「えっ……? ええっ? 一体何が……」
「決着はついたってこった。グレン、すまねぇな。危ない橋を渡らせちまった」
「……何とかなったからよかったですよ。それに……」
「うん? それに、何だ?」
グレンは小銃を抱えながら、ようやく安堵の息をつく。
「何て言うんですかね……。みんなで知恵を突き合わせて勝つって言うのは……やっぱりいいものですね」
その返答に両兵はへっ、と鼻頭を拭う。
「悪くねぇもんだろ? 勝利の感慨ってのはよ」
古代人機の死骸は完全に硬直している。両兵はサンプルでも採ろうかと《タッコウ1号機》を降りようとして、不意に空が翳ったのを感じて見上げる。
その視界の中には――大型の古代人機の姿が大写しとなり、ズズンと地鳴りを響かせる。
「うっそだろ……?」
古代人機が動き出した瞬間に大慌てで操縦席に乗り込んで逃げの一手に回ろうとしたところで、不意に無線機が声を拾い上げる。
『……これ、軍用無線じゃない? 何だって両兵の部屋に――』
「青葉か! これは……相当にまずい! すぐに来てくれ!」
「――……んで。僕らはその後、《ナナツーウェイカスタム》に助けられて普通に説教。勝手に人機を造るなとも言われたし、謹慎もあったかな。けれどまぁ……思い出の品には変わらないよね。《タッコウ1号機》がまだ残っていたなんて、ちょっと感動だな……」
話し終えた古屋谷が鼻をすする。その瞳に涙が浮かんでいたのはやはり愛嬌がある人機だからだろう。広世は夜更けのキャンプをしながら、カナイマアンヘルの面々にどこか活気が湧いたような気がしていた。
自分の知らぬ、カナイマアンヘルの人々の思い出――それは多分、永劫知ることもなかった物語かもしれない。
「広世、お肉食べたほうがいいよ。明日も《ギデオントウジャ》で警戒任務でしょ?」
青葉が選り分けてくれているので広世はその厚意に甘える。
「悪い……。けれど、何だか変な感じだな。人に歴史ありって言うか……色んなピンチや大変な逆境を超えて……みんな居るんだなって」
「それは広世も同じじゃない。《トウジャCX》で襲って来た時には怖かったけれど、でも今は誰よりも信頼できるもん。……私、こういうのでいいんだなって思うんだ」
「こういうの……って言うと……?」
青葉は星々に満たされた宵闇を仰ぎ見て、それから愛おしい世界を包み込むかのように手を広げる。
「だって私……こうしてみんなと出会えた! みんなと一緒のご飯を食べて、一緒のお風呂に入って……! これってさ、すごく特別なんだって思う……!」
当たり前を享受するのもまた人間ならば、それをきちんと理解するのもまた人間。青葉はきっと、これから先も戦い続ける。それは誰に強制されたわけでもなく、愛すべき人機の未来のために。
《タッコウ1号機》の上でグレンと古屋谷が飲み比べをしている。
「負けませんよ……古屋谷さん……!」
「なんの! グレンにだけは負けないんだからね!」
大人なりのプライドじみたものもあるのか、あるいはただのじゃれ合いか。いずれにせよ、広世が想うのはただ一つ。
「……人機と共にある特別な思い出だけは……決して、消えたりはしないよな」
ここに居る自分と、遠く離れたあなたへ。
遥か、地球の反対側に行ってしまった相棒に呼びかけるつもりで、広世はソフトドリンクの杯を掲げ、やがて微笑むのだった。