「――おーっす、柊、今日もメシ食いに来たぞーって……何だ、そりゃ」
「あっ、お兄ちゃん……」
ちょうど後片付けをしている最中に両兵が来たので、さつきは残ったチョコレートを纏めているところであった。
「……それ、チョコか? 何でこいつらは不貞寝してンだ?」
「それが……チョコレートを食べ過ぎちゃってしばらくは同じのは嫌だって……」
「も、もうしばらくウエハースは懲り懲り……」
「さすがのオレらも食い過ぎた……。エルニィ、仕事に戻っておくぜ」
「私も……」
シールと月子、それに秋が揃って格納庫へとしんどそうに戻っていったのを両兵は不思議そうに眺めている。
「何だよ、宴でもしていたのか?」
「ちょっと違うかもだけれど、うん……そうなのかも。みんなで同じ目標で……こうして居られることもいいんだなぁ、って」
「よく分からんが、ちょうど小腹が空いてたんだ。これ、もらうぜ」
あっ、と言う前に両兵はウエハースを頬張っている。
「うん、旨ぇ。日本の駄菓子ってのは雑に旨くってちょうどいいよな。酒を入れた腹によく染み渡る」
「……もうっ、お酒ばっかりは駄目だよ。……でも、その……お兄ちゃん?」
「ん、何だ、さつき」
ごくんとウエハースを飲み込んだ両兵に、さつきはためらいつつも上目遣いにチョコレートを差し出していた。
「……何だ、くれンのか?」
「うん、その……だいぶ時期は逃しちゃったけれど、バレンタインって言うのがあるくらいだし……」
「よく分からんが、それなら一緒に食おうぜ。ちょうど軒先も空いてるところだからな」
両兵に導かれて軒先の下でさつきは肩を並べる。
何だか、赤緒や五郎の目がないところでこうしているのは少し背徳感もあって、さつきはちょこんと座ってウエハースを齧る。
夕映えのせいだけではなく、自分の顔は赤くなっていることだろう。
「おい、さつき」
呼び止められてさつきは硬直する。
「えっと……何……?」
両兵は自分の顔をじっと覗き込む。
その真剣な面持ちに、まさか、と顔が熱を帯びた瞬間、その手が唇の端のチョコレートを拭っていた。
「チョコ付いてんぞ」
「あっ……その……えっと……」
「何だよ。言いたいことがあンのか?」
「いや、そのぉ……何でもないです……」
こういう時に何も言えなくなってしまうが、それでもよかったのだろう。
両兵と共に、ウエハースに噛り付き、静かな夕焼け空を眺められたのだけは、今回の自分の特権であるはずなのだから。
「……それにしては、ちょっと……お粗末かもだけれど」
「まぁ、この雑な味付けがクセになるんだよな」
チョコレートのことを言ったのではなかったが、今はそのままの意味でもきっと――ちょうどいいはずなのだから。
「――おい、オレに何個食わせりゃ気が済むんだ。いくら甘党だからって、さすがにもう飽きちまったよ」
「そう言わないでください、カリス。このシリーズにはトーキョーアンヘルの秘密が書かれているともっぱらの噂なのですから。……うわっ、こんなに高値で取引されている……」
パソコンとにらめっこをするハマドを他所に、カリスは残ったチョコレートの処理を任せられていた。
「……ったく、アンヘルの奴ら……絶対これ、嫌がらせだろ」
噛り付いてから、甘ったるいコーヒーで流し込む。
――チョコレートのオマケを完食するのには、時間と根気が要るようであった。