「……何でもないっ! 私もお腹が空いちゃって弱気になっていたのかも! ナナ子、今日の夕飯はとっておきにしてちょうだいね」
「ええ! ナナ子キッチンが火を噴くわ!」
腕まくりをしたナナ子にはもうダイエット云々の不安はなさそうであった。
「創主様ー、ダイエットって結局何なんです? よく分からないままでしたが……」
レイカルの疑問に、作木は一拍の思案を挟んでから、いや、と答える。
「これは……ともすれば相手を想うがゆえの行動なのかもしれない。もちろん、ダイエットは自分のためなんだろうけれど、誰かのために行動できるって言うんなら、それはどんな形であれ……」
ナナ子のダイエットも伽に見合うだけの自分でありたいという願いからなのだろう。
ならば野暮なことは言うものでもない。
きゅう、と腹の虫が鳴る。
それを察知して、小夜が気を利かせていた。
「作木君もレイカルも、ナナ子が作ってくれる夕食の席にどう? 今日は腕によりをかけて、なのよね? ナナ子」
「任せなさい! オリハルコンであろうが人間であろうが、誰しもが舌鼓を打つ最高の料理を手掛けてみせるわ!」
どうやらナナ子はいつもの調子に戻ったようだ。
そんな自分たちを目にして、削里が声をかける。
「若いってのはいいな。色んなことに七転八倒って感じで」
「削里さん……削里さんもどうです? ナナ子さんの料理、絶品ですから」
「俺はいいが、伽が許さんだろ? それとも、ご相伴にあずかってもいいのかな?」
その問いかけに伽はケッと毒づく。
「しょーがねぇなぁ。オレの愛した女の手料理をてめぇみたいなのに振る舞うのは正直、勘弁ってところだが、今日は気分がいいから許してやるぜ。それに、年がら年中ヒヒイロと一緒の食事ってのも味気ねぇだろうし」
「じゃあいただくとしよう。場所は……」
「もちろん、作木君の家よね?」
小夜の提案に作木は参っていたが嫌な気分はしなかった。
――味覚の秋、色んな人間で食卓を囲うのも悪いことではない。
「……ですね。僕も皆さんと……秋の味覚、堪能したいですから」
「決まりね! じゃあ早速買い出しに行くわよ!」
やる気を出したナナ子を尻目に、カリクムがやれやれと肩を竦める。
「結局、何だって言うんだよって話だよな……私なんて巻き込まれただけだし。けれどまぁ、乙女心って奴は複雑で困るよ、ホント」