「……騒がしいのも苦手なのかもね、あいつも」
「どうなんでしょう……」
だが、それでも。
今日が善き日なのは、違いないのだから――。
「写真を撮りましょう! みんなで!」
さつきも場酔いしているのか、少しだけ上機嫌で声を上ずらせてカメラを用意する。
「では、行きますよー」
五郎がフォーカスを合わせ、南を中心にしてアンヘルメンバーが集う。
直後、シャッターが切られ、今日という日を収めていた。
「――南。何だか今日はお祭りがあったみたいじゃない」
「あれ? ルイ……? うーん、寝てた?」
南は居間でテレビを見ながら寝そべった姿勢で、いつの間にか意識が落ちていたことを感覚する。
「……疲れてる?」
「ちょっとね。……まぁ、慣れないことするもんじゃないわ。……って、お祭り? 何であんたがそれ知ってるのよ」
ルイは舌を出して昼間に撮影した写真をぺらりと差し出す。
「あっ、こら……返しなさいよ、それ……」
「や、よ。これで南の弱みをまた一つ握れたわね」
「こんの悪ガキゃ……」
ルイへと追い縋ろうとして、昼間の晴着で凝り固まった腰と足が痺れていた。
「いったた……う、動けない……」
「南、だいぶ身体なまってるんじゃない? 前までなら普通に追いついてきたのに」
「う、うっさいわねぇ……。こちとら、慣れない服を着るとこれだから……あたた……」
突っ伏したままの自分へと、すっと差し出されたのは一輪のバラであった。
「……何よ、これ」
「成人祝い、って言うんでしょ? 日本じゃ」
「いや、それはそうだけれど、何であんた……バラなんて小じゃれたものを……」
「……南をよく知る人からの貢ぎ物……とでも言っておきましょうか」
「貢ぎ物……? 一輪のバラが?」
手にするときっちりと棘は取られており、売り物であることが窺える。
「……きっと、精一杯なんだから。取りこぼさないようにしたほうがいいわ」
その一言を潮にして、ルイは立ち去ってしまう。
「……何よ。あの子らしくない。大体、バラなんて、そんなのを買う余裕なんてどこに――」
そこまで口にしてから、昼間にいつの間にか居なくなっていた両兵のことを思い出す。
ルイが昼間の成人式のことを知っていたことと言い、色々と説明はつく。
南は大仰に嘆息をついていた。
「……あのぶきっちょ馬鹿……そういうの似合う性質じゃないでしょうに」
そう言えば夕飯にも顔を出していなかったのは両兵なりの気遣いのつもりなのだろうか。
南は赤いバラを手にしたまま、縁側へと歩み出る。
涼しげな夏の気配を帯びた風が吹き抜け、慣れないことに一喜一憂してみせた自分の肌を冷ましていた。
「……まったく、両も両よね。こんなバラなんて……ガラじゃないでしょうに」
そこまで口にしてから、南は茎に絡まっている、ラベルを発見する。
「……造花、一律百円セール対象商品……って、あんの馬鹿……。こういうのは外しておきなさいよ……」
喉まで出かかった恨み節を飲み込み、南はため息を発する。
「……けれどまぁ、いっかぁ……。だって今日は、成人式なんだから。きっと、善い日なのよね。それがどのような形であったとしても」
自分にとっての特別な日は、きっと今日のようなどたばたと騒がしい日でいいのだろう。
それが似合いの――まだまだ未熟な新成人というものだ。
ならば、特別な日には一輪のバラでいい。
茎を織り込んで、南は胸ポケットに沿えていた。
「素直じゃないんだから。……って、私もか、それは」