JINKI 255-12 愛するツバサは

 ダグラスがパスコードを打ち込むことでようやく開いたコンテナ内で、白銀の機体が投光機の光を浴びる。

「……シュナイガー……」

 引き離されたのはほんのひと月程度でしかないが、それでも一生再会できないと思っていただけに、メルJは感嘆していた。

「正式名称、《シュナイガートウジャリペア・タイプ:ノルン》。識別は《シュナイガーノルン》で通っているが、これは先のキョムとの戦線で大破したシュナイガーを修繕し、その上で米国の意向を強めた新鋭機。わたしの《ハルバード》と同じく、第二世代型の人機と呼べるだろう」

「第二世代、ね。高尚なこと言ってやがるが、対人機性能に秀でた機体ってこったろうが」

 吐き捨てた両兵にダグラスは読めない笑みを浮かべる。

「そういう言い回しも、間違いではない」

 眼前に拘束された《シュナイガーノルン》は自分と言う欠けたピースを待ち望んでいるように映った。

 銀翼の使者は、もう一度、空へと舞い戻る時を――。

「条件ってのは、立花の言っていた通りでいいんだな? ダグラスとやら」

 両兵が切り出すと、ダグラスは肩を竦める。

「立花博士の言う通り。今次作戦でのみの使用を許可する。トーキョーアンヘルに正式配備されるのは、公式記録で言えば、まだ先となるだろう」

 つまり、レコードに残らない形で、《シュナイガーノルン》を運用して敵を討て――作戦指示書にはそう記されているのだ。

 幅を利かせるソ連や他国に気取られることなく、グリムの眷属を完全に殲滅せよ、と。

「……きな臭ぇのは百も承知ってわけか。ヴァネット、こいつの中に何が仕込まれているのか分かったもんじゃねぇ。……それでも、乗るつもりだな?」

 両兵の問いかけにメルJは一拍の間を置いてから応じる。

「……ああ。何よりも、私の前にもう一度、舞い戻ってくれたんだ。それなのに無碍にできるものか」

 メルJは手を伸ばし、鋼鉄の相貌に触れる。

「――おかえり、シュナイガー」

 それは恐らく、自分とシュナイガーの間にだけ降り立った約束手形だったのだろう。

 両兵も余計な言葉を差し挟むことはなかった。

「先んじて言っておくが、今回の作戦遂行の要でもある。《シュナイガーノルン》の運用は作戦指示書通りでお願いしたい。それ以外の行動を取った場合、即座に我々は米国の権限で発砲する」

「後ろから撃たれても文句は言えねぇとなると、大層なご立場ってことか」

 だが、それでもいい。

 今は――シュナイガーの帰還をただただ、噛み締めたい。

「……承知した。だが、一つだけ。メンテナンスはトーキョーアンヘルの整備班に頼みたい。特に立花をメインとするメカニックたちにな」

 ダグラスと僅かに牽制の睨み合いを交わしたが、相手は想定外にすぐに折れていた。

「……立花博士なら、身の程を弁えているはずだ。承認しよう」

 ダグラスが身を翻す。

 その足音が遠ざかってから、メルJは今一度、《シュナイガーノルン》を仰ぎ見る。

 白銀の装甲はこれまで通りであったが、重火器が強化されており、武装周りにはリバウンド斥力磁場の応用が見られる。

「さつきの《キュワン》のような性能だと思えばいいか……。分かりやすくっていい」

「ヴァネット。オレはよ。難しいことを言うつもりはねぇし、てめぇとシュナイガーの間柄だ。要らぬ感傷を差し挟むのも違ぇってのは分かるぜ。自分の愛した人機なんだろ?」

「……ああ。私が恐らく、生涯心の底から愛するのは、シュナイガーだけだろう」

「そいつが帰って来たんだ。辛気臭ぇ顔で出迎えるもんでもねぇ。……笑ったって、いいんじゃねぇか?」

「笑う……? 人機の帰還を、しかしそこまで平和ボケして祝う気には……」

「そういう奴も地球の反対側には居るってこった。メカニックの連中が付くまでにはちぃとは時間もある。……二人だけで話したいことは話しておけよ。オレは遠慮するぜ」

 タラップを降りていく両兵の背中をメルJはしかし、呼び止めていた。

「待って……! 待って……くれないか、小河原。私はお前も……その……大事なんだ」

「人機との再会に水を差しちまうぞ? 次にこいつと顔を合わせる時は出撃時なんだ。邪魔者は退散したほうがいいんじゃねぇのか?」

「いや……かつて、Jハーンを倒した時……お前は言ったな? 自分は都合のいい強化パーツなんかじゃない、と。それを証明したい。きっと、シュナイガーにとっても、それは同じことだろうから」

「……まぁ、どうせ下操主はオレが担当するんだ。半分はオレの分ってのはあるか」

 後頭部を掻きながらタラップを上がって来た両兵に微笑みかけ、メルJは《シュナイガーノルン》と相対する。

「……シュナイガーは、私がかつて……もう聞いているかもしれないが、立花の下から強奪した。それ以来の仲だ」

「ん……そういや、そうだったな。元々は盗品なんだったか」

「こいつで何度も何度も……死線を潜り抜けて来たのを覚えている。そして、戦いが終われば海を見ていた。どこまでも青い……永劫の海原を……」

 空を直視できないでいた。

 破滅の赤い光景しか思い出せなかったから。

 だが、今は違う。

 もう一度、戦場の空に舞い戻ろう。

 銀翼の翼と共に――。

「私は……きっと求め続けていたんだ。安住の地と言うものを。……可笑しな話だろう、小河原。私は戦い続けて、そして求め続けて……結果としてシュナイガーを手離すことでしか、それを得られなかった。どうしてなのだろうな。ずっと一緒に居てもいい人機と、こうも浮かばれないと言うのは……」

「てめぇの中の考え方が変わったってことだろ。人機は戦闘兵器、ただの人殺しの道具……って言い切っちまっていたお前とは、もう違うはずだ。《シュナイガートウジャ》を一端の相棒として見てンのさ」

「相棒……。そうか、そんな言葉があったな。相棒、か。うん、いい言葉だ」

 力の象徴としてしか見ていなかった人機にここまで入れ込むことなどないと思い込んでいた。

 しかし実際には、愛をもってシュナイガーとこうして顔を合わせられる。

 きっと人機は自分が思うより何倍も、操主の想いを受け止めるような存在なのだろう。

「……もう一度乗っても、いいだろうか。シュナイガー」

 答えはない。

 鋼鉄の巨躯だ。

 ただの機械細工だ。

 答えなどあるはずがない。

 ――しかし、今。

 コートに入れていたアルファーが微かに淡く光を帯びたのを、メルJは感覚していた。

 その温度は、ヒトのそれのように。

「……ああ、あたたかい……。そう、だったんだな。お前はそう思ってくれていたんだな、シュナイガー……」

「……覚悟は決まったか?」

 問い質されて、メルJは頬を濡らす熱を拭い去って、《シュナイガーノルン》を直視する。

「……ああ! この戦いを、私たちで終わらせよう……! シュナイガー、力を貸してくれ!」

 ――シャンデリアの誇る威容は宇宙の外海に漕ぎ出すかのような、傲慢さを彷彿とさせる。

 殊に、上下逆さまに並び立つ外郭の街並みは、黙示録の光景に等しい。

 そこに降り立った機影が一つ、漆黒のその躯体を躍らせて、メインルームへと赴かんとする。

 名は《ナナツーシャドウ》。

 駆り手であるなずなはこの時ほど、キョムの自衛手段が乏しくなっているのを感覚していた。

 平時のような自動迎撃システムもなければ、《バーゴイル》の邪魔立てもない。

 まさしく完璧な静謐。

 彼女にとっては千載一遇の好機。

《ナナツーシャドウ》が光学迷彩で気配を遮断してメインサーバールームへと着地する。

「……普段なら、ここまで来るのだって邪魔立てが入るんですからねぇ。さぁて、お仕事お仕事っと」

《ナナツーシャドウ》のコックピットブロックから引っ張ってきた端末とコードを接続し、キョムの内包する機密情報を暴き出さんとする。

「八将陣のそのほとんどが今は地上のはず。なかなかにこんなチャンスもないですからねぇ……」

 とは言え時間との勝負なのは分かり切っている。

 シャンデリアほどの巨大建造物だ、隅から隅まで情報を奪取するのは不可能に近い。

 それでも、今は手持ちの端末と《ナナツーシャドウ》の電算能力をフルに使っての諜報偵察。

 恐らくこれ以降でも、これより前でもキョムはここまで無防備な横腹を晒すことはなかったはずだ。

 隠密に秀でた《ナナツーシャドウ》の頭部が完全なスタンドアローン状態に移行し、情報の集積箇所をジャックする。

「……それにしても、静かですね。《バーゴイル》の妨害もないなんて。まぁ、それも致し方なし、ですか。グリムの眷属、まさか本当に存在していたなんて、ですし」

 なずなは艶やかなリップをなぞってから、エンターキーを押す。

 暗号化された情報網が《ナナツーシャドウ》の電脳へと引き写され、解析が終わる前に声が響き渡る。

「――あら? 前にも来ていた女狐さんじゃないの。埃くさいところがお気に入りなのね」

 振り返る愚は冒さず、なずなは後頭部に据えられた冷たい銃口を感覚していた。

「……あれぇ? ジュリ先生、いいんですかぁ~。ここ、悪の総本山ですよぉ~」

「……とぼけるのはその格好だけにしておきなさい。シャンデリアに忍び込んできた時点で、始末したっていいのよ」

「うわぁ~、怖ぁ~い。私、一歩も動けないですってば~」

「その鼻に付く喋り方も、ここじゃ一挙手一投足が死に繋がるってことくらいは分かっているわよね?」

「ええ~、鼻に付くなんて思われていたなんて心外ですぅ~」

 そうは返しながらなずなは端末に表示されている概算時間を視野に入れていた。

 ――残り五分、逃げ切れるか。

 逡巡が脳裏を掠めたのも一瞬。

 ジュリの拳銃が火を噴き、端末を撃ち抜く。

「残念ね。全データの半分以上はこれでおじゃんよ」

「でも、半分は人機の中にありますよ? いいんですかぁ~? お得意の対人機戦で叩き伏せなくってもぉ~」

「心配しなくってもすぐにあの世に送ってあげる。……それにしたところで、よくこんなところ嗅ぎ付けたものだわ」

 キョムの内部データにアクセスするのに用いていたのは廃墟の一角であった。

 幾百、否、幾千にも及ぶ廃墟の中でキョムの中枢データへと繋がる端末があるのはほんの一握り。

 それ以外は全てダミーだ。

「でもぉ~、ジュリ先生、いいんですかぁ~。地上は大変なことになっているのに、降りないなんて」

「お生憎様、あんたみたいな女狐が忍び込んでくるのを、排除するのが私の仕事よ。八将陣も楽じゃなくってね」

「その八将陣、封殺されているようですけれどぉ~」

「あんたが心配するようなことじゃないわ。さて、諜報員さん。ここまで潜り込んだんですもの、称賛に値するわ。それも、地上がグリムの眷属とやらにかけずらっている隙を的確に狙い澄ましてね。その嗅覚、狐じゃなくって豚かしら?」

「えぇ~、褒めたって何にも出ないですよぉ~」

 応じながらなずなは振り返る。

 拳銃を突きつけたジュリの面持ちは冷徹な彫像のよう。

「……ここはただの廃墟。スパイが死ぬのにはちょうどいいのかもね」

「嘘ですよねぇ~。そんな簡単に殺しますぅ~? 私の命の時間が延びているのは理由があるんじゃないですかぁ?」

「……本当、嗅覚だけは鋭いわね。《ナナツーシャドウ》、隠密行動には打ってつけの機体のはず」

「頼み事ならぁ~、それに相応しいやり方ってのがありますよねぇ~?」

 舌打ちを滲ませ、ジュリは拳銃を降ろす。

「……私一人では守り切れない。キョムの防衛システムが沈黙しているのは理由があるわ」

「あれぇ? でもぉ~、一騎当千の八将陣でしょぉ~?」

「……分かっていて言っているのでしょう。いやらしい」

 そこでようやく、なずなは微笑んでいた。

 ――先ほどの端末はフェイクだ。

 本懐は掌の中のアルファーに込められている。

 情報伝達にも血続ならばアルファーが使えることを、恐らく彼女は知らない。

 否、知っていても今、ここで自分を殺すのは下策だと考えているはず。

「それでぇ、何があったんです?」

「……つい三十分前。シャンデリアの光を辿って侵入者がこの空間にやって来た。でも、私にはその相手がどこに居るのか、まるで関知できない。セシルの……私たちの頭脳である人間が言うのにはね、“そういう存在”なのだと」

「まるで幽霊ですねぇ~。こわ~い!」

「……その癪に障る喋り方、そろそろやめなさいよ。分かっているんでしょう? そいつが上がって来たから、あんたも侵入する気になった」

「買いかぶり過ぎですよぅ~」

 とは言え、事実は事実。

 グリムの眷属の頭目であるところの、ドクターオーバーが狙っているのは間違いなくシャンデリアの実質確保なのは各国諜報機関が今、まさに一歩でも先んじようとしていることからも明らか。

 自分には後ろ盾はあるものの、その連中の腹の探り合いに巻き込まれるようないわれはないつもりであった。

「いい? あんたの人機でやれるのは索敵と諜報でしょう。私の《CO・シャパール》は奇襲戦闘型。何が言いたいのか分かるわよね?」

「私が囮ですかぁ~。そんなのってないですよぅ~」

 唇を尖らせると、ジュリは詰めた声音で言い含める。

「言っておくけれど、あんたを生かすも殺すも私次第。ここで死にたければそうしなさい」

「なんちゃって。冗談ですってばぁ~、本気にしないでくださいよぉ~」

 とは言え、《ナナツーシャドウ》の本懐を八将陣であるジュリの目の前で晒すのは旨味がない。

 本来の性能の五割程度で、索敵網に捉えられれば僥倖。

 そうでなければここで時間を食い潰すだけだ。

 ジュリはコックピットへと飛び乗り、レーダー網を走らせる。

 シャンデリア内部の複雑な地形を瞬時にマッピングし、走査するもそれらしい敵影はない。

「……敵は人機なんですかぁ?」

『そうだと考えられるわね。たった一人で上がって来たんですもの。それなりに自負があるのだと思うべきなのでしょう』

 ジュリの《CO・シャパール》が廃墟の中に隠れ潜む。

 完全に自分が前衛を務める形に、なずなは嘆息をついていた。

「もうっ、人遣いが荒いんですからぁ~」

 上下逆さまの街並みを跳ね上がり、急降下しながらなずなは敵がもし、《ナナツーシャドウ》と同じく隠密行動に秀でた人機であるとすれば、と言う推測を浮かべる。

「光学迷彩……だけじゃないですよね? 人機は多かれ少なかれ特定周波数を発している。その反射を計算してやれば……っと」

《ナナツーシャドウ》が導き出した音階がある一点で弾き返ってくる。

 その位置を見極め、携えたハンドガンで銃撃していた。

 思った通り、光学迷彩に身を包んだ敵影がブロックノイズを生じさせる。

「このまま、その首、いただきますぅ~」

 すぐさま近接武装へと持ち替え、逆手の斬撃が一閃した――かのように思われたが、相手はそれを跳ね返す。

「リバウンドフォール? 隠密機でよくやりますねぇ……」

 至近距離でリバウンドの磁場が跳ね上がる。

 必殺の一撃の予感に、なずなは機体を急速後退させ、射程外に逃れようとしていた。

 光球が編み出され、紫色の電磁を纏って放射される。

「リバウンドプレッシャー? ……光学迷彩は切れていないのに、なんて高性能機……!」

 次々に廃墟へと撃ち込まれるリバウンドプレッシャーの猛攻に、なずなは息を殺して《ナナツーシャドウ》を陰に潜ませる。

「……リバウンド兵装を使えるのはモリビトタイプほどの出力が必要のはず。だって言うのに、光学迷彩にエネルギーを割く? それは下策でしょうに。いいえ、けれど恐らくは、それを実行しても何ら問題のない機体性能……」

 直後、壁にしていた廃墟が砕け散っていた。

 放たれたのは実体弾だ。

 ミサイルの放射が無人の理想郷を塵芥に帰す。

《ナナツーシャドウ》の高機動で飛び退ったその時には、シャンデリアのそこいらかしこで燻ぶる炎を見据えていた。

「そっち、なかなかにやるじゃないですか。グリムの眷属とやらの頭をするのは勿体ないほどの技術力。どうです? 今からでも鞍替えしませんか?」

『……《ナナツーシャドウ》。欠番のはずの新型機か』

「あれぇ? 知ってるんですねぇ。これ、一応秘匿機なんですけれど。……まぁ、いいです。口を割る気になりましたか? とっとと吐いて楽に成ったほうがいいですよぉ? そうじゃないと……痛い目を見ちゃうかも?」

『面白い。来るがいい。わたしの《ゴルシル・ハドゥ参式》に勝てるか? 諜報員風情が』

《ゴルシル・ハドゥ参式》と呼称するらしい敵影は未だに光学迷彩を完全に解く気配がない。

 これほどのエネルギー効率、自分は合致するものを知っている。

「……キリビトの技術力の流用……。グリムの眷属と名乗るくらいです。それなりの技術力と言うわけですか」

『潰えろ。リバウンドプレッシャー!』

 放たれる光弾へと身をよじりながらかわし、隠し持っていた暗器を投擲するも、相手は実体攻撃を反射する。

 跳ね返された暗器がそれぞれの軌道を描いて突き刺さっていくのを視野に入れつつ、なずなは駆けていた。

「……ファントム……!」

 空間を掻き消える速度で《ゴルシル・ハドゥ参式》の懐へと潜り込む。

 垣間見える状態だけなら、相手は鈍重な人機だ。

 高機動には優れているとは思えない。

 即座に回り込み、コックピットを貫こうとして《ナナツーシャドウ》は金縛りに遭っていた。

『誰も前だけに腕が付いているとは言っていないだろう?』

「隠し腕……!」

《ゴルシル・ハドゥ参式》の節足じみた隠し腕が背面から伸張し、《ナナツーシャドウ》に絡みつく。

 装甲強度自体は明らかにこちらが不利だ。

 長期戦にもつれ込めば、敵は確実にこちらの命を摘むだろう。

 なずなは奥歯を噛み締め、操縦桿の内部に仕込まれている機構を発現させていた。

「これは使うつもりはなかったんですけれどねぇ……。それなりの覚悟をしないと難しそうですの、で……っと」

《ナナツーシャドウ》の機体を染め上げたのは漆黒の薄靄であった。

 隠し腕に吸着した途端、相手の出力を奪い去る。

『……何をした、貴様……』

「少しだけ、人機の駆動系に細工をしただけですよぉ? それとも、グリムの眷属って言うのはそういうことも分からないんですかねぇ?」

『小手先など……!』

『――小手先でも、一瞬の硬直は命取りになるわよ』

 舞い降りた《CO・シャパール》の刃が《ゴルシル・ハドゥ参式》の腕を叩き割る。

 敵機はリバウンドフィールドで閃いた二の太刀を防御するが、その肉薄だけでも充分であった。

『……キョムとドブネズミが手を組むか』

『それは見解の相違ね。私はこの脳みそお花畑と組むつもりなんてないわ』

「ええ~、そんなの言いっこなしですよぅ」

 とは言え、少しは優勢に立ち回れるか、と冴えた脳内で考える。

《ゴルシル・ハドゥ参式》は明らかに拠点制圧用の人機だ。

 その身に蓄えた無数の重火器がここで火を噴けば都合の悪い人間だって居るはず。

 果たして――その予感は的中していた。

『これ以上は焼け野原にしてもらっては困るな、八将陣ジュリ』

 シャンデリアに響き渡った声になずなは息を呑む。

「……この声は……」

『……言っておくけれど、坊ちゃん。今の八将陣は手薄よ? ここで潰さないと、禍根を残すわ』

『その必要はないと言っているんだ。彼を僕の下に通して欲しい。それくらいは理解しての強襲だろう? それとも、そこまで頭が回っていないかな、ドクターオーバー』

『……諫言痛み入る。わたしがここまで来るのも織り込み済みか』

 その返答になずなは違和感を覚えていた。

「……同じ声……?」

『ここは……静観を貫くべきでしょうかね。後ろからいつでも撃てる距離を伴って』

《CO・シャパール》が道を空ける。

 この状態だ。自分も継続戦闘の旨味のなさは理解していた。

「……それにしても、キョムの頭目が何だって、グリムの眷属と? お互いに喰い合いになる恐れだってあるって言うのに」

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