「いいって。物はいずれ壊れちゃうんだから。それよりも、赤緒。今日の晩御飯何? アルバイトなんて珍しいことしたもんだから、お腹空いちゃった」
「……もうっ、調子いいんですから」
お互いに微笑み合い、柊神社への帰路につく。
帰る道筋は――たとえいずれ違えようとも、今だけは――同じはずだった。
「――さぁ、うちに帰ろっ!」
「――あー! また散らかして! 立花さん?」
「やべっ、赤緒のオカンだ」
「誰が誰のオカンですか! 今日という日は片付けてもらいますからねーっ!」
大慌てで逃げ出したエルニィを追いかける赤緒を視界の隅に留めて、南はお茶の湯飲みを覗き込む。
「今日も今日とて元気ねぇ、あの二人は。おっ、茶柱」
「ええ、でも赤緒さん。ああして誰かのお世話を自分からしてくれるようになるとは。長く見ている私としても少し意外です」
五郎の返答に南は縁側で一息つく。
「まぁ、いいんじゃないかしらね。だって、帰る場所は、いつも同じなんだもの。それならそれで、安心もできるってものでしょうし。家族って言うのは案外、言うよりも……五郎さん、この間買い付けて来たいい紅茶、出してもいい? そういう気分だから」
「ええ、構いませんよ。それにしても……騒がしいくらいで、ちょうどいいのかもしれませんね」
「立花さんっ! もうっ、そんな格好で出ちゃ駄目ですよ!」
「へへーんだ! 赤緒もボクの健脚には追い付けないでしょー!」
Tシャツを突っかけた軽装のエルニィを、赤緒は竹箒片手に境内で追いかけ回す。
何だかその様子が――今ほど愛おしく思えた瞬間もない。
「……何だか、本当に赤緒さん、日本のお母さんみたいね。エルニィもみんなも、落ち着ける場所があれば、それはきっといいわね」
そう言って南は優雅に紅茶を口に運ぶ。
――不器用でも、帰る場所があるから、今はこうして一呼吸つけるはずなのだから。