JINKI 331 数センチの歩み寄りを

 眼前にはルイの《ナナツーマイルド》が剣を構えている。その太刀はいつものようにメッサーシュレイヴではなく、本来ならば自分の得物のはずのスプリガンハンズであった。

『メルJ、似つかわしくない武器だからって油断しないでよね。……ルイは相当な使い手なんだから』

「それくらいは分かっている。……立花、武器を替えるのはいいのだが、本当にこんな軽い武装でどうにかなるのか?」

『そっちこそ。《ナナツーマイルド》の刃は伊達じゃないわ』

 本来ならば相手の武装であるメッサーシュレイヴを《バーゴイルミラージュ》で構える。

 細く、しなやかな剣は武骨な《バーゴイルミラージュ》には似合っていない。しかし、これも一つの試金石なのだ、と予めエルニィから聞かされていれば反論するわけにもいかない。

『じゃあ、準備はいい? 勝負の方式は明白。お互いに手持ち武器は三つずつ。それぞれ弾切れ、あるいはどっちかの武器が尽きたら終了ねー。ツッキーとシールも計測はできてる?』

『おう、問題なしだ。それにしても……本来ならばこういうのって試すのはもっと後でもいいんじゃねぇのか? 何だってこのタイミングで……』

『このタイミングじゃなくっちゃ駄目なんだってば。エルニィの説明も聞いたでしょ? それにヴァネットさんとルイちゃんの……強いがゆえにある意味では問題点もね』

 諌める月子の声にコックピットでメルJは長く息をつく。

 ――問題点。そう評されてしまえば、そこまでなのだが、あらゆる戦法を試すのがこれからのトーキョーアンヘルの課題なのだと既に説明は受けている。そもそも、こうして《バーゴイルミラージュ》の性能試験を取るのもこの機体を鹵獲してからで言えば久しい。

「……頼んだぞ、《バーゴイルミラージュ》。……私に、可能性を見せてくれ」

 こうして人機に語りかけるのも思えばそうそうなかった。人機の性能を信じ、自分の操主としての腕を信じる、それはかねてより忘れていた人機操主としての在り方の根源であろう。

『メルJ、言っておくけれど……怪我だけじゃ済まないかもしれないわよ』

「それはこちらの台詞だ。スプリガンハンズを握ったのならば、殺すつもりで来い。元々、その刃は安くはないのだからな」

 互いに舌鋒鋭く牽制する。こうしてルイと人機越しに対峙することもこれまでなかった。それはエルニィの編成した《エスクードトウジャ》による上操主と下操主としてこれまでもあり続けるのだと思っていたからだ。

 ある意味では思い込み、そして双方共に操主としての高みにあるだけに考えもしなかった。

 トーキョーアンヘル最強の操主――その座をかけての戦いにおいて最も障害となるのはこれまで互いに背中を預けそして時には欠点も補い合った存在だと言うのは。

『言っておくけれど、手加減はしないわ。それはあんたへの侮辱になるのだろうし、私にとっても同じ』

《ナナツーマイルド》が姿勢を沈め、スプリガンハンズを逆手に構える。そのような構え方、と勇みかけた己を抑え、メルJはメッサーシュレイヴを正眼に構え直す。

「……行くぞ……!」

 今ここに――最強の操主の栄冠の行方を巡って勝負の火蓋は切って落とされたと言うわけだ。

 その理由を思い返す。ほんの些細な、そして大したことのない出来事なのだと、最初は思ったのだが――。

「――ヴァネットさん。あの……コーヒーでもどうですか?」

 柊神社の下階に降りるなり赤緒に呼び止められ、メルJは眉根を寄せる。

「構わんが……どういう魂胆だ? 私なんかとお茶なんて性質でもないだろうに」

「いえ、その……。たまにはヴァネットさんとちゃんと喋りたいなーって……」

 そう言いながらも赤緒の目線は泳いでいる。何か真正面からは言い辛いことでもあるのだろう、メルJは嘆息混じりに応じていた。

「……いいだろう。しかし、私もここ数日はなかなか……日本では茶をしばく、とも言うのか? ……何でお茶をすることを“しばく”と言うんだ?」

「わ、私に言われましても……。日本のそういう言い回しだとしか……と、とにかく! お茶の用意をしますねっ!」

 赤緒が台所へと取って返したので居間へと赴くとそこには筐体と向かい合って難しそうに呻るエルニィと、それとは正反対にゲームに興じるルイが先客として座り込んでいる。

「えーっと……これがこうで……これがああで……」

「こっちで攻略だから……あっちのコマンドを入れれば……」

 仕事に打ち込むエルニィにわざと聞かせるようにルイがコマンドを呟く。

「そうそう、上下右右BBA……って、ああっもう! ルイのせいで報告書間違っちゃったじゃん!」

「あんたの頭がおめでたいせいでしょうに。それに、本物の天才だって言うんなら他人が何をしていたって気にならないはずでしょう?」

「……言ってくれちゃってぇ……。大体、今回の調整はボクが一番頭を悩ませているところで……! ルイに分かる? あれやこれや……大変だってのが……!」

「知んないわよ。あんたが身勝手に背負ってるだけでしょ」

 エルニィの追及から逃れるようにぷいっと視線を逸らしたルイは華麗にコマンドを決めてCPUの対戦相手を蹴散らしていく。

「……もう、言い返せるような余裕もないってのに……あ、赤緒ー。ボクもお茶ー」

「えぇ……さっき飲んだんじゃないですかぁ……」

「さっきのは渋いお茶だったから、今度はあまーいココアねー」

「……ワガママなんだからなぁ、もう。あっ、ヴァネットさん。こちらです。南さんがこの間の出張で買い付けてきた高級な奴で……」

「ああ……」

 そうこうしている間にお見合いになってしまう。赤緒は何かを切り出そうとしているようであったが、ルイとエルニィが居るこの場でいいのだろうか、とメルJも気にかかる。

「……あのですね。言い辛いんですが……」

「な、何だ? 言っておくがきちんと家賃は収めているし、それに訓練にも定期的に顔を出しているはずだが……?」

 こうなってしまうとコーヒーもほとんど味がしない。せっかくの高級品が台無しである。赤緒もそれは分かっているのか、自らもコーヒーを口に運びつつ戸惑いを浮かべる。

「そ、それはまぁ……ちゃんとしていただいているのは確かなんですが……」

 何か粗相をしただろうか、とメルJは思索を続ける。ここ数日は問題のあるような行動は控えているはずだ。

「……その、だな。いいだろうか?」

「あっ、はい……」

「……自供したほうが傷は浅くって済みそうだからな。この間、黄坂南の盆栽の一つに銃弾を撃ち込んだのは私で……」

「えっ、あれ……ヴァネットさんだったんですか……? ほら! やっぱり私じゃなかったじゃないですかぁ!」

 赤緒がエルニィに言い出す。エルニィは筐体を弄りながら唇を尖らせる。

「だってぇー、赤緒が要らない世話をするからじゃん。掃除が行き届いていないからって、南の趣味の盆栽周りをいじくった時に、ぽろっとやっちゃったのを見たもんだから」

「それで私がやったって言うんですよ! 酷くないですか? ヴァネットさん!」

「あ、ああ……それは酷いな……。って、待て。そんなことになっていたのか?」

「だってぇー……私ももしかしたらやっちゃったかも、って……」

「それをボクが目撃しちゃったもんだから、赤緒も逃げ切れないと悟って南に平謝りしたんだよねー」

「……って言うか、やっぱり私じゃなかったんだったら……謝り損ですよぉ……」

 しゅんとする赤緒にメルJはそれとなく語りかける。

「その、だな……。あとで黄坂南には私の口から謝っておくが……それではないのか?」

「違いますけれどぉ……何だかダメージが大きいなぁ……」

 喋る気をなくされてしまえば何だかそれも気分が悪い。メルJは思い当たることを手当たり次第に言っていく。

「その……私だけ普段は食後に水を貰っているが……この間来ていたセールスの水を受け取ると勝手に言ったこと……か?」

「あーっ! あれもヴァネットさんだったんですか? もうっ! 解約するの大変だったって五郎さん言ってましたよ!」

「その、すまん……。綺麗で身体にいい水に力を入れているとか、何だとか言っているので、ちょうどモデル仕事に出る前に言われたものだから手早く済ませようと思ってな……」

「お仕事に出る前だからって、そういうのは私か五郎さんを通してくださいよ! 柊神社の財政だってあまりいいとは言えないんですからっ!」

「うっ……って、それでもないのか?」

「あっ……ついつい怒っちゃった……。言い出しづらいなぁ……」

 お互いに手札を出し尽くした状態で何だかかしこまるばかりである。これでは答えも出ないと、メルJはここ数日のやらかしを脳内で清算する。

「……では、何だ? と言うか、私を叱ろうとしてここに呼んだわけではないのか?」

「そんな……! ヴァネットさんを叱るなんて滅相もない……!」

「その割には、今しがた二回叱られたが……」

 赤緒も言い返せないのか、困惑し切った眼差しをエルニィへと流す。エルニィはキーボードを叩きながら、しょうがない、と切り出していた。

「……本来は赤緒が言うところなんだからね、まったく。これは一個貸し借り。メルJさ、ここ最近無理してるんじゃないのって、赤緒が言い出しちゃってさ」

「……無理、か? いや、別に……」

「けれど、ヴァネットさん……最近はお仕事で夜遅くのこともありますし、逆に朝すごく早いこともあるので……」

「だから、無理して色んなことがおろそかになる前に、一回ハッキリしておかないとねってことよ。最強の操主が誰なのかって」

 ルイがコマンドを打ち込みながらテレビから視線を外さずに口にする。メルJにしてみれば、あまりにも浮いた言葉に閉口するしかない。

「……最強の操主? 何でそんなことを……」

「これ。その書類。一応ね、こうして書面で出せって言われてるんだ。“トーキョーアンヘルにおいて最も専守防衛に秀でた操主の名前の選出”って名目でね」

 メルJはプリントアウトされた書類をエルニィから受け取る。全文英語であったが、そこには確かに“トーキョーアンヘル専守防衛の要”と記されている。

「……だが、それに何で赤緒がこうしてもじもじとするんだ?」

「私が言い出したんじゃないですよ? ただ……《空神モリビト2号》は要なんじゃないかって、立花さんやシールさんたちが……」

「ボクのせいにしないでよ。客観的に見て、《空神モリビト2号》の戦力は明らかに必須級でしょ。それを無視はできないって話」

「うーん……でも私、最強だとかそういうこと……男の子じゃないんだからよく分かんなくって……って、言ってたらルイさんに言われて……」

「じゃあ、あんたの思う最強の操主に直談判して代わってもらいなさいってね。……その結果がメルJなの?」

 ルイは不服そうにコントローラーを荒々しく握っている。よくよく目を凝らせばルイの周りには普段ならば赤緒が許さないであろう、スナック菓子の類が供えられており、相当赤緒の無理につけ込んだのが窺える。

 ルイはチョコレートを口いっぱいに頬張り、その後には清涼飲料水を流し込む。

 口酸っぱい赤緒ならば虫歯になるだの、健康に悪いだのそもそも昼食の前に不摂生をするなと言い出すだろう。それら全てを封殺するのが、この場での議題であった。

 ――曰く、最強の操主は誰なのか、と言う名前の問い。

「……そんなもの決める必要性があるのか?」

「防衛の要で誰が出て来るんだってのは知っておきたい誰かさんが居るんでしょ。ボクは誰だっていいって思ってるし、その都度違うって返したいところなんけれど、そこはお役所って言うの? 誰が出撃するんだって言えってさ」

「……件の米国からの圧力か」

 そう考えれば赤緒が言い辛そうにしているのも頷ける。米国とのパワーバランスは平時ではエルニィらの仕事である。それを唐突に振られれば困惑の種にもなろう。その上で、自分が最強だとエルニィに言われてしまえば、より肩身が狭くなる。

「その……私は全然……なので。けれど、最強って名乗るのって結構……怖いじゃないですか。だから、ヴァネットさんならその辺は堂々と言えるのかなって」

「……私がトーキョーアンヘル最強の操主だと、報告書に書けばいいのか?」

「この辺が面倒なところでねー。その操主の直筆が欲しいんだってさ。……どこの国のメジャーリーガーなんだって話。サインなんて意味ないのにとは突っぱねたんだけれど、向こうの言い分はそう」

 米国との協定には《シュナイガートウジャ》の関係性もある。赤緒が今、ここで実力者だと言い張るのは、それはそれでエルニィの意見にしてみれば問題があるのに違いない。

 赤緒の超能力モドキ――人機を強制停止させるビートブレイクはギリギリまで隠しておきたい手札のはず。それに比べればただ強いだけの操主の証明なら自分が被ったほうがまだいいのだろう。エルニィも直接は言わないが、それを期待している節もあった。

「……なるほどな。分かった。私がでは、サインを――」

「待ちなさい、メルJ。……そもそも、何で赤緒はメルJを最強の操主だと思ったのよ」

 まさかルイが制するとは赤緒も想定外だったのか、目を見開いて固まっている。

「でもですよ……? ヴァネットさんは世界的にも有名で……」

「それが気に食わないって言ってるの」

 ルイがコントローラーを置いてずいと歩み寄る。ルイの目力に気圧されるように赤緒が後ずさっていた。

「え、えっとぉ……」

「私になさい、赤緒。最強の操主は私よ」

 まさかの方向からの攻勢であったのだろう。赤緒は完全に言葉を失っている。

「えっと、でも……ルイさんもこういうのって困るんじゃ……?」

「そりゃあね。能ある鷹は何とやらとは言うわ。けれど、最強の操主を書面で残すって言うのなら話は別よ。アメリカに提出する前に、この中じゃ最強だって認めなさい」

 どうやらルイの闘争心にいつの間にか火が点いていたらしい。自分から言い出すのは憚られるが、赤緒の口ならばとこれまで静観していたものの、本音では割って入りたかったのだろう。

「……なら、私は黄坂ルイに預けても……」

「ちょっと待ったぁーっ!」

 そこで唐突に境内から割り込んできたのはシールと月子である。

「な……何でメカニックが……」

「メカニックだからこそ、これは見過ごせねぇな! ……おい、エルニィ。赤緒の決めたことなら口出ししねぇとは言ったがよ。この両極端がぶつかり合うってのなら、勝負の場を取り仕切らせてもらうぜ!」

「ごめんね? シールちゃん、こういう議論が昔っから好きで……。もう、男の子じゃないんだよ? カブトムシとクワガタのどっちが強いのか、みたいなのってさ」

「失礼ね。私は虫じゃないわよ」

 頑として言い放つルイは譲るつもりはないらしい。自分にしてみれば、このような些末事の議論はすぐにでも終わらせてしまいたいが、どんどんと話が大きくなっている気がする。

「どうだ? この際、全員の目の前で決めようぜ! アンヘルの今の要はどっちなのかってな!」

「ちょ、ちょっとシールさん……! これは私の問題で……」

「うん? それってーと、赤緒も含めて三すくみにするか?」

 どうにもこの議論を取り下げると言う発想自体がないようで、赤緒はとんでもないとでも言うように手を振るう。

「そ、そんなの……! 恐れ多いですって! 私は最強とかはどうでも……」

「どうでも? これだけ話が大きくなってるって言うのにどうでもとは言わせないわ」

 ルイの気迫に押されてしまって赤緒も何も言えないらしい。ここは自分が大人になるしかないようだ、とメルJは立ち上がっていた。

「……いいだろう。その勝負、受けて立とうじゃないか」

「……言ったわね? じゃあこの際、正式な書類に書かれるのはどっちなのかを決めましょう。自称天才、それにメカニック一号二号も、いいわね?」

「おう! それならちゃんとした試合の場を用意しないとな! 行くぜ、月子!」

「も、もう……シールちゃんってば……。一号二号呼びにはツッコまないの?」

 そうは言いながらも月子も楽しんでいるようで、格納庫へと取って返す。その背中をあわあわと見送る赤緒が一人。

「立花さんっ! 止めてくださいよ!」

「えーっ、了承できないんなら実力勝負でいいんじゃないの? そもそも赤緒が引き受ければこんなめんどくさいことになんないのにー」

 そう言われてしまえば反論もできないのか、赤緒はぐっと言葉を詰まらせる。

「見てなさい、メルJ。私が最強よ」

「……確かに黄坂ルイ、貴様はかなり強いのは認めるがな。それでもこうした公文書に書くんだ。誰の目から見ても、ならば文句も出まい」

「ふん、言うじゃないの。じゃあ勝負ね」

 背丈は40センチも違うのに、その自信と矜持はこれまでの人機操主としての歴が物語っているのだろう。見上げているのにまったく小ささを感じさせない。

「……言っておくが、やるのならば負ける気はしない」

 一触即発の空気になったのを感じて赤緒が取り成そうとするが動き始めた衝動は止まらないだろう。

「ふ、二人とも……! 喧嘩は……」

「喧嘩じゃないわ。これは上下関係を分かりやすくするだけよ」

「その通りだな。一度分からせてやれば、もう噛み付くまい」

「あら? それは負ける側の言うような台詞ね。噛み付き癖があるからそういう風にしか言えないんでしょう?」

 どうやらルイとは雌雄を決する必要があるようだ。

 自分の中でもめらめらと燃え上がる闘争心があるのは疑いようもない。

「じゃあ勝負の形式はシールとツッキーに決めてもらおっか。ボクは……そうだなぁ。そうだ! 賭け金の配当を考えておかないと!」

 そうと決まればエルニィの中でも全力で悪ふざけすることに決まったのだろう。つい今しがたまでの仕事を放棄し、対戦形式を書き出していく。

 ルイとメルJは額が付くほどに接近し、その眼差しを確かめる。エメラルドグリーンの瞳が射る光を灯し、この勝負の必要性を雄弁に告げる。

「勝負よ」

「いい度胸だな。承知した。存分に叩きのめしてくれる」

『――あ、あのー……二人のどちらが最強の操主になっても……恨みっこなしですからねー』

 マイクパフォーマンスを求められた赤緒の声にメルJはコックピットで鼻を鳴らす。

「気に病むことはない。私が勝つ」

『妙な言葉を聞いた気がするわ。まさか、私に勝つ、なんて。大言壮語もいいところよ』

『いいー? お互いに武器は三つずつ。今回は操主としての腕を競うわけだから、命中判定が三回で、先に取ったほうの勝ちねー』

 そのうち一つがメッサーシュレイヴ。そしてルイの《ナナツーマイルド》はその痩躯には似つかわしくないスプリガンハンズ。これはシールと月子の采配も関係しており、これまで通りの得意な武器を使うのではなく、それぞれの機体特性とは正反対の武器を扱うことができなければ最強の称号は輝かないと言う説明を受けていた。

 確かに、それくらいのほうがちょうどいい。

 最早、当初の問題であった最強の操主の書面における問題点と言うよりも、自分もルイも勝つことにこだわっている。

 ここで勝利すれば自ずと道も拓けるはずだ、と信じてメルJはメッサーシュレイヴの握り手を掴む。

 構えをあえて正眼にしたのはルイ自身の得意とする射程を読ませないためだ。

『じゃあ、見合って見合ってぇ……。レディー……ゴー!』

 ゴングが鳴った瞬間にメルJは仕掛ける。《バーゴイルミラージュ》の得意とするのは加速性能。予め空に舞い上がっておいたのは位置関係の優位をいち早く取るためだ。上空より唐竹割りの一閃を浴びせる。

「これで……!」

『甘いわね。それにメッサーシュレイヴはそんな風に使うものではないのよ』

 逆手に握ったスプリガンハンズで受け止められるのは百も承知だ。メルJは機体推進剤を全開に設定して基点を中心軸にして《ナナツーマイルド》の背後へと回り込む。

「スプリガンハンズが不得意なのは距離を詰められての翻弄……それを分かっていないわけがないだろう」

 メッサーシュレイヴを薙ぎ払う。だが、それも《ナナツーマイルド》を駆るルイには既に理解されていたようでスプリガンハンズの刀身で弾かれ、直後にはその切っ先が突きつけられる。

『あんたこそ、馬鹿じゃないの? メッサーシュレイヴの反応粒子は何でも斬れる万能。とは言え、リバウンドミストの容量を間違えればただの鉄塊。あんたの太刀筋は大雑把過ぎるのよ。そんなんじゃ、ただの鉄だって斬れやしないわ』

 舌打ちを滲ませてメルJが機体を飛び退らせたその時には、ルイはスプリガンハンズで激しい突きを見舞う。

「そちらこそ。スプリガンハンズの真骨頂は、大技の前の一撃への布石。そのように軽やかに振るうものではない」

 スプリガンハンズの刺突をかわし、メルJはその持ち手に近い位置を握ろうとして不意に《ナナツーマイルド》の放った鉄拳に翻弄される。

「……なに……ッ!」

『射程を読み違えたのはそっちのようね。《ナナツーマイルド》の細腕で殴られるなんて思いも寄らなかった? 確かに《ナナツーマイルド》はパワーも低いけれど、《バーゴイル》系列の動きは見慣れてるのよ。当然、狙ってコックピットを突くこともね』

 今の一撃はやろうと思えばコックピットを射抜けた、と言う証明だろう。ならば、とメルJは《バーゴイルミラージュ》の翼を展開し、一気に飛翔して高度を取る。

「……加減は要らんようだな」

『今さら? 武器入れ替えはたったの三回。けれど、使いこなせないのなら意味ないわよね?』

「言わせておけば……! よかろう」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です