レイカル53 1月 レイカルと年賀状


 今しがた郵便受けへと入れようとしていた年賀状を、すっと差し出していた。
「その……こういう形が正しいのか、分からないんですけれど……」
「いや、レイカルがこういう風に僕らのことを考えてくれていること、それ自体がきっと、嬉しいことなんだと思う。だから、ちゃんと受け取るよ。あけましておめでとう、レイカル」
「あけまして……ああ、そっか。いつもは家で聞く台詞だけれど、こういうのって……」
 胸の奥がじんわりと熱くなる。
 満たされる感覚にレイカルは作木へと飛び込んでいた。
「……はい……はいっ! あけましておめでとうございますっ! 創主様! 今年も!」
「ああ、今年もよろしく!」
「さて、あんたたち、お腹空かしてるんじゃないの? 年明け一発目、お餅を使ったナナ子キッチンの開幕よ! みんな、いらっしゃい!」
 部屋へと招かれ、深夜の真っ只中だと言うのに明るく温かい屋内で、レイカルは感じ入る。
「……ああ、こういうのが……ヒヒイロ。年明けってこんなにも……あったかいんだな」
「そうじゃな。レイカルよ、改めて、いい創主と出会えたのだと、そう言っても過言ではなかろう」
「……何だ、それ。けれど、何だかな……。うん、そうだぞ! 創主様は世界一なんだからな!」
 ナナ子がキッチンで早速、お雑煮を作り始める。
 例年通りなら、朝方まで寝正月のはずが、今年だけは深夜に起きてもいいのだろう。
「作木様、私たちの年賀状もどうか。ウリカルと一緒に作りました」
「その……お願いします……っ」
 ウリカルとラクレスが作木へと年賀状を差し出す。
「……ありがとう。二人とも、僕の誇りあるオリハルコンだからね。今年もよろしく」
 感極まったのか、ウリカルが涙ぐむ。
「……うぅ……お父さん、お母さーん!」
 飛び込んできたウリカルの体温をしっかりと噛み締め、レイカルは作木を仰ぎ見る。
 一つ首肯し、作木は語っていた。
「……これも一つの、オリハルコンと人間の形なんだろうと思う。だから、僕からもお願いしたい。今年もきっと、よい一年になるように」
 今の願い事は、たった一つだけ。
 レイカルは全身を突き抜ける喜びに叫ぶ。
「あけましておめでとうございます! 創主様!」

「――あれ? 何だ、これ。年賀状かぁ……うぅ……寒っ。ちょっと飲み過ぎたかもしれないな」
「真次郎殿。店の軒先で真一郎殿とヒミコ殿が潰れておりましたが、あれはどうしましょう?」
「ああ、ヒヒイロ。帰っていたのか」
 ヒヒイロは正月番組を見入っている。
 削里は郵便受けに届いていた数枚の年賀状の中に見慣れない宛名を見つけていた。
「……珍しいものを見た気がするな。自分のオリハルコンから自分宛てなんて」
「年明けなのです。分からぬこともたまにはあるもの」
 そこには達筆で辰の画が描かれており、「賀正」の文言が踊る。
「……なるほど、そういうものなのかもな。さて、と」
 将棋盤に座り直した自分へと、ヒヒイロはそれとなく対峙していた。
「……今年も手強い将棋の相手になってくれるわけか」
「言っておきますが、元旦だからと言って手加減は致しかねますので」
「それは助かる。いつだって、そういう相棒が欲しいものなんだ」
 パチン、と駒を打つ。
 澄み切った冬の空気に身が縮こまる。
「では、新年の一手を」
「……ああ。今年もよろしくな、ヒヒイロ」
「ええ、今年もよろしくお願いします、真次郎殿」
 この距離感がきっとちょうどいい。
 ――そんなことをふと感じる、元旦の朝であった。

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