「ただいまー……って、うわっ! 何、この荷物。赤緒ー、また通販で何か買ったの?」
「そ、それは立花さんのほうじゃ……って言うか、これ、立花さん宛てですよ?」
「あれ? 何だっけ……って、うわっ、小動物じゃん! ようやく届いたんだ!」
ルイと一緒に可愛がるのを他所に、赤緒はようやく呼吸を整えて、すくっと立ち上がる。
「……どういうことなのか、説明……してくださいよね……」
「――あれ? どっかで見たような小屋……。けれど赤緒さんが犬猫を飼うのは駄目って言っていたし……」
仕事先から帰宅した南は、小屋へと歩み寄ると、そこからぴょこんと顔を出したのは――。
「……あんた、歩間次郎? へぇー、はるばる南米から来たのねぇ!」
小首を傾げた次郎を抱えると、居間で会議をしていたルイが飛び出してくる。
「南、私の下僕だからね」
「あっ、ルイさん! まだ話は終わっていませんよ!」
赤緒も境内に歩み出ると、エルニィが苦言を呈する。
「もういいじゃんか。この小動物は、アンヘルの持ち物なんだからさ」
「持ち物って……生き物じゃないですか」
「違うわよ。私の所有物だから、犬猫にはカウントされないわ」
次郎の手を揺らしてルイが手を振るものだから、赤緒は完全に困惑し切っている。
「……もう、どうするんですかぁ。犬猫ならいざ知らず、アルマジロなんて飼ったことないですよ……」
さつきがそーっと手を伸ばすと、次郎はお手をしていた。
「わぁ……賢いんですね……」
「当然よ。この子は三か国語をマスターしているのよ」
「わぁ……っ! すごい……!」
相変わらずいい加減なルイの説明に感心するさつきを視野に入れつつ、南は赤緒へと諭していた。
「えっと……赤緒さん。私からもお願いできないかしら?」
「……南さんまで?」
「いや、この子……アルマジロの次郎さんって言ってね。アンヘルじゃ、家族みたいなもんだったのよ。それが何だか……はるばる日本にまで来てくれたって思うと、ちょっと嬉しくってね」
自分の言い草に、赤緒は少し検討した後に、首をひねる。
「……けれど、柊神社はペット禁止で……」
「ペットじゃないってば。私の下僕よ」
ルイの言い分に赤緒は根負けしたように頷いていた。
「……まぁ、すぐに手離せとは……言えませんよね。だってここ、日本ですし。アルマジロ……ですし」
「まぁ、慣れるまでは私たちがフォローするから。ね?」
ようやく折れた様子の赤緒に、さつきは次郎へと何度かお手を試みている。
「お手……えっと……お座り……うわぁ……何でもできちゃうんですね」
どうやら赤緒の方針とは裏腹にさつきはペットを飼うのはどちらかと言うと乗り気らしい。
「……まぁまぁ。小動物がこうして日本に来たって言うことは、情勢は安定して来たってことでしょ。それに、あっちのアンヘルだって抱え込むのは難しくなったってのもあるだろうし」
フォローに入ったエルニィは次郎の頭を撫でていた。
「……けれど、何なんです? この……小屋」
「ああ、これは……まぁ、ある意味じゃ思い出みたいなものかしらね」
青葉と一緒に次郎の家を作ったのが、今さらに思い起こされてくる。
これも一つの絆の証。
何だか承服し切れない様子の赤緒を他所に、南は次郎を抱えて、それから言いやっていた。
「――トーキョーアンヘルへようこそ、次郎さん」
ぷぎーっ、と一声鳴いて、次郎は両手を上げていた。