JINKI 191 ライバルと言う関係

 駆け出した赤緒に、恐るべき速度で追従してくるルイの気配に、赤緒は諦めそうになるが、その時声が弾ける。

「いっけー! 赤緒ー!」

「赤緒さん! 決めてください!」

「赤緒! ゴールは近いぞ!」

 スリーポイントの圏内に入る。

 しかし、ルイの追従性が遥かに上だ。

 ボールを横合いから取ろうとしたルイの視線がその時――ほんの一瞬だけ逸らされる。

「ん? 何やってんだ、てめぇら」

 訓練場に入って来た両兵にその注意が削がれた一拍もない隙。だがそれこそが、明暗を分ける一秒間でもあった。

 赤緒は決意して姿勢を僅かに沈め、シュートの軌道を取る。

 お世辞にも華麗とは言えないが、それでも精一杯の抗い。

 全身をバネにしたシュートはこの時、ゴールを潜っていた。

「……入った……」

 南がホイッスルを吹き、得点表に一点が刻まれる。

「試合終了! アンヘルチームの勝利!」

「やった! やったよ! 赤緒!」

 駆け寄ってきたエルニィが頬ずりするのを、赤緒はどこか茫然としていた。

「……一点入った……」

「そうだよ! 一点入ったんだ! こっちの勝ち!」

 喜びを分かち合うアンヘルチームを脇目に、ルイは両兵のほうをちらちらと木にしていようであった。

「黄坂、何やってンだ? 演習場借りてまで遊びかよ」

「遊びじゃないわよ。あんたもまぁ……この子らに学ぶこともあるってことね」

「学ぶねぇ……」

「あの……ルイさんっ!」

 呼びつけた自分の声でルイはようやく我に返ったようであった。

「……一点は一点なのよね。仕方ないわ」

「でもその……ありがとうございました! ……ルイさんが居ないと、私……バスケをここまで楽しめなかったと思うから……」

「別に。そういうことに貢献したつもりもないし。あんたが勝手に勝っただけでしょう」

「いやいや、ルイ、何言ってんのさ。ライバルが強ければ強いほど燃えるってもんでしょ?」

 エルニィのその言葉に赤緒は、ライバル、と口中で繰り返していた。

 これまでルイのことをライバルだと思ったことはなかったが、こうして向き合えば、それは確かにライバル関係なのだ。

 それは、両兵との関わり合いにだって――。

「ルイさん。握手しましょう。試合終了の後は、握手するのが一番いいはずです」

「……いいけれど、本当の勝負では負ける気はしないから」

 どこか捨て台詞めいたルイの言葉にも、赤緒は笑顔でその手を握り締める。

「はいっ! 私も……負ける気はしませんし……って、あれ? 何でそもそも、バスケしようってなったんでしたっけ……?」

 小首を傾げた赤緒に、エルニィがやれやれと肩を竦める。

「これだから天然は……」

「――で、赤緒。動けるようにはなったけれど、バスケ初心者の取材とか、頼んだでしょー?」

 マキからのブーイングに赤緒は平謝りしていた。

「ごめん! マキちゃん! 途中から自分が楽しくなっちゃって……」

「まぁ、いいんだけれどさ。体育で赤緒が転ぶところとか、参考にしたかったんだけれどなぁ」

 不貞腐れるマキの隣で、泉が微笑みかける。

「でも、赤緒さんすごいですわ。スリーポイントシュートを決めるなんて。それにドリブルも格段に上手に成っていますわ」

「あっ、うん……。ライバルが……その、よかったのかな……」

 脳裏に思い浮かべたルイは、不名誉だとでも言うように舌を出していた。

 だが、それもルイらしい。

 そう感じて、赤緒は微笑む。

「でも……ライバルっていい関係なのかも、しれないよね……」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です