JINKI 330 いつか虹色の微笑みのために

「そのー……いいですかね?」

「さつき、やっぱりこれって本物よね? あんたもそう思うわよね?」

 ずいっとルイに凄まれ、さつきはあうあうと言葉を彷徨わせる。

「その……でも変じゃないですか? だって、立花さんがこんなの……わざわざ置いていくかなぁ……」

 三人の目の前の卓上には古びた地図が置かれており、柊神社を指し示したらしきポイントから少し離れた場所に赤いバツ印が記されている。

「いえ、さつき、これは本物よ。コネ宮もそう思うわよね?」

「……けれど、これが本物だったら……どうしましょうか。金枝はあまり東京の地理には詳しくないので分からないんですけれど」

「本物なら当然。掘り出しに行くわよ」

 ぐっと拳を握って気合いを入れるルイにさつきは思わず声を差し挟む。

「で、でもですよ……? 本当にあるのかなぁ。“宝の地図”、なんて……」

 不安に駆られながらさつきはどうしてこの三人で雁首を揃える結果になったのかを思い返していた。

 ――操主訓練は金枝を編成として含めることを決めてからは、どの人機に順応性があるのかを念頭に置かれるようになったと思う。

《ナナツーライト》のシミュレーションを《キュワン》よりも率先して行うように、とエルニィに言われるのはその関係もあったのだろう。

「これで……Rフィールド、プレッシャー!」

 シミュレーター内で標的である《バーゴイル》数機を巻き込む能力を発現してみせた《ナナツーライト》の性能にもある程度は応用が利くようになってきた。

 これまでは《ナナツーライト》を操るのか、《キュワン》を駆るのかはその場の現場判断が求められてきたが、ここ数日は《ナナツーライト》の側に寄せて訓練プログラムを考えられているのが分かる。

 さつきにしてみれば、兄が設計に携わった《ナナツーライト》を運用するほうが幾分か性に合っているので、この意思決定は助かる一方なのだが懸念もある。シミュレーターから出るなりエルニィと顔を合わせてハイタッチしてから、思慮を巡らせる。

「お疲れ、さつき。反応、かなりよくなってるじゃん。この分じゃ、《ナナツーライト》の強化プラン実行のほうが早まりそうだなぁ。リバウンドフィールドを自在に操れる能率化も上がって来たし、そうだなぁ。兵装化は難しいかもだけれど、ツッキーとシールが考案した別プランも現実味を帯びてきたって言うか……」

「あ、あの! 立花さん!」

 資料に書き付けるエルニィに対し、さつきは思い切って声にする。

「……うん? どったのさ」

「あのですね……《キュワン》はどうなっちゃうんですか……?」

「《キュワン》は……しばらくは凍結かなぁ。元々、高出力R兵装のテストタイプだったんだ。上手く運用できるようになるまではデータの算出用に使うつもりだけれど……何かあった?」

「……いえ、その……《キュワン》も私の人機……なんですよね?」

 不安を隠せずに口にするとエルニィは何を今さらとでも言うように返答する。

「当たり前じゃん。さつき以外でも乗れるようにはしておくけれど、基本のメイン操主はさつきだよ。それは変更なし。……なに? もしかして《キュワン》取られちゃうかも、とかって思ってた?」

「あ、いやそれは……」

 思わずまごついてしまう。図星を突かれるとここまで分かりやすいのは自分の馬鹿正直さが出ているとも言えよう。

 エルニィは嘆息をついてボールペンでこめかみを叩く。

「まぁねぇー。三宮が動かしやすい人機を考えている途中なもんだから、確かに一旦は《キュワン》のことを考慮せずに動いてもらいたいってのが本音。そりゃー、《キュワン》も強いよ? これまでの戦歴と対R装甲持ちに対しては絶対に必要な戦力。けれど、今は一糸乱れぬチームワークのほうを優先したい。三宮が戦列に入ったんなら余計にね。スタンドプレーよりもチームプレー重視ってこと」

 当の金枝は現状、自分と同じように《ナナツーライト》のシミュレーターに入っているのだが、時折声が漏れ聞こえる。

「ああっ……! この……! ええっ……! えーいっ!」

 どう聞いても上手くいっていないのは分かり切っているので、エルニィはこっちに視線をやって肩を竦める。

「……まぁ、三宮もこの調子だし。あんまし汎用性とかを期待しないほうがいいのかもねぇ。けれど、人機は決戦兵器なんだ。誰々だけが動かせるってのは、兵器としちゃ欠陥。基本的に、別の人間が乗ってもある程度は動かせるって担保が要る」

「それは……最近、立花さんと赤緒さんの連携を重視しているのもあって、ですか?」

 ここ数日間のことではあったが、《空神モリビト2号》の上操主と下操主を様々なパターンで試しているようであったが、最も安定的に戦力を供給できるのは限られているようであった。

 エルニィもそれは分かっているようで、深いため息をつく。

「……赤緒も困ったもんだよねぇ。まぁ、《空神モリビト2号》に関してで言えば、ルイも適性があるけれど、そうなってくると今度は《ナナツーマイルド》が空席になっちゃう。もちろん、《エスクードトウジャ》の実戦投入も進めて行きたいのは本音だけれど、現状は一機でも遊ばせておく余裕もないんだよねぇ。だからこそ、なんだよ、三宮」

 シミュレーターから憔悴し切った様子で出てきた金枝へとエルニィが注意を飛ばす。タラップを降りて来る途中で金枝は大きなため息をついていた。

「……ちょ、ちょっと……。動きに酔っちゃって……うぅ……ぎぼちわるい……」

 顔面蒼白な金枝にエルニィは大慌てで紙袋を差し出してその背中をさする。

「ああっ! せっかくのシミュレーターを汚さないでよね! はい、げーってできる?」

「うぅ……何でなんですかぁ! 金枝は、京都支部じゃ天才美少女操主だったんですよぉ!」

 どこかやけっぱちになった金枝の言い分にエルニィと自分は顔を見合わせて困惑するばかりである。

「ま、まぁ美少女かどうかはともかくとして……さ! 人機ってのは特性がある。これは、ちゃんと京都支部でも聞かされてきたよね?」

 エルニィがホワイトボードを持ち出して自分たち相手に講習を始める。こうなってしまえば長いぞと思いつつ、さつきは素直に聞き入っていた。金枝も反発するような気力もないのか、顔色が悪いままベンチに腰掛けている。

「……ええ、まぁ」

「何度か私も聞いてきましたけれど、《ナナツーライト》と《ナナツーマイルド》みたいなのって珍しいんですよね? 基本的には重心が下腹部にあるって言うか、重たいのが当たり前なのに軽量化重視って言うのは」

「さつきは優秀だね。ちゃんと勉強してるのが分かるよ。そう! 元々人機ってのは戦車だとかそういうのの代替案として出されたもの。当初は才能機って呼び方もあったみたいだけれど、戦場で使われる間に人機と言う呼称が一般化したって言うのが歴史かな。基本構造は《ナナツーウェイ》、《モリビト一号》から派生して……人型機であることが最も重要だと思われたのが、三年前のカラカス陥落。歴史の授業なんかじゃ謎の重力崩壊ってぼやかされているけれど、これが最初のロストライフ現象と言われているね」

「俗に言うXデイ……ですよね?」

 おずおずと挙手して答えた金枝にさつきは頷く。

「そして……三宮さんや赤緒さんみたいな特殊な力を持つ方が出てくるようになった原因でもある……と言うのが、当初の見立てでしたっけ?」

「あくまでも推論だよ? けれど、三宮のは明らかにこの現象に影響を受けてる。赤緒も……ってのは穿ち過ぎだってばーちゃんたちには諌められたけれど、無関係だとは思えない」

 エルニィは伊達眼鏡をかけた教師ルックで腕を組んで考え込む。ホワイトボードには「ロストライフと超能力モドキに関して」、「人機の運用方法」と次々と書かれていく。

「でも……特殊な力を持っているのが皆さん血続って言うのは結果論と言うのもあるって……この間シールさんが」

「シールの意見も分かるんだよねぇ……。血続だから優れた操主ってのも言ってしまえば結果論に近いし。じゃあ血続じゃないと強くないのかって言えば、両兵だとか南って言う特例もある。結局のところ、突き詰めた人間はどこに行っても強いんだよ」

「あの、金枝はまだいまいち掴めていないんですけれど、アルファーとの関係性もあるって話ですよね? アルファーとの伝導率って言うか、順応性にも差があるって」

「三宮、いい質問だよ」

 ずびし、と指示棒で指されて肩をびくつかせる金枝であったが、嫌な気分ではないのか少しだけ照れている。

「い、いやぁ……まぁ……金枝は天才ですし……」

「アルファーとの伝導率がアンヘルメンバーで一番高いのはルイとさつき。これは潜在能力とでも言うべきものなんだろうね。次が赤緒とメルJが同じくらいかな。ボクは悔しいけれど、この中じゃドベ。あ、違うか。三宮も苦手なんだっけ?」

 そう問い返されると今しがたの優越感も消し飛んでしまうのか、金枝は暗い面持ちになる。

「……うぅ……。京都支部じゃ使えるほうだったんですけれど……」

「まぁ実戦経験の差だろうね。赤緒だって最初は全然だったんだし。ボクも使えるけれど、上の四人ほどじゃない。メルJは訓練から来るものだから、単純比較は違うかもしれないけれど、アルファーって言うのは本当に、その血続操主の感覚野にダイレクトに働きかけて来るもの。訓練で少しは上昇するけど、やっぱりルイとさつきには敵わないよ」

 そう言われると自分も褒められているようで悪い気はしない。視線を逃がして分かりやすく喜んでいるのを避けていると、不意打ち気味にエルニィが大声を出す。

「そこ! ニヤニヤしない!」

「し、してませんよぉ……。でも、アルファーで遠くの人機を操るのが一番得意なのはヴァネットさんですよね? これは比べなくっていいんですか?」

「あれはシュナイガーのレスポンス性能がいいからなの! ……まったく、ボクの傑作の空戦人機を自分流にカスタムしてくれちゃって。お陰でボクの手元にある本来の《シュナイガートウジャ》の性能じゃ、全然参考にならなくなっちゃった。しかも本体がアメリカにあると来たら……! ああ、これあんまし思い出すとイライラしちゃうから、置いといて……」

 それはそれとして、とエルニィが一呼吸置き、こほんと咳払いする。

「要は……えっと、純粋に人機操主としての力量と、血続としての成果は別ってことですか……?」

 金枝が戸惑いながら意見すると、エルニィはホワイトボードに現状のアンヘルの戦力事情を書き連ねていく。

「そうそう。メルJだって本来は専用機を充てたっていいんだ。けれど、鹵獲した《バーゴイルミラージュ》なのは不服なんだと思う。反応速度もシュナイガーとは全然、雲泥の差と言ってもいい。けれどこれは米国との協定もあるから、下手に動かせない。メルJに関してはこれ以上の譲歩はないよ。個人的な心象も含めてね」

 それぞれの人機の名前の下に操主候補の名前が続けて書かれていく。各々の専用機とされているが、自分のように専用機が二つある場合も増えてきた。

 その中で迷子のように金枝の名前だけが別の場所に書かれているので思わずさつきは問いかける。

「あれ? 三宮さん、確か《モリビト燦号》の操主なんじゃ……」

「それなんだけれど、三宮には可能な限り、《モリビト燦号》に頼らない戦い方をこれから模索して欲しいんだよねー。もちろん、こっちでも《モリビト燦号》の解析は進めているし、パワーローダーを使って実戦に投入できるようには改良は続けるつもり。でも、《モリビト燦号》も……元々乗っていた《モリビト天号》も特殊なんだ」

「特殊……ですか」

 金枝自身、この現状を打破したいのは気持ちとしてあっても、操主としての実力がそれを許さないのだろう。エルニィも苦心の果てに言葉を放っているのがさつきには伝わってくる。

「そう。《モリビト燦号》はスロースターター過ぎる。かと言ってモリビトタイプの増産、あるいは量産は難しいんだ。日本で血塊が馬鹿みたいに採れるんなら変わって来るけれど、今のところはカナイマやウリマン、ルエパの現地の補給ありきだし。その補給路だって米国に邪魔されてる。……あ、さつき。今、何でじゃあキョムや京都支部はモリビトタイプが造れるんだって思ったでしょ?」

 表情に出ていたのか、それともここまで一緒に時間を過ごしてきたせいか、さつきはぎょっとして頭を振る。

「か、考えてませんよ……」

「まぁ、そう思うのも無理はない……って言うか、この二つは特例なんだ。京都支部の裏には金剛グループって言うとんでもないスポンサーが居た。それに、元々《モリビト燦号》は《モリビトZ‐1》の改修機。これも米国……嫌になっちゃうね。と言うわけで、追加生産をするのには日本と言う場所は国力も資源も乏しい。アンヘルも万年、資金難だしね。モリビトタイプをそうほいほいと充てられないのはこれが理由なの」

「……じゃあ、金枝には専用機とか……」

「甘えない! ……ボクだって輸入したパーツをやりくりして無理やりなんだからね。本当は《ブロッケントウジャ》をあんな風やこんな風に……自由にカスタムしたいもんだよ! ……操主に我慢を強いるのはメカニックとしちゃ三流だけれど、今は乗れる機体を幅広くする、これがボクらにできる精一杯だね」

 ホワイトボードに記した事柄を纏め上げたエルニィに金枝は目に見えてしゅんとしていた。それもこれも、自分が自由自在に乗り回せる機体がないのも関係しているのだろう。

「その……でも無理やり《ナナツーライト》に乗せようって言うのも……」

 思わず意見するとエルニィはむっとして資料を取り出す。

「……そりゃー、本当は能力を引き出せる機体が一番いいけれど、今のところそれが難しいんだ。それに、三宮は本当にモリビトタイプ以外の適性が取られていない。これはチャンスだと、ボクは考えている」

「チャンス……ですか?」

「可能性はいくらでもあるってこと。モリビトに固執し過ぎても仕方ない。それに、金剛グループに三宮の手はほとんど割れてるんだ。こっちで秘策を持ち出せるとすれば、三宮の乗れる機体の手札をたくさん持つしかない」

 資料を叩いてエルニィは難しい顔をする。恐らくは、エルニィにしてみても今の金枝の立ち位置を決めかねているのだろう。その末の苦渋の判断――それが乗れる機体を片っ端から試してみる、と言う人海戦術なのだから天才と謳われた彼女にしてみれば苦渋に満ちているのは窺える。

「その……それって……金枝はこれからも、色んな機体に乗れってことですか……」

 金枝が気乗りしないのも分かる。専用機があるかと思えば、それは実戦では使えないと判断されたのは自分の人格を否定されたようにも感じるのだろう。

「……まぁ、やり方次第だって思ってはいる。前向きに考えるのならね。三宮は下操主の経験も浅いし、何とか上手く組み込めればって。それに、こっから先でまた新しい機体が補充されることもあるんだ。その度に色々と試せるのは強みだよ」

「……でも、それじゃあ……」

 反論しかけて、金枝は唇を噛んで言葉を噤む。言いたいことは分かる。金枝もただ我儘なだけではない。それが理解できるからこそ、ここで下手に抗弁を発したところで堂々巡りなのは明白であった。

「とりあえず! 話はここまで! ……三宮の気持ちが簡単に分かるなんて言えないけれど、ボクにできることはこれだけなんだ」

 エルニィがホワイトボードを引いて立ち去っていく。何だか今は余計なことを言うのも憚られるようで、さつきは金枝の背中を見守っていた。

「……川本さん。金枝は……もっとやれるようにならなくっちゃ駄目なんでしょうか」

「いえ……その……私も最初は上手くいかなかったですし……」

 どうにも適切な返しが思い浮かばないでいると、シミュレーターから出てきたルイと鉢合わせする。

「あら、あんたたち。何をやってるのよ。馬鹿ヅラ引っさげて」

「る、ルイさん……! 今の三宮さんはその……ちょっとナイーブって言うか……」

 大慌てで制するとルイが手に持っていたのは古びた紙であった。丸められたそれをさつきは視野に入れる。

「……何です? それ」

「これ、あの自称天才が持ってきたものじゃないの? ……さつきとコネ宮のサポートに回るからって言うんで書類と一緒にシミュレーターの隅に置かれていたわ」

 いくつかの重要書類と共に広げられた古びた紙は、どうやら地図のようであった。

「……これ……地図ですか?」

「みたいね。けれど、何だかいい加減な地図。簡素な地図記号と場所がざっくりと書かれているだけで……何よ、この赤いバツ印」

 あっ、とそこでさつきは思い至る。

「……もしかしてそれ……何か重要なことを示した地図かもしれません。トーキョーアンヘルは資金難だって言ってたし……」

「……タンス預金でも隠してるって言うの? ……いいえ、あの自称天才の財産は案外とんでもないから、タンス預金なんてものじゃない。文字通り、“宝の地図”……?」

「宝の地図……? いやいや。まさか」

 そんなものがこの御時世に出回っているわけがない、と現実的な判断を下す一方で、エルニィの物言いを思い返すとどこかに秘密の資産くらいはあってもいいものだと空想する自分も居る。

「……ちょうどいいわ。さつき、コネ宮も着替えたら作戦指揮室まで来なさい。そこで重要会議よ」

「重要会議……? 何です?」

「……本当におとぼけ癖がついてるのね。コネ宮、あんたも来るのよ。重要な……これからの私たちの金銭事情がかかっているんだからね」

 ――宝の地図と言うものが実在するとは到底思えなかったが、エルニィが置いて行ったのは確かなようで、ルイは率先して地図記号を読み取る。

「……さつき、読めないわ」

 まさか、そこまで学力が乏しいとは思っておらず、さつきは肩透かしを食らった気分であった。

「いや、ルイさん……自分から宝の地図だって言っておいて……」

「分かるのはこの間教えてもらった程度だもの。これ、何? 丸の中にバツがあって、これも目的地?」

「えーっと……これ、何でしたっけ? 三宮さん、分かります?」

 その問いかけに金枝は地図を覗き込んでから、あっと気付く。

「これ、警察署……じゃないですか?」

「警察署……ね。ってことはこの道で合ってるわ。それにしても……バツ印がたくさんあって、ややこしい……」

「これは“文”なので中学校で……ということは案外、毎日通っている学校の近くですよ、これ」

 まさか金枝が意外にも活躍するとはお世辞にも思っておらず、さつきは少しだけ呆気に取られていた。

「……三宮さん、ちゃんと勉強が役立っているんですね」

「そ、そうですか……? ふふーん♪ 金枝はなんてったって天才美少女操主ですので!」

「そうやってすぐに調子に乗る……。私だって地図記号くらい読めるわ。鳥居のマークが神社だから……本当に通学路そっくりね。そう言えば、あの自称天才は教師もやっているわけだから、校庭とかも使えるわけね」

 三人で固まって通学路を辿っていくと、不意に橋の下から呼びかけられる。

「おぉーい! 何やってンだ? 珍しい取り合わせだなァ、オイ」

「おに……小河原さん? ……えっと、もう戻っていたんだ?」

「おう。どうせ自衛隊の連中の《ナナツーウェイ》の訓練を見てやるのも暇なもんだから、抜け出して来ちまった。あいつら、まだ周回してンのかなぁ?」

「だ、駄目だよ! 自衛隊のみんなが可哀想じゃない!」

「そうか? どうせ何回やったって馴染む時にゃ馴染む。馴染まん時にはとことん馴染まないもんだぜ? それに自衛隊ってもんは筋トレが趣味なんだろ?」

「も、もう……お兄ちゃんはそう言う……あれ? 三宮さん、どうしたの?」

 率先して話しかけている自分に比してルイがどこか素っ気ないのはまだ分かるが、どうしてなのだか金枝までこちらの背中に隠れるので思わず振り返る。

「……小河原両兵と本当に……フレンドリーに話すんですね。川本さんは」

「あ、えっとぉ……そう言えばお兄ちゃ……小河原さんとこうして喋っているのってあんまり見せてないっけ?」

「別に、無理しなくっていいですよ。それが自然体みたいですし……」

 そうは言いつつもどこかむくれているのが窺えるのでさつきは困り果ててしまう。

「小河原さん、これ。宝の地図」

 そうかと思えばルイが抜け駆けをして両兵に宝の地図を見せつける。むふん、と鼻息荒く披露したかと思うと、両兵は胡乱そうにそれを眺める。

「これが宝の地図だぁ? ……確かに紙は古そうだが、そういう加工なんじゃねぇの? こういう風に仕上げるんなら……手早い方法は、だ」

 ルイが持ち上げた宝の地図を両兵が不意に嗅ぐので、ルイも自分も赤面してしまう。金枝はそんな中で率先して指摘していた。

「へ、変態……! 小河原両兵は変質者ですか! いたいけな女子中学生の匂いを嗅ぐなんて!」

「あン? そういうんじゃねぇよ。こういう加工の基本技術として茶渋やらで汚してそれっぽく見せるってのがあるンだよ。嗅いだ感じ……コーヒーっぽいか?」

「な、何だ、そうならそうって……」

「……何でオレがお前らの匂いを嗅ぐ変態だと思われてンだか。心当たりねぇんだが」

 両兵にはなくともこっちには大ありである。つい先ほどまで訓練したせいで汗臭いだろうとはこの三人の誰も言い出せない。

「そういうの、女の子のほうから言わせないでって……ま、まぁその……コーヒーの匂いがするんだよね?」

 無理やり話の方向を変えると、両兵は宝の地図を掴んで少しだけ引っ張る。

「まぁな。加えてこのくらいの加工なら、ちょっとした湿り気があるかと思ったら、案の定だ。作ったのこの三日くらいだぜ、これ」

「そこまで分かるんだ……? お兄ちゃん、何で?」

「何でって……身内にプラモ大好き人間が居たからとしか言えんが、そういうこった。感覚で分かるんだよ。つまるところ、これは宝の地図なんかじゃねぇってことだな」

「それは分かっていますよ。金枝たちだって馬鹿じゃないんですからね!」

 ふん、と鼻息を漏らして自信満々に言い放つ金枝に両兵はこちらへと囁きかける。

「……なぁ。あいつ、お前らの前でもああなのか?」

「あ、うん。三宮さんはこんな感じ……」

「……困ったもんだな、三宮。つーか、お前、一応はさつきや黄坂のガキよか年上だろうが」

「一応とは何ですか! 金枝は立派なレディーなんですよ!」

 どうしてなのだか金枝は両兵の前だと弱気な部分を見せようとはしない。それが彼女なりの処世術――否、そういう関わり合い方なのだとすれば関与はしないつもりであったが。

「……ま、それも加味してみると……ガッコが怪しいんじゃねぇか?」

「学校……? あっ、ついさっき地図記号から学校の通学路を辿っているのは分かってて……」

「なら余計に確信だな。ガッコの庭にでも埋めてあるんじゃね?」

 赤いバツ印が示すのは確かに学校の付近であるが、そもそもエルニィがこんな回りくどい真似をするかどうかで言えば疑問である。

「……柊神社でもいいのに」

「柊神社だとまずいんじゃねぇのか? 一応は、柊の目の届くところだし。ガッコならまだ何とかなるっつー……。って言うか、この地図はパチもんだろ? 誰だよ、これ作ったの」

「多分……立花さん、ですよね?」

 ルイと金枝に目線で問いかけると、ルイはちょんちょんと両兵の肩をつつく。

「……何だ?」

「宝の地図。多分、自称天才の隠し財産。私たちで取り分は三人で分け前のつもりだったけれど、小河原さんにバレちゃったんなら、四人分でどう?」

 どうやらルイは両兵に宝の分け前の交渉をし始めたらしい。そのしたたかさに嘆息が漏れたのは自分だけではないようで、両兵もなるほど、と呟く。

「……このままご破算にするよりかは、多少取り分が減っても、か。てめぇらしいな。じゃあ、オレも混ぜてもらおうか」

「えっ、お兄ちゃん……学校まで来るの?」

「おう。乗りかかった船って奴だ。何だ、まずいのか?」

「ううん、大丈夫……だと思うけれど……」

 思わず両兵の服装の上から下まで眺める。そろそろ夏が近づく時分だと言うのに、ぼろぼろのコート姿にいつ着替えたのだか分からないいつもと同じの服装である。

「……さつき。小河原さんには校門で待ってもらいましょうか」

「……はい。お兄ちゃんが学校に入ると……色々とまずそうなので、そこまでの道のりはちゃんとってことで」

「何だよ。風呂なら三日前に入ったぞ?」

「……そういう問題じゃ……いや、うーん、そういう問題なのかな……?」

「まぁ、行こうぜ。久しぶりだな、こういうの。ガキん頃はよくやったもんだがな」

 しかし、こうして女子三人と連れ立つと両兵の威容さと言うのは浮き立つもの。地図を読み解こうとする両兵をちらちらと見ていると、彼は眉根を寄せる。

「……なぁ、さつき。これ、どういう意味だ? バツ印他にもあるじゃねぇか」

「あっ、それは……」

「それは交番ですよ。……まったく、小河原両兵は学がなくって困りますね!」

 金枝が仕入れたばかりの知識を披露する。両兵は違いが分からないのか、地図を凝視する。

「じゃあ、これは? 太陽みてぇなマークに棒が生えてるが……」

「どれどれ……。これは発電所ですよ。そんなことも知らないんですか?」

 金枝の勉強も一晩程度で頭に入れた内容だが、今回ばかりは優位に立っているのか両兵は感心そうに頷く。

「何だ、三宮てめぇ、ガッコ全然行ってないんじゃねぇのかよ。案外、勉強はしてんだな」

「ふふーん♪ トーゼンです! 金枝はぱーふぇくとな美少女なんですからね!」

「……豚もおだてりゃ木に登る、ね。とんだピエロよ、コネ宮」

 ぼそっとルイが呟く気持ちも分からないでもない。しかし、こうして金枝が両兵と喧嘩もせずにああでもないこうでもないと言っているのは貴重ではないだろうか。

「……ルイさん。でも、結構いいんじゃないですかね。今回ばっかりは」

「そうね。今回ばっかりはおだてられた豚であるところのコネ宮も役に立っているわ」

「……な、何ですか。豚だの何だの……金枝はこれでも体重とか気にしてるんですよ……?」

「おっ、見え始めたな。どれ、オレはガッコには入れねぇから、お前らだけで掘り返して来いよ」

 共学の校舎が見え始めてさつきは、あれ? と疑問に感じる。

「そういえば……誰もスコップやら何やら持っていませんけれど……もし、宝が校庭に埋められている場合はどうするんですか?」

 びくっ、とルイと金枝が硬直する。ここに来るまで考えないはずがなかったのに、恐らくは宝と言う浮ついた事柄に忘れていたのだろう。

「……ルイ先輩、どうします?」

「ここで撤退はさすがにもったいないわ。……仕方ないわね。手で掘れる範囲でやりましょう」

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