JINKI 255-7 暗礁の決着


『あっちゃ~、逃しちゃった。一撃でってつもりだったんだけれど。隊長~、どうします?』
『撃墜まで無理をすることはない。《ヴァルキュリアトウジャ》一号機と二号機はそのまま、一時後退。私が――道を作る』
 そう応じてみせた機体は他の人機とは構造そのものが異なっている。
 全身これ武器とでも言うような四脚の人機は、既存の設計構造とはまるで違う。
「……対人機戦闘を想定した、人機か……」
『如何にも。行くぞ、《ハルバード》。波状攻撃で敵陣営を押し返す……!』
 放たれたのはアルベリッヒレインを凌駕する超火力であった。
 飽和弾幕が面となって、《シュナイガートルーパー》の勢いを押し返していく。
 ガトリングに対人機用のミサイル、そして両腕に搭載された滑空砲が敵に反撃の余裕を作らせない。
《ナナツーウェイ》に搭乗したまま、両兵はあまりにも隔絶されたその出力に圧倒さえされていた。
「……キョムの……でもねぇな、てめぇら。何者だ? この局面でオレらを助けようって言う酔狂なんだ。ただの援軍ってわけでもねぇはず」
『今は撤退機動に移れ、小河原両兵。貴様らは一時的とは言え、我らグレンデル隊が、その命を預からせてもらう』
「……グレンデル隊。……確か、米軍主導で創設されたって言う、人機歩兵部隊か……」
 口走った勝世に、《ヴァルキュリアトウジャ》と呼ばれた機体が二機、こちらに付く。
『隊長~、彼らを射程圏外まで逃がしますね! ここに居たんじゃ、《ハルバード》の火力に巻き込まれちゃいますしぃ』
『頼む。シュナイガーの先行量産機の追従を振り払ってから、ランデブーポイント15で合流する』
『私も手伝いましょう。……情けない、不肖の兄とは言え、敵の傀儡とは。そんなだから私が前に出ざるを得なくなる』
《アサルト・ハシャ》の重武装機が《ハルバード》と並び立ち、援護射撃を向けていた。
 その大出力は、《アサルト・ハシャ》のカタログスペックを凌駕している。
「……すげぇ。追加装甲に血塊炉でも積んでるのか?」
「……今は、連中に任せるとするか。なぁ、てめぇら。グレンデル隊とやら、信用に足ると思っていいんだろうな?」
『モチのロン! あ、けれど余計なことされると、手元が狂っちゃうかもね~』
『……イヴ、隊長の命令は小河原両兵を含む、アンヘル勢力を無事に逃がすことよ。今は、他のことに気を取られないで』
『分かってるって~。シェイナは心配性ね』
 シュナイガーほどではないが、高機動に相当するトウジャ二機の推力で瞬く間に戦場の中心から引き剥がされていく。
「……だが、相変わらず“光雪”は降り積もるまま……。このままじゃ、まずいってンだろ……手はねぇのかよ……」
『手ならあるみたいよ? トーキョーアンヘルの天才操主さんがね?』
「……天才……立花か?」
『さぁね~。ま、せっかくの合同作戦、仲良くいきましょう?』
 通信先の女性操主の言葉に、両兵は警戒を途切れさせないようにしながらも、抱えた《バーゴイルミラージュ》のメルJの声を聞き留める。
『……何で……死なせて、くれなかった……』
「何度も言わせんな。まだてめぇを、死なせるわけにゃ、いかねぇ。それに……想定外ってのは起こるもんだな、こいつぁ」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です