JINKI 255-14 銀翼は煌めく


 醒め切ったその思考回路へと切り込むようにして、《シュナイガートルーパー》のうち、一機へと砲撃が敢行される。
「……射程距離外だと……?」
 続けざまに火を噴くその弾頭に、Jハーンは警戒を強めていた。
「……我が主の帰還の前に、まさかこの攻撃……。やはり天才か、立花博士……!」
 識別信号が《モリビト2号》と、そしてもう一機。
 完全新規の機体照合を浮かべていた。
「……新型機、か。前回の強襲で出し尽くしていたわけではないと言うわけだな、トーキョーアンヘル……!」
 しかし、《シュナイガートルーパー》の性能は完全に整備されたかつての《シュナイガートウジャ》を凌駕する。
 高機動ですぐさま三機編成を組ませ、緑色の機体へとまずは包囲陣を敷いていた。
「新型から潰させてもらう!」
 獲った、と言う確証はしかし、痩躯の機体が中枢から生じさせたリバウンドの斥力磁場で偏向されていた。
『Rフィールド……ハイ、プレッシャー!』
「……リバウンド兵装。それも純度の高いものか。だが、実体弾は跳ね返せてもエネルギー兵器には無力のはずだ!」
《シュナイガートルーパー》がその弾頭をプレッシャーライフルへと変えようとしたところで、《モリビト2号》の長距離滑空砲が突き刺さる。
『さつきちゃんを狙う隙は与えません……っ!』
「ほう、だがその取り回しづらい長距離砲、近接に持ち込めばどうなるか!」
 さらに三機、《モリビト2号》の背面を取ろうとしたこちらの機体へと斬撃網が奔っていた。
「……何と!」
『遅い、のよ』
 薄紫色の飛行機雲を引いて、《ナナツーマイルド》が一閃を翻す。
 背部に搭載された空戦用の装備は明らかに一撃離脱特化型だ。
 帰投のことはまるで考慮の外の武装に、Jハーンは歯噛みする。
「……こちらの陣形を崩せればそれでいいと言う考え方。なるほど、立花博士、勉強になる。だが、まだ六機の《シュナイガートルーパー》に、どう対処するおつもりか? あなた方の主戦力である《モリビト2号》と新型機は既に抑えられていると言うのに」
『この……!』
《モリビト2号》の誇る長距離砲が狙い澄まそうとするが、その時は既に陣形として組み込んでいた《K・マ》が壁となる。
「実体弾では《K・マ》を潰すことはできない。そして、あなた方はまた一つ、忘れている。飛べる機体は、何も私たちだけではない」
《バーゴイルシザー》が円弧を描きながら上昇する《ナナツーマイルド》へと追従する。
 近接戦闘用の装備で空中戦ならば《バーゴイルシザー》を凌駕することでさえも難しいはずだ。
 振り払うこともできず、相手は疲弊していく――そう判断してJハーンは相手の陣形を今一度見定めていた。
「……妙だな。立花博士本人である、《ブロッケントウジャ》が空域に居ないだと? あの機体ならば空戦フレームに換装できるはずだ。加えて……私の感覚では明らかに近くに来ているはずだと言うのに、何故、レーダーには何も映らない? どこに隠れた、メシェイル……」
 途端、熱源警告がコックピットに劈く。
「……まさか……しかし、そのような機動力……現行の人機では……!」
 直上を仰ぎ見たJハーンは垂れ込めた暗雲をその速力で無理やり突き抜けてくる白銀の翼を目の当たりにしていた。
「……操主が持たんぞ、その速度で……!」
『Jハーン――ッ!』
 メルJの雄叫びが通信網に焼き付く。
 Jハーンは舌打ちを滲ませて《シュナイガートルーパー》を前進させていた。
 加えて《K・マ》は実体兵装を全て弾き返す。
 守りは万全――だが、直後に別方向からの高熱源にJハーンは呆気に取られていた。
「……ここまで存在を隠し通した……?」
『悪いねぇ、ミスター。そちらばかりが優位と言うわけでもないんだ。米国をあまり嘗めないほうがいいぜ』
『ランディ、軽々に通信を繋ぐな。ここまで肉薄したのが水泡に帰す』
『そうですとも。それに……殺せるのならば、何も機会にはこだわりませんとも。ああ、あんなにも無様に操られて……血縁者として、許せませんよ』
「米国の人機部隊……! グレンデル隊とやらか。だが、どうして今の今まで熱源探査にかからなかった? それに、人機の固有振動数にも……。奴ら……いいや、これもあなたの計略か! 立花博士……ッ!」
 恐らくはグレンデル隊は光学迷彩を使ってここまで着々と迫ってきたのだろう。
 なるほど、確かに。空戦人機で来ると言う見立てを超えるのならば陸路を使うしかないだろう。
 だが当のエルニィはこの戦場に現れていない。
 ――まだだ、まだ何かがある。
 伏兵を考えては、なかなか動き出せない。
 だと言うのに、直上からの剥き出しの敵意には応じないわけにもいかない。
『退けぇ――ッ!』
 新型のシュナイガーがスプリガンハンズを振り翳す。
 刃が無数に分かれ、内奥より熱波を拡散させていた。
《K・マ》がそれを受け止めて弾き返すも、その時には反射角より相手は逃れている。
「抜けられた、か……」
 首都圏すれすれを疾走する白銀の翼に、しかしまだ自分は銃弾で応戦するのも浅慮だろう。
「目には目を、力には力を。刃には、同じく刃が相応しいだろう」
 落ち着き払って《シュナイガートルーパー》の一部を割り当てる。
 しかし、新型シュナイガーはそれを凌駕していた。
 アルベリッヒレインの火線が舞うも、全てを回避し、バレルロールの反動でビルのガラスが叩き割られていく。
《シュナイガートルーパー》たちが次の挙動に移る前に、スプリガンハンズが振るわれその肩口を斬り落としていた。
「……この刃の冴え……またか。またしてもお前は――ッ! 私の手ではなくその男の手を取るか! メシェイル――ッ!」
『私をその名で――呼ぶな!』
 陣営の一機を足蹴にして、新型シュナイガーがこちらへと肉薄する。
 だが、その刃は見え透いていると言うもの。
 すぐさま応戦のスプリガンハンズを携え、Jハーンは剣戟を繰り広げていた。
「愚かな! 私のモノになればいいものを……!」
『誰が……! 貴様だけは、ここで墜とす……!』
「恩讐で私を討つか! それもお前の宿命であろう! メシェイル!」
 すぐさま弾き返し、《シュナイガーノルン》の識別信号を与えられた機体を蹴り返す。
 相手は制動をかけつつもその有り余る推力で持ち直し、こちらの銃撃を掻い潜っていた。
「……ほう。半端な機体を寄越してきたわけではないらしい」
『嘗めるな……! 二度も三度も、してやられる私ではない!』
「そうかな。私の射線から逃れたところで、それは“私たち”から逃れたことにはならない!」
《シュナイガートルーパー》の放つアルベリッヒレインの灼熱の風圧が襲いかかる。
 四方八方からの敵意にはさしものメルJであっても防戦一方にならざるを得ないはずだ。
 その時にこそ、本懐が輝く。
「さぁ、串刺しにしてくれよう。その新型機、ただただ見目が麗しいだけの虚飾だ! お前が再び空に舞い戻るのであれば、相応しい戦場をくれてやる!」
 Jハーンは《ダークシュナイガー》で上空へと舞い上がる。
《シュナイガートルーパー》六機を引き連れ、一斉掃射の火線を開いていた。
「爪弾け……アルベリッヒレイン!」
 アルベリッヒレインの熱波が《シュナイガーノルン》を包み込み、直後には焼き尽くしているはずであった。
 直下の地面が鳴動し、コンクリートの大地を捲れ上がらせるまでは。
「……反応? どこだ……まさか……!」
『これなら――ッ!』
 銀色の削岩機が垣間見えたその時には、《ブロッケントウジャ》が突き上がり、機体を覆い尽くすリバウンドの盾を四方に放射する。
『リバウンド――っ、フォール……!』
 リバウンドフォールの反射網が咲き、《シュナイガートルーパー》を撃ち返された銃撃の熱量が溶解させる。
 Jハーンは咄嗟に逃れていたが、それでも三機を失った形であった。
「……現れないと思ったら……まさか、地中を使っていたとは……」
『頭カタいんだね、Jハーン。前はボクが人質になっていたからこういう搦め手はできなかったけれど、いざ目の前にすればこうさ! 《ブロッケントウジャ極地戦闘型陸戦フレーム》! それにしたって……一秒でもずれていたら、全方位から撃たれるところだったよ』
 四枚羽根にも似たフレーム構造を晒し、《ブロッケントウジャ》が推力を得て《シュナイガーノルン》を守り切る。
「……全て、策の内であったと言うのか。この局面でさえも……!」
『そうよ! あんたたちグリムの眷属に勝利の女神は微笑まない……っ!』
《ブロッケントウジャ》が削岩機で拓いた経路を使い、二機の《ヴァルキュリアトウジャ》が躍り上がる。
 すぐさま《シュナイガートルーパー》との混戦に入った二機には、相応の手練れが操縦しているのが窺えた。
『これでもトウジャは慣れているのよ。ここで大人しく敗北を認めることね』
 近接機と、遠距離型の機体がそれぞれ《シュナイガートルーパー》を封殺する。
『《ハルバード》、敵の射線を一掃する』
《ハルバード》と呼称された大型人機がミサイルポッドを展開し、その火砲をこちらの守りへと向けていた。
 すぐさま《K・マ》を向かわせようとするが、その時には《ストライカーエギル》と《アサルト・ハシャ》の改修機が割って入っている。
『おう、カミール。身内の恥だろう? とっとと引導を渡してやるもんだぜ!』
『言われなくっても……! それにしたって、操られてのあなたと戦うなど……それは馬鹿にしていると言うのか、ハマド!』

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