JINKI 340-7 戦場での再会

 南米戦線で嫌というほど身に馴染んだ行動規範に、だが、とサイラスは血続トレースシステムのアームレイカーを引いていた。

「……知っている奴が居る戦場は、久しぶりか。お前も昂っているんだろう、分かるさ」

 全身で感じる人機の鳴動。戦うためだけに用意されたその鋼鉄の巨躯を共鳴させ、三機の《空神アサルト・ハシャ》が明瞭に交錯し、その引き金を引き絞る。

『挟撃だ! 死ぬ気か、サイラス……!』

「元より、そんなつもりはない。――爆ぜろ、《ヴェロニカ》」

 瞬間、《ヴェロニカ》が背負っていたフライトユニットから二本のサブアームが伸長する。それらはメインアームと同様の性能を誇っており、空域を突っ切ると同時に敵人機の躯体を引き裂いていた。入れ替わりにフライトユニットに格納されていた銃座がせり出し、《空神アサルト・ハシャ》のコックピットを的確に撃ち抜いていく。

「十二秒、ってところだな」

 降下までの残り時間が概算される。

 プラントを守っている《空神アサルト・ハシャ》がプレッシャーライフルを向けようとして、《バーゴイル改修型》と《ストライカーエギル》がその銃口を遮り、反撃を見舞う。

『よぉ、人造血続のレディたち。戦場のダンスのお時間だ』

《ストライカーエギル》のリバウンドの力場を帯びた腕が《空神アサルト・ハシャ》の血塊炉を貫手で射抜く。カミールの操る《バーゴイル改修型》の一斉掃射が《空神アサルト・ハシャ》の動きを封じ、結果として焼け爛れた装甲を晒して後ずさった敵人機を蹴り飛ばす。

『こちらもクリアしました。サイラス君、行けますね?』

「……充分だ」

 プラント中枢部へとサブアームの蛇腹を引き伸ばし、出撃準備に移っていた機体を封じ込める。

 着地したその時には、ちょうど作戦実行時間に到達していた。

 赤い聖骸布に巻かれた目標物を前に、サングラス姿の男が兵士に囲まれて拍手を送っている。

『素晴らしい。さすがは名うてのグレンデル隊。定刻通りですね』

 フライトユニットの銃座がその姿を自動照準し、狙いの中に据えるがサイラスはトリガーを引かなかった。

「……約束通り、貰い受けていく」

《ヴェロニカ》による無力化と同時に《ヴァルキュリアトウジャ》が降り立ち、布に包まれたままの目標物を拾い上げ、ステルス機に向けて輸送する。

『それにしても……とんだ汚れ仕事よねぇー。こういうのって悪者がするものじゃない?』

『……呆れたわ。イヴ、私たちが正義の味方だとでも思っているの?』

『それもそうか。隊長ぉー、対象を確保しました。他の生き残りは如何しますかぁ?』

『決められた通りだ。それ以外の逸脱は許されない。……が、しかし。こちらも想定外の拾い物をした。サイラス、あとで説明はできるな?』

「……ああ。少しだけ、長い昔話には、なりそうだがな」

 サイラスはすぐ傍に居る男へと視線を振り向ける。

 恐らくは、この男が金剛グループの代表であるコンコルザなる人物。だが、この男を殺したところで事態が収束するわけではない。無用な殺しは、戦場ではご法度だ。義憤に駆られて要らぬ禍根を残すばかりである。

 だが――この時の自分はどうしてなのだか、言葉を残すことに意味を見出していた。

「……あんた。こんなアコギな商売が長続きするとは、思わないことだ」

『おや、警句を受けるとは。これもよい兆候なのだと、思うべきなのでしょうかね』

「……どうとでも取れよ。《ヴェロニカ》、飛翔する」

《ヴェロニカ》がフライトユニットの黒翼を広げ、風圧を巻き上げながら飛翔する。既に勝敗は決した。否、元々そんなものはなかったのかもしれないが。

「……それにしても、ショーセ。オレだってこんな風に再会は、したくはなかったさ」

 そんな益体のないぼやきだけが、《ヴェロニカ》のコックピットに吸い込まれていった。

「――終わりましたね。まさかクリオネルディバイダーの収容場所を押さえられていたとは。こちらの落ち度です」

《空神アサルト・ハシャ》から降り立った勝世と南は、もぬけの殻となったプラント中枢部を見渡す。酷い有様であったが、この戦いの中心軸であるところの重要物資は米国グレンデル隊による奪取――そう公式には発表されることだろう。だが、南はこの意味を理解していないほど愚かではないつもりであった。

「……コンコルザ代表。あなたは……!」

 南が思わず前に出ようとして、それを制したのは勝世である。

「……勝世君……?」

 無言のまま、勝世はコンコルザへと歩み寄り、思いっ切りその拳で殴りつける。

 まさか、勝世がこのような後先を考えない行動に出るとは思っていなかったのは自分も同じで、人造血続の兵士たちが色めき立ったのを、コンコルザが制する。

「てめぇは……! てめぇは何てことをしやがったんだ……! 分かっていて、グレンデル隊に……米国にクリオネルディバイダーを引き渡しやがったな……!」

 銃口が一斉に向けられる。それをコンコルザはよろりと立ち上がって、いやはやと頭を振る。

「……そこまで承知ならば、お話も早い。勝世様、黄坂南様。ワタシ共は、あくまでも商売をやっている。戦争の道具を、この世を回す金品を、巧妙に操る。そちら側の人間だ。よって、このような形でグレンデル隊に引き渡すのは、何もやぶさかではない。……しかし、久しいですね。ワタシの頬を一日のうちに二度もぶったのは……前任者の祖母以来だ」

 ここで満足げなコンコルザ相手に交渉を続けたところで仕方あるまい。勝世は身を翻し、屋上のヘリポートに降下してきた米国の無音ヘリへと視線を振り向けていた。

「……対外的には、グレンデル隊が勝手にやったってことなんだろうが、オレはこんな悪行を許しておくつもりはねぇ。いずれはてめぇら全員に、天罰が下る。それを予言しておくぜ」

「これはこれは。天罰とは。なかなかに古風だ」

 ヘリから降りてきたのは友次で、これもある意味では織り込み済みの事象であったのは南も理解できる。

「……勝世君。それに南さんも。よく生きていてくれましたね」

「友次さん。交渉条件のうちに入っていたとはいえ……これはあんまりですよ」

「怒らないでください、とは言えませんね。恨まれたって仕方がないとは思っています」

 友次は冷静に、それでいて必要な事柄を整理すべく懐から煙草と手帳を取り出したところで、勝世は手を差し出す。

「……一本くださいよ」

 不機嫌そうに言い捨てた勝世に、友次はそれを授けてジッポで火を点ける。

「……察しの通り。米国上層部による、金剛グループとの癒着。クリオネルディバイダーを“強奪された”と言う形での“譲渡”。これが話の顛末です。プライベートジェットに乗っていたのが誰であったとしても、証人が必要だった。……ここまで言えば、最初からこれらが操作された代物で、気分も良くないでしょうが……」

「いえ、私たちも……少しばかり冷静にならなければいけないでしょう。友次さん。クリオネルディバイダー……あれは一体、何なんです? グレンデル隊が欲しがっているのはまだ分かります。けれど……それを実効すれば、各国諜報部から狙われるのは分かり切っている。まだ、私たちの知らない、先があると思っていいんでしょうか」

 友次は紫煙をたゆたわせながら、その問いに対して時間を設ける。即答はできかねるのか、あるいはもっと別の意図が蠢いているとでも言うのか。

「……グレンデル隊によるクリオネルディバイダーの接収……だけに留まればまだいいのですが。立花博士からの入電です。つい一時間前に、南米にて巨大な血塊炉反応を関知。恐らくはキリビトタイプである、と」

 その言葉に南は息を呑む。

「……まさか! 米国はすぐに実戦投入するつもりだって言うんですか……! クリオネルディバイダーを……!」

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