「どうでしょうねぇ。私も、今回のグリムの眷属のやり方に関してで言えば、少し参っている部分もあります。首都の完全凍結に、都市機能の麻痺。どれを取っても、ただの諜報員が秘匿するのには難しい」
「これまでみてぇに、アンヘルの全面的な手柄……ってわけにもいきませんか」
「矢面に立つのは彼女らだったのは間違いないんですが、これではシナリオとしては早急が過ぎます。米国との渡りも完璧な形とは言い難い。何者かの作為が動いているのは明白でしょう」
「……それでも、立ち向かうしかねぇんでしょう? いいですよ、分かりやすくって」
ベッドから起き上がり、勝世は《ビッグナナツー》の格納庫に一路向かっていた。
友次の操縦する黒い《ナナツーウェイ》の隣には、見知った機体が搬入されている。
「……嘘だろ? 《トウジャCX》……」
「言ったはずですよ、勝世君。米国との渡りにしては、完璧とは言い難いと。……ある意味では貸しとなりますからね」
自身の誇りとなる機体へと、勝世はタラップを駆け上がる。
コックピットの下操主席に乗り合わせた相手を認めた瞬間、思わず絶句していた。
「……お前……」
「勝世、と言ったんだな? ……この巨体が何のためにあるかって、お前は言ったんだな。その答えを、見せてやる」
変身した状態のダイクンが下操主席に収まり、操縦桿を握り締めている。
「……できんのか? こいつはトウジャだぜ?」
「グリムの遺産として、人機の操縦訓練は一通り受けたんだな。……問題なのは、自分一人では動かせないことだったんだな……」
「そうか。安心しろ。トウジャなら――オレは無敵だ」
身に馴染んだ操縦系統を確かめつつ、勝世は上操主席に収まる。
今も刻まれる人機の脈動を感じつつ、マニュアル操作を走らせる。
「……で、オレたちだけじゃないんだろ? 友次さん、作戦指示書は頭に入れたが……ちょいと無茶がありません?」
『無茶でも、やると決めたのは彼女です』
取り付く島もないとはこのことか、と思えるような返答に、勝世は不平不満を飲み込む。
「……それならまぁ、オレたちにできる最大の戦いを、始めようじゃねぇか。おい、短足デブ」
「この状態の時は短足でもデブでもないんだな。それにオラにはダイクンって言う名前があるんだな」
「……じゃあ、ダイクン。お前に、“勝てる世界”を、見せてやるよ」
そう言って不敵に微笑み、勝世は作戦開始時刻を待っていた。