JINKI 255-14 銀翼は煌めく


《ストライカーエギル》の堅牢な装甲は実体弾を弾き、進軍していた。
「……Rフィールド装甲か。なるほど、飛べない鈍重な機体と言うわけだ」
『それはひがみかい? 男なら、らしくねぇぜ……!』
 肉薄した《ストライカーエギル》は《K・マ》のリバウンドフォールによる斥力をわざと受け切る。
『こっちは引き受けたぜ、隊長! 《ハルバード》で《ダークシュナイガー》を撃墜してくれ!』
『反対側からの攻撃に! 気を取られないなど間抜けとしか言いようがないな、ハマド!』
《アサルト・ハシャ改修型》がゼロ距離で砲撃網を照射し、《K・マ》の動きを完全に封殺していた。
「《K・マ》は使い物にならんか……だが……」
 まだ《シュナイガートルーパー》は健在。
 よってこの戦局を覆すに足る要因はある。
「貴様らの小手先の作戦で……我らグリムの眷属を落とせると思うな!」
『どうかな……? 刻一刻と、戦場は変わるものだよ……! そうだよね! 赤緒!』
『はいっ!』
 長距離射程の砲撃がこちらを打ち据えようとしたのを、Jハーンは《シュナイガートルーパー》を盾にして防衛する。
『そこだ! 隙だらけだぞ、Jハーン!』
 メルJの《シュナイガーノルン》が切り込み、新型装備のスプリガンハンズと干渉波のスパークを交わし合う。
「隙だらけだと……? 馬鹿を言うな、まだお前たちは、我が陣営を崩すことなどまかりならぬ……!」
『……立花たちが切り開いてくれたこの好機……逃すわけにはいかない!』
 刃を振り払い、《ダークシュナイガー》の肩口に装備した砲門を開く。
「できるわけがなかろうに! メシェイル、お前は私に勝てるとでも……!」
《シュナイガーノルン》が急速後退し、ビル街へと降り立つ。
『嘗めるな! 私は前よりも……強くなったんだ!』
《シュナイガーノルン》の銀翼が翻り、四枚の翼を展開させる。
 それらの頂点が照り輝き、リバウンドエネルギーの皮膜を生じさせていた。
 砲撃網が突き刺さる前に昇華され、火線が裏返る。
「……何だと、まさか……!」
『喰らいやがれ! リバウンド――フォール!』
 瞬間的に火力を引き上げたリバウンドフォールの反射皮膜に、Jハーンは舌打ちを滲ませて《シュナイガートルーパー》を盾にしていた。
 今の一瞬、少しでも判断が遅れていれば確実に撃墜されていた――その感覚が嫌でも緊迫感を生じさせる。
『何の! ボクだってやれるさ! グレンデル隊! 援護をお願いするよ!』
『承知した。《ハルバード》で《ダークシュナイガー》を撃墜し、その後、領域を奪還する』
《ブロッケントウジャ》が削岩機を振るい上げ、近接戦闘を挑んでくる。
 二機の《ヴァルキュリアトウジャ》が火線を交差させ、《ダークシュナイガー》の退路を阻んでいた。
『ここから先は!』
『逃がさない、わね』
「雑兵風情が……!」
 操った《シュナイガートルーパー》がアルベリッヒレインの弾幕を張るが、それを《ブロッケントウジャ》がリバウンドの四枚盾を駆使して反発させていた。
『逃がさない! リバウンド……フォール!』
《シュナイガートルーパー》の装甲が爆ぜ、その躯体が首都圏へと墜落する。
『これで……盾代わりに使える機体は、もうないな』
 再び飛翔した《シュナイガーノルン》に、Jハーンは首を巡らせていた。
《シュナイガートルーパー》は《モリビト2号》と《キュワン》を相手取っているので手一杯。
《K・マ》はグレンデル隊の相手でこちらに援護するような余裕もなし。
「……《バーゴイルシザー》は……」
『お生憎様ね。何度も同じ敵にやられる私じゃないわ』
《ナナツーマイルド》がメッサーシュレイヴに力場を発生させ、《バーゴイルシザー》の両翼を切り裂いていた。
 翼を失った《バーゴイルシザー》が地に伏せる。
『ここまでだな、Jハーン。決着をつけようじゃないか』
 周辺展開するアンヘルの人機と、そしてグレンデル隊の人機の状態を鑑みるに、明らかな劣勢。
「……なるほど。思っていたよりも健闘するではないか、アンヘルの諸君」
『強がらないほうがいいよ。ボクら全員で戦っているんだ。勝てない勝負はするもんじゃない』
「確かに、その通り。勝てない勝負、ならばな」
 その瞬間、光の柱が顕現し地上に降り立った巨躯の人機をJハーンは見据えていた。
『Jハーン、随分と削られたではないか』
「我が主、シャンデリアはどうなりました」
『……落とすのは困難になったが、それでもこやつら……なるほど、分かりやすく群れている。これならば、完全に射程圏内だ』
『グリムの眷属の頭目……ドクターオーバー……! ここでケリをつけてやる……! 行くよ、みんな……!』
 トーキョーアンヘルの人機が、グレンデル隊が、総勢で自分たちを蹴散らそうとする。
 それら全てが――想定の範囲内で収まることの、何と甘美な響きか。
『貴様らは我々が使えないと思っているのか? エクステンド機、《キリビト・コア》の恩恵を』
 まさか、と息を呑んだのが伝わる。
 ドクターオーバーがシャンデリアに向かったのはキョムを制圧するためだけではない。
 もしもの時のための方策を練るのに充分な時間を稼ぐためだ。
「喰らうがいい! キリビトの鉄槌を!」
『まずい……!』
 それが全体の認識になった時には――何もかもが雷撃の彼方へと追いやられていた。

「――情況は……!」
 今しがた首都中枢で巨大なリバウンドの磁場形成が観測されて、ちょうど三分以内。
《ビッグナナツー》甲板で後衛を陣取っていた南はメカニックへと問い質す。
『……何てこと……! 南さん、東京タワー直下でこれまで沈黙していた《キリビト・コア》が高出力のリバウンドの雷撃を放出したようです……。最悪の想定に……』
『南! これ……大丈夫なのか? だってあいつら、攻め込めば攻め込んでいるほどに、こりゃあ……』
「今は……信じるしかなさそうね。それに、私たちも後方支援を気取っていられなくなったようだし」
 光の柱が《ビッグナナツー》近海へと無数に落ちる。
 じりじりと引き出されていくのは《バーゴイル》の翼だ。
『《ビッグナナツー》は弾幕を張りながら後退します! ……南さん、あまり持つわけじゃないわよ、これも……』
「水無瀬さん、分かっています。後衛組は《ビッグナナツー》を何としても守り抜いてちょうだい。《ナナツーマジロ》にも火器系統の使用許可を! ……あの子たちが危険を押してでも前に行っているんだもの……私たちが及び腰になるわけにはいかないわ」
「とは言え、南さんは負傷兵なんです。無理はしないように」
 友次の声を背中に受け、南はナナツーに長距離滑空砲を構えさせる。
 まだ疼くように痛む傷を、今だけは堪えようとして奥歯を強く噛み締めていた。
「さぁ、どこからでも来なさい! 私たちは決して逃げない!」

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