JINKI 7 ヘブンズは永遠に

「あのぅ……南さん」

 軒先で米国の高官と交渉中であった南は、後ろから問いかけてきた赤緒の申しわけなさそうな声音に、連中との会話を打ち切った。

「うん? 何ー? ……うっさいわね。とにかく! 予算は三割増し! 以上!」

「あ、いいんですか? 通信切っちゃって……」

「いーの、いーの! あんな連中、金づる以外にないんだから。で? どうしたの?」

「小河原さんから聞いたんですけれど……南さんって操主だったんですよね?」

「あー、うん。別に隠しているわけじゃないんだけれどね。今は、あなたたちのサポートってだけで」

「その時のお話を、聞いてみたいって、ミキちゃんが……」

JINKI 6 シークレットミッション

 慣らし運転で構わない、という言葉を受けてコックピットに収まったエルニィは眉をひそめた。

「あのさ、そもそも今回のミッションからして慣らし運転なんてレベルじゃないでしょ? 何せ、ボクの人機なんだから」

 コンソールを撫で、エルニィは通信先の相手に応じる。

 南はどこか苦笑を浮かべた。

JINKI 5 銀翼の系譜 前編

前編

 燃え盛るのは絶海の地平。

 エメラルドに染まっていたはずの海は、灼熱を湛え水平線を赤く煮え滾らせる。闇夜を淡く、それでいて後戻り出来ない光が景色を満たしていた。

「……壊れてしまった」

 何もかも、全て。彼女の信じていたものは、焼け落ち、砕けそして崩壊の一途を辿った。

 長い金髪を煤けた風になびかせ、彼女は地面に転がっていた拳銃を手にする。これも暴力の一つ。結実した、破壊の果実。人類が手にした、制圧という名の一個手段。

 そのようなもの、この手には一生馴染まないと思っていた。馴染む事などないと、思いたかった。

JINKI 4 運命を待つ夕刻

「エル坊。シュートを決めた感触はどうじゃった?」

 問いかけた祖父にエルニィはふんと鼻を鳴らす。

「……悪くないね」

「そうか」

 斜陽がビル群を照らし出す。陽が落ちれば、いつものように日常は終わる。いつものように、とエルニィは心の奥底で繰り返した。

 しかし、常ではないものがある。

 それが知らぬ間に分かっている。分かってしまっていた。

「あのさ、じーちゃん……」

 言いかけて口を噤んでしまう。祖父はサッカーボールを頭に乗せたまま、悠々と歩みを進めた。

「何だ? エル坊」

「いや、その……」

JINKI 3 負けられない戦い

「黄坂南さんを食事に誘おうと思っております」

 呼び出されたと思ったら、とルイは目に見えてげんなりする。

 ダビングは高官机についたまま、真面目腐った面持ちを崩さない。

「僕は本気です」

「……勝手に誘えば」

JINKI 2 監視塔の男

「人機に魅入られたのさ。あいつは」

 そうあだ名される男はいつも監視塔にいる。言われて興味を持ったのは、ベネズエラ軍部に配属されて三ヶ月が経とうとした頃であった。

 新兵である自分には全てが新しく、慣れない事ばかりであったが、その中でも何度も聞かされてきた「カラカス防衛戦」に関してはほとんど素人だ。

 ――1988年。あの動乱の時代に、一つの都市が核攻撃によって地図から消えた。軍部批判に繋がりかねないこの一大事件はしかし、その後に起こった怪奇現象によって今や忘れ去られようとしていた。

 ロストライフ現象。世界中で巻き起こる殺人と、一都市がその夜のうちに丸ごと消滅している、という謎の事件。

JINKI 1 交差する場所

「精が出るものだ」

 資料を手繰ったジュリへとかけられた言葉に、彼女は面を上げる。

 戦士の威容を漂わせた巨漢が、眼前に佇んでいた。丸テーブルを挟んで彼はじっとこちらを見つめる。まるでその意思を探るかのように。

「……仕事よ」

「それでも、だ。黒将の依頼は人機の操縦技術を叩き込め――それに尽きるはず。だというのにお前が見ているのは……」

「これってそんなに可笑しい?」

 テーブル上に広げていたのは世界史の資料本であった。軍部から借り受けた資料は現時点――西暦1988年の最新を行っている。