JINKI 200 南米戦線 第八話「目覚め、宵闇に咲く」

「青葉だけは、俺だけじゃない……! 俺たちの希望のはずだ! だから、ここでは……!」

『いいねぇ! オレらを守ってくれるってのか! なァ! トウジャの操主よォ!』

 下唇を噛み締める。

 血の味が口中に滲むほどに悔しい。

 悔しいが、仲間に青葉を殺させるわけにはいかなかった。

 無言を返答とする広世に、キョムの強化人間は鼻を鳴らす。

『……無反応かよ。いいぜ、どっちにせよ、この操主を……おいおい! こりゃあ傑作だな! 相手は女かよ! ぶち込んでから殺したって、バチは当たらねぇよなァ!』

 邪悪そのものの言葉に広世の思考は白熱化していた。

「貴様ァッ!」

 前後不覚になって攻撃しようとした瞬間、地層より出現した古代人機の触手がトウジャの命である脚部を射抜き、広世の機体はそのまま地に這いつくばる。

『怒れよ! アンヘルのトウジャ使い! そこで何もできないまま、犯されていく女を見ていな!』

「チクショウっ! チクショウ! 俺は……俺は青葉一人……守れないで……!」

『……あん? 何だ、枕元のアルファーが……光って……』

 その言葉が消えるか消えないかの刹那、宿舎が噴煙を上げて吹き飛んでいた。

 古代人機とキョムの強化人間が巻き起こった事象相手に驚愕している。

「これは……光の……連鎖……?」

 舞い上がったのは青い光を宿した結晶体だ。

 それが青葉の眠る医務室を包み込み、キョムの強化人間の毒牙を消し飛ばしていた。

「何が起こってるんだ……」

 広世の瞳には、結晶体の内側で身を起こした青葉が裸体のまま、全身に青い紋様を纏わせ手を開いたのが大写しになる。

 直後、古代人機が光となって取り込まれていた。

『古代人機が……? オレの用意した駒を取り込みやがったってのか……!』

 古代人機は結晶体へと一体化し、超越者の佇まいの青葉はそっと開いた手から烈風を撃ち出す。

 それはアルファーの結界となって強化人間の肉体を直上の空へと舞い上がらせる。

『何が起こったァ……ッ! 《バーゴイル》、オレを回収しろ!』

 空中展開していた《バーゴイル》に飛び乗った強化人間を気にかけるような暇はなく、結晶体は掻き消え、青葉の身体から紋様が消え失せていく。

『あ、れ……? わ、たし……どう、して……?』

「青葉……なのか?」

『こ、うせ……? 広世? あれ、私……確かテーブルダストで……モリビトと……』

「いや、そんなことより……青葉、服……」

『服……って、いやぁっ! ……な、何で全裸……?』

 その場にしゃがみ込んだ青葉はこの状況を理解していないようであったが、広世は素早く青葉から背を向け、それから言い放つ。

「み、見てないから! いいからすぐに服着ろって! 何でもいいからさ!」

『う、うん……。あれ……ここは……アンヘル……?』

 そっと一瞥を振り向けると青葉は掛布団を纏って状況把握に努めているようであった。

『何が起こりやがった……ッ! 《バーゴイル》! もういい! あの女に一斉掃射だ! プレッシャーライフルで消し炭にしてやれ!』

『させないッ!』

 躍り上がったルイの《モリビト2号》が強化人間の乗り合わせた《バーゴイル》へと一閃を見舞う。

 銃剣で防がれるも、着地したのはちょうど青葉の付近であった。

『……モリビト……モリビトなの?』

『寝ぼけてないで、とっとと手伝いなさい。……青葉、二年のツケはデカいわよ』

 コックピットハッチを開いたルイが青葉を招く。

 青葉は直後には戦闘状況であることを理解したのか、余計な部分の掛布団を引き裂き、必要最低限度の服飾で差し出された《モリビト2号》の掌に乗っていた。

 瞬間、プレッシャーライフルの光条が狙い澄ます。

「青葉!」

『広世……! 大丈夫、私には……これがあるから!』

 アルファーを翳した青葉は発生させた強力な結界陣で自分だけではなく、ルイの搭乗する《モリビト2号》ごと守護してみせる。

『何だと……! 血続だってのかよ!』

『……青葉、あんた……』

『今は、コックピットの中で落ち合おう。広世、ごめんだけれど、少し時間を稼げる?』

「あ……ああ! 任せておけ!」

『嘗めてんじゃねぇぞ、トウジャ使い! てめぇみたいなのなんざいくらでも居るんだよ!』

「……そうかもな。でもよ! ……好きな人に頼られるのは、悪くない気分って奴だぜ……!」

『抜かせ!』

《バーゴイル》のプレッシャーライフルの攻撃網を広世は機体循環パイプを軋ませて、仰け反らせる。

「俺だって……! ファントム!」

 超加速度に至った《トウジャMk‐Ⅲ》が跳ね上がり、空中ファントムを得てブレードを軋らせる。

『脚を奪ったトウジャが接近戦なんざ!』

「嘗めるな! 俺だって……強くなったんだ!」

 使い物にならない脚部で浴びせ蹴りを見舞い、両断の太刀で脚部ごと《バーゴイル》を断ち切る。

『覚悟の上って言いたいのかよ……クソがァッ!』

「片足程度――持って行けッ!」

 機体をひねらせ、もう片方の脚で相手を蹴り上げる。

 当然、待っているのは地表への激突であろうが、それを直前で支えたのはフィリプスたちの《ナナツーウェイ》であった。

『無茶をする! 大丈夫か! 広世!』

「フィリプス隊長……悪い、カッコ悪いところ見せちゃったな……」

『いいや、充分に勇猛だったとも……! 津崎青葉は?』

「青葉は……」

 広世は《モリビト2号》へと視線を向ける。

 宵闇の中で紅蓮の炎に照らし出された《モリビト2号》が、その眼窩に命の灯火を浮かべたのを、この時見たような気がした。

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