「……それに?」
「……いえ、これは言うもんでもないわね。さつき、《ナナツーマイルド》は《ナナツーライト》とのツーマンセル機なんだから、そっちの調整が間に合わないなんてことにはならないようにね」
そう言い置いて、ルイは柊神社の軒先へと歩み寄る。
ちょうど昼食の焼きそばをすすっている両兵と目線が合って、彼は片手を上げていた。
「よう。何か問題でもあったのか?」
「……別にないけれど、ちょっとね。メッサーシュレイヴが折れかけていたみたい」
少し鼓動が早鐘を打っていたが、ルイは何でもないように両兵の隣へと腰掛ける。
「……格闘兵装に支障があるってのは、正直問題ではあるがな。けれどてめぇは……何だかんだでそういうのには聡いだろ?」
「……ちょっと思い出した。青葉のこと」
「あー、オレもちょうど今、それ思ったところだよ。あいつ、いきなりの素人の剣にしては、冴えみてぇなのがあったよな」
両兵は焼きそばを口いっぱいに頬張りながら、箸で虚空に円弧を描く。
「……行儀悪い」
「お前に言われるほどじゃねぇよ。ってか、青葉の奴……何でいきなりあそこまで打てたんだろうな。後にも先にも、あいつが上操主ってのを意識して剣道したのなんて、あれ一回きりだろ? 教える時間もなかったからな」
「……小河原さんは、青葉に教えたかったの?」
その問いかけに両兵はうーんと腕を組んで呻る。
「……どうだかな。あいつが必要だってンなら、喜んで教えたもんだが……。あの後よ、オヤジに聞いてみたんだよ。何で、青葉はいきなり人が変わったみたいにお前に打ち込めたんだろうな、って」
「……何て言っていたの?」
「それがよぉー、要領を得なかったんだよな。“人機を……《モリビト2号》を人一倍愛しているからだろう”っての。……その時のオレにはさっぱりだったんだが……今になれば分かる。あいつ、自分じゃねぇ。乗っている《モリビト2号》のことを信じて、刃を振るっていたんだろうなってのは」
「……小河原さんにしてみれば、それは意外?」
「……どうなんだろうな。けれどよ、他人よか少しばかり剣を振るってきた身として言えば……刃を振るう時に何を信じるのかってのは、結局のところそいつ次第なんだよ。その時に信じるのが自分じゃなくったっていい。“武器は己の覚悟の証、信念を持ち、振るいどころを間違わねば武器は人を助ける力となる”……オヤジが耳にタコができるほど言ってたな、そういや」
「……何だかそれ、小河原さんが言えば説得力あるわ」
「そうか? にしてもよ、一晩中、徹夜だろ? メカニックも労わってやれよな。肝心の剣を振るおうにも、その時に刃が錆びてちゃ話にならねぇぞ」
「……おしるこを持っていくわ。赤緒燻製のね」
「おう、それならあいつらだって喜ぶだろ。この焼きそばも旨ぇしな」
何だかこうして剣に関してでも共通の話題を通して話すのは殊更珍しく、ルイはもう一つくらいは取っ掛かりとなる話題を見出そうとしていたが、その時に赤緒がぱたぱたと台所から顔を出す。
「あっ、小河原さん? その焼きそば、三人分ですよね? なに勝手に全部自分で食べちゃってるんですか! もうっ、これだから!」
「あー、悪ぃな。旨すぎて箸が進んじまってよ」
「悪いな、じゃないんですよ、まったく。……あれ、ルイさん? どうしたんです?」
「……別に、どうもこうもしてない。赤緒、あんたは……剣を振るう時、何を信じてる?」
青葉と赤緒では答えが違うことなど分かり切っている。
それでも、問い質さずにはいられなかったのは半端な覚悟ならば――と思っていたのもあるのだろう。
「わ、私……私はその……人機に乗って武器を振るうってことは、責任……なんじゃないかって思ってます」
「何の責任だって言うの? 自分の責任?」
「……いえ、きっとそれだけじゃないんでしょうね。だって、武器を振るうって言うのは、時と場合を間違えれば、不幸なことにも繋がってしまうと思うんです。だから、半端な覚悟で振るっちゃいけない。振るいどころさえ間違えなければ……きっと他人を、誰かを助けられる力になるはずですから」
知っているはずがないのに、知った風なことを言う。
――だから、時折敵わないのだな、とルイは思い知ってしまう。
「……なるほど、あんたはそうなのね……。赤緒、メカニックにおしるこを持っていくわ。差し入れとして。私もちょっと手伝いたい。いいわね?」
有無を言わせぬ論調で切り込んだせいか、赤緒は少し戸惑う。
「えっ……あっ、その、いいんですか?」
「いいのよ。労わないと。それに……自分の手で、やってみたいのよ。誰かを救う……力になるって言うのなら」
それはきっと――剣を振るう時の覚悟にも似て。