「それにしてもよ、現。こういうこともあるもんなんだな。……俺たちは一生、このカナイマに囚われて……こういうこととは縁遠いもんだと思っていたよ」
「なに、それも青葉君がもたらしてくれたことなのかもしれないな」
「ジョーイ・中西! 一発芸やりまーす!」
すっかり出来上がって宴席になった整備士たちが各々に持ち芸を始める。
やいのやいのと歓声や野次が上がる中で、青葉は少しだけ取り残されたような気もしていた。
そうでなくとも、大人たちのこういった酒の席は少し苦手でもある。
それとなく、人気のないところで腰を下ろそうとしていると声が掛けられていた。
「……今日の主役が、じめっとしたところに居るものね」
呆れた様子の声の主に青葉は顔を上げる。
「あれ……ルイ? ナナツーの操縦してるんじゃ……」
「上に等間隔で打ち上げるだけだから、操主なしでも何とかなるわよ。……それより、いいの? あんたのための宴席でしょ?」
ルイの頬は少し紅潮している。
持っているコップの中身は酒だろう。
自分はと言えば、オレンジジュースへと視線を落としていた。
「……その、いいのかなって。だって、結果論で操主になったわけだし。最初のほうは、先生にも迷惑かけたもん」
「でも、あんたはそれを取り戻そうとしている。違う?」
何だか、いつになく熱のこもった声音で問い返されるので、青葉は頷いていた。
「……うん。絶対にいつか……取り戻したい。みんなの……希望って言うほど大それたものじゃなしかもしれないけれど、少しだけでも役に立ちたいもん」
「それは私も同じ。《モリビト2号》の下操主権、軽々しく渡すつもりはないから」
そうだ、ルイは自分と競ってくれている。
同じ条件、同じ心持ちで。
それが今は、何よりもありがたい。
「……ルイ、乾杯しよっか。だって私たち、こんな形じゃないときっと、一生出会えなかったんだし」
「気持ち悪いことを言うのね。けれどまぁ、悪い気分じゃないけれど」
そっとコップ同士を突き合わせて、軽い乾杯。
オレンジジュースを飲み干してから、青葉は《ナナツーウェイカスタム》が放射する三つ目の花火を仰いでいた。
夜空に花咲く、静寂を破るひとひら。
宵闇を彩る花火の喧騒と、そして人々のどこか浮ついた調子は、日本での日々を少しだけ回顧させていた。
「……私ね、おばあちゃんと最後に……花火を観に行けたんだ。一年くらい前の話だけれど」
ルイは黙って聞き入っている。
青葉はそのまま続けていた。
「もう、足も悪かったから、そんなに遠くまでは行けなかったんだけれど……でも、おばあちゃん、嬉しいって言ってくれていたなぁって、今、思い出しちゃったんだ。花火って、誰か大事な人と見ると、こんなにも……滲むんだね……」
頬を伝う熱を今だけはルイは茶化さなかった。
「……これっきりってわけじゃないでしょ。あんたはこれから、《モリビト2号》の操主として、アンヘルを守っていくんだから。きっと今日みたいな日が、また来るのよ。その時に……どう思えるか、じゃないの」
「そう……かな。どう思えるのかな、私は……」
「さぁね。けれど、嫌な思い出じゃ、きっとないでしょう?」
ルイがその麗しいかんばせに浮かべた今夜だけの感情もきっと、特別なものとして残るのだろう。
青葉はそっと、オレンジジュースをルイのコップへと注いでいた。
「今さら、お酒じゃないと満足しないかもだけれど」
「そうね。でも、いいんじゃないのかしら。あんたと同じ味を飲むのも、たまには」
互いにオレンジジュースの入った杯を交わし合い、コツンと音を立てる。
それは、いつか思い出す誓いの音のようで、青葉は感極まりそうになったのを呷って誤魔化していた。
四発目の花火が夜空高く打ち上がる。
極彩色に染まった満月の今日を、自分はきっと、忘れることはないだろう。
それはひとひらの思い出となってずっと、煌めき続けるはずなのだから――。