がっくりと肩を落とした小夜はしかし、この風貌もどこか悪くないな、と姿見で己を見返す。
中二病はついぞ患ったことはなかったが、改めて見ると、案外いいファッションではないか。
「……ねぇ、ナナ子」
ナナ子は声を潜める。
「プライベートの着方なら任せてちょうだい。それとなーく、中二ファッションを教え込んであげる」
どうやら彼女とは以心伝心のようで改めて口にするまでもないらしい。
「……でも、レイカル。いいの? あれだけ憧れてたのにぱっとやめちゃって……」
作木の心配そうな声に、レイカルはどんと胸元を叩く。
「大丈夫です! 戦闘力の高さなら普段の私も負けていませんし!」
「そ、そっか。戦闘力……だもんね……」
レイカルは中二病を卒業したと言えるのだろうか。
小夜は黒衣のファッションを翻して、うぅむと呻る。
「……これはこれで良さが……。中二病にみんながハマっちゃうのも分かるかも……」
「何なら遅れた中二病で売り出してみる?」
「……それはイタくない?」
「創主様! 今度はこれ! 着てみたいです!」
レイカルはヒヒイロの購読しているファッション誌を覗き込んで指差す。
「……うーん、今度は森ガール、かぁ。また勉強し直さないとなぁ」
「……作木君。いちいちレイカルの興味に付き合っていたら正直、際限ないわよ?」
肘で小突くと、作木はでも、と頷く。
「叶えてあげたいじゃないですか。だって、僕たちはレイカルに叶えてもらったようなものですし」
そう言われてしまうと悪い気がしないのが自分の悪癖なのだろう。
「……ま、そう想ってくれてるだけ、マシなのかもね」
レイカルは雑誌のモデルに必死になり切ろうとしている。
思えば、自分もきっかけは憧れだったのかもしれない。
何かに憧れ、そして焦がれて真似をするのは何も間違いではないのだろう。
「……そうね。だって憧れってのは厄介なんだもの。自分じゃブレーキもかけられなくって……一生の衝動になるのよね」
「創主様! 今度の衣装も一緒に見てくださいね!」
レイカルはそういう点で言えば、一生の衝動を作木にとって約束されたようなもの。
少しだけ羨ましさを覚えて、わざとらしく小夜は作木の腕を抱き寄せる。
「レイカル、ズルいわよ。私だって、憧れで綺麗になりたいんだもの! ね? 作木君!」
「さ、小夜さん……近いですってば……」
「あー! 割佐美雷、創主様にくっつくなー!」
いつもの喧噪を含んで、冬の夜空は更けていく。
星空だけが異様に綺麗で、そして遠くの月夜となって煌めく。
「じゃあ、憧れだけを、今年も……来年も一生分! 願っちゃいましょうか!」