JINKI 330 いつか虹色の微笑みのために

 何だか一気に欲望の振れ幅が小さくなったのを感じてさつきは、これは隠し資産は期待できそうにないな、と感じていた。

「……でも、立花さんも先生とは言え校庭に物を埋めるなんて目立っちゃうんじゃないですかね?」

「つーことは、だ。いつでも掘り返せるように分かりやすいか、あるいはそこまで深くはねぇんだろ。立花だってガッコにスコップ持ってくのは目立つだろうし、それこそ立花にしか分かンねぇ、合言葉でもあるのか」

「合言葉……あっ、そう言えば学校の用務員さんって……」

 そこまで思い至ったのは自分だけではないらしい。

「それなら、小河原さんが入っても大丈夫かもね」

「……うん? どういうことなんです?」

 ここでピンと来ていないのは金枝だけなのだろう。そう言えば、金枝はまだ関係性が薄かったか。

「おーっ、両兵じゃねぇの。何だ、アンヘルの女の子三人と連れだって、羨ましいな、コンチクショウ」

 校門の前で清掃作業に移っていた人影に両兵はげっ、と声を出す。

「……何で居んだよ、勝世……」

「何でって、普段のオレはこうして真面目な用務員……って、何だ。もう見つけたのか。じゃあしょうがねぇな」

 宝の地図を認めるなり勝世は校庭へと手招く。その導きに従い、四人で連れ立つ途中で金枝がこちらへと囁きかける。

「あの……あの人、確かトーキョーアンヘルの……?」

「あ、はい。三宮さんはまだよく知らないんでしたっけ? 勝世さんはトーキョーアンヘル直属の諜報員の方なんですよ」

「……諜報員……」

 警戒心マックスの金枝の眼差しに眼前で勝世は両兵へと肘で小突く。

「……なぁ。オレ、なんかしたか?」

「知るか、マヌケ。どーせてめぇのこった。言い寄ったりでもしたんじゃねぇの?」

「失礼な奴だな、ったく。オレはちゃんとそういう公私は分けてるって……あ、三宮金枝さん? オレ、勝世。よろしくな!」

 本人としてはサムズアップで爽やかに決めたつもりなのだろうが、金枝は余計に自分の背中に回り込む。

「……その、よろしくお願い……します」

 それでも本人なりに返答したのはまだマシだったのだろう。両兵がそんな有り様を他所に地図を指差す。

「それよか。この地図、お前も関わってたのかよ」

「エルニィちゃんのだろ? いい感じに作ってくれとのお達しだったからな。……って、何だよ、分かってて三人揃ったわけじゃないのか?」

「……三人……?」

 さつきが戸惑いがちにルイと金枝に視線を振ると、勝世が手持ちのスコップで校庭の一部を掘り返す。慣れた所作で掘り出されたそれは――。

「……何だ、それ? CDか?」

 黒い袋に収められたCDが一枚、勝世はそれをくるりとひっくり返し、手持ちのラジカセに入れる。

『えーっと……これ、録れてる? こほん。これ、見つけたのは誰になるのかなぁ? 一応、ルイに仕掛けようと思ってるんだけれど、もしかしたら赤緒かも。あっ、赤緒は今、台所に居るんだっけ? じゃあちょっとだけ声を潜めないとねー……』

「立花さん? これ、録音……?」

 首を傾げているとラジカセからエルニィの声が響き渡る。

『まぁ、宝の地図は勝世に用意してもらったし。これがどういう結果になるのかは全然分かんないけれど、どう? それなりに楽しんでくれた? ……いやーさ、ボクも正直、ここ数日間は現実的なことばっかり見て……そういうことばっかりみんなに話してると思う。けれど、そういうのの後にはさ。きっちりみんなに見返りがないとね! これを見つけたんなら、それは当然って感じに』

「どういうことなの? 自称天才は何を……」

 しーっ、と勝世が唇の前で指を立てる。それを聞くのは野暮だとでも言うように。

『うぅーん、難しいなぁ……。けれど、さ。ボクはこれ、案外悪くないんだと思ってるんだ。三宮も頑張ってるし、アンヘルのみんなの頑張りは……分かってるつもり。だからこそ、これをみんなに捧げたい……って、何恥ずかしいこと言ってんだ、ボクってば。なお、このメッセージは自動的に消滅する……ってのは最近観た海外ドラマからかな。ボクからの特別プレゼント!』

 途端、ラジカセが爆発する。勝世の手元で爆破したのでさつきは慌てふためく。

「わわ……っ! 勝世さん、大丈夫ですか……!」

「けほ……っ。予め聞いていたとは言え、さすがだな。本当に聞いたら証拠を残さないとは。けれどまぁ、そのお陰ってもんで」

 ラジカセの中から飛び出したのは小さな紫色の巾着袋であった。両兵が胡乱そうにそれを見つめる。

「……何だ、そりゃ。最初っからこのラジカセで再生しろって言われてたのか?」

「まぁ、そういうこった。エルニィちゃんなりの……労い、なんだろうな。自分の口から言うとどうしても説教臭くなるって言うから預かっていたんだが」

「労い……ですか?」

 巾着袋の中にはコインが入っている。しかし、どれも実際の価値があるとは思えない虹色のゲームコインだ。

「何よ、これ。……ゲーセンで適当に仕入れたゲームコインじゃないの」

「そうでもないぜ? コインの表面にほれ、ちゃんと書いてあるだろ?」

「あっ、私の顔……」

 コイン一枚一枚にトーキョーアンヘルメンバーの顔が描かれており、ちょうど五枚あった。

「……エルニィちゃん、金枝さんに何かできないかってずっと考えてたみたいでな。けれど、自分の口から言うとどうしてもメカニックとしても操主としても上から目線になっちまうからってんで、こういうのを考えついたらしい」

「……これ、金枝の顔?」

 簡略化した金枝の顔が描かれたコインを翳す。虹色に輝く称号に、勝世は告げていた。

「面と向かって、お前は頑張ってる、なんか言える立場でもねぇんだろうな。だからこその……まぁ、エルニィちゃんなりのぶきっちょな優しさってわけさ」

「立花さんなりの……。そっか。三宮さん、もしかしてですけれど……立花さんに呼びかけられると、びくってしていたんじゃないですか? 怒られるんじゃないかとか、叱られたらどうしようだとか」

「何でそれを……あ、いや……」

 失言であった、と口を噤もうとする金枝にさつきは微笑みかける。

「……いいんだと思います。だって私たち、トーキョーアンヘルの同じ仲間なんですから。怖がったりしても、仕方ないって言うか……。言ったじゃないですか。最初は私も上手くいかなかったって。そういう風に、歩み寄りって言うのかな。三宮さんなりに、立花さんのこと、これからも好きでいてくれますか?」

 金枝は戸惑いがちに紅潮した頬を掻く。

「いえ、その……別に嫌いとかじゃないって言うか、その……」

「何だよ。てめぇもとことんに不器用な奴だな、三宮。さつきはそんな風に壁を感じる必要もねぇって言ってンだ」

 両兵の言い草も乱暴ではあったが、それがしっくりくるはずであった。

 最初こそ、自分たちの間にも壁はあった。けれどそれは、完全には消えなくともお互いの時間と距離で、きちんと歩み寄りができるはずだ。

「三宮さんっ。よかったですね、立花さんの……心のこもったプレゼントですから」

「心のこもった……そういえば金枝……トーキョーアンヘルの方々から直接物を貰うのは……初めてかもしれません」

 ぎゅっ、と虹色のコインを金枝は握り締める。

 勝世が両兵にウインクしたので、これもある意味では予定調和だったのかもしれないが、それでもいい形であったとさつきは思えていた。

「立花さん、厳しいことも仰られると思いますけれど……私たちのこと、一番に考えてくれてるんだなぁ」

「――あっれー? さつき。ここに置いといたさ……茶色の……古っぽい紙知んない?」

「知りませんよ。どっかにやっちゃったんですか?」

「うーん、大事なものではあるんだけれど……まぁなかったらなかったで。……いやまぁ、いいんだけれどさ」

 台所をひっくり返すようにエルニィは納得できていない面持ちで机の上や棚の上を探っていく。

「……立花さん」

「うん? なにー? 今、ちょっと忙しい――」

「いえ、その……私たちのこと、一番に考えてくれてありがとうございます。搭乗する人機も……ちゃんと。だからその、お礼したくって」

「お礼なんて、変なさつきだなぁ。ボクはこれでも……まぁそれなりに? みんなのことを纏めないといけない立場って言うか……」

 皿洗いを中断してさつきは振り返り、虹色のコインを片手にウインクする。エルニィの視線とかち合ったところで、向こうも察したらしい。

「……やられた。今回ばっかは想定外。もうちょっと骨のある謎解きにしたかったのにぃー。あと、バレるの早過ぎて余韻も何もないよ」

 不貞腐れたように椅子に座り込むので、さつきは言葉にしていた。

「でも、三宮さんのこと。それに私たちのことも……考えてくれてたんですよね?」

「カッコつかないなぁ……。三宮には言わないでよね。これ、余計なひと言……いや、独り言だし。ボクらは三宮のこと、京都から連れ出した共犯者なんだから。疎外感なんてここでは感じる必要はない……って、喋り過ぎたね」

 ピン、とエルニィが手元のコインを弾く。そこにはあの巾着袋に唯一入っていなかった、エルニィの顔のコインがある。

「立花さんの心のこもったプレゼント、しっかりと受け取りました!」

 虹色コインに、微笑みと真心を込めて。

 きっといつか、全員の笑顔のコインを集めることだって、自分たちならばできるはずなのだから。

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