思ったよりも雑多なルイの部屋には猫缶や駄菓子、それによく分からない安物のおもちゃの数々が散らばっている。
「……あんた、相変わらず散らかってるわねぇ」
「放っておいて。……で、滝壺、カステラ、って言うと、でしょ」
「あの日の共犯関係、まだ生きているわよね?」
箱を開けると芳しい香りが部屋に充満する。
締め切っているせいか、甘い香りが二人へと降り立つ。
「……あの日食べた奴ほどの罪悪感じゃないでしょう」
「けれど、私はあんたと、まだあの日の共犯関係を引きずりたいのよ。それじゃ、駄目かしら?」
「駄目じゃ……ないけれど」
カステラを互いに頬張り、そして微笑みを寄越す。
ルイはすまし顔のままだが少しだけカステラの味に頬が緩んでいるのが窺えた。
「じゃ、これも開けちゃいましょうか」
そっと差し出したのはワンカップの酒瓶でルイは声を潜める。
「……赤緒が見てると言い出すわよ。“お酒は二十歳から”とか何とかって」
「まぁ、いいじゃないの。あんたと昔話を語り合うのに、素面じゃお互いに気まずいでしょ?」
「昔話、ね。老け込んだものだわ、あの黄坂南も」
「何よぅ、あんたが言える立場? ほら、乾杯、ってね」
ワンカップを差し出すと、ルイもそれに同調する。
「乾杯……これってあの日より、もっと強い約束かしら?」
「どうかしらね。けれど私も、あんたとの関係、切らすつもりはないから」
酒瓶を傾け、南はカステラを頬張る。
甘さと思い出で解けて行ってしまいそうな夜に、これくらいの深度はちょうどよかったのだろう。
「……それは、こっちの台詞。ううん、何でもない」