「けれど、これまで柊神社って、ペット禁止だったから。やっぱり体面上は、かな。それに、私から次郎さんに歩み寄りたいって思うの、駄目……なのかな?」
「駄目じゃねぇけれどよ。いいのかよ? あの二人の悪事には目を瞑るってんだろ?」
「あ、うん。それはけれど、多分大丈夫」
大丈夫の意味をはかりかねて石段を登ったところで、境内で正座させられているルイとエルニィを発見していた。
「あっ、小河原さんにさつきちゃん」
「……柊……何やってンだ? お前ら」
「聞いてくださいよ! ルイさんと立花さん、次郎さんを利用してお金稼いでいたんですよ!」
「うぅ……絶対にバレないプランだと思って欲かき過ぎちゃった……。まさかおじいちゃんおばあちゃんのほうから、赤緒に話が行くなんて思っていなくって……」
「話は聞かせてもらいました! 柊神社の御朱印帳だって言って、まぁまぁ取り立てて! しかもご老人から! ……立花さんにルイさんも、来月までお小遣いはなしです!」
「そ、それだけは! 赤緒ぉー、頼むよー……」
「いいえっ! 今回ばっかりはやり口が悪質過ぎます! 心を鬼にして、そう決断させてもらいましたっ!」
見れば、赤緒は額に「鬼」と書かれた鉢巻きを巻いている。
両兵はさつきと視線を合わせると、彼女は微笑んでいた。
「ね? だから大丈夫だって」
「……まぁ、悪事はいずれバレちまうもんだからなぁ。にしたって、ちまちましたことにこだわってバレちまうなんざ、IQ300のてめぇらしくもねぇ」
「……うぅ……動物ビジネスは金になるって、この間テレビでぇー……」
その魂胆もどこか浅ましく、両兵は嘆息をついていた。
次郎の小屋は柊神社の境内にあり、ぴょこんと顔を出している。
「……お前を巡ってまぁまぁのことがあったってのに、相変わらず涼しい顔しやがって」
次郎は分かっているのかいないのか、首を傾げていたので両兵はその横顔をじっと睨む。
「……言っとくが、オレはお前がまぁまぁ言葉を知っているのは分かっとるんだからな」
そう言ってやると、次郎はふっと視線を逸らしていた。
「あっ、次郎さん。ご飯ですよー」
結局、まぁまぁ高値のペットフードを買い揃えたさつきは、皿に盛って次郎へと差し出す。
「おすわり、お手……わぁ……っ! 賢いね、次郎さん! 最後の御朱印帳ももらったし……もう悪さに使われることもないね」
次郎がさつきへと飛びかかり、何度も撫でて欲しそうに首を揺するのを両兵は醒めた眼差しで眺めていた。
「……さつき、そいつもまぁまぁ……いや、もしかするとあの二人にそそのかしたのは……」
「えっ? なに、お兄ちゃん」
次郎を信じ切っているのか、あるいはそこまでの知能がないと考えているのかは分からないが、さつきは次郎にエサをあげてから首回りをくすぐってやっていた。
「……いや、何でもない。あんまし何つーの……人畜無害ってのは、アンヘルには居ねぇのかもな」
正座の刑を受けているルイとエルニィを見やり、両兵は嘆息をつくと同時に次郎はぷぎぃと一声鳴いていた。