レイカル 49 9月 レイカルと衣替え

「作木君! 服を買いに行くわよ!」

「え……いや、でもうちにはこれがありますから……」

「作木君! ……小夜のため、翻ってはレイカルのためでもあるんだから」

 何だかいつになく厳しい論調に作木は改まってしまう。

「創主様! “コドモガエ”楽しみです! ナナ子たちが服を買ってくれるんですよ!」

「あんた……なーんか誤解しているけれど、どうせこんなの、人間社会の仕組みよ?」

 呆れ返ったカリクムにレイカルは得意そうにする。

「カリクム! お前はじゃあ“コドモガエ”しないんだな?」

「……わ、私は別に、服は有り余ってるし……」

 そんな二人を抱えて、ナナ子が声にする。

「さぁ、秋がやって来るのよ! だったら、秋コーデ、もちろん付き合うわよね?」

 ナナ子の言葉を聞いて、作木は空を舞うアキアカネを視野に入れていた。

 アパートの一角に留まったそれを認めて、ああそうか、と頷く。

「もう……秋なんだ」

「……作木君」

 こほん、と佇まいを正した小夜が手を差し伸べる。

「……まぁ、風邪引かせちゃったのは半分くらい私のせいだし……秋の衣替え、しに行きましょう。だって、季節は巡るんだからっ!」

 小夜に手を引かれて、作木はアパートの階段を駆け下りる。

 仰ぎ見たアパートの敷地内の木々は新緑の季節を乗り越え、枝葉を変えようとしていた。

「……季節ってどれだけ暑くても、寒くても変わるんだなぁ……」

「そりゃー、そうでしょ。毎年、暑い寒いってヒーヒー言ってるけれど、そんな人間の都合とは別で、秋は来るのよ」

 ナナ子がサイドカーに乗り込み、自分へとヘルメットが突き出される。

「……じゃあしっかり掴まっていてよね。作木君、私が秋コーデ、見繕ってあげるから! ……まぁ、これも責任って奴で」

 頬を掻いて困り果てた小夜に、作木は言い置く。

「……でも、悪いですよ」

「いいのよ! 私がしたいんだし、レイカルたちだって」

「創主様! 一緒に“コドモガエ”しましょう!」

「だーから、衣替えだってば」

 言い合いをするレイカルとカリクムを他所に、作木は今年もこの季節が巡り巡って来たのだと実感する。

 少しだけ涼しい風。

 冬へと向かう途上の、過ごしやすい時期。

 そんな季節を楽しむのに、服装一つで人間は変われる。

 一面では少しだけ理不尽で、一面では少しだけ厚顔無恥でさえもある。

 それでも、今は――。

「あの、小夜さん。けれど僕、秋の服ってよく分かんなくって……」

「安心なさい! ナナ子ファッションチェックが適時入るから!」

 サムズアップを寄越したナナ子に小夜が応じる。

「……まぁ、心配ないんじゃない? 今回みたいに風邪引いちゃったら困るし、それに……秋って言う短い季節を楽しむのに、ちょっとは寄り道したってね」

 これから雪降る冬へと移り変わる、ほんの一刹那。

 その間を、充分に楽しもう。

「……ですね。野暮なこと言ってすいません」

「いいのよ。さぁーて! じゃあ飛ばしますか!」

「小夜ー、安全運転ねー」

 ナナ子の野次を受けながら小夜がアクセルを踏み込む。

 ――吹き抜ける風の香りを辿って。

 そうしてまた、秋がやって来る――。

 それはきっと、替え難い特別な季節の始まりであるはずなのだから。

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