JINKI 340-4 向い来る脅威

「……南の姉さん。オレが言えることなんて……せいぜい大したこともないんですが……それにしたってこの状況は何です? 護衛に誰を付けるかは選べとのことでしたが、別にオレじゃなくったって」

「駄目よ、勝世君。相手には手札を知られたくない。それに……米国主導のお披露目会なんて信用なるものですか。友次さんは顔が割れちゃまずいって言うから、諜報員をやっているあなたしかないでしょ?」

「それはそうなんですがねぇ……。まったく、友次のオッサンも裏で暗躍するのがとことん性に合ってるったら。言っておきますが、オレがトーキョーアンヘルの操主だなんて紹介しないでくださいよ。それこそ力不足って奴なんですから」

 そう言って勝世は肩を竦めた。VIP待遇のプライベートジェット内は快適で、これ以上のない乗り心地だ。加えて勝世と南、それに数名の乗務員以外は乗り合わせていないのだから少しばかりの潜めた会話も交わせる。

「……正直言って、どう思う? アメリカから、ぜひともトーキョーアンヘルの代表者を招致して、なんて」

「誘い以外の何者でもないでしょう。見え透いた、ですが」

「……そうよねぇ……。有り体に言えば、私は試されている、か。勝世君、日本を発つ前に、一度調べは尽くしてもらったわよね?」

 勝世は一瞬だけ盗聴器の存在を確認したようだが、服装にもましてやプライベートジェットの中にもそれらしい機器は見受けられない。

「……一応は、建前ってもんがあるんでしょうね。トーキョーアンヘルとの連携作戦、そのための下準備って言う……。ですが、オレが調べた限りじゃ、それそのものが米国の実験部隊……グレンデル隊の試金石って感じです。オレらに認めさせたいんでしょう。トーキョーアンヘルの専守防衛の理念よりも、グレンデル隊のような戦地へと切り込むタイプの特殊部隊の必要性って奴を」

「紛争地へと赴き、戦禍を広げているようにしか思えないのだけれど……。グレンデル隊のスコアは調べた限りじゃ相当……件のキリビトの新型機と会敵したって言うのは?」

「ちょうど昨日の出来事みたいですね。それ以外にも、秘密作戦が多いみたいで。……こう言っちゃなんですが、米国上層部はキョムとの遭遇戦を繰り広げることで、少しでも勝率を上げたいようです。何のためにか、ってのは」

「言いっこなしね。人機を中枢に据えているのは現状、アンヘルと米国だけなんだし。少数国家の運用方針では、せいぜい《アサルト・ハシャ》や《ホワイト=ロンド》が限界。私たちみたいな人機先進国に認めさせたいんでしょう。グレンデル隊の実力って奴を」

 どこか苦虫を噛み潰したようなこちらの論調に、勝世は嘆息一つで憂いを打ち消す。

「……実際、戦いってもんの終わりはありませんから。キョムが音を上げるか、オレらが音を上げるかの我慢比べです。その中に噛みたい米国の考えは、恐らくは次の時代への布石……。人機が兵器事業を席巻するような未来になっちまえば、それこそ青葉ちゃんの望んでいた未来からはかけ離れちまう」

「……青葉は……まだ戦っているのよ。私は、あの子に失望されたくないもの」

 南はプライベートジェットの窓辺へと視線を投げる。隣のシートに座った勝世にしてみれば、自分もまた終わりのない輪廻のようなものに囚われているように感じられるはず。呪縛としか思えない、トーキョーアンヘルの代表者をやると決めたあの日から続く、因果そのものを。

 青葉に背を向けることも、ましてや赤緒たちを裏切ることもできないのだ。南は逃げ場のない舞台に上がったも同義。立派に支えてくれる立場であると南は勝世に目配せしたが、一番の適材適所は自分のような端役ではないのだと悟ったかのように目線を逸らされる。

「……両兵が来れりゃよかったんですが……あいつの戦力を知られるのもちぃとヤバいですからね」

「あいつがトーキョーアンヘルのアキレス腱だって分かったら、手段なんて選ばないでしょうからね。こっちも計算しながら戦力の出し渋りをするんだから、やってらんないわよ」

 嘆息交じりの心労もここまで来れば相当なもの。勝世はせいぜい世辞をかけるほかないのだろう。

「……よく似合ってますよ。さすがはトーキョーアンヘルの代表者っすね」

「それも……何て言うのかなぁ。こういうフリフリした代表者ヅラをするような立派なスーツも見合ってないのよ……」

 とは言え南もこれまで歴戦を潜り抜けてきただけはあり、米国との調停となるのならば相応しい立ち振る舞いくらいは心掛けている。

 ある意味では自分なりの処世術なのだ。

「……それにしたって……プライベートジェットなんて贅沢っちゃ贅沢っすねぇ。身に余るっつーのはこういう時に使うって言うか……」

「あっちなりの最大限の譲歩でしょうね。本当なら人機を付けたいのがこっちの意見だけれど、プライベートジェットを用意してやるから我慢しろ、って言う……。本当、癇に障ることしかしないわ」

 南にしてみればこの待遇そのものがあちらの都合の押し付けに他ならない。そういうものか、と勝世がふと窓の外に視線をやった、その時であった。

 光が降り注ぎ、四方に展開したのは漆黒の機影――。

「……姉さん! こりゃ……《バーゴイル》だと……!」

「あっちのデモンストレーションってわけでもなさそうね……。勝世君!」

「合点です!」

 勝世は操縦席へと突っ込むなり、突然現れた《バーゴイル》に狼狽しているパイロットから操縦桿を奪う。

「な、何を……!」

「この場で何もできないまま終わるくらいなら、黙って見てろ! ……元々、お行儀のいいプライベートジェットなんざお呼びじゃねぇんだ……! 空を飛ぶものはこう使う……ッ!」

 プライベートジェットの翼をナイフのように立たせ、《バーゴイル》から放たれたプレッシャーライフルの光条を掻い潜ったその時には正規のパイロットたちは悲鳴を上げている。

「こ、こんな曲芸機動……機体が持たないぞ」

「黙ってろ! 姉さん……こいつ、人機からの攻撃には耐えられるようにはできてません……ッ!」

「それも当然よね。……勝世君、可能な限り着陸まで曲芸飛行、やれる?」

「やれる、じゃなくってやれ、でしょう? 嘗めんな! キョムの連中! これでもトウジャで鳴らした腕は健在……ッ!」

 しかし、それでも空戦人機であるところの《バーゴイル》の追従性にはただの飛行機では振り切れない。加速性能を極限まで引き上げても焼け石に水だ。

「……不幸中の幸いは、無人型の人機である《バーゴイル》にゃ、ファントムが使えねぇってことくらいか……! とは言っても、人機の機動力をどうこうできるわけじゃァ……ねぇっすよ……!」

 積乱雲の合間をプライベートジェットの空力が抜けていく。追跡してくる《バーゴイル》はそれぞれ四機編成。完全にここに自分たちが居ることは露呈していると思うべきだろう。

「勝世君! ……もう一個幸運なのは、この《バーゴイル》、練度が低いと見るわ。本来なら包囲陣形を取って私たちの逃げ場を封じるはず……!」

「そうじゃねぇのは……あくまでも乗っているオレら個人は割れてねぇって証明ですか……!」

「……そう信じたいわね。要人の確保だけを設定されたのなら、画一化された行動も頷けるし」

 そうは言っても相手が人機なのは覆しようのない事実。軍用機ならばいざ知らず、プライベートジェット程度の推進力では容易く追いつかれてしまう。

「ちぃ……ッ!」

 舌打ちを滲ませて腕を伸ばしてきた《バーゴイル》の脇を抜けていく。空戦人機のエキスパートであるメルJか、あるいは彼と共に戦場を潜り抜けてきた広世ならばもっと簡単に戦線を突破する方法が思いつきそうなものだが、あくまでも自分たちはゲストに過ぎないのだ。何度も何度も《バーゴイル》の射程から逃れるのは限界が近い。

「ああっ、もうっ! 何だってお偉いさん方の使うジェット機ってのは融通が利かねぇんだ! 幾何学軌道の運用くらいは視野に入れておけっての!」

 何度もマニュアル操作に切り替え、その度に《バーゴイル》の機体をすり抜けていくが、何回も曲芸飛行を用いればプライベートジェットそのものの装甲も剥離しそうになってくる。

 その証拠に先ほどからずっと警告音が鳴りやまない。

「管制室! 聞いてるわよね? 管制室……! ……駄目ね。これじゃ空で取り残されたようなものよ」

「どうするんです! 連中、オレらにここで死ねって言うんですか!」

「……逸らないで。アメリカだってアンヘルの重要人物をここで消したくはないはずよ。……そろそろ、来るはず」

 何が、と言う主語を欠いたままの南の予感の声に一機の《バーゴイル》が回り込んでくる。今度こそ終わったか、とプレッシャーライフルの銃口が煌めいた瞬間、その銃身を撃ち抜いた攻撃に勝世はハッとしていた。

「新手か……!」

 下方から流れるようにして照準するのは《アサルト・ハシャ》の型式を使った新型機であった。全身に水色の血脈が宿ったように映るその機体が構えた電磁加速砲を一射する。再びの弾頭が今度は《バーゴイル》の血塊炉を的確に射抜いていた。

「……あれは……《アサルト・ハシャ》? けれど飛行型なんて……事前の資料になかったわよ……!」

「今は……! 命を助けてもらっているのなら悪魔でもその手を握るのが筋でしょうね。不明機へ! これよりプライベートジェットは軟着陸に入る! そっちのガイドを受けたい!」

 勝世の要請に、空域から突如として現れたのは今しがた《バーゴイル》を射抜いたのとは別の機体であったが同型の人機であった。ぎょっとする前に、その機体が着陸ルートをプライベートジェットの計器へと直接叩き込む。

「……勝世君。信じるしかなさそうね……」

 見たところ、今の今まで見えなかったところを鑑みれば、恐らくは件のステルスペイント実装機の可能性が高い。つまりは米国のお膝元か、あるいはそれに類する組織の人機であるのだろうが、キョムに捕らえられて惨めに死ぬか、それとも別の道かを選ばせてやっている、という通達なのだとも取れる。

「……いいんですか? こいつら……得体が知れませんよ……!」

「たとえ悪魔でも、って言ったでしょう? その言葉通りなのかもね……」

「……クソッタレ!」

 新型人機が前方を塞ごうとする《バーゴイル》を押しのける。その膂力は空戦人機である《バーゴイル》を凌駕しており、軽くひねるだけでその両腕を引き抜いていた。

「……なんてパワーなの……」

 その力の起因するところは、ともすれば機体全身に流れる水色の血脈であろうか。まるでこれまでの既存人機とは異なる設計思想に映る機体が《バーゴイル》へと両腕にマウントしていたガトリング砲を掃射する。

 すぐさま炎に巻かれた《バーゴイル》がぐずぐずに融け、頭部を粉砕されて直下の海面へと叩きつけられていた。

 それらに茫然とするような余裕はない。新型機のガイドを受け、プライベートジェットが導かれていたのは洋上に唐突に現れた白い要塞であった。

「……ありゃあ、何です……?」

「潜水艇……? けれど事前のデータには……」

『トーキョーアンヘルの皆様方。我々のテリトリーにようこそ。いえ、これは語弊があるというものですね……。ワタシたちはあなた方を歓迎している。それだけは理解していただきたい』

 突如として繋がれた秘匿通信は暗号化されており、抜け目のない相手なのだと窺えた。

「……一つ、いいかしら? あなたたちは、米国政府との協定を破ろうとしているの?」

『まさか。これも米国の……そうですね。持てる手のうち、一手なのだと言わせていただく』

「……姉さん、信用なりませんって。こいつら……オレらが条件を呑まなけりゃ……」

「四方八方から蜂の巣、か。……あまり対等とは言えないわね」

『失礼ながら、対等な立場でお喋りをしているような時間はないのでね。少し強硬策を取らせていただきました。ですが、これは僥倖なのでは? どうせ、米国に赴けば、あなたたちに選択肢などないのです。その前の……余興と思っていただければ結構』

「余興で殺されかけりゃ、とんだ最低条件って奴だな」

『あなたはトーキョーアンヘルの操主ですね? ミス黄坂とは違う、失礼ながらプライベートジェットの操縦はあなたが?』

「だとすりゃ、何だよ」

『いえ、いい操主です。突然なことでも対応するだけの胆力がある』

 勝世はその言葉を聞きつけて、吐き気でも催したように舌を出す。

「……そりゃー、どうも。姉さん、こいつらまともじゃないですぜ」

「それは百も承知よ。……けれど、米国との協定とは横道に逸れるでしょうけれど、無碍にするわけもいかないわ。もしもの時には、彼らに拿捕されたのだと言い訳も立つ」

『さすがはミス黄坂。咄嗟の機転も回るご様子』

 一ミリも褒められた気はしなかったが、南は勝世へとハンドサインで着陸姿勢を促す。

「……本気ですか? こいつら……何を仕出かすんだか……!」

「その仕出かしを私たちの関知しないところで見せられるか、そうではないかの話でもあるんでしょう。相手は私たちの肝を試している……。ここは乗らせてもらいましょうか」

『賢明な判断です。ミス黄坂』

 プライベートジェットが甲板に降り立つ。照り輝く陽光で白い光沢を放つ潜水艇は、どこの国にも所属していないようであり、型式に嵌まらない形状をしている。

 ようやく安全装置を施して勝世が降り立ち、南の手を取ったところで甲板上に上がってきた一人の男性が出し抜けに拍手する。

「お若いのですね。トーキョーの操主は」

「……あんた、何だ?」

 警戒心を欠片も解かない勝世に、それも致し方ないかとでも言うように南も言葉の穂を継ぐ。

「助けてもらったことにはお礼を言わせていただきます。けれど、そもそもあれは……何なんです? 《バーゴイル》に比肩してみせる空戦人機のデータベースに、あんなものはなかったはずですが」

「我が方で独自開発した人機です。名称は《空神アサルト・ハシャ》。あなた方が運用する《空神モリビト2号》の名前にあやからせていただきました」

 そのやり口もどこか打算と意趣返しめいていて、南は警戒心マックスの視線を注いでいた。

「……あなたは何なんです? 所属と目的を明かしてください。そうでなければ信用なんてできません」

「手厳しいですね。いえ、これも当然。今の今まで世界を相手取るキョムと唯一無二と言える戦歴を重ねてきたのです。あなた方を評価はしているのですよ?」

「……メンドーくせぇこと言ってねぇで、とっとと身柄を明かしやがれ! こちとら生きた心地がしねぇんだよ!」

 勝世は野次を飛ばすが、それは今にも均衡が崩れかねないことへの抵抗であった。お互いに今ばかりは助かる。ここで下手なことを言えない身分である南は平然を装っているようで、首裏を流れる冷や汗を止められそうにないのは明白であった。

「失礼、名乗りが遅れましたね。ワタシの名前は……いえ、これも二度手間になるのですが、答えましょう。一度ワタシたちは会っているのですから」

「……失礼ながら、顔を見たことはないはずですが……」

「そうですか? これは一方的な片思いでしたかね? 我々の名前は――金剛グループ。その社長をやらせていただいております、コンコルザです」

 その名称と紡がれた名前に、勝世と南は同時に絶句する。それと共に、サングラスの奥で怜悧な眼差しを注ぐ無遠慮さとどこか慇懃無礼を感じさせる視線の意図が伝わって来ていた。

 この男は――自分たちトーキョーアンヘルの敵でありながら、今この瞬間、名乗りを上げた。それはつまり、ただ単に気まぐれで生かしたわけではないのだろう。

「……てめぇ……ッ! そんななりで、よく吼えられたもんだな……! てめぇらのせいで、京都支部は……!」

「ああ、それはその通り。ワタシに言わせてみても、あれはちょっとした汚点でしてね。極東国家にアクセスするのならば、本来の筋であるのならばトーキョーアンヘルに先に顔合わせをするべきであったと」

「そうじゃねぇ! ……てめぇらの造った人造血続やら、非人道的な実験やらが……! どれだけの人間の運命を狂わせたのか……分かってんのか!」

 勝世の怒りにコンコルザは悪びれた様子もない。それどころか、激情をぶつける彼に対し、どこか冷笑的だ。

「……それは可笑しい。ワタシたちが居なければ、《モリビト天号》はロールアウトしなかった。それに付随する他の技術もね。長期的な目線で見れば、貢献はしたはずですよ?」

「ざけんな! てめぇらが……何をしたのかを……!」

「勝世君。ここは……ここは感情的にはならないようにしましょう」

「ですが、姉さん……! こいつら……言葉を選ばないのなら、クズですよ……!」

「もう少し言葉は選んだほうがよろしい。ワタシは何とも思わないが、それだけでなくなる命はある」

「……言わせておけば……!」

「勝世君! ……ここは、私たちは圧倒的に不利なのよ。罵倒し合ったってしょうがないわ」

 南がコンコルザを固める数名の少女らに目線を配る。バイザー型のヘルメットで顔は見えないが、恐らくは人造血続の類であるのは推察できたようで、統率された兵隊の所作を垣間見させる彼女らに比すれば、自分たちは丸腰同然だと無言で伝える。

「……歯がゆいっすね……」

 勝世が言葉を仕舞い、やがて両手を上げる。南も両手を上げると、ようやく交渉のテーブルについたとでも言うようにコンコルザは喜悦の笑みを浮かべて手を叩く。

「よくできていますね。さすがはトーキョーアンヘルのリーダーと、そして操主ですか。しかし、ここで話し合いはちょっと不都合だ。どうぞ、中へ。我らが所有する潜水艇の内部は意外と快適ですよ」

 コンコルザと率いる兵士たちに誘われ、勝世と南が艇内に入った瞬間、即座に潜水を始めた様子でゴゥンゴゥンと重い音が残響する。

「これ……水圧とか大丈夫なのか?」

「それは当然。我が金剛グループでもそれくらいはクリア済みです」

「人機は水圧には弱いですからね。この潜水艇も……見たところ《ビッグナナツー》に近い構造をしているようですが」

「技術は日進月歩ですよ。思ったよりも、人機建造は数多の国が着手している題材。もちろん、技術大国であるところの米国や日本とは違う進化系統樹を辿ることもありますがね」

 狭い通路を進みながら、南が後方を固める兵士へと一瞥を投げる。少女型の人造血続操主なのは窺えたが、問題なのはその性能だ。彼女らも、ともすれば金剛グループが運用していた、ダテンシリーズの一部なのではないのか、と。

「……失礼ながら、金剛グループは非人道的な実験行為に手を染めていたとも報告されております。彼女らも、その枠内で……?」

「血続操主は量産化できない、そんな文言は最早過去になりつつありますよ。遺伝子研究と、人間の構造解析、そしてアルファーによる魂の存在を認めてしまえれば、容易にそれらの壁は超えられるものです。今までできていなかったことが不思議なほどに」

「……あんたらにとっちゃ、命はオモチャみたいなもんってことかよ……!」

 吐き捨てる論調の勝世に、コンコルザは高笑いする。

「これはこれは……! 正義漢に言われてしまえば我々はまるで悪の組織ですな! ……ですが、誤解なきよう。ワタシたちが求めているのは、最適解。それはあなた方トーキョーアンヘルと何ら変わらないはずですが? キョムを倒したいのでしょう? 米国に先んじられるわけにはいかないのでしょう? ならば、常に最適解。最速でそれが必要になってくるはず。よいですか? 情報は速さです。そしてそこに正確性が付与されれば、価値は数倍に跳ね上がる。人機開発において、人間らしさは最も足手纏いとなる」

「……それがてめぇらの答えかよ……! 反吐が出るぜ! 人間が動かさなくっちゃ人機は応えてくれねぇ……!」

 必死の形相で噛みつきかねない勝世の意見にコンコルザは顎に手を添えて思案する。

「ふむ。どうにも……意見の相違があるご様子。ワタシたちはハイリスクハイリターンなんてものは取らないのです。必要なのはローリスクで、如何にハイリターンを取れるかどうか。その方策を練るに限る。だと言うのに、あなたは……」

「勝世、だ……クソッタレ野郎ども……!」

「ではミスター勝世。あなたは人機搭乗経験が豊富なようですが、まさか人機が兵器ではないなんて仰りませんよね?」

 安い挑発だ、勝世が乗るはずがないと思っていたが彼は胸元に拳を固めて言い放つ。

「……少なくとも、てめぇらみたいな野郎をぶっ潰すための力だとは思ってるさ」

 その返答は想定外であったが、コンコルザは満足げに拍手する。虚飾めいた拍手の音が潜水艇に木霊する。

「素晴らしい解答だ。ですが、それでは失格ですね。ワタシと交渉するのならば、どこまでもドライなのがよろしい」

「おあいにく様、オレは交渉テーブルに関してで言えば、全然なんでな。南の姉さんのほうがよっぽど最適解を選べるはずだよ」

「それもある意味では適材適所。なるほど、よりあなたのことが好きになってきましたよ」

「オレは御免だね。野郎からのラブコールなんざお呼びじゃねぇよ」

 吐き捨てる論調で言い放った勝世相手に、潜水艇のブリッジにてコンコルザはステータスを呼び起こす。最新鋭の潜水艇は即座に深度と耐水性、そしてもし人機が襲ってきた場合も含めた複合的な勝率を導き出す。

「どうです? このシステム。我が金剛グループが造り上げた、生体コンピュータです。あなた方にとっては京都支部の加藤様の脳髄を培養したもの、と言えば分かりやすいでしょうかね」

 南は息を呑む。

 生体コンピュータ技術はキョムが抜きん出ている技術であったが、それは動物のニューロンネットワークと電脳を組み合わせたものだが、まさか人間の脳髄で実用化しているのは想定外であった。

「……とんだ外道だな、てめぇら」

「それは褒め言葉と思っておきましょうか。さて、ここからが本題ですが、お二方とも米国で向かう道中での襲撃。それはつまり、米国に一枚噛まされたか、あるいはキョムによる強襲なのだとお思いのことでしょう」

「違うってのか?」

 コンコルザは微笑みながら、ノンノンと指を振る。

「こうは思いませんでしたか? 米国とキョムの蜜月。あなた方を排除することで、トーキョーアンヘルのアキレス腱を崩せる。その構造だけではない。キョムによる襲撃ならば大義が発生します。残存したトーキョーアンヘルメンバーは米国の部隊に再編成される可能性が高い」

「……件のグレンデル隊か」

「そうでなくとも、各国は欲しいのですよ。人機と言う名の強大な力を自由自在に動かせるだけの素質を持つ、血続を。しかし、御存じの通り、血続操主は希少です。その上、米国はちょっと前に血続操主の再訓練施設を運用していた。それを指摘された以上、あまり大っぴらに動けはしない」

 コンコルザの物言いは正しいが、どこかでゴールポストをずらされている感覚が付き纏う。まるで意図的に、答えを保留しているかのようであった。南は堪え兼ねて挙手する。

「……つまるところ、私たちの生存そのものが米国とキョムにとっての不都合。プライベートジェットを使ったのも、生死不明に持ち込むため。けれどそれは、あなた方も同じでしょう? 何で潜水艇なんて、まるで私たちが撃墜されるのを分かっていたかのような……」

「分かっていたかのような、ではなく確信していたのですよ。あなた方が米国に赴く時点で、グレンデル隊もそうなら、キョムが押さえたいであろう気持ちも透けて見えます。ならば、これが好機なのだと感じました。トーキョーアンヘルのリーダー、黄坂南と、あわよくば重要な主戦力の操主を確保できるかもしれない、と」

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