JINKI 200 南米戦線 第十二話 「シュナイガー強奪」

 抜刀した刹那には、《ナナツーウェイ》の片腕が断絶されている。

 たたらを踏んだフィリプス機へと大上段に振るい上げた《シュナイガートウジャ》に、割り込んできたのは一機の《ナナツーウェイ》であった。

 槍の穂を掲げて《シュナイガートウジャ》の格闘兵装と打ち合う。

『……使い手か』

「……ルイのナナツー……」

 ルイが搭乗する《ナナツーウェイ》が槍を回転させて構えを取り、フライトユニットの翼を拡張させていた。

『私と空中戦で戦うか。……笑止』

『やってみなくっちゃ分からないでしょう』

 その言葉が紡がれた直後には、風圧を巻き起こして二機が舞い上がっていた。

 空中で交錯する《シュナイガートウジャ》と《ナナツーウェイ》は一歩も譲らない。

「ルイ! シュナイガーの弱点は武装の少なさだ! 遠距離から攻めれば何とでもなるはず……!」

 通信機に吹き込んだエルニィの声に、ルイの《ナナツーウェイ》は武装を銃火器に持ち替える。

 そのまま相手を圧倒しようとして、《シュナイガートウジャ》は反転していた。

 距離を取った時点で下策であったのだろう。

《シュナイガートウジャ》の速度に、この時点で追いつける空戦人機は存在しない。

「……逃げ切られた……!」

 通信機を拳で殴りつけ、エルニィが悔恨を噛み締める。

 ルイの《ナナツーウェイ》がゆっくりと降下し、燃え落ちたコンテナの灰を払う。

《シュナイガートウジャ》が積載されているとされていたコンテナの中身はダミーの人機が載せられていた。

「……ゴメン。敵を騙すのならまず味方からって、シュナイガーの格納場所は伏せていたんだ。別に青葉を疑っていたわけじゃないよ。そうじゃなくってさ、新型機二機とも奪取されるって言う最悪の事態を避けたかっただけ。……青葉にしてみれば裏切られた気分だろうけれど」

「エルニィ……あの人機、でもそう簡単に乗りこなせるタイプじゃないのは分かる。あれは……何者なの?」

「ハッキングがあったって話はしたよね? そのハッキングの癖は世界を股にかけるとある犯罪者と繋がりのある情報屋だって言う話が出てきている。その名前は――メルJ。メルJ・ヴァネット。考え得る限り最悪の状況だ。キョムに匹敵する悪人の手に、シュナイガーが渡ったってなると」

 エルニィの言葉振りには心底の嫌悪と侮蔑が入り混じっている。

 それだけの相手に奪われたことが悔しいのもあれば、自分が手塩にかけて開発した人機がこうも容易く奪われ利用されたことへの言い知れぬ絶望もあったのだろう。

 青葉はようやく起き上がった《ブロッケントウジャ》がこちらを窺ったのを目にしていた。

『青葉。……すまない、俺が居ながら相手にシュナイガーを……』

「ブロッケンはまだ実戦に相当するのには無理があったんだ。これは仕方のない敗北だよ」

 それでも、エルニィにしてみれば不幸中の幸いであったのかもしれない。

 二機とも奪われていたとすれば、その絶望は計り知れない。

「いずれにしたって、シュナイガーのシグナルはロスト……。これは追いかけるのには少し無理があるわね。今は基地の消火や負傷者への対応を最優先。《シュナイガートウジャ》の奪還は後で考えましょう」

 責任者らしく南の割り切りは強い。

 青葉は遠くの空へと飛行機雲を引いていった《シュナイガートウジャ》を仰いでいた。

「……メルJ・ヴァネット……さん。あなたは何故、シュナイガーを……」

 その疑問は永遠に氷解しないように思われた。

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