こらこら、とカリクムが諌めていた。
「フォークを使いなさいよ、あんたも」
「最強だからな! このチョコレートは! ギリギリで最強なんだ! それは強いに決まってるだろ!」
どうやら言葉の響きだけで気に入ってくれたらしい。
作木は、そういえば、と隣に座った小夜へと、鞄の中から差し出す。
それは――リボンを施した、チョコレートの箱であった。
「あれ? 作木君、これって……」
「毎回、何だかんだでお世話になっているので。ある意味じゃ、友チョコって言うか、こういうのもあるって前にテレビで言っていたんで」
いわゆる「逆チョコ」というのを試したかったのもある。
毎回、小夜にばかりアプローチさせて男として情けないものを感じていたからだ。
小夜はそれを受け取るなり、笑顔を浮かべて作木の肩を叩いていた。
「も、もうっ、作木君ってば! レイカルたちが見ているわよ!」
「痛っ……! 小夜さん、力強いですってば」
「特撮で鍛えた腕力だものねー。まぁ、今日は誰もが乙女になれるそういう日。なら、どんな形でも絆って奴じゃない?」
作木は小夜と視線を交わし合い、チョコレートケーキへとフォークを伸ばす。
「じゃあ――最強の義理チョコを、食べようか」
義理とは言え、自分たちの間柄ではきっと――別の意味を持つはずだから。
「――あ、真次郎。相変わらずここは暇そうねぇ」
店先へと出た削里は、訪れたヒミコに嘆息をつく。
「何だ、ヒミコか。今日はいつもの面々が居ないからちょっと手持無沙汰だったところだよ。何ならちょっと将棋でも打っていくか?」
「本当、あんたってばそういう……。まぁ、いいわ。はい、これ」
「うん? ああ、義理チョコか?」
差し出された高級チョコレートの箱に特に何の感慨もなく受け取る。
「……言うことは?」
「それなら先客が居たんだ。世話になったからってね」
「真次郎殿。それは言わぬが華と言うものでしょう」
チョコレートを頬張っているヒヒイロに、ヒミコは目を瞠る。
「あんたに……本命?」
「どうやらこれも義理らしい。摺柴懿君がね。水刃様にあげるからその試作品って建前だが……たぶん、おとぎちゃんへの本命のためじゃないかな」
「ふぅーん、我が妹ながら、いい男を捕まえたものよねぇ」
「ま、俺とお前の間柄だし、今年もありがたく貰っておくよ」
のれんの向こうから手を振る削里に、ヒミコは腕を組んで、そっと呟く。
「……あんたはもう……。義理って私からは一言も、言ってないでしょうが」
とは言え、女のほうから言うものでもない。
乙女の戦争の季節は――今年もこうして巡るのであった。