JINKI 21 月に乾杯

「南。メルJのシュナイガー、まだ修復の目処が立たないの? いい加減、装甲の一つも直してあげないと血塊炉が駄目になっちゃうよ?」

 エルニィの発した言葉に南は額に手をやっていた。

「うぅーん、金づるには話を通してあるんだけれどね。トウジャのフレーム構造は特殊だし、それにあれはかなりメルJの専用カスタムが入っていたから、直すのにはそれなりに時間とお金がかかるのよ」

 エルニィは座敷で胡坐を掻いてせんべいを頬張る。

レイカル 5 エイプリルフール「レイカルの大きなウソ」

「レイカル。ねぇ、知ってる?」

「あっ! お前、そのパターンはまた私に大嘘を吹き込む奴だな! もう騙されないぞ!」

 構えたレイカルがデザインナイフで威嚇する。それをラクレスは余裕ありげな笑みを浮かべて頭を振るのだった。

「いやねぇ、レイカルってば。でも……教えてあげるのは惜しいですわぁ、作木様。今日が何の日なのか」

JINKI 20 彼女の戦い

「ねぇねぇ。赤緒、今日の晩御飯はどうするの?」

 珍しく買い物に付き添ってきたエルニィへと赤緒は思案していた。

「そうですね……。魚の煮つけなんてどうでしょうか?」

「おっ、いいね。ボク、日本食は好きだよ。さつきと赤緒が作ってくれるんなら特にね」

 自分で作る気のないのがこのエルニィという少女なのだが、彼女には人機関連は任せっ放しのため、変にこちらの事情に加わって来いとも言えない。

JINKI 19 アンヘルの勉強会

 戦車大隊の火線が咲き、中空を舞う黒カラスを縫い止めようとした。しかし敵機は翻弄するかのように自衛隊へとプレッシャーの光条を見舞う。

「て、撤退ーっ! 敵が来るぞ!」

 指示が飛ぶ前に、一気に至近へと肉迫した《バーゴイル》が戦車を吹き飛ばすかに思われた。

 しかし、その衝撃波を阻んだのは、紺碧の機体である。緑色のアイサイトが敵影を睨み据えた。右腕に装着した盾は、守ると誓った意志そのもののように輝く。

「……《モリビト2号》……。柊赤緒か」

レイカル 4 「好敵手(とも)の誓いを」

「ねぇ、ユーリ。持て余してるなー、とか思ってる?」

 問いかけられてユーリは眼鏡のブリッジを上げた。芳しいコーヒーの香りが漂ってくる。故郷ほどではないが、日本のコーヒー文化も悪くはない。

 薄暗闇の喫茶店では相棒であるオリハルコン――セラミアの姿を見咎める者もいない。マスターは静かにマグカップを拭いている。いい店だな、と口元を綻ばせた。

JINKI 18 明日はきっと

『阪神レオポンズの救世主! バルクス・ウォーゲイル選手! ホームラン記録更新です!』

 レポーターの声が酒の席でも妙に残響する。

 バルクスは、傾けたウイスキーのグラスに映り込んだテレビの極彩色のスポーツ番組を視野に入れていた。バーで一人酒――それも同期チームメイトとは離れた完全な自分のための酒にも酔いしれられない。

レイカル 3 「レイカルのひな祭り」

「創主様。なにやら視線を感じます……。敵の気配かも……」

 パーカーのフード部分に隠れていたレイカルが不意にそのようなことを言い出したものだから、作木は困惑した。

 覚えず周囲へと視線を配る。その眼差しに警戒が宿った。

「……敵の数は?」

「分かりません。たくさん……いえ、これは無限……」

「そんな馬鹿な! 僕だってハウル関知ができないほどの数が、こんな――」

JINKI 17 さつきの一日巫女体験

「うぅ……ごめんなさい……」

 天井を睨んだ赤緒は盛大にくしゃみをする。五郎が体温計を手にしていた。

「38℃。風邪ですね」

 嘆息をついた五郎は額に手をやる。

「どうしたものでしょうか。これから地鎮祭があるのですが……」

「わ、私っ、行きますんで……。大丈夫ですっ……」

 強がった赤緒を五郎は諌める。

JINKI 16 その手に掴むもの

 離れていく。空だ。遥かなる青空。その距離を埋めようと手を伸ばして、同期した鋼鉄の腕が空を掻く。

 あ、と一呼吸吐いた時には、断崖から突き落とされた機体は地上へと激突していた。背筋にかかる衝撃と激痛。脊髄が砕けたのかと思わせられるような電撃的な爆音に両兵はしばらく無音の状態を漂っていた。

 鼓膜が言うことを聞いてくれない。唇から何か、意味のある言葉を紡ごうとしても、まるで全ての言葉を見失ってしまったかのように何の声も出なかった。

レイカル2 バレンタイン「乙女の戦場」

「乙女の戦場の季節がやってきたわよ、小夜」

 スイーツバイキングで不意にそう切り込んできたナナ子に、小夜は訝しげな眼差しを注いだ後、額に触れた。

「……何?」

「いや、熱でもあるのかなー、って」

「小夜! 悔しくないの? あんた、華の女ざかりに、色恋の一つの噂も立たないってのは!」