げ上手なせいで一気に場が湧く。その中には赤緒の姿も見て取れていた。昂揚感に包まれ拍手する赤緒へとエルニィはマイクを向ける。
『赤緒はどう思う? 誰が勝つとか、期待している走者は居るのかな?』
『わ……私? 私はその……』
赤緒の視線がこちらに注がれ、さつきは首肯して《テッチャン》の腕を軽く振る。
『わ、私は……さつきちゃんを今回は応援したいと思います……っ!』
『ここに来てさつきへの期待値が高まるぅー! エントリーナンバー二番! ゼッケン姿にブルマが眩しいぞぉー! 川本さつきぃー!』
せっかく赤緒が期待してくれているのだ。それに応じるべきだろうと、さつきは《テッチャン》の腕を一回転させ、軽いパフォーマンスを観客席へと披露していた。
『けれど、この人も負けてはいないっ! 一番走者は今回の大穴っ! 大本命と噂されるがその実力は如何に? 黄坂南ぃー!』
「……いいんだけれど、私は結構マイペースに走らせてもらうわよ? 別段、優勝にこだわっていないって言うか」
『まったまたー! そんなこと言っちゃって一番いいところを掻っ攫うんでしょ? このこのー!』
肘で小突かれ、南は頬を掻く。
「……まぁ、お祭り騒ぎって言うのは悪くないわね。カナイマでもなかなかこういうのはなかったし。人機で徒競走――その上でマラソンなんて」
南の言葉でさつきは改めてこの状況の特異さを考え直す。それぞれ胸に誇りを抱いた人機操主が六名。自分と同じように乗り込んだのは《テッチャン》で、めいめいに声を弾けさせている。観客席には自衛隊員やアンヘル関係者だけではなく、集った市民の顔も見られていた。それもこれもある意味ではトーキョーアンヘルの未来のため――そして世知辛い話をするのならば、資金繰りのためでもある。
「さつき。あんたにだけは絶対に負けないから」
ルイが闘争心を隠しもせずにこちらへとエメラルドグリーンの瞳を向ける。さつきは曖昧に微笑んでから、でもこれってと言葉の穂を継ぐ。
「……いいんですかね、市民の皆さんの協賛ありきの人機マラソンなんて……」
「いいのよ。どうせ、上の考えることなんてたかが知れているわ。それに、あんたも納得の上で参戦したんじゃないの?」
その問いかけにはうーんと応じざるを得ない。
「ここまで大ごとになるなんて……思ってはいなかったんですけれど……」
事の始まりは三日前に遡る――。
「――よぉーし、完成!」
夜も更けた頃合いで格納庫へとさつきがいつものようにメカニックへと夜食を持って行く。これも慣れたもので、メカニック三人娘とエルニィの好みは熟知し切ったつもりであった。
「何が完成したんですか?」
ノックしてから扉を開けると、そこに鎮座していたのはメカニックが手慰みで造っている小型の人機であった。
「おう、さつき! いつも夜食すまねぇな! ようやく《テッチャン》の量産体制に移れたんだよ。これで記念すべき六号機だ!」
早速夜食のおにぎりへと手を伸ばそうとして、シールはおっとと機械油まみれの手袋を顧みる。
「シールちゃん、手はちゃんと洗おうね。さつきちゃんもいつもありがとう! ……けれど、確か朝早いんじゃ?」
手袋を取って手を洗った月子がおにぎりをひょいと手に取る。
「あ、それはシールさんので。月子さんは紅しゃけですよね。シールさんはこっちの辛子明太子」
「よく分かってんじゃねぇか。やっぱり一仕事の後は塩気の効いたおにぎりに限るよなー!」
手を洗い終わったシールがひょいとおにぎりを掻っ攫い、そのまま一口でぱくっと食べてしまう。
「おかわりもありますから。……それに、明日は少し遅くまで寝ていてもいいって五郎さんも仰ってくださったので」
「とは言っても六時起きだろ? よくやるよなー」
シールは整備中の《ブロッケントウジャ》の脚部に背中を預ける。
「さつきちゃんや赤緒さんには私たちは頭が上がんないもんねー」
月子は自身のおにぎりと、まだ作業に従事中の秋の分を持って行く。
「……まったく、困ったもんだぜ。衣食住が握られてるってのはこうもやり辛いとはよー」
「とは言ったって、柊神社の生活はいいものだし……私たちも文句は言えないよ。はい、秋ちゃんも」
秋は整備作業に夢中になっており、自分が入って来たのにも気付いていないようであった。
「あ、どうも……。それにしても……ようやく六号機までロールアウトですか……《テッチャン》も遠くまで来たものですねぇ……」
感慨深そうに秋はおにぎりを頬張る。その度に頬が綻んだのを確認して、さつきはお茶を差し出す。
「はい、どうぞ。日向さんのおにぎりの中身には昆布で、渋いお茶でしたよね?」
「助かります……」
ずずっ、とお茶をすする秋が微笑む。秋は季節問わず熱いお茶を、シールと月子には冷たい麦茶をヤカンで用意している。
「それにしたって……ロールアウトって言っても戦闘用人機じゃねぇからなぁ……。オレらの趣味みたいなもんだよ」
「だねぇ……。六機も造れたのは柊神社の資源の豊富さと、それに南さんが上手い具合に諸外国と交渉してくれているからだし。それに、《テッチャン》は私たちにとっては何て言うのかな、子供みたいなものって言うか」
「子供、ですか……。人機を造られている方って皆さんそうなんですかね……?」
自分は操主なのでその辺の感覚は薄い。シールと月子は木箱の上に皿を置くように促し、休憩用の即席スペースを作り上げる。これもほとんど毎夜のように繰り返される光景だ。
メカニック三人娘が座布団を敷き、格納庫の片隅に用意された簡易的な座敷へと集う。四畳半程度の狭苦しいものではあったが、彼女らにしてみれば憩いの場だ。
柊神社で使われなくなったちゃぶ台と、座布団。奥にはうず高く積まれた木箱の数々。パチン、と吊り下げられた明滅する電球に虫が誘われる。
さしずめ昭和の座敷風景であろうか。
格納庫の中は完全にメカニックの自由な空間であったので、彼女らが古びた畳とありあわせの素材で組み合わせたのも当然の帰結だろう。さつきは何度見ても、と小さな座敷に招かれる。
「よく作りましたよね、ここも……」
「なに、オレらにとっちゃ、この程度で廃材にするのはもったいないって話なだけだっての。日本人は贅沢でいけねぇなぁ」
「私たちだからできているところもあるんだけれどね? それにしても、さつきちゃんのおにぎり美味しー。毎晩、こうして夜食を作ってもらえるって幸せだなぁ」
「先輩……ほっぺにおべんとう付いてますよ。っとと。熱くて渋いお茶が幸せですねぇ……」
「秋、てめぇは随分と所帯じみてんなぁ。っと、そういやエルニィの奴は? どこ行ったんだよ」
そう言えばこうして夜食会議をする時間帯にはエルニィも居るのが通例であったが、今夜はその姿は見受けられない。
「ちょっと探しますね。ブロッケンのほうかなぁ……」
さつきがタラップを駆け上がると、ちょうど《ブロッケントウジャ》のコックピット内でエルニィがあーでもないこーでもないと頭をひねっている。
「立花さん、立花さんってば! 何をやっているんですか……?」
「わっ……! って、何だ、さつきかぁ……。何やってんの?」
「それはこっちの台詞ですってば。もう皆さんお夜食の時間ですよ」
「えっ、もうそんな経っちった? ……うわー、最近時間感覚がバグっていていけないねー」
エルニィは《ブロッケントウジャ》の回路に繋げた筐体で忙しくタイピングし、分析を続けている。一体何をしているのだろうとさつきはその作業を覗き込んでいた。
「……お夜食を忘れちゃうくらいに忙しいんですか? 一体何を……」
「あー、うん、まぁねぇ……。ほら、日本って四季があるじゃん」
何を今さら当たり前のことを、と思いつつもさつきは頷く。
「ですけれど……」
「人機って精密部品の塊だからさ。湿気だとか急に暑くなったりするとオーバーヒートを起こしやすくなるわけ。で、ボクは今んところそれをブロッケンのメインコンピュータに接続して概算していたわけなんだけれど……思ったよりも深刻かも」
「深刻って……でも、今までだってプールを使ったり、すごく寒いところに行ったりもしたじゃないですか。その程度の負荷で駄目になるわけが……」
「極地仕様にするのは案外難しくないんだ。どうせ、作戦期間なんて限られてるし。問題なのは長期的な仕様。数ヵ月単位で学習、その後に適応させるのに、そうかと思ったらまた寒くなるんじゃ、OSの書き換えも間に合わなくなってきちゃうよ。モリビトだとかは経年劣化もあるし」
「そんなに大変なんですか? あ、これ立花さんの分を……」
持ってきたおにぎりを差し出すとエルニィは頬張ってから難しそうに呻る。
「ありがと。うーん……こればっかりは出たとこ勝負なところもあるんだけれど、データ不足なんだよね、結局のところ。これまでは南米で運用してきたってのもある。言ってしまうと地球の反対側だよ? そっちで持たせるのと、日本で戦い続けるのはやり方ってもんが違う。アメリカだとかは現場負担を無視して無理やり人機を駆動させているみたいだけれど、それは巨額の資金を投じられるからっていう、そもそものスタートの違い。それに比べればボクらは蟻んこみたいな資金力なんだ。おっ、すき焼き味」
おにぎりの中身に気付いたエルニィがぱくぱくと食べてからすぐに作業へと戻っていく。
「……えっと、つまりはお金の問題なんですか?」
「それもある。経験値もあるってことかな。優秀な操主は南米に残ったのもあるし。もちろん、さつきたちが駄目って言うわけじゃない。ただ……血続操主の人機操縦データはまだ何だかんだで乏しいんだ。普通の人間と違うってのを加味しても、そうだな……、もう三ヵ月ほどは学習期間が欲しいところだけれどキョムは待ってくれない。実戦データから逆算して、ボクはそれを適応するしかない」
「えっと……半分くらいしか分からないんですけれど、つまりは用意が足りないってことですか?」
「そうだねぇ……。もっと色んな人間のデータがあれば、その上昇値や下降値も含めて計算できるんだけれど、結局のところボクらトーキョーアンヘルの内々だけでデータを取るって言うのは、イレギュラーに対応し切れないんだ。これを見てよ」
エルニィが筐体に映し出された曲線をこちらに促すが、さつきには欠片も理解し切れない。その曲線は時間ごとに刻々と動いており、バイタルデータが下部に表示されている。
「これって……」
「操主の時間ごとの体力消耗の数値……まぁ、いわゆる体力ゲージ、HPと精神力、ゲーム的に言えばMPの相互関係を可視化したもので……」
「あの……もっと分かりやすく言うと?」
制して片手を上げるとエルニィはむすっとして機嫌が悪くなる。
「……さつきも案外、察しが悪いなぁ。まぁ、言っちゃうとみんな人機に乗ると体力も精神力も使うでしょ? その数値曲線。これは一応、赤緒のなんだけれど、やっぱり通常時の状態が欲しいんだよねぇ……」
「赤緒さんの戦闘データじゃ駄目なんですか?」
「駄目じゃないんだけれど……赤緒は特殊が過ぎる。超能力モドキのビートブレイクもそうなら、エクステンドなる現象もそう。不明な数値をじゃあ実寸値として提出できるかって言うとそうじゃない。もっと普通の人のデータが欲しいんだよね」
「じゃあその……ルイさんは?」
「見てみる? ルイの操主としての適性曲線」
赤緒のものとは違い、今度は極端な上昇と下降を繰り返している。
「……これはどういう……」
「結局のところ、ルイは高過ぎるんだ。総合値においてね。加えて乗る人機によって自分の長所と短所を使い分ける器用さも持っている。これじゃ、《モリビト2号》しか基本的には乗れない赤緒との単純比較はできないよね」
そこまで言われるとようやくさつきにも理解が及んでくる。要するに、トーキョーアンヘルの面々は全員、得意分野と苦手分野がそれぞれに違うために比較できず平均値が弾き出せないのだろう。
「……皆さん、得意不得意が違いますから、それで……」
「おっ、分かって来た? ……そうなんだよねぇ……。かと言って同じ人機で試せって言うのも難しい。さつきはモリビトの搭乗経験はゼロでしょ? シミュレーターで試したって、たかが知れてる。実戦で使えないと兵器とは呼べない。……こうなると判定を下しかねると言うのが正直なところ」
エルニィが夜食に顔も出さず、こうして《ブロッケントウジャ》のコックピットで頭を悩ませるのも頷ける。全員のいいところもあれば苦手分野もある。その点で言えば残ったメンバーであるメルJも、そして自分も同じだと思われる。乗ったことのない人機での測定値が安定しなければ、采配を行うエルニィにしてみれば頭痛の種なのだろう。
作戦指揮を通じてしまうと、何かに特化しているのは何かに鈍化していると同義。だと言うのに、その時々の面子の状況と整備環境も加味しなければならないのは苦戦しても仕方がない。
「エルニィー! こっち来て食えって! 何やってんだよ」
呼びかけたシールにエルニィはひょっこりと顔を出して応じる。
「今行くってばー! もうちょっとだけー! ……編成を組もうにも三宮の参加でより分かんなくなっちゃった……こうなると堂々巡りなんだよねぇ……」
天才であるエルニィの苦悩は自分にはうかがい知れない。かと言って、ここで何の助力もしないのもトーキョーアンヘルの一員としては憚られる。
「あの……立花さん。私にもできること、ありますか?」
「うーん……さつきにできること? そうだなぁ……じゃあ全員の搭乗経験値を平均化して、同じ条件でいっぺんに能率的にデータを取る方法を出してみて」
「……すいません、難しいことはちょっと……」
「だよねぇ……どうするべきかなぁ……」
ここ一番で助けになれないのが悔やまれる。さつきはお茶とおにぎりの皿を置いてからメカニックの座敷へと取って返す。
「どうだった? エルニィは」
月子に尋ねられさつきは首を横に振る。
「立花さん……私じゃ及びもつかないほどの難問に臨んでいらっしゃるって言うか……」
「まぁ、正直答えの出ない問答ではあるよなー。どんだけ考えたって実戦じゃ役に立たないんだから、あんま考え過ぎんなとは言ってんだけれどよ」
そうぼやいてシールはおにぎりをぱくつく。
「まぁねぇ……。トーキョーアンヘルが全員が全員、特殊な人機に乗っているから比較は難しいよねぇ……。私だったら一日でダウンしちゃいそうな議題だもん」
「あっ、皆さん知ってはいらっしゃるんですね……」
意外そうにさつきが口にするとシールは麦茶を呷ってから、まぁなと応じる。
「根を詰め過ぎるなとは言ってんだけれどよ。そう言っても聞かねーでやんの。部隊編成を考える都合上、一番に頭を使うのはそりゃー、エルニィだぜ? けれど、オレらだってメカニックの一員なんだから、ちょっとは頼ってくれたっていいんだが……」
「エルニィの頭脳労働にはさすがについていけない部分もあるし……。私たちは作戦に従って整備するだけだからねぇ……」
「先輩方の右に同じく……です。何かしてあげられることがあればいいんですけれど……」
昆布おにぎりを頬張って秋が帽子を目深に被る。メカニック三人娘でも手を貸せないのなら、これはかなりの難問なのだろう。三人とも難しそうに渋面を作り、目の前の夜食にさえ手が伸びづらくなっている。
「……その、何か方法が……」
その時、さつきはちゃぶ台の脇にある広告に視線を振り向ける。ここ数日間の新聞広告の中にあったのは「春のマラソン大会」と言う項目であった。
「マラソン大会……」
六機まで造り上げられた《テッチャン》。そして人機搭乗経験の平均化――その課題が頭の中でぴたりと合い、さつきは思わず声を上げていた。
「こ、これ……! これじゃないですか!」
「えっ……な、何だよ、さつき。言ったってオレらに夜食の代金なんて……」
「そうじゃなくって……! 《テッチャン》は六機まで造れたんですよね?」
「ま、まぁそうだけれど……どうしたの?」
さつきはマラソン大会の広告を指差し、それから口にする。
「同じ人機を操って戦うのは難しいかもですけれど……マラソン大会ならやることは走ることだけ……これって適任じゃないですか?」
「待て待て……ふぅーむ、市営のマラソン大会か。で、これが何で突破口になるんだ?」
「立花さんが悩んでいるのは同じ人機にみんなが乗って同じようなタイミングでデータを取ることですので……マラソン大会に《テッチャン》で参加すれば、それは同じになりませんか?」
「……つまり、さつきちゃんはこのマラソン大会に乗じて、《テッチャン》にみんなが乗ってエルニィのデータ取りに利用できればってこと?」
鼻息荒く頷き、さつきは《テッチャン》のほうを振り返る。
「《テッチャン》なら、性能差はありませんよね? なら、これでゴールまで走れれば……!」
「ちょ、ちょっと待てよ……。さつきの言わんとしていることは分かるが……《テッチャン》を市民に見せるってのは……うぅーん……」
「あれ、駄目ですか……?」
しょぼんと言葉尻を下げると、いやいやとシールが取り下げずに考慮に浮かべる。
「……一応はあり……か? さすがに人機……モリビトだとかを公に動かすのは難しいが、《テッチャン》なら平和利用ができるし……」
「それにアンヘルの活動アピールにもなるかも……! いい考えだと思う! さつきちゃん!」
手を叩いた月子の意見に秋もマラソン大会の文面を見据える。
「……けれど、出場選手はどうするんです? 立花博士が困っているのは、トーキョーアンヘルのメンバーだけでどうこうするのは難しいからですよね? 柊神社の皆さんは人機操主ですし、この場合は平均値が欲しいわけで……」
「すごく上手い人と……そこまでじゃない人が欲しいんですよね……。うーん……」
妙案を出しかねていると、あっ、とシールが出し抜けに声にする。
「じゃあよ、オレらが出ればいいんじゃね?」
「シールさんたちが、ですか?」
「おう。オレらだけじゃねぇ。要は《テッチャン》を手足のように動かせる操主と、そうじゃない奴、それと平均値が欲しいわけなんだから、ちょうどいい。自衛隊の奴らにも協力を募ろうぜ。あいつら毎日マニュアルで《ナナツーウェイ》の操縦してんだ、一応は動かせる地力はあるだろ」
「えっと、つまり……?」
「どうせ動かせるのは六枠しか居ねぇ。ここは全体に協力してもらってエルニィの悩みを吹き飛ばしてもらおうじゃねーの」
そうと決まれば話が早いのか、シールが拳を固めて立ち上がる。
「じゃあ……まぁ私たちの出番だよね。メカニックとして、友達が困っているのを放ってはおけないもん!」
「あ、あの先輩方……話が参加する方向に転がっていますけれど……大丈夫なんですか? その……許可だとかは……」
「そのための南だろ? そうだ、南にも参加してもらおうぜ。あいつ、こういう時にこそ役立ってもらわねーとな」
何だか自分の思いつきでとんでもない方向に話が進んでしまっていることには辟易しながらも、さつきは今も《ブロッケントウジャ》のコックピットで悩み抜いているエルニィを救うために、よしと拳と決意を固める。
「わ……私も……! 立花さんの役に立ちたいです……!」
――その結果が《テッチャン》によるマラソン大会の出場であったのだから、さつきは嘆息も出てくる。とは言え、エルニィ自身も納得してくれたからこその采配ではあったのだが。
『おーっと! 独走するのはルイの操縦するゼッケン三番! 速い速い! ぐんぐんと後続を突き放していくーっ!』
今回の《テッチャン》マラソンに際して、意外と乗り気なのがルイであり、その短い脚で爆走する。その後ろにつくのはメカニック三人娘から出場枠のシールであり、さすがは《テッチャン》の開発者なだけはあって機体特性を理解している模様だ。
さつきの操縦する《テッチャン》は現状、五番手。
メルJの《テッチャン》が三番手であり、そこから少し離れたところで四番手の自衛隊員から参戦の沖田が駆け抜けている。
『食らい付くのはメルJのゼッケン番号四番! そして六番ゼッケンの自衛隊だぁーっ! さぁ、今のうちに張った張った! 賭けるのならばマラソン大会開幕から十分以内だよーっ!』
賭け事に精を出しているのはいい傾向とは言えないがこういう時に賭場が発生するのは最早恒例で、自衛隊員や市民も参加しており、いよいよ止められないうねりである。
「それにしても……《テッチャン》は思ったよりも走りにくくって……」
《テッチャン》の機体構造を理解しているつもりであったが、それでもまだまだなのだろう。両腕に荷重がかかっている分、簡素な骨組みのコックピットは平時の血続トレースシステムコックピットとは違い、マニュアル操作であるため僅かながらラグは生ずる。
「さつきちゃん、ファイトーっ!」
観客席から赤緒が応援の声を張り上げてくれる。本来ならば赤緒も参加枠ではあったのだが、《テッチャン》に慣れている自分のほうが少しだけならマシに扱えそうだということで急きょ参戦となった経緯がある。
それに――とさつきは今もマイクパフォーマンスに忙しいエルニィを垣間見る。
『ぐんぐんと追い越していくーっ! やっぱりルイが優勢かぁーっ!』
「……立花さん、楽しそう……」