一瞬だけ目が合ったものの、彼女はふんと鼻息を漏らして石段を駆け下りていく。
「もうっ、立花さんー! ……って、あれ? さつきちゃんにルイさん……おかえりなさい」
「あっ、ただいまです。そのー、もしかして立花さん?」
赤緒はおたまを片手にふんすと腰に手をやって抗議の姿勢を崩さない。
「……その、立花さん、怒って行っちゃった?」
どこかおずおずとした態度にルイが図星をつく。
「また喧嘩ね。あんたたち、つまんないことで諍いを起こし過ぎよ」
「な……何ですかぁ……私が悪いって言うんですか? 今回は立花さんに非があるんですよ?」
「さつき、明日は確かテストがあったはずよね。私は先に部屋に戻っておくから」
我関せずのルイに赤緒は唇を尖らせる。
「……私が悪いみたいじゃないですか」
「えっと……何があったんですか?」
「……さつきちゃんは……ううん! 巻き込んでいられないし。私もお夕飯の準備をするから、さつきちゃんは部屋に戻っておいて」
理由を話してはくれないのか。
しかし、赤緒とエルニィがこうして喧嘩するのは別に珍しいわけでもない。
ただし、今回のようにエルニィのほうから外に出て行ってしまうのは少しだけレアケースだ。
「……ちょっと私、見てきますね」
「……いいよ、別に。立花さんも強情なんだから、きっとお腹でも空いたらそのうち帰ってくるよ」
何だか普段の赤緒の穏やかさとは違って、さつきは戸惑ってしまう。
「……立花さん、一体何をやっちゃったって言うの?」
とは言え、制服姿で出歩く範囲は限られている。
だが、エルニィ本人もそうそう遠くに行っていないのはすれ違った彼女の荷物から明らかだ。
「準備とかして飛び出したわけじゃなさそうだし……。となると、何となくで分かるのは……」
河川敷のほうへと足を進めていくと聞き馴染んだ声が漏れ聞こえてくる。
「ねぇ、両兵! 話聞いてってば! 寝てないでさ!」
「……うっせぇなぁ。何だよ。昨日飲み過ぎて気持ち悪いんだっての。……うっぷ」
ソファに寝転がった両兵に向けてエルニィは橋の下で抗議している。
「あ、立花さん……」
追いついた自分に振り返ると、エルニィはたちまち不機嫌になっていた。
「……さつき。なに、赤緒に頼まれたの?」
「は……いえ、そうではないですけれど」
「じゃあ無関係じゃんか。さつきじゃ愚痴の聞き相手にもなんないよ。どうせ、赤緒側の味方なんだろうし」
何だか決めつけてかかられるのは不服で、さつきは問いかけていた。
「……おにい、小河原さんに話せるようなことなら、私が聞いたっていいはずです。私だってアンヘルメンバーなんですから!」
「……いつになく強情じゃん。じゃあ、両兵! それにさつきも、平等の心持ちで聞いてよね? これから話すことを」
「……頭重いんだから、とっとと話しやがれ。どうせしょーもねぇことなんだろうからな」
寝返りを打った両兵の意見には半分ほど肯定するものを感じつつ、さつきは尋ねる。
「一体、何があったんです?」
「はじまりは……そう、何でもないようなことだったんだけれど――」
「――ねぇ、赤緒。ここにあったレコード知んない? 紙の束だったと思うんだけれど」
「紙の束……ですか?」
赤緒は洗濯物を取り込んでから軒先で家探ししているエルニィに向き直る。
「そうそう。紙の束。ちょーどこんくらいの長さの。変だなぁ、置いておいたはずなんだけれど」
「置いておいたって……立花さん、少しは家事を手伝ってくださいよ。ずっとパソコンに向かい合っていると目を悪くしちゃいますよ!」
「うーわ、またオカン気質。……って言うか、これは片付いてるの! 分かんないかなぁ、この絶妙なバランスで成り立ったボクのマリアージュが!」
自分にとって最善ならばそれでいいという考えがエルニィの根底にはある。
何だかそれは自堕落になっていきそうで、赤緒はそれとなく忠告していた。
「もうっ、そんなんじゃ駄目人間になっちゃいますよ! ちゃんと整理整頓、片付けは基本にしておかないと……って、あれ? もしかして紙の束って、ちょうどこのくらいの……レシートの束みたいな奴ですか?」
「うん、そうそう。ちょうどレシート大くらいの奴。細かい穴が空いていたと思うんだけれど」
そこまで説明されて、赤緒は朝方の掃除の際、居間の隅で丸まっていた紙束をくず籠に捨てておいたのを思い出していた。
「……あれ、そんなに大事なものだったんですか? 端っこのほうで丸まっていたから、ゴミかなって思って捨てちゃいましたよ」
そう返した途端、エルニィは顔を真っ青にして叫んでいた。
「えー! 何やってくれちゃってんのさ! あれ、人機のやり取りを暗号化していたんだよ! ……どうすんの、向こう半年間のボクの成果がぱぁじゃんか!」
何だかそう詰め寄られると悪い気がしてきて、赤緒は素直に謝っていた。
「……そ、そんなに大事なものだったなんて思わなかったんですよ……」
「もうっ! 掃除熱心なのはいいけれど、そういうところだよ! これだから、いつまでも一般人精神が抜けないって言うか……赤緒は適当過ぎる! 要らないことばっかするんだから!」
その物言いにはさすがの赤緒もカチンと来てしまう。
「な、何ですか、その言い方……っ! 第一、立花さんがちゃんと整理整頓していなかったから、ゴミだと思っちゃったんじゃないですか!」
「だから、片付いているんだって言ったじゃんか! あーあ、これじゃどれだけボクが頑張ったって無駄って言われているみたいじゃん。赤緒みたいな無計画で無関心なのが居ると、おちおち研究もできやしない!」
ここで言い返すのも大人げないのだとは感じつつ、赤緒は徹底抗戦する。
「……傍から見たらゴミにしか見えないのを置いておくのが悪いんじゃないですか? それと、私が無関心なのは違う話ですよね?」
「いーやっ! 同じだね! 赤緒はさ、もっとボクを敬うべきなんだよ! 何さ、ちょっとしたミスで済むことを大事にしちゃってさ。素直に謝って!」
「あ、謝って欲しかったら、ちゃんとしてくださいっ! 大体、立花さんは日がな一日、ずーっとパソコンをいじっているか、そうじゃないかと思ったらぐーたらして、情けない大人に成っちゃいますよ!」
「あ、言ったね? それ。ふぅーん、赤緒にはボクがぐーたらしているように映るんだ? ……それもこれも、赤緒たちがもうちょっとしゃんとしていればしなくっていい苦労なんだよ? 操主として一端なら、文句ないってこと!」
「……な、何ですかぁ! 私だってちゃんと訓練していますし、学業との両立は大変なんです!」
「ふん! 学業と出た! 日本の公立高校のレベルなんて、大したもんじゃないでしょ? そんなのが頭に入らないようじゃ、ここから先、心配でおちおち寝てもいられないってもんだよ!」
「な……そんな言い方ってないじゃないですか!」
「何をぅ! 赤緒だって、もうちょっとボクに言い方ってもんがあるでしょー!」
そこから先はいがみ合いの口喧嘩が続き、お互いの長所なんだか短所なんだかを言い合う。
「立花さんの分からず屋!」
「赤緒の馬鹿! 胸にばっか栄養行って、頭の中はすっからかんなんじゃないの!」
その結果として、エルニィは家出を決意していたところで――帰宅してきたさつきとルイに出くわし、今に至る――と、ルイはスナック菓子を頬張りながら聞いていた。
「……ふん。あんたたちもしょうもないことで喧嘩したものね」
「で、でもぉ……立花さん、全然言うこと聞いてくれないですから! あんまりですよ!」
怒りを堪えながら洗濯物を畳む赤緒をルイは観察してから、ふとこぼす。
「……けれど、あの自称天才、家出とか慣れているのかしら」
「……出ていくのは別に初めてじゃありませんし、それなりにやるんじゃないですか。知りませんけれど!」
ルイがどさくさに紛れて高級クッキーを失敬していたのを視界の隅に捉えたが、今は怒る気にもならない。
「……赤緒はどうせ心配性でしょ。自称天才がどれだけ器用って言っても」
「……いーえっ! 今回ばっかりは反省してもらわないと! 立花さん、自分勝手過ぎるんですよ!」
「……強情なのはお互い様ね。それにしても、つまんないことで喧嘩したものね。先が思いやられるわ」
「……あの、今は何とも言っていませんけれど、いつも悪さを計画するのはルイさんも一緒ですよね? ……そういうところなのかなぁ、立花さんは」
「私は今回はポカはしてないわ。あの自称天才が勝手に自滅しただけだし。私はどっちの肩も持たないから」
何だかルイの側から中立を宣言されるのは珍しい。
いつもは何だかんだ言ってエルニィの味方なのに。
「……ルイさんは、立花さんと喧嘩することはないんですか」
「あるわよ、しょっちゅう。ま、10対0であっちが悪いんだけれどね」
肩を竦めたルイに赤緒は訝しげにする。
「……それでよく……その、絶交とかになりませんよね……? 何か秘訣でも?」
クッキーを頬張るルイは心底不思議そうに首を傾げる。
「秘訣? 何を言ってるのよ。あっちが悪いのに譲歩することなんてないでしょ? 私は謝らないから」
どうやら嘘偽りを言っているようではなく、本心でルイは譲る気はないようであった。
しかし、それでは仲違いをしたままではないのか――こちらの視線を読んでルイは涼し気に返す。
「……あのね、口喧嘩って言うのはどっちかに譲歩する気があると、結局のところは落としどころは相手の神経次第じゃないの。私は自称天才相手に対して落ち度があるなんて思ったことは一回もないし、そこんところがあんたとは根本で違っているのかもね」
「……根本で……ですか」
「そう、人間性の問題ね。自称天才が自分から頭を下げない限り、収めどころなんてないもの。そんなもんでしょ、喧嘩なんてね。犬も食わないとはよく言ったものよ」
「い、犬も食わないのは夫婦喧嘩のほうで……私と立花さんは別に夫婦なんかじゃ……」
「あら? 違ったの? 似たようなもんだと思っていたわ」
そう返答してルイは棚の上に置かれたブランドチョコレートに手を伸ばそうとしたので、それはさすがに制する。
「ルイさん。どさくさでおやつを食べ過ぎですよ」
「……ちっ、今の赤緒ならどうにかなると思ったのに」
明らかに悪ガキの面持ちで舌打ちしたルイは椅子に座って足をぶらぶらとさせる。
「……けれど、いいの? 今のままじゃ、あんたたち居心地が悪いままでしょうに」
「……それこそ、今ルイさんが言ったように、悪いところなんてないですよ、こっちには。立花さんから申し訳なかったって言うまで、今回は仲直りなしですっ!」
「ふぅん。強情ね、あんたも」
しかし、お互いに落ち度があったのは事実。
ルイの口にした、10対0ほどではないにせよ、どこかで落ち着けどころを見出せずに居た。
まるで心の袋小路に迷い込んでしまったかのようだ。
「……けれど、立花さんがちゃんと片づけをしていれば起きなかった問題だし……。そもそもこっちが悪いって言い出したら、どうせ調子づくんだから……」
ぶつぶつとこぼしつつ、赤緒は洗濯物を纏めて、それから嘆息をつく。
「……ルイさん。お願いできますか?」
「いいけれど、いくら出す?」
ルイは恐らく分かっていて言っているのだろう。
赤緒はじとっと睨む。
「……お駄賃なんて出したら、それこそよくないじゃないですか」
「じゃあ手助けは要らないわね? これも交渉のうちよ、赤緒」
そう言われてしまえばこっちも収めどころがない。
赤緒はぐぬぬと呻った後に、力なくため息をつく。
「……じゃあ、臨時的なおこづかいは出しますから。……ちょっと重労働なので、いいですよね?」
「甘い交渉術ね。半月分、それ以下ならテコでも動かないわよ」
ルイのこういった時の嗅覚は並外れているのは分かり切った話だ。
赤緒は自分の財布を開けて、それから虚しく消えていく臨時支出を顧みていた。
「――えっとぉ……そんなことで、ですか?」
話を最後まで聞いていたさつきに、エルニィは噛み付くように言い放つ。
「そんなこと? そんなことって言った? 今!」
「い、いえっ……言ってません、けれど……でもどうしようもないんじゃ?」
「そっ、どうしようもない……捨てちゃったって言うんならね。けれどさ、頭の一つくらい下げるのが、こういう時の対応じゃんか!」
どうやらエルニィは自分が散らかし放題だったのは完全に意識の外らしい。
「……アホらし。オレは寝るぜ。立花、今度そんなつまんねーことで起こしたらもう知らんからな。第一、てめぇの不始末のせいじゃねぇか。責任があるとすればせいぜい5対5、似たようなもんだろ」
寝転んだ両兵の背中を引っ掻き、エルニィは文句を飛ばす。
「やだーっ! ボクから謝るなんてまっぴら!」
「痛ぇ、痛ぇよ! てめぇは……! どっちにしたって、そのゴミみたいなもんを柊が捨てちまったんだろ? じゃあ、どうしようもねぇな」
寝息を立てようとする両兵にエルニィがぼそりと呟く。
「……あのさ、そこに書かれている内容、どっかの諜報員だとか、産業スパイだとかに見つかるとボクら全員、逮捕されちゃうかも。一応、暗号化してあるとはいえ、こっちの金銭の流れだとか、そういうの全部入っちゃってるから」
それに関してはさつきも敏感に反応する。
「た、逮捕……? 立花さん、大げさですよ……」
「大げさなもんか! 見る人間が見れば、分かっちゃうような簡素な暗号だからね。それも向こう半年分! いいの? こっちに来てからの内情、ほとんど丸裸みたいなもんだけれど」
さすがに聞き流せなかったのか、両兵は起き上がる。
「……おい、それはオレの情報とかも入っちゃおらんだろうな?」
「さぁねー。けれどトーキョーアンヘルの極秘機密とかも込みだから、困るのは全員だと思うけれど」
澄ました様子のエルニィに、両兵は困惑したように呻った後に、大仰なため息をつく。
「……嘘とも思えんな。さつき、手ぇ空いてるか?」
立ち上がった両兵にさつきは目をぱちくりさせる。
「え……っと、どうするつもりなの?」
「ゴミ捨て場で回収されていないなら、その回収にはかる。さすがに普通の一般人が見りゃただのゴミに映るだろうが、もしものこともあるからな」
「協力してくれるの?」
「……アホ抜かせ。オレの情報まで入ってるって言うんなら、おちおちと寝ていられやしないだろうが。……ったく、面倒なもんを柊も捨てちまったもんだ」
「だよねぇ……赤緒のオカン気質も困ったもんだよ」
やれやれと肩を竦めて二人が歩き出したので自ずとさつきもその背中に続く。
「……けれど、今朝に出したんならもしかするともうとっくになくなってるんじゃないんですか?」
「……まぁ、そこんところは分かんないけれど、赤緒がやったことだし。知んないよ」
どこかつっけんどんな態度なのはやはり自分から謝る気はさらさらないと思うべきなのだろう。
「……けれど、立花さんもちょっとは反省したほうが……」
「何か言った? さつき」
笑顔のまま凄まれてしまうとこうして何も言えなくなってしまう自分が僅かに情けない。かと言って、今回はお互いに落ち度があるとは思う。
赤緒もエルニィも、各々の悪いところを反省して頭を下げられれば楽なのだろうが、二人とも間違ったことをしていないのがややこしくしている。
しかし、赤緒もエルニィに負けじと意固地なものだ、と少しだけ感心もしてしまう。
その辺で言えば、エルニィの言う「オカン気質」というのも的外れではないのだろう。
「……でも、赤緒さんだけ一方的に悪者にしちゃうのは……違うような、あれ?」
ゴミ捨て場に向かおうとしたさつきたちの視線の先で、どこか憔悴し切ったような赤緒とルイがこちらへと歩いている。
「……何? 言っておくけれど、今回ばっかりは簡単に譲るつもりはないんだからね」
早速喧嘩腰のエルニィに、赤緒はふぅと嘆息をついてから差し出したのは紙の束であった。
「……あれ? それって立花さんの言っていた……」
「……これ、どうしたのさ?」
「ルイさんと、ちょっと見て来たんですよ。幸い、まだ回収されていませんでしたので、何とかなったんです」
何とかなった、と告げた赤緒の巫女服は薄汚れている。
「……必死になっちゃって。“絶対に見つけるんです!”なーんて」
後ろに続いていたルイが小言を漏らすと、赤緒はしーっ! と諫める。
その様相にエルニィはきょとんとしていた。
「……赤緒、わざわざ探してくれたの? ゴミ捨て場まで行って……?」
「……まぁ、私もゴミだと思って捨てちゃったのは早計だった気がしますし、それに立花さんが居ないと、夕飯の席はとても静かなので……ちょっと物足りなくなっちゃうじゃないですか」
少しだけ、赤緒なりの嫌味を込めたつもりなのであったのだろうが、慈愛に満ちた笑顔は隠しようもない。
「……ほんっとーに、オカン気質なんだね、赤緒は」
「むぅ……それって嫌味ですか?」
「……ううん、事実っちゃ事実だし。ありがと。それと、やっぱゴメン……ボクも大人げなかったって言うか……ワガママ言っちゃっていた」
真正面から見返して言うのは憚られるのか、エルニィは僅かに視線を逸らす。
紙の束を受け取ったその手を、赤緒は引き寄せていた。
「……手、冷たいじゃないですか。晩御飯にしましょう」
「……うん。参ったな、これじゃ、なんて言うか立つ瀬ないって言うのかも」
赤緒が身を翻すと、エルニィはすっかりご機嫌になって尋ねる。
「ねぇね! 今日の晩御飯は何?」
「今日は唐揚げですよ。それと、帰ってお風呂にしましょうか。……何だか煤臭くなっちゃいましたし」
「本当にそう。酷いにおいだよ、二人とも」
「あっ! それは言いっこなしじゃ――!」
赤緒が抗議する前にエルニィは赤緒へと頬ずりする。
「けれど、悪くない……ううん。いい匂いかも……っ!」
それ以上怒る気にはなれないのか、赤緒は夕映えに染まった景色でエルニィを小突く。
「もうっ……調子だけはいいんですからっ!」
二人して小突き合いながら柊神社への道を抜けていくのを、何だか、とさつきはこぼしていた。
「……本当に掛け替えのない、親友みたいな……」
「……じゃ、今回は手打ちでいいよな? ったく、立花も立花なら、柊も柊だぜ。自分たちで解決できる問題なら頼るんじゃねぇぞー」
「……ええ、ですけれどでも……二人ともとっても嬉しそう……」
見ているこちらが恥ずかしくなるくらい、赤緒とエルニィの関係は修復したようであった。
「……さつきも本気で付き合ってやるこたぁねぇんだぞ? 柊の奴も立花の奴も、こういう時に身勝手つーか、お互いに我だけは強いんだから始末に負えんっつーんだ」
「うん、でもそれって……何だか素敵なこと、のような気もする」
「……かもな」
こうして二人の道筋が明るく、照らされているのならば。
それはきっと、自分には真似できない、絆の一つの形なのだろうから。
「――もうっ! あったまに来ました! 立花さんなんて知りませんっ!」
帰宅したさつきとルイを待ち受けていたのはそんな赤緒の叫び声で、硬直していると涙目の赤緒が石段を駆け下りていく。
「あっちゃー……やっちゃったかも……」
玄関先ではエルニィが困惑し切った様子で後頭部を掻いている。
「……あの、多くは聞かないつもりですけれど、一応は事情を聞いても?」