「さぁ、ナナ子キッチンの開幕よ! まだまだ寒いからね。今日はカレーにしちゃいましょう!」
ナナ子が手早く材料を切っていくのを横目に、作木はラッピングされた小夜のチョコレートに視線を落としていた。
これもまた、絆の一つの形――だと言うのならば、お返しは自分のできる最大限に。
ある意味ではこうして物を贈り合い、そして返答することこそがこの時期にとって価値がある出来事なのだろう。
「……ありがとうございます。大事に食べますね、小夜さん」
「……大事に食べるのはいいけれど、チョコって意外と日持ちしないから、早めにね。あと、寝る前の歯磨きも忘れないこと」
何だか親に言い含められるような物言いをするのは何故なのだろうと思いつつも、作木はナナ子の作り始めたカレーの香りが部屋を満たすのを感じ取る。
「……こういうのも、替え難いんですね」
「そうよ。それと、レイカルが何でも食べるからって、あまり余計なものを食べさせないようにね」
「あ、はい……。でも、レイカルって虫を食べるし、今さらなような気も……」
「……まぁ、気を付けるに越したことはないってことよ。あと、レイカルにも歯磨きをさせること! 虫歯になってからじゃ遅いんだからね!」
何故なのだか、今日の小夜はレイカルと自分の健康状態を気にしてくれているらしい。
いまいち掴めずにいると、レイカルが声を上げる。
「ナナ子! やっぱりカレーはいいな! お腹いっぱいになれるからな!」
「ええ、そうですとも! 隠し味にはやっぱりチョコレート! これで甘さもばっちりね!」
とは言え、今は想いの結実であるチョコを受け取ろう。
何故ならば、それこそが一年分の願いを、次に託すと言うことなのだろうから。
今日はお腹いっぱいのまごころを。
それがこの季節を巡る、大切な一つであるはずだ。