JINKI 146 ガール・オブ・リビジョン2

『……仲間想いなんですね、立花博士。ちょっとだけ、データを見誤っていたかもしれません。そうですねぇ……私は見たかったんですよ。さつきさんのために、誰が身体を張りに来るか、というところを』

『……何それ。反吐が出る』

『そう言うとは思っていましたよぉ? でもでも、さつきさんは一人で、あくまでも一人で来た。これって、確かな証拠ですよねぇ?』

「……立花さん……」

 何か言葉を振りたかったが、いい言葉が思い浮かばない。

 そうこうしている間にも、《ナナツーシャドウ》は刃を翻し、首筋に巻いたマフラーのようになびく光学迷彩の一部を闇夜に溶かしていく。

「……また逃げられちゃう! ……立花さん?」

 どうしてなのか、引き金を引く様子のないエルニィに狼狽していると、なずなは声にする。

『さつきさん。約束を守ったその心は、きっちり買っておきましょう。ですが、今はまだそのような時ではなかったようですねぇ。……私とアンヘル、あなたたちが敵対するかどうかは、この先の運命とやらに任せましょう。何よりも、《ブロッケントウジャ》と今の《ナナツーライト》では、私には勝てない。それだけは言っておきますよ』

 光学迷彩を展開し、最早距離さえも自由に観測できない相手へと、さつきは必死に声を張っていた。

「なずな先生! それでも……そんな……掴みどころのないものだったとしても! ……私は……信じちゃ、駄目なんでしょうか?」

 その言葉への返事はない。

 完全に捕捉不可能になってからエルニィが銃口を下ろしていた。

『……あんな奴なのに、撃てなかった……。ボクは……』

 悔恨を噛み締めるエルニィへと、さつきはコックピットより出て、目線を振り向ける。

「……でも、立花さんは来てくれたじゃないですか」

 エルニィも《ブロッケントウジャ》のコックピットより出て、こちらと目線を合わせる。

 少しだけ、瞳が潤んでいた。

「……やめてよ。ボクは結局、何もできなかったんだから」

「……いいえ。立花さんが来てくれたのが、私、嬉しかったんです。……私らしくないですよね。誰かを跳ね除けてでも、一人でやるなんて。だって独りじゃないんですから」

 笑顔を振り向けると、エルニィは照れ隠しのように目線を逸らす。

「そんなの……さつきの味噌汁が美味しくなかったからだけだ……」

「……じゃあ美味しい味噌汁を、作らないとですね。明日の朝ご飯のために」

 ――朝食風景はいつも通りで、何だかさつきは少しだけ拍子抜けを覚えつつも、一人一人へと用意をする。

 その中でエルニィは昨夜のことを悔やんでいるのか、目線を僅かに逸らしていた。

 そんな彼女のお碗へと白米をたっぷりとよそっていた。

「……さつき多い」

「いえ……私は、大丈夫ですから」

「……うん? さつきちゃん、何かあった?」

 赤緒の言葉にさつきは応じる。

「いえ、ちょっとだけ……。でも、私、分かったんです。ここって、あったかい場所なんだってこと」

 こちらの返答の意味が分かっていないのか、赤緒は目を白黒させた後に、味噌汁をすする。

「……そう……。あっ、私でも分かる。さつきちゃん、今日はいつもの味だね!」

 笑顔を返した赤緒に、自分も精一杯の笑顔で返答する。

 ――きっとそれが信じるということのはずなのだから。

「――だから、なずな先生。あなたのこともその……信じようと思います」

 廊下で呼び付けたなずなはゆったりと振り返り、その茶髪の三つ編みを払う。

「……あれだけやっても、ですか?」

「……立花さんはきっと、もう信じるなって言うでしょうけれど。それでも、です。私、知りたい。なずな先生のことを、もっと……。じゃないと、信じるなんて立派なこと、できそうにないから……!」

「立派なこと、ですかぁ。どちらでもいいですけれど、でも……さつきさん。一言だけ言っておきますよぉ? ……信じた先が叶う未来だとは、限らないんですからね」

 その部分だけは、翳りを漂わせて肩に手を置いたなずなに、さつきはきゅっと拳を握り締める。

「……でも絆って、そうじゃないですか」

 ――これは、まだ叶わぬ未来への祈り。

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