JINKI 217 紙飛行機に想い、添えて

 居間から顔を出したルイは紙飛行機を拾い上げて得意そうにする。

「紙飛行機……ですか?」

「そうよ。これでよく飛ぶんだから」

 しゅっとルイが手を離すと、確かに通常の紙飛行機よりも空気を受け止めていて、その飛行性能は高いように思われていた。

「へぇー、すごい……。器用なんですね、ルイさん」

「まぁ、こんなの手慰み程度の趣味よ。私が一番うまく飛ばせる自信はあるけれどね」

 それでも悪い気分はしないようで、ルイは何度か廊下で飛ばしていると不意に鉢合わせたエルニィの顔に突き刺さる。

「うわっ……何これ。紙飛行機……?」

 エルニィが紙飛行機を解体すると、台紙にされていたのは折り紙ではなく、テストの赤点用紙であった。

「……ルイ、国語十四点だけれど……」

「えっ……ちょ、ちょっと見せてくださいよ……! ルイさん?」

 赤緒が恨めし気に目線を振ると、ルイは肩を竦めていた。

「日本語が難し過ぎるのよ。大体、英語は百点なんだからいいでしょう?」

「隠してましたね、この赤点! もうっ、テストの点数は全部包み隠さずって言ったじゃないですか!」

「だって赤緒はどうせ突っかかるだろうし。それなら紙飛行機に再生産したほうがよっぽどマシじゃない」

 どうやら反省する様子もないルイに対し、エルニィは赤点を引っ手繰って、へぇと興味深そうに折れ目を観察する。

「ルイ、これ誰かに習ったの? 普通に習得したにしては、かなり熟練度が高いみたいだけれど」

「ま、人機の設計図だとかを見ていれば誰だってコツくらいは分かるわよ。飛行機の安定性みたいなのもね」

「ルイさん……それ、言い訳に成りませんよ?」

「いやはや、けれど赤緒。これ、何かと面白そ……いや、こほん。役に立ちそうじゃないかな?」

「役に……紙飛行機が?」

「紙飛行機に限らずだけれど、人機の設計に関して言えば一部分じゃペーパークラフトに頼っている面もあるんだ。まぁ、実際に設計するのはコストも資材も何もかもかかるから、まずは紙で試そうって話でさ。だから、この折れ目の最適な感覚と言い、揚力を得るために必然性を秘めたフォルムと言い……どれもこれも一朝一夕じゃ成り立たないし。いいこと、思い付いちゃったかも」

 そう言って笑みを浮かべるエルニィは既に悪いことを思いついた時の顔をしている。

「……何なんです? 言っておきますけれど、赤点を紙飛行機にしちゃうのは感心しませんよ?」

「そうじゃなくってさ。うん、この際だから企画してみよっか。アンヘル、紙飛行機大会を!」

「あ、アンヘル紙飛行機大会……ですか……?」

「そうそう。これって案外重要なことでさ。ボクらって、必然的に飛行人機を扱うことになってくるわけじゃん? そうすると、今度はどうしてそれが飛んでいるのかだとかの理解にも繋がってくるわけで。いくら血続トレースシステムを内蔵しているからって、何で飛べるのかって分かっているのといないのとでは雲泥の差なんだよね。だからこそ、ここで養おうって話」

「で、ですけれど……紙飛行機でそんなの、養えるんでしょうか……?」

「赤緒は懐疑的だなぁ。分かんない? メルJの《バーゴイルミラージュ》や《シュナイガートウジャ》が何故、今のところ空戦人機としての優位を得ているのかってことを。《モリビト2号》や他の人機だって飛べるようにボクが設計したけれど、そもそも汎用性の面じゃ違うんだ。シュナイガーは飛べるように、“した”人機じゃなく飛んでなおかつ最大限の兵力として役に立てるように設計した人機。設計思想から異なるかな、そういう点で言えば。他の人機で飛べるのと、シュナイガーのアンシーリーコートとかとの違いってのはそこなんだよね。空戦人機は未だに模索しているところだけれど、もし赤緒が飛べる人機に最初から乗るとすれば、何故飛べるのかってのをきっちり頭に叩き込んでおかないと」

「わ、私も……その、トウジャタイプに乗るかもって話ですか?」

「トウジャタイプに乗って困んないように、努力することも大事だね。ただ、実際にトウジャを動かせるかどうかじゃなくって、感覚として持っておくのも重要だよ。その点で言えば、紙飛行機はローコスト、低予算! 元手は紙だけ! これほど使い勝手のいい文化もないね」

「……けれど……私、買い物に行ってこないと……」

「じゃあ赤緒が買い出ししている間、メンバーを集めておくよ。ボクが代表者としてトーナメント組むからさ、赤緒は安心して晩御飯の買い出しに行って来ればいいから」

 何だか押し切られた形で、赤緒は買い物袋を提げて石段を降りかけてから、あれ、と思い返す。

「……そう言えば、さっきの紙飛行機の折り方、どこかで見たような……どこで見たんだっけ?」

『――と言うわけで! 第一回! アンヘル紙飛行機トーナメント開始っ! はいっ、拍手!』

 マイクパフォーマンスを行うエルニィを他所に、軒先に集まったアンヘルメンバーはどこか乗り切れていない拍手を送る。

「おいおい、どう言う風の吹き回しだ? 紙飛行機トーナメントなんざ」

 シールの言い分にエルニィは折り紙を差し出していた。

『レギュレーションはこの通り! みんな同じ折り紙は持ったね? 三枚の折り紙を与えてあるから、それぞれ飛距離を稼ぐ! で、一番長く飛べた紙飛行機が勝ち! 単純でいいでしょ?』

「いいけれど……私たちと赤緒さんたちじゃ、専門性が違うから、勝負に不利なんじゃない?」

 月子たちは腐ってもメカニックだ。

 効率的な折り方や、航空力学に基づいた飛行機の設計くらいは頭に入っているはず。

『ま、その辺はルールがあってね。この箱に入っている札を引いてみて』

 エルニィが差し出した箱をシールが訝しげに探る。

 すると数字の書かれた紙が畳まれていた。

『まずボクらメカニックの作る紙飛行機は、その数字分マイナス補正を受ける。これでハンデでしょ?』

「……まぁ、いいけれどよ。けれど、素人の折った程度の紙飛行機に負ける気はねぇな」

『ところがどっこい、素人と呼んでいいのは案外、赤緒とさつきくらいなものかもよー? まずは参加してくれる面々の中でも優勝候補なのはメルJだね。空戦人機の使い手だし』

「……まぁ、悪い気はしないが。それにしたって、紙飛行機で競うとはな」

 メルJは手に取った折り紙を表裏に翳して仔細に観察する。

『そんでもってルイ! こっちも優勝候補だね!』

「……自称天才、これ仕込みとかはないわよね?」

『ないってば! あったらそもそもハンデの意味ないし。ま、割と純粋に飛距離を競うタイプのトーナメントだからさ』

「……あっ、飛距離は私が測らせてもらいます……」

 そう言って帽子を目深に被った秋が申し訳なさそうに会釈する。

「紙飛行機作るのなんて幼稚園以来ですから、自信はないですけれど……」

 さつきは折り紙を触りながら赤緒へと言葉を投げる。

「私も……勝てる気がしないんですけれど……」

『まぁまぁ! 二人はやってみることに意義があるんだってば! それに、勝てなくっても大丈夫! 紙飛行機の飛距離を掴めればこれから先の技術にも繋がって来るかもだからね!』

「それにしたって、紙飛行機ねぇ。あんたもまた暇なことを考えたものよねー、エルニィ。おっ、茶柱」

 湯飲みを覗き込んだ南にも折り紙は渡されており、彼女もれっきとした参加者の一人だ。

『アンヘル総出で、紙飛行機トーナメント、開始ぃっ! っと、そろそろマイクはいいかなー』

 落ち着き払ってマイクのスイッチを切ったエルニィの手にも折り紙が三枚あり、優勝する気はあるようだ。

「とは言ってもよ……紙飛行機って案外、脆い機構だからどう飛ぶのかってのも風向き次第だよなー」

「シールちゃん、そっちに折り目付けたほうがよくない?」

「こう、か? どうにも普段鉄材とかを扱っているからか、こういう繊細なのっていただけねぇよな」

 意外にもメカニックの面々は折り紙を触ることは稀のようで、シールと月子はお互いにアドバイスしながら最適解を模索している。

 そんな中でエルニィは物差しを使った本格的な紙飛行機作りに集中していた。

「えーっと、ここが三ミリだから、こっちでバランスを取って……そんでもって、こっちが風を受けるはずだから、っと」

 何だか聞いているだけでも勝てそうに思えないが、赤緒はさつきと顔を合わせて紙飛行機作りに励む。

「あっ、赤緒さん。そこ、もうちょっと折ったほうが飛ぶかもしれません」

「そうかな……? さつきちゃん、紙飛行機詳しいの?」

「いえ……でもよく兄が作ってくれましたから。何となくコツみたいなのは知ってるんです」

 そういえばさつきの兄もカナイマアンヘルのメカニックであったか。

 考えると、ノウハウがないのは自分だけのような気がしてならない。

「……えっと、これでいいのかな……? 何だかちょっと不格好に成っちゃったけれど……」

 基本的なところは知っていても、どこかでいびつな形状になってしまう。

 恐らく、天性の立体物への理解の浅さが原因なのだろうが、それを問い質そうにも今は一つでも多く、戦える飛行機を作るしかない。

「一個が駄目でも二個、三個がありますので。それに、折り直しちゃ駄目ってルールもないですから」

 何だか今ばかりはさつきが頼り甲斐のあるように見えてしまっていた。

「よぉーし! 完成! みんなもできたでしょ?」

「うし! オレたちの戦力も整ったぜ! これで勝負だ!」

「メルJは? 優勝候補なんだからとっとと作っちゃいなよー」

 エルニィがメルJのほうを窺うと、彼女はどうしてなのだか紙飛行機を隠す。

「……ここからがもう勝負だろうに。手札を晒すわけにはいかないな」

「まぁ、そうだよね。じゃあトーナメント方式だし、まずはシール、ツッキーチーム対ボクってことで」

 シールと月子が作り上げた紙飛行機は鋭角的で、わざと翼部分の空気抵抗を減らしていた。

「どうだ、エルニィ! これがオレらの紙飛行機だ!」

「じゃあ、秋! きっちり距離を計測してねー! まずはボクからだ! 行っけー! 立花二号!」

「なんの! オレらのメカニック組のとっておきのほうが上だ!」

 エルニィが手首のスナップを利かせて投擲するのと、シールが力任せに投擲したのは同時であった。

 シールたちのほうがスピードは出たものの滑空距離は短く、鋭い分、空気の加護を帯びない形で失速する。

 それに比してエルニィの設計した紙飛行機は速度こそ遅いものの、ふわふわとゆったり滑空し、最終的な飛距離を伸ばしていた。

「し、勝者! 立花博士……!」

「よっしゃー! 見たか! シールにツッキー!」

「くっそぉー! 何でだ? 見るからに強そうだろ、こっちのほうが」

「へっへーん! 強さを競うんじゃないからねー! ま、ミリ単位で計算したボクの立花二号に勝てる奴なんて居ないのは分かってるんだから」

 確かにエルニィは紙飛行機の設計をわざわざ物差しを使ってミリ単位で設計しているのだ。

 普通に考えれば、そちらに軍配が上がるのは必定だろう。

「……で、次は南、か。南対ルイ。あ、親子対決じゃん。ルイ、勝てるのー?」

「……馬鹿にしないで、自称天才。私は紙飛行機では南に負けたことはないのよ」

「あら、ルイったら強がっちゃってー。けれど、私も負けるつもりはないのよ? せっかく呼ばれたんだもの。トーナメントで優勝掻っさらっちゃおうかしらねー」

「……言ってれば」

「両者! 用意……!」

 秋が旗を降ろすと同時に二人が投擲するも、南の作ったほうはへにゃへにゃとした軌道を取り、すぐに墜落してしまう。

 比してルイの作った紙飛行機は迷いなくびゅんと一直線に進んで飛距離を伸ばしていた。

「えー! 何で? せっかく段階式に飛距離が伸びるように作ったのにー!」

「ちょっと見せて。……南、これじゃ重さでダウンしちゃうよ。もしかして、段階式って言うの、ロケットみたいに切り離して使うつもりだったの?」

 南の紙飛行機は三つをそれぞれ連結させた長大なものであった。

「そうよ。第一段階で一番尻尾の奴が切り離されて、そして第二段階、第三段階って。そういう風にできてないの?」

「……南さぁ……これ、噴射剤とか使っているんなら別だけれど、紙のローテク飛行機にそんな最新機能付いてるわけないじゃん。おまけに折り目もよろよろだし。ま、普段のガサツさが出たってところだね」

「何よぅ、エルニィ。分かった風なこと言ってくれちゃって」

 とは言え、南自身、選手として戦うのは向いていないのか、すぐに縁側に座り込んでお茶をすすり始める。

「じゃあ今度は……赤緒とさつきだ。ま、これはどっちもどっちって奴かな」

 エルニィのその評には思わずむっとしてしまう。

「なっ……さつきちゃんはすごいんですよ? お兄さんがメカニックなので!」

「あ、赤緒さん……言われちゃうとプレッシャーになっちゃいますよ……」

「あ、ごめん……。けれど、私の紙飛行機じゃ、なぁ……」

「じゃあ両者構えて……。よーい、ドン!」

 二人同時に投げたところで、さつきの紙飛行機は不意に旋回してしまっていた。

 まったく別方向に落ち着いたさつきの紙飛行機と、それほどの飛距離でありながら真っ直ぐには飛んでくれた自分の紙飛行機が対比される。

「……あれ? さつきちゃん、どうしてそっちに……?」

「……すいません、今思い出しちゃいましたけれど、お兄ちゃんに教わった紙飛行機って、ちょっと特殊で……。滞空時間は長いんですけれど、そう言えば旋回したり、くるって曲芸飛行したりする奴でした……。こういう飛距離を競うのには、向いていなかったかも……」

 要は持ち前の器用さが逆効果に働いてしまったのだろう。

「はい、勝者、赤緒」

「……釈然としないなぁ……」

 とは言えこれで勝ち進めたのも事実だ。

 トーナメント表を進めたエルニィは、おっ、と声を上げる。

「次はボクとメルJだ。うーん、これって勝負になる?」

「む、そうか。ではやるとしよう」

 メルJはやおら立ち上がり、計測場へと歩み出る。

 その手に携えた紙飛行機は未だに見えないように気を遣っているようであった。

「ま、これこそエキシビジョンマッチって奴かな。はーい、みんな注目ー! これからボクが華麗に勝つから、しっかり見ておいてよねー」

「いいけれどよ。本当に勝てるのかよ、エルニィ」

 シールの疑問にエルニィはちっちっと指を振る。

「分かってないなぁ。ボクは航空力学くらいは履修済みの天才だよ? 如何にメルJが空戦人機の戦闘のエキスパートでもその辺の紙飛行機なんかに負けるわけないじゃんか」

 そう言えばエルニィは《シュナイガートウジャ》を作った天才のはず。

 それを使いこなすメルJとはある意味では因縁の対決なのだろうか。

 エルニィが紙飛行機をすっと掲げた瞬間、メルJもようやくその段になって紙飛行機を構えていた。

 その形状にシールが仰天する。

「……な、何だ? あの紙飛行機……グネグネして……あれもメルJの作戦か?」

 その発言の裏取りをする前に、旗が降ろされ二人とも紙飛行機を投げていた。

 エルニィの紙飛行機は滑空して飛距離を伸ばすが、対してメルJの紙飛行機は、ぽとんと足元に落ちる。

 茫然と勝負の行方を見守っていたアンヘルメンバーは、その決着に絶句していた。

「……えっと、エルニィの勝ち……? けれど、まさかメルJさんが、飛行機の部門で負けるなんて……」

 月子の信じられない心地の声に、投げた本人であるメルJはすぐに拾い上げて紙飛行機を隠そうとしてエルニィに横から掠め取られていた。

「……何これ。まるで子供の作った不格好な紙飛行機みたいに……? 折れ目ばっかり多くって……メルJ? 優勝候補だよね?」

「うっ……し、正直に言えば……紙飛行機と言うものは作ったことがないんだ。折り紙と言うのは加減も分からん。何度か折ってみて試行錯誤したが、どうしたってお前らのように綺麗には形にならなくってな……」

 まさか空戦人機においては無類の強さを誇るメルJがここで脱落とは思いも寄らない。

「えーっ……じゃあボクの勝ち抜け……? 何だか拍子抜けだなぁ……」

 とは言え決勝戦の前に赤緒は勝負の火花を散らせるルイと顔を合わせていた。

「……えっと、ルイさん。得意ですよね……紙飛行機」

「赤緒、あんたとは言え、手加減はしないわ。私のとっておきで敗北させてあげる」

 元々はルイが赤点用紙を紙飛行機にしていたのがそもそもの発端であったのだが、彼女はこの勝負を譲るつもりはないらしい。

 互いに紙飛行機を構え、真っ直ぐに前を見据える。

「では……両者……」

 旗が降ろされた瞬間、二つの紙飛行機が宙を舞い、ゆっくりと降下の一途を辿る。

 その飛距離を、秋はすかさず計測するが――。

「……えっと、両者共に、同じ飛距離です……この場合……その、どうしましょう?」

「えーっ、引き分け? うーん、条件とかもあるけれど、じゃあさ。もう二人の飛距離にボクが勝ったら、ボクが優勝ねー」

 エルニィは先ほどの優勝候補のメルJとの戦いで少しやる気を削がれた風でもあったが、さすがにそれは、と赤緒は押し留める。

「そ、その……! 偶然もあるかもですし……」

 宥めたつもりであったが、ルイからしてみれば紙飛行機で同じ土俵に立たれたこと自体が、何やら腹立たしいらしい。

「……じゃあ三人同時よ。それで文句ないでしょう?」

「そんじゃ、決勝戦? うーん、締まんないなぁ。ま、いっか。ボクと赤緒とルイで、一番飛距離出た人の勝ちね」

 そう言われてしまうと赤緒は折ったストックのうち、一番上手く折れたと思えていたとっておきを持ち出していた。

 しかし、それはエルニィとルイも同様で、彼女らも最も綺麗な形状の紙飛行機を取り出す。

「ふっふっふっ……切り札は最後に取っておくもの、ってね! へいほー……へいほーだっけ? そういうの!」

「兵法……ですよね? わ、私だって負けないんですから……っ!」

「二人とも見通しが甘いのよ。私が一番に決まっているでしょう」

 すっと各々の紙飛行機を番え、旗が降りる瞬間に投擲する。

 軌道は被らず、なおかついい風の揚力を得たのか、ふわりと浮かび上がった三つの紙飛行機はそれぞれ、じっくりと飛翔し、やがて降り立つべき時を見定めたように、すっと着陸する。

「結果は……?」

 シールと月子、それにメルJとさつきが注目する中、結果は――。

「……えっと、立花博士のが三ミリ差で、ルイさんと赤緒さんの紙飛行機はぴったり……同じですね」

 判定を下した秋に、そんな馬鹿な、とエルニィは駆け寄る。

「……本当だ。赤緒とルイの、またぴったり一緒だよ……。で、ボクのだけ負け? ムキーッ! 悔しいー!」

 奇声を上げるエルニィに比して、赤緒は驚愕の面持ちのまま固まっていた。

 まさかルイと同点とは思いも寄らない。

「……えっと……何で、でしょうか?」

「……知らないわよ。私のは一番遠くまで飛べる設計だったんだし。それがたまたま被ったって……気に入らないわね」

 ルイの敵意の眼差しに赤緒は困惑していると、エルニィは秋と顔を見合わせて裁定を下していた。

「じゃあ優勝は赤緒とルイ、かー……。うーん、空戦人機のノウハウを使えば楽勝だと思ったんだけれどなぁ。何でだろ。何で二人とも、ぴったり同じなわけ?」

「そ、そんなの……」

 分かるわけがない、と応じようとしてルイがぼそっと口にしていた。

「……もしかすると……教えを乞うた人間が、たまたま同じだったのかも、ね」

「――おーっす、柊。晩メシ食いに来たぞー……って、何やってんだ、黄坂のガキ」

 玄関を開けた両兵は軒先で涼んでいるルイに勘付いて視線を振り向ける。

「……べ、別に何も……」

「ふぅーん……折り紙じゃねぇの。何作ってンだ?」

「何も作ってないってば……」

「まぁ、見せてみろって。……紙飛行機か。懐かしいよな、そういや。カナイマで飛ばし合いをしたこともあったか。……思い出してみりゃ、あン時、よく飛ぶ紙飛行機の作り方を知りたいとか、抜かしてなかったか?」

「……そんなこともあったかしらね」

「あったあった。思い出した。そんで、よく飛ぶのがいいってで、オレがとっておきのを教えたんだったんだが……おー、よく守ってンじゃねぇか。これなら一番だろ」

 両兵はルイの手にあった紙飛行機を軽く握って、それを夜空に向かって飛ばす。

 軽やかに滑空してみせた紙飛行機は余裕の旋回を見せてから、境内に着陸していた。

「……ねぇ、あれって結局……誰に教わったの? 先生?」

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